159話 天使少女の現代旅行記・その10『藤堂安志』
「がはっ……!?」
とあるビルの一室。
高価な家具や調度品が配置された部屋で、一人の男が殴られた。
口の中を噛んだらしく、血を垂らしつつ転がり……
そんな男に向けて、白スーツの男がハンカチを放り投げる。
「自分で掃除しろ、汚すんじゃねえぞ」
「は、はい……すみま、せん……」
殴られた男はふらつきつつも、ハンカチを拾い、血の後を拭い……
「がっ!?」
顎を蹴られ、再びひっくり返った。
今度は意識を留めることができず、そのまま気絶する。
そんな男を足蹴にして、白スーツの男は不機嫌そうに舌打ちをした。
「ろくな警備のない、ババアとガキがいるだけの屋敷。そこにいるガキを犯すなり殴るなりして、痛い目に遭わせてやる……なんでこんな簡単な仕事に失敗する? それともなにか? 俺の認識がおかしいのか? おい、誰が教えてくれよ」
周囲にたくさんの男がいるが、誰も応えることはできない。
そもそもの話……
彼ら自信、今回の報告に納得がいっていない。
白スーツの男がいうように簡単な仕事のはずだった。
自分は実力も社会的にも一番強い、と勘違いする青年をそそのかして、まったくの無警戒の少女を痛い目に遭わせる。
警備会社と契約はしているが、すぐにさらってしまえば問題ない。
高い塀もまるで意味はない。
むしろ姿を隠してくれるからありがたい。
それなのに……
なぜか、青年達は失敗した。
直接、青年達から報告を受けたわけではないが……
なにも問題になっていないところを見ると、それ以外の可能性は考えられない。
青年達から話を聞きたいところだが、その足跡はぱったりと途絶えた。
まずいと思い逃げたのだろうか?
それにしては完璧すぎるほどに足跡が消えていた。
「ちっ、どいつもこいつも役に立たねえ」
白スーツの男はソファーに座り、タバコに火を点けた。
紫煙をくゆらせつつ、もう一度、舌打ちをする。
「くそっ……とっとと、あのガキの財産をいただきたいってのに、色々とめんどくせえな」
白スーツの男の名前は、藤堂安志。
柚木グループの一員であり……
そして、芹奈の親戚だ。
芹奈の両親が死んだ時、彼は内心で笑った。
芹奈の両親の持つ財産は莫大だ。
その全ては無理だろうが、一部は、親戚である自分のところにも流れてくるだろう。
通常、第一相続権は一親等の親族にあるが……
莫大な遺産が残されていた場合、恨み妬みを買わないため、親族で分配することがある。
それを期待していたのだけど……
遺言によると、遺産相続は芹奈ただ一人、とのこと。
「冗談じゃねえ。まだ青臭いガキが数千億を独占するとか、ふざけた話だ。遺産は、俺が使ってこそ、真に役立つってもんだ」
故に、藤堂は芹奈の後見人になろうとした。
芹奈はまだ未成年。
後見人になれば、彼女の遺産を自由に使うことができる。
ただ、芹奈は両親に似て、あれで頑固なところがある。
藤堂の思惑は簡単に見抜かれて、後見人の話は断られた。
それで諦められるほど遺産の額は安くない。
藤堂は芹奈を力で従わせることにした。
力こそが全て。
力に支配できないものはない。
そう信じる藤堂は、部下達に指示を出して、芹奈をほどほどに痛い目に遭わせることにした。
それから、藤堂が後見人になることを了承させる。
「だっていうのに……ちっ、うまくいかねえな」
藤堂はタバコを吸いながら考えをまとめていく。
なぜかわからないが、今回の作戦は失敗した。
同じような作戦を思いついたとしても、それがうまくいくという保証はない。
むしろ、今回の件があるため、また失敗するような気がした。
搦め手を使うか?
いや。
下手に頭を使うよりは、時に、力任せに強引にいった方がわかりやすく、成果が出るというものだ。
ならば……
「おい」
「は、はいっ、なんでしょう!?」
「使えるヤツを十人くらい集めておけ。あと、警察に根回しも。今夜、俺達が仕掛けるぞ」
◆ お知らせ ◆
新連載です。
『ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?』
https://book1.adouzi.eu.org/n6423iq/
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