152話 天使少女の現代旅行記・その3『地球、そして日本』
少女はイリスに手を引かれて、その場を離れて……
しかし、イリスは地理がまったくわからないため、途中から少女が先導して……
緑と白の装飾が施された店に移動した。
「あら、素敵な店ですわね」
「そう……かな? いや、サイズが悪いなんて思っていないけど、どこにでもあるようなファミレスだけど」
「ふぁみれす?」
オウム返しをするイリスを見て、少女は小首を傾げた。
サイズはともかく、まさか、ファミレスを知らないのだろうか?
この子は、とんでもない田舎からやってきたのだろうか?
気になったものの、恩人にあれこれ尋ねるのは失礼だろう。
少女はそう判断して、まずはぺこりと頭を下げた。
「あの……危ないところを助けていただき、ありがとうございました。あのままだったら、私、どうなっていたか……」
「いえ、気にすることはありませんわ。わたくしは女性なので、基本、女性の味方ですわ。あのような愚かな男、見かけたのなら駆除せずにはいられませんから」
「えっと……あ、そうだ。自己紹介がまだでしたね。私は、柚木って言います。柚木芹奈です」
「わたくしは、イリスですわ」
「イリスさんですね、よろしくお願いします」
挨拶をして、少女……芹奈はイリスをじっと見た。
年齢は同じくらいだろうか?
とても綺麗な少女だ。
サラサラの銀髪は宝石のように輝いていて、ついつい視線を奪われてしまう。
服装は独特で、ゴシックロリータに近いものがある。
ただ、イリスが着ていると不思議とよく似合う。
他の服ではいけない、と思ってしまうほどだ。
「あの、こんなところでなんですけど、よかったら好きなものを注文してください」
「あら、いいんですの?」
「はい。お礼になるかわからないけど……」
「では、遠慮なく」
イリスはメニューを手に取り……
「……あら、見慣れたメニューがたくさん。こちらの世界もはんばぁぐなどがあるのですね」
「こちらの世界……?」
「しかし、言語が同じなのはどういうことなのでしょうか? ふむ……?」
「言語……?」
時折、イリスはよくわからないことをつぶやいていた。
ロールプレイ、というやつだろうか?
気になったものの、芹奈は質問はしないでおいた。
恩人なのだから、細かいことは気にしないでいい。
その後、イリスはハンバーグセットとコーンスープ、シーザーサラダ。
食後のスイーツにバニラアイスとチョコレートケーキ。
芹奈はカルボナーラとチーズタルト。
それと、二人はそれぞれドリンクバーを注文した。
「芹奈さんと名前で呼んでも?」
「あ、はい。もちろんです」
「では芹奈さん、いくらか質問をしたいのですが、よろしいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「では……」
そして、イリスは色々な質問をした。
この世界の名前は?
この国の名前は?
この街の名前は?
あそこに見える建物は?
高速で移動する物体の正体は?
わたくしは異質?
……妙な質問ばかりだった。
まるで、地球の日本という場所を知らないような発言。
しかし、そのようなこと、ありえるのだろうか?
イリスはどこからどう見ても外国人だ。
ただ、生まれた時から日本にいたかのように、とても流暢な日本語を話している。
それでいて日本を知らないとか、いったいどういうことだ?
芹奈はとても不思議に思ったものの、やはり、深く追求するのはやめておいた。
なにしろ相手は恩人だ。
助けてもらったのだから、できる限り恩を返したい。
不思議に思いつつも、芹奈は一つ一つの質問に丁寧に答えていった。
……さすがに、この国の社会の構築及び経済圏の確立について、という質問が飛び出した時は、「ごめんなさいわかりません」と言うしかなかったが。
「ふむ」
一通りの質問が終わり、イリスは一人考えこんでしまう。
「えっと……他に聞きたいことはありませんか?」
「……いえ、大丈夫ですわ。大体のことはわかりましたが……しかし、厄介なことになりましたわね」
「厄介なこと、っていうのは?」
「そうですわね……隠すことなくストレートにお話してしまうと、わたくしは、身元がまったく保証されていないとても怪しい人物、ということなりますわ」
その後、イリスは呑気な顔をして、「警察とやらに見つかれば、確実に逮捕か補導をされてしまいますわね」なんてことを言う。
「……」
ここまでくれば、芹奈はイリスの異常性に気がついた。
この子はなにかおかしい。
常識が異なるとか、知識が欠落しているとか。
色々と指摘できる部分はあるものの……
一番の違和感は、本当に人間なのか? という点だ。
イリスと話をしていると、まるで、まったく別の生き物と話をしているような気持ちになってしまう。
そんなバカな。
外国人ではあるものの、とんでもない美少女で、そして、どこからどう見ても人間ではないか。
そう芹奈の常識がささやくものの、疑惑を捨てきることができない。
時間の経過と共により強く深くなっていく。
それでも。
「よかったら、事情を話してくれませんか?」
芹奈はイリスの力になりたいと思った。
もちろん、恩人だからという理由はある。
でも、それだけではなくて……
なぜか放っておくことができないと、そう思ったのだ。




