特別話 2024年・正月編
「あけまして……」
「「「おめでとうございます!!!」」」
新年1月1日。
リビングに集まり、みんなで新年の挨拶をした。
年が変わり、今日から新しい1年が始まる。
今年はどんな1年になるだろうか?
良い年になるか、あるいは悪い年になるか。
どちらにしても、去年以上に充実した日々を過ごせるようにがんばりたい。
「ねえねえ、レイン」
カナデが尻尾をゆらゆらと揺らしつつ、尋ねてきた。
「おせちは!?」
「えっと……」
「「「……」」」
いつの間にか他のみんなも加わり、キラキラと輝く瞳をこちらに向けていた。
誰とは言わないものの、ちょっとだけよだれを垂らしている子も。
苦笑してティナを見る。
ティナも苦笑した。
「もちろん、用意してあるで」
「「「おーーーっ!!!」」」
「我も手伝ったのだ」
「一応、俺も」
「そんわけで、うちとルナとレインの旦那の合作! 究極七段豪華おせちやっ!!!」
ばばーんっ! というような効果音がつきそうなポーズをつけて、ティナがおせちをみんなに披露する。
なんと、今年は豪華に七段。
一段一段が大きく、具は盛りだくさん。
それでいて量もあって……
正直、みんながいても食べられないかもしれない。
まあ、おせちはそこそこ日持ちするからな。
のんびりしつつ、数日に分けて食べてもいい。
「それじゃあ……」
「「「いただきまーすっ!!!」」」
俺達は笑顔で『正月』を舌で味わうのだった。
――――――――――
空腹が満たされたところで、俺達は家を出た。
そのままホライズンで一番大きな公園に。
公園にはたくさんの人が集まっていて、冒険者の姿も多い。
その中にナタリーさんとステラの姿があった。
「あっ、シュラウドさん。あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう」
「うん。二人共、おめでとう」
笑顔で挨拶を交わす。
それから、奥に視線を移す。
「準備は?」
「はい。もうバッチリですよ」
「レイン達が来てくれて助かる。やはり、英雄がいないと盛り上がらないからな」
「英雄はやめてくれ……」
苦笑すると、ステラは楽しそうな顔に。
真面目なだけではなくて、こうして、親しい相手には茶目っ気を見せるんだよな。
「アニキ、アニキ。いったい、なにをするっすか?」
「わたくしにも教えていただけると嬉しいです」
「内緒、ずるい!」
「ごめん、ごめん。内緒にしたつもりはないんだ」
サプライズ感を出したかったんだけど……
でも、よくよく考えれば、そこまで驚かせる内容でも驚く内容でもないか。
「我ら騎士団のイベントでな。街の人々との交流のため、餅つき大会を開くことにしたのだ」
「おもち……?」
ニーナが小首を傾げた。
名前は聞いたことあるけれど、実物を見たことがない、という感じだ。
それは他のみんなも同じで、不思議そうな表情を浮かべている。
「まあ、知らないのも無理はないか。カグネに伝わる伝統料理……料理なのか? とにかく、その餅を作ってみんなで食べよう、っていうイベントだよ」
「どうやって作るの?」
カナデが尻尾を『?』の形にした。
器用だなあ……
「ちょうど、あそこで作っているよ。みんなで見てみようか」
みんなを連れて、餅つき会場へ。
軽装の騎士達が二人。
一人は杵を両手で持ち、もう一人は臼の隣で膝をついて待機。
臼の中には炊きたてのもち米。
一人が杵で臼を突いて。
一人が水で濡らした手で中の米を返す。
その繰り返しで、何度も何度も突いて、返して……
ほどなくして粘り気たっぷりの美味しそうな餅ができあがる。
「「「おぉー!」」」
初めての餅作りを見て、みんな、目をキラキラと輝かせた。
コハネも目を輝かせている。
コハネの知識量なら餅は知っていると思うが……
たぶん、餅作りは見たことはなかったんだろうな。
知識を持っているのと実際に見るのとでは大違いだ。
「レイン! あれ、あれはなに!? なんか、みょーんって伸びているよ。みょーん、って!」
「落ち着いて、カナデ。あれが餅、っていうヤツなんでしょう? 米を叩いていただけなのに、どうしてあんなに伸びているのかしら……?」
「謎ですね。とても不思議です」
「我には、姉の料理の方が謎だぞ」
「おいし、そう……」
「ええか? 餅っていうんは……まあ、餅やから伸びるんやな」
「わたくし、お餅は人間を殺す殺人兵器だと聞いているのですが……」
「ひぇ!? そ、そそそ、そんなに物騒なものなんでしゅか……!?」
「レインの血より美味しい?」
「わふー、よだれが出そう」
「自分は、餅も食べてみたいですが、餅つきもやってみたいっす!」
「はい。あちらは、とても楽しそうでございますね」
よかった。
あまり楽しそうじゃない、って言われたら、どうしようかと思った。
ほっとしたところで、ステラがやってきた。
ステラは杵を。
そして、同行していた騎士は二人がかりで臼を持っている。
「よかったら、レイン達も餅つきをしないか?」
「いいの!?」
真っ先に話に食いついたのはカナデだった。
耳をピーンと立てて、尻尾を高速でふりふりさせている。
ステラから杵を受け取り、キラキラ笑顔で思い切り振り上げて……
あ、まずい。
「カナデ、ちょっとまっ……」
「えいやぁあああああーーー!!!」
ゴガァッ!!!
大地を響かせるような轟音が響いて、臼が粉々に砕けた。
当然、中にあったもち米も粉々だ。
ついでに、負荷に耐えられず、杵も粉々。
粉々祭りだ。
「「「……」」」
みんなの沈黙。
ついでに、ステラ達、騎士の沈黙。
ややあって、ステラがにっこりと笑いつつ、カナデの肩をぽんと叩く。
「仕方ない。誰にでも失敗はあることだ」
「うぅ……ステラの優しさが身に染みるにゃ」
「だが、杵も臼もわりと高いものでな。ついでに言うと、我が騎士団は、わりと経費に悩まされている」
「えっと……」
「弁償を頼む」
「にゃあああ!?」
……こうして、カナデのお年玉は杵と臼の弁償で消えてしまうのだった。
――――――――――
その後、新しい杵と臼を用意してもらい、再び餅つきにチャレンジ。
もちろん、今度はきちんと加減をした。
「えいっ、やぁ!」
「よ、よいしょ」
「えいえいっ、やぁー!」
「よ、よいしょー!」
サクラが杵を突いて、フィーニアが餅を返す。
正直なところ、ちょっと心配だった。
サクラが、カナデと同じことをしないか?
フィーニアが手を突かれてしまうのでは?
ただ、そんな心配は杞憂で、二人はリズムよくテンポよく餅をついていく。
二人の呼吸はぴったりだ。
それはサクラとフィーニアが強い絆で結ばれていることを証明しているかのよう。
微笑ましく、がんばれ、と応援したくなる。
「がん、ばれ」
「ふぁいとー、っす!」
ニーナとライハは実際に応援していた。
こちらもまた、微笑ましい。
その後、俺も含めた全員が餅つきにチャレンジ。
大きな失敗をすることなく、無事に成功した。
……カナデもリベンジして、美味しい餅を作り上げていた。
そんなわけで、今度は実食会だ。
「そういえば、お餅ってどうやって食べるの?」
カナデがみょーんと伸びる餅を前に小首を傾げた。
「食べ方は色々あるよ。砂糖を混ぜたきな粉をまぶしたり、あんこで食べたり。あと、醤油をつけて海苔で巻いたり、醤油とかバター醤油とか。元が米だから、米と合うものならなんでもいけると思う」
「にゃるほど。なら、私は醤油と海苔!」
「あたしは、きな粉でいくわ!」
カナデとタニアは、それぞれの方法で餅をアレンジして、さっそく口に運んだ。
みょーんと伸びる餅。
それを噛み切り、もぐもぐ。
「「美味しいっ!!」」
二人の目がキラキラと輝いた。
それだけではない。
二人はどんどん巨大化して、目と口から魔法を放ち、「うーまーいーぞー!!!」と叫んで……
いや、そんなわけがない。
なにを考えているんだ、俺は?
とにかく。
そんな幻が見えるくらい喜んでいるみたいだ。
「ふわ、ふわ?」
「それでいて弾力がありますね。でも、嫌な感じはしません」
「餅自体に甘味と旨味があって、味付けするとさらに倍増なのだ!」
「懐しい味でございますね」
みんなも餅を食べて笑顔になっていた。
俺も一口。
「うん、美味しい」
出来立ての餅は温かく、そして柔らかい。
それだけじゃなくて、ほどよい弾力がある。
歯を立てると、ちょっとだけ押し返してくるような感触。
でも、力を入れると簡単に噛み切れてしまうような、そんな絶妙な塩梅だ。
噛んだ状態で引っ張ると、餅が伸びる。
それもどこか楽しい。
餅は米の旨味、甘味が凝縮されて……
なおかつ、それが全体に広がっていた。
杵で叩かれることで米の味が潰されて、周囲に広がり、浸透したのだろう。
一口毎に口の中に広がる幸せな味。
それと、心地よく楽しい食感。
これだけでも十分なのに、醤油と海苔を巻くと、さらにレベルアップする。
醤油は塩味を足すだけではなくて、むしろ、香ばしさをプラスするのに役に立っていた。
鼻をくすぐるような良い香りが食欲を増してくれる。
その上で、醤油の塩味が足されることで、餅の味が上品な方向に進化して、口の中を幸せいっぱいにしてくれた。
海苔を巻くと、海苔の風味が餅に移る。
それはもちろん、パリッとした感触も楽しい。
逆に、ぴったりと餅に張り付いて、しなしなになったところも楽しい。
海苔が餅に密着しているため、層ができて、一体感を味わうことができる。
こうなると、きな粉やあんこも食べてみたいな。
きな粉は甘さが控えめだから、逆に餅の旨味が引き出されるだろう。
上品なきな粉を衣のようにまとい……
それを、ぱくりと一口でいく。
まず最初に、きな粉をしっかりと感じるだろう。
その奥から、隠されていた餅が顔を出して、これでもかというくらいの旨味をぶつけてくるに違いない。
そこで初めてきな粉と餅が一つになり、口の中で美味しいさを撒き散らす。
旨味の暴力だ。
それでいて優しく、いくらでも食べられるほどに心地良い美味しさだろう。
あんこは、餅との相性はピッタリに違いない。
たっぷりの砂糖でじっくりコトコト煮込んだあんこ。
それを餅と一緒にすれば、ガツンと来るほどの甘さに支配されてしまうだろう。
でも、それでいい。
餅は、それだけでほのかに甘い。
甘いものとの相性は抜群。
甘すぎるあんこだとしても、ほどよい加減の餅が加わることで、しつこいものではなくて上品な甘さに変わる。
子供だけじゃなくて、大人も大好きな、ほどよく、奥深い甘さになるのだ。
まずい。
想像したら、どちらも食べたくなってきたぞ。
「レイン」
とんとん、とリファに肩を叩かれた。
「ボクの餅、食べる?」
「え? でも……」
「はい、あーん」
こちらの返事を聞かず、リファが餅を差し出してきた。
俺、考えていることが顔に出ていたかな?
ここで断るのも、なんだか申しわけない。
せっかくなので、リファが差し出した餅をぱくりと食べた。
「……うん、美味しい!」
「あーん」
「ちょっ」
伸びた餅の先をリファがぱくりと咥えた。
そのまま、もぐもぐと食べてしまう。
「こ、これは!? まさか、リファさんが間接餅ゲームを考案するなんて!?」
「わふー、なにそれ?」
「し、知らなくていいことだと思うよ……」
「むむむ、やるなー」
みんな、妙な方向に盛り上がっていた。
……そんなトラブル、というかじゃれ合い?
なんだかんだ楽しい時間を過ごしつつ、餅つき大会は閉幕。
俺達はステラに礼を言って、会場を後にした。
「この後、どうするの?」
「お正月だから、美味しいものいっぱい食べたいなー」
「さっき餅を食べたばかりではないか」
「お餅は別腹なんだよ」
「おー、別腹? スイーツ?」
「えっと、サクラちゃん、それはちょっと違うような……」
「せっかくなので、このままお参りに行きませんか?」
「賛成っす!」
というわけで、みんなで神社へ。
元日ということもあり大混雑だ。
迷子になってしまいそうだけど、みんなで手を繋いで、どうにかこうにか切り抜けていく。
「ぐぬぬぬ……うちは負けへんでー!」
「お参りは戦いなのだ!」
「そう……なの?」
「確実に誤った情報なので、鵜呑みにしてはいけませんわ」
押して、押されて。
揉んで、揉まれて。
どうにかこうにか参拝を終えることができた。
みんな、熱心にお願いごとをしていたけど、なにを願ったのだろう?
気になるけど、言葉にしたら叶わないっていう話もあるからな。
やめておこう。
「じゃあ、そろそろ家に帰ろうか」
「にゃー!」
元気に頷いたカナデを先頭に、俺達は家に帰る。
丘の上に建つ屋敷。
住み慣れた我が家。
そこでまた、新しい1年を過ごすことになる。
今年はどんな年になるだろう?
激動の1年か?
それとも、穏やかな1年か?
俺としては、どちらでも構わない。
みんなと一緒にいられるのなら、なんでもいい……なんて、割と適当なことを考えている。
だから……
「みんな」
笑い、心からの想いを伝える。
「今年もよろしく」
「「「こちらこそよろしく、ご主人さま♪」」」




