ダンスの後で
「シャルロッテ」
ダンスを終えて飲み物を飲んでいるとディーノが近づいてきた。アレクは先程話しかけられた知り合いにまだ捕まっているのか近くにはいない。
…今回はお連れのお姫様はいないみたい。
「ディーノさん、お姫様は大丈夫なんですか?」
「…シャルロッテ、これは仕事だ。僕が望んでここに来ている訳じゃない。誤解しないでほしい」
「私にそう言われても」
空いたグラスを近づいてきた兎の仮面をつけたボーイに返した。
「確かにそういう関係でもないかもしれないが、でも君は誤解しているだろう?それは解いておきたい」
「それはもう、わかりました。お仕事なんでしたら、私に言い訳している時間はないのでは?」
「シャルロッテ」
「なんでしょう?」
「怒っている?」
「いいえ、なんで私が怒るんですか?」
「僕の勘違いなら、もう何も言わないよ」
「ええ、勘違いです」
「…もう帰るのかい?」
「わからないわ。アレクさんに聞いてみないと」
「ルカリオを呼ぼう。もう帰った方が良い」
「こんな深夜に可哀想です。私なら大丈夫です。それにアレクさんは紳士だわ」
「あいつが紳士なのかは置いておいて、僕は君を村のお父さんから預かっている。君のことは何よりも大事にしたいんだ。頼むよ」
思ってもみない真摯な言葉に私は俯いた。
「…何も言わないのに納得してくれなんて傲慢だわ」
「シャルロッテ…確かに僕は君に言えないことがたくさんある。でも君を出会った時から特別に感じているのは事実だよ。ここに居るとあまり良くない…アレクも…あいつも信頼が置けるとは言えない。心配なんだ」
「…私はもう成人しているし、子供みたいに扱わないで」
「その通りだよ、ディーノ」
いつの間にか隣に来ていたアレクが私の手を取る。ディーノの歯がぎり、と音を立てた。
「彼女はもう大人だ。パートナーに誰を選ぶのも自由じゃないかな?」
そう言うと手にそっとキスをした。私はそっと息をつく。初めてのコルセットで胸が痛い。
「そろそろ行かなくて良いのか?どうせクラリス姫のお守りを王から頼まれているんだろう?」
「…シャルロッテ、帰りは迎えに来るよ」
「必要ありません」
「待っていてくれ。僕もなるべく早く帰るよ」
「僕が送るから必要ないよ、ディーノ」
「お前に聞いていない」
ディーノはもうこちらを見ることなく、行ってしまった。あのお姫様の元へ行くんだろう。
「…シャルロッテ?」
ハッとした。ディーノの黒い後ろ姿を見送っていてぼーっとしてしまったみたいだ。
「なんでもないです」
「そうか、行こう。ぐずぐずしていると夜が明けてしまうから」
はい、と微笑んだ。




