表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

445/521

腐り果てた人間賛歌7

 勝ち誇った笑い声をあげるだけの子爵は、それ以上を話す様子はない。

 たっぷりと時間をかけて「聞いて」やれば話すだろうが、今はその時間が無い。

 カナメが今は防いでいるが、防ぐだけでは勝てない。

 今のダルキンとの攻防を見るに、五体満足で捕らえるのは難しい。ならばどうするか。

 その答えをダリアが出す前に、カナメが口を開く。


「……ダルキンさん。ダリアを守って下さい。出来ますよね?」

「勿論です」

「え、ちょっとカナメ……何する気?」

「あの子を止める。俺なら、「あれ」に突っ込んでも死なない」


 生かして捕らえるつもりなら、それしかない。

 カナメが先程から展開している障壁があれば、それも可能かもしれない。

 それを即座に判断すると、ダリアはカナメの背中を叩く。


「無理だと思ったら介入するわよ。協力者に死なれたなんて帝国騎士の恥だわ」

「ああ、分かってる」


 ダルキンがダリアを抱えたのを確認すると、カナメは走る。


「誰か来る」

氷結槍(フリーズランス)

「あ、効いてないよ!」


 魔法を魔力障壁(マナガード)を展開させて弾くカナメに、少女は壊れた鉄格子の向こうから両手を向ける。


「……なら、こう」

「「「「「「電撃網(ヴォルトネット)」」」」」」


 複数の「声」が完全に重なり、眩いばかりの電撃が四方八方からカナメに向かって襲い掛かる。

 方向を指定して展開する魔力障壁(マナガード)では足りない。

 自分の身体に覆わせる魔力障壁(マナガード)では、今のカナメに出来るレベルでは貫かれる。

 ならば。


矢作成(クレスタ)


 カナメの手から伸びる魔力が、魔法の電撃に触れる。

 制御されているはずの電撃を制圧し、制御を奪う。

 そう、これはすでに……カナメの矢の素材だ。

 

電撃雨の矢(ヴォルレインアロー)

「えっ……」


 並の人間ならば骨すら残らぬであろう電撃の嵐はカナメの手の中で一本の矢へ変わり、慣れた手つきで矢筒の中へと押し込まれる。

 目の前で起こったソレが理解できず、少女は慌てたように周囲を見回す。


「み、皆! もう一度ビリビリの鎧!」

「「「「「「電撃鎧(ヴォルトメイル)」」」」」」

矢作成(クレスタ)


 間近まで迫ったカナメの手が、少女を覆う電撃の鎧をはぎ取る。


「……電撃檻の矢(ヴォルジェイルアロー)


 ダルキンすら一時撤退を選んだ無敵の鎧はカナメの手の中で、たった一本の矢に変わる。

 カナメにとっては簡単な話だ。

 確かに強い魔法だ。カナメとて、まともに喰らえばただではすまないだろう。

 だが、矢作成(クレスタ)で制圧できない程度ではない。ただそれだけの話なのだから。


「う、そ。そんな……」

「君は……シンシアちゃんで、いいのかな?」

「え」

 

 怯える少女は、カナメの言葉に……泣きそうになっていた顔をきょとんとしたものに変える。


「俺はカラチ村のアベルという子の知り合いだ。君がシンシアで合っているなら、俺は君の敵じゃない……助けに来たんだ」

「わたし、は」

「ねえねえ、僕のお母さんは!?」

「私、パパとママに会いたいの! ねえ、お願い助けて!」

「ぼ、僕カラル! バラム村の木こりのコナートの息子だよ!」


 僕は、俺は、私は……。競うように少女の中から声が溢れ出る。

 それは少女自身の声であるように思えるが、腹話術のようなトリックで出来る芸当にも思えない。

 いや、そもそも。

 少女の「声」が告げているものが示す事実は……もしかして。


「ご、ごめん。ちょっと触るね?」


 そう言いながら、止まらぬ声の中でカナメは少女の頭に手を触れる。

 この不可思議な現象が何かの魔法なら……あるいは、道具なら。

 カナメの矢作成(クレスタ)でその部分だけ抽出して助ける事だって出来るはず。


「ふ、ふざけるな! ウアーレ! 何してる! そいつを!」

「はーい、黙ってろ子爵様」


 ダインが抑えつけた子爵を殴って黙らせている間にも、カナメは少女に魔力を流す。

 ……そして、知る。知ってしまう。


呪われし混魂の矢(カースレギオンアロー)魂抱えし者の矢(ソウルキーパーアロー)魂の門の矢(ソウルゲートアロー)魔操人の矢(キマイラアロー)……。


「う、あ……!?」

「どうしたの?」

「大丈夫?」

「顔青いよ?」


 理解した。理解できてしまった。この子は。いや、この子達は。


「君、たち……は。その身体に……詰め込まれてるの、か」

「うん! 言う事聞いたら元の身体に戻してくれるって約束なんだ!」

 

 少女の中の……恐らくは、男の子がそう答える。

 だが、それは。


「ちょ、ちょっとカナメ。どういうことなのよ」

「……ごめん、ちょっと待って」


 カナメは、もう一度少女に触れる。

 恐らく、この少女の身体は「シンシア」のものだ。

 なら、シンシアの魂と身体だけを分離して……他の子の魂をそれぞれに分け、何とか元の身体に戻すということはできないだろうか?

 本当に他の子供達の身体が保管されているかなど分からないし、魂の抜けた体などというものが生きていられるのかどうかも分からない。

 だけど、今のままでは。


「……くっ!」


 見つからない。子供達を「分離」できるような矢が見つからない。

 頭の中に流れる狂気に満ちた「矢」のリストの何処を探しても、彼女達を救える矢がない。

 彼女達の魂は……すでに「混ざって」しまっている。


「なん、てことを……」


 押さえつけられている子爵へと、カナメは視線を向ける。

 この世界に来てから今まで誰にも向けなかった……確かな嫌悪に満ちた目。

 こんな恐ろしい……おぞましい事を成果か何かのように誇る子爵を理解できないが故の目。


「なんで、こんな事を……なんで人間に魔操巨人(エグゾード)の作成術なんか使ったんだ……っ!!」

次回更新は6/25です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ