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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
本編

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203/521

ルウネ

「正直に言えば。物凄かったです」


 ヴェラール神殿……具体的にはこの聖国にある本殿のみが認定するメイドナイトやバトラーナイトは、志望者にとっては狭き門だ。

 ヴェラールを信仰する必要はないが、神殿が要求する恐ろしく高い基準での各種能力を求められる。

 それは勿論ヴェラールを信仰していようと一切の手心を加えられる事はなく、むしろ手心を加えるのは天秤の神たるヴェラールへの信仰心を疑われる行為であるとされている。

 他の神殿がメイドナイトやバトラーナイトに似たものを認定したりしないのは、この辺りの自己に徹底的に厳しい体質を模倣するのが無理であるからとされているが……とにかく、そんな厳しい選定をクリアしたメイドナイトやバトラーナイトは最高の従者として世界的に認められる存在となる。

 メイドや執事としての全ての技能を修めたことによる、生活面での高いサポート力。

 騎士として通用しうる、高い戦闘能力。

 両方を兼ね備え、場所も状況も選ばず主人をサポート出来る彼等は、その高すぎる能力故に自ら主人を選ぶ。

 故に神殿前で出待ちして勧誘など全く無意味なのだが、「出し抜かれるかもしれない」という彼等の主人の焦りが出待ちに駆り出されている哀れな遣いの撤退を許さない。

 息のかかった人材を見習いとして送り込もうとしても弾かれ、主人に無能と罵られ。

 すでに居る見習いに接触したくとも、ヴェラール神殿の神官達に見つかって追い出される。

 

 すでに「日常の風景」と化しつつある遣いの者達だが、こうなってくると少しでも自分の現状を吐露したくて遣い同士で多少の横の繋がりが出来るようになる。

 いつでも抜け駆けしようと虎視眈々の関係ではあるが、それでも主人から届く「無能」と罵る手紙よりは有益な情報が共有されるようになる。


 その中で特に有益なモノは「有望なバトラーナイト、あるいはメイドナイトの候補」に関する情報だ。

 たとえ意味がないと分かっていても「もしかしたら」という一縷の望みを胸に彼等は候補に接触しようとするし、それがたとえば「ヴェラール神殿に通っている」というような情報が付随していれば「他に絶対に出し抜かれるものか」という思考に至るのも当然といえた。


 ヴェラール神殿の近くの茶屋に住むその少女への勧誘は苛烈を極め、足の引っ張り合いなどは軽いもの。連日の贈り物合戦に毎朝毎夜の訪問、ちょっとした出先での声掛け等々……あげくの果てには、脅迫じみた勧誘……誘拐未遂まであった。


「え。そ、それって……大丈夫だったのか?」

「問題ないです」

「根元から叩きましたからな」


 なにやらサラリと恐ろしい補足を入れてくるダルキンだが、カナメはそちらを極力見ないようにしつつルウネをじっと見つめる。

 ルウネのどこか眠そうな顔はいつもと変わらないが、そんな目にあって恐ろしくないはずがない。

 そんなカナメの気遣うような視線に気づいたのだろう、ルウネは「問題ないです」と繰り返す。


「でも、ですね。そういうことあると「そんなに優秀なのか」と。余計に注目浴びるです」


 今まで興味の無かった者達も、事件を契機に目を向けるようになる。よくある話だ。

 よくある話なだけに……その後の事が、カナメには明確に想像できてしまう。


「旅に出ざるをえなかったです。お爺ちゃんと一緒に、ふらふらと旅をして。ヴェラール神殿からの「候補者に無理な勧誘を迫る者、国外退去とする」という通告が、ちゃんと意味をもって浸透するのを待ったです」

「……」


 きっと、想像を絶するような状況だったのだろう。

 ダルキンという個の力の極致のような存在が居ても守り切れないような……ヴェラール神殿が必死に動いても時間がかかるような。


「……そっか。悪い事聞いちゃったな。今の事は誰にも話さないし……忘れるよ」


 それがいい。

 今の話はカナメも……この場にいる誰も聞かなかった。

 吹聴するようなものでもないし、下手に触れるべきものでもない。

 だから、それでいい。カナメはそう納得しようとして……しかし、ルウネは「忘れちゃダメです」と告げる。


「え、でも」

「カナメさんは、メイドナイトを探しに来たですよね?」

「え、あ、うん。まあ……」

「いつ誕生するかも選んでくれるかも分からない誰かを待つよりも、ルウネのほうがお得です」


 胸元に手を当ててアピールするルウネの言葉の意味をカナメは考え、反芻し……勘違いではないかと悩んだ後に「えっと」と切り出す。


「それって……ルウネが俺を選んでくれるって意味でいいん、だよな?」

「いいです。それとも、カナメさんはルウネじゃ不満ですか」

「え!? あ、いや。そうじゃない! そうじゃない……けど」

 

 どうして自分を選んでくれるのか。

 それが分からないのだ。


「なんで……俺、なんだ? 正直に言って、あー……あんまりお金持ちでもないし、色々と……」


 自分で言ってしまうと情けないが、お金持ちでもなければこの世界の人間でもないから出身不明、更には悪質な偽者扱いされて立場も微妙、それを補うような何かがあるかといえば……精々、カナメには弓しかない。

 そんなカナメを選んでくれる理由とは、一体何なのか。

 

「それをお答えするには。カナメさんに一つ聞かなきゃいけないこと、あるです」


 ルウネはカナメを見つめたまま、流れるようにその問いを口にする。


「カナメさんは……ルウネに。メイドナイトに、何をしてほしいですか?」

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