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閑話休題  私は可愛い人と言われたい

11/22の「いい夫婦の日」ネタでのSSです。

もう、ただのバカップルでしかありません。

「私は可愛い人だと言われたいのです」

「……は??……」


 それは、そろそろ就寝する時間だと、共にベッドの中に入り込んだ時だった、

 何の前触れもなく突然、グレッチェンがひどく真剣な顔つきで私にこう訴えかけてきたのだ。


「私はいつも君に可愛いと言っているつもりだが……」

「シャロンさんが言う可愛いと、私が求める可愛いは違うんです」

「何がどう違うのかね??」


 大方、また店の客から妙な話を吹き込まれたに違いないが、とりあえず私は黙ってグレッチェンの蘊蓄に耳を傾けてあげることにした。

 そうでもしないと、機嫌を損ねて口を利いてくれなくなるからだ。


「いいですか??まず、可愛いには大まかに二通りの意味があるのです」

「うむ」

「一つは、愛する異性に敬意を払う意味での可愛いと……」

「うむ」

「もう一つは、幼子や小さな動物など自分よりか弱き者に対する可愛いです」

「うむ」

「つまりですね、私は前者の意味で可愛いと言われたいのです」

「……私は、前者の意味を込めて君に可愛いと言っているつもりだが……」

「そうでしょうか??私には、後者の意味で言われているようにしか思えません」

「…………」


 私は呆れる余りに、返答に詰まってしまった。


 どうしてこう、彼女は変な部分で卑屈な思い込みをしてしまうのだろうか??


 眠気も相まって私は少々うんざりし始めていたが、彼女を怒らせることだけは何としても回避しなければならない。

 しかし、この勢いだと、延々と彼女はこの話題を語り続けるのが目に見えている。


 グレッチェン、私は眠くて仕方がないのだよ……。


 この話の流れで夜の営みに続いていくのならともかく、そうでないのならば、さっさと寝かせてくれないかね……。


 私はグレッチェンの蘊蓄に相槌を打ちつつ、話を早く切り上げさせるための策を眠い頭で練っていた。


「……要するに、私が君に対して言う可愛いは、君からすると子ども扱いされているように思う訳か……」

「はい」


 グレッチェン……、こういう時だけ、やたらと自信満々な顔して答えるんじゃないっ。


 私は溜息を押し殺しながら、グレッチェンに問い掛ける。


「ならば……、私が君を子ども扱いではなく、大人の女性としてちゃんと見ているという意味で可愛いと言えば、君は満足するのだな??」

 はい、と短く返事を返した彼女の、折れそうに細い身体を抱きすくめ、私は考えていたある言葉を耳元でそっと囁いてみせた。



「…………なっ!…………」



 案の定、グレッチェンは顔から火が噴きそうなほど紅潮させて絶句してしまった。



「これでも、子供や小動物に対する意味での可愛いだと思うかね??」

「……思いません!」


 グレッチェンは憤然としながら、頭からすっぽりと掛布を被り、私に背を向けて寝ころんだ。

 やれやれ、そこまで怒らなくとも……、と肩を竦めた後、私も彼女に続いてベッドの中へと潜り込む。


「今夜は、君のその可愛い声を聞かせてくれないのかね??」

「……お断りします!」

「つれないなぁ」

「シャロンさん、眠いんじゃなかったのですか?!」


 君の反応が余りに可愛いものだから、眠気など吹き飛んでしまったよ。


 と、言いたいところだが、これを言ったら最後、確実に激怒しかねないので、私はあえて心の内に留めておくだけにしたのだった。


(終)





シャロンがグレッチェンの何を可愛いと言ったかは……、まぁ、お察しください。

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