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異世界召還のリスク  作者: ボナパルト
第二章 魔王領の侵攻
30/33

29 戦場のリスク 1

一週間以内と言っておきながら遅れてしまいました。

すみません。

 風の平原はその名の通り、年間を通して風が止むことはない。

 その風の影響かは定かではないが、降雨量が多い、あるいは少ない季節というのも存在しない。

 夜の湿度も高くはないのだが、朝靄が出ない日もまたない。

 なぜならば、地形改善の魔道具が効果を発揮しているからだった。

 人族が住むには強すぎる風を弱め、生活に必要な水を得やすいように変遷させたのである。

 その甲斐あって今では王国有数の穀倉地帯だったのだが、魔王領の侵攻により黄金色一色で埋められるはずだった平原は、大量の血や体液が乾き黒く染め上げられていた。

 たとえ領土を取り戻したとしても、しばらくは穀倉地帯として十分な力を発揮することは難しいだろう。

 それでも領土回復は王国全体の願いである。

 一歩目がここから始まることを、兵士たちも期待していた。

 古参兵も新兵も入り交じる戦場になるが、士気は低くない。


 朝靄が晴れていく中、前方の視界が開けてゆく。

 そこにはずらりと居並んだ小型魔獣の群れが見えた。


「ふむ。予想通りの戦力ですか」


 呟いたのはニオダイアだ。

 彼は遠見用の魔道具を使い、魔物の軍勢を観察していた。


 ニオダイアが見た魔物の数は自分たちの規模と同等かそれよりもやや少数。


「魔物の殆どはゴブリン。稀にオーガ。数百単位で軍事行動ならばこんなものでしょうかね」


 ゴブリンは小型魔獣の中でも弱い部類に入る。だが魔王領の侵攻時にはもっとも活躍する種でもあった。これはゴブリンの種族特性の一つで、ゴブリンは指導者がいれば数百、数千という単位で固まった集団行動を取ることが可能なのである。

 無論、人族軍隊のように一糸乱れぬというように完璧な統率をされているわけでもないし、周囲の動きに合わせて自分たちが動きを変える、という臨機応変さもない。

 だが命令には愚直なまでに忠実で、最後の一匹になろうとも統率者が居るならば逃げ出すこともなく、また爪や牙ではなく武器を扱える点からも軍事行動に適した魔物だと言えた。


 そして今回ゴブリンを率いているのはオーガと呼ばれる中型の魔物だ。灰色の肌に太い手足。そして頭から角を生やしているのが特徴的な魔物である。身長はゴブリンの倍程度で、人族のどの種族よりも大きく強靭と言われている。

 戦い方は単純で、怪力を生かしたなぎ払いを主とし、丸太や魔物の骨などを使い防御はおろそかにする傾向があった。

 また一体につき五から十のゴブリンを率いる統率者であり、小隊長のような役割を担うことも多い。

 もっとも頭はよくないために、突撃以外の行動は殆ど取らないのだが。

 それでもオーガが居る限りゴブリンは敗走しない。生命力の強いオーガは腕や足を一本失っても即座に死ぬことはないため、正面から当たるには厄介な敵だとニオダイアは認識していた。


「ふむ。司令官。少しいいだろうか?」

「なんでしょうかネフルティス様」


 魔物の布陣は横陣、というよりもオーガがそれぞれゴブリンを率いて横並びになっているだけ、と言った方が正しい。

 ニオダイアは布陣を決め、各指揮担当者へと伝令を発した。布陣終了までのちょっとした合間に、ネフルティスが話しかけた。


「サラエントには統率された魔物が昼に攻めてくることは少ないと聞いていたのだが、魔物たちはなぜ昨晩ではなく今朝になって軍事行動に出たのだろうか?」

「ああ、それは少数の場合ですね。今回の我々のように数百単位のぶつかり合いとなれば魔物側にも集結の時間は必要になります。昨日は襲撃自体が殆どありませんでしたよね? あれも集結とこちらの数を確認するためでしょう。オーガのような魔物にとって価値がある情報は我々の数であって、練度などは関係がないのです。ですから同等の数が集まった時点で対峙したのではないでしょうか」

「すると集結時間によっては昨晩の内の奇襲もありえたのかな?」

「いえ、恐らくはそれもないかと」


「ふむ……。ああ、オーガは夜目が効かないのだったな」


 一瞬の思考を挟んだ後にネフルティスはオーガの情報を思い出していた。


「はい。統率者はあくまでもオーガですから。ゴブリンに夜目が効いても、夜襲の可能性はほぼありませんでした。ゴブリンに軍隊行動をさせることができる統率者はオーガ以外には報告されていませんでしたので」


「なるほど。よく分かった。感謝する」

「では陣へお戻りください。こちらも最後の準備に掛かります」

「了解した」


 疑問が晴れたところでネフルティスは後退する。

 ネフルティスは中央の隊から本陣へと戻りながら編成のことを考えていた。


 王国側の布陣は、左翼、中央、右翼、本陣の四つに分けられた。

 左翼、中央、右翼はそれぞれ三〇班、百五十人づつで小規模な横陣を組んでいる。

 本陣には五十人が配置され、本陣は中央の後ろに位置づけられていた。予備兵力としての役割も担っている。

 丁の字型の配置であり、中央が突出できれば相手を分断することも可能になるが、そこまでの打撃力は持っていなかった。


 リオラス砦軍は、五人一組の班を最低単位として組まれている。

 班としては盾役を二枚置いた防御重視の編成だ。その他に班長、槍兵、弓兵がいる。

 それぞれ役割に応じた装備を与えられ、その他に補助武装として剣が渡されていた。大量生産の長剣であり、斬るよりも叩き潰すという行為に向いているものだが、最後にはこの剣の有無が生存率を上下させる。


 班の指揮と伝令からの情報伝達や周辺警戒と魔道具による回復を担う者が一名。基本的にこれは戦闘をしない。鎧の背に示す印があり、班長となる。班の人数が増えると、指揮をする人物と回復を担当する人物に分けられる役割だ。


 盾と片手槍で前衛を勤める者が二名。最も損害が多い役割だが、二人共が新兵であることは禁止されている。耐えるのが役割の壁役だ。与えられる鎧には、自前で工夫を凝らし少しでも生存率を上げるのが常識になっている。


 長い両手用の槍を持ち打撃力とするのが一名。盾持ちの後ろから攻撃をし、動きの止まったゴブリンを一撃で仕留める技量が求められた。攻撃力としては班内最高であり敵の戦力を減らすのが役割になる。

 

 最後に弓兵。敵前衛に隙を作るために射ったり、後衛や指揮官を狙ったりと自在な動きが求められる。また、弓兵は独自の判断で隊と別行動を取ることが許されている。これは他班の弓兵と斉射を行うことが多々あるためだ。


 軍事目的としては陽動になるので、長時間の戦闘、状況に対し臨機応変に対応できるよう班を役職で一括りにするのではなく、混合している。騎兵や魔法のようにまとめて運用することで格段に戦果が上がる兵種は今回弓兵だけである。その弓兵に関しても班に一人いることで取りうる戦術は幅が格段に広がるため、分配されていた。

 班員が一人でも倒れれば大きな穴になる。そういう場合は隣の班と合流し、合流された方の班長が全員を取りまとめ、合流した方の班長は欠けた役割を担うことになる。専門職に比べれば戦力としては弱くなるが、その汎用性は全体の戦力低下速度を抑えるのに有効だった。


 本陣へと戻ったネフルティスは、自分の目や耳で確かめた敵と味方、それに戦場の情報を頭の“外”で整理した。

 そして情報の詰まった“頭外領域”を用いて魔王軍と王国軍の模擬戦闘を開始する。

 結果は陽動としては十分の成功を収めることができる、と結論が出ていた。

 ただし、それは兵士の質が一定であることが条件であり、古参兵も新兵も一緒にした戦力分析でしかないことをネフルティスは把握していた。

 ゆえに、この結果自体は予想としてしか意味を成さない。リオラス砦軍の戦術になんら寄与することのない情報だ。ネフルティスが考えるのは、この結果が王国軍ではなく魔王軍の立場から見ればどういう結論になるのかということである。


「ふむ。なるほどな」


 ネフルティスは本陣の中で一言呟く。それを聞いて気にする者は周囲にいなかった。

 彼は気づいた。魔王軍の狙いが、正面決戦ではないということを。


「誰か! 司令官への伝令を頼みたい」

「はっ。一体何を?」


 ネフルティスのよく通る声に反応したのは古参兵の一人だった。

 兵士としての礼儀は最低限に、要件を促す。


「この戦い、拮抗ではなく圧勝しろ、と伝えよ。さもなくば後に厄介なことになるかもしれない」

「……差し出がましい口を挟みますよ。さすがに圧勝は難しいんじゃないですかね」

「それは分かる。まあ、大きな損害を出すな、ということだ。恐らくだが、今目の前にいる魔王軍の目的は決戦ではない」

「我々を殲滅するのが目的ではない、と?」

「いや、数を減らす、殲滅する、という目標はあるのだろうさ。だが、それだけが目的ではないと思われる」

「それはいったい?」

「リオラス砦軍と一緒だよ」

「? どういう意味です?」

「時間稼ぎだ。この戦闘の後なにが起こるかまでは想像がつかないが、戦力は温存する必要があるだろう」

「……分かりやした。すぐに伝えます」


 様々に湧いたであろう疑問を飲み込んで古参兵は駆け出す。


 ネフルティスにとっておかしいと感じたのは、敵に弓兵が居なかったことだ。

 ニオダイアが言っていた。敵の集結には時間が掛かる、それが集結して朝が来たから攻めてきたのではないか、と。

 この世界の戦争として常識があるわけではない。それでも飛び道具というのは使えるならば使うものだろう。

 ネフルティスは見ていた。この戦場に来るまでに出てきた斥候のゴブリンが弓を持っていなかったのを。最初はゴブリンが弓を扱えないのかと思っていたが、書籍で読んだ情報や見聞きした情報を統合すれば使う方が自然だった。

 次に弓矢が手持ちにない、という可能性も考えたが、この先の砦は既に陥落済みで中の装備は流用されている。ならば弓矢がないというのも不自然だ。

 最後の疑問は、弓矢を温存してなにをするのかということ。弓矢はまとめて運用することでその威力を引き上げる。こちらの撤退を狙うのか、それとも別の場所での戦闘に使うのか、可能性は多岐に渡り過ぎていて絞り切ることは現時点ではできない。


 問題は、そのように敵が編成されている、ということ。

 ゴブリン、そしてそれを率いるオーガではそのように戦術を考えそうにない。ならば、後ろに編成を行えるような者がいると考えるのが自然だ。


「魔物の群れでしかない者たちを指揮する存在。この平原のどこかにいるのだろうな。魔族が」


 ネフルティスがその種族を口にした直後、開戦の喧騒が平原を埋め尽くしていった。


思った以上に戦争を書くことに苦戦しています。

この戦場のリスクが終了するまでは不定期になると思います。

ご迷惑をおかけしてすみません。


1月21日 誤字脱字修正

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