第96話:【番外編】フロキアの冒険(フロキア視点)
どもどもべべでございます!
今回は所変わってフロキアさん視点です!
どうぞ、お楽しみあれー!
昼を告げる鐘が、グランアインの下町に響く。
仕事がある人も、休みの人も、この時間には町に出て思い思いの行動を取っている。朝のそれとは、また違った活気だと言えるだろう。
昼、か。……ハノンくんはもう、町を出た頃だろうな。
「はぁ……」
冒険者ギルドの軽食コーナーから街並みを眺めつつ、私は小さなため息をついた。
少々臆病ながらも、確固たる芯を持ったあの可愛らしい少年を思い浮かべる。本来ならばそれだけで、万の兵すらも相手取れる程の活力を得る事ができるのだが、今はただひたすらに逆効果でしかないと言える。
今ほどギルドマスターの陰謀を恨めしく思った事はない。本来ならば、私もハノンくん達と共に馬車の護衛依頼に向かっていたというのに……銀貨級であるというだけで、この町に釘付けにされるとは思わなかった。
今からでも追いかければ、まだ間に合うのかもしれないが――――
「フロキアさん、そろそろ顔合わせの集合場所に向かう時刻じゃないですか?」
後ろの席から、休憩中の受付嬢の声がかる。
監視はしっかりされているようだ。というか、私に対して監視が必要な存在だと思われている事実が非常に腹立たしい。
ソロで活動していた頃は、こんな扱いではなかったはずなのだが……解せないな。
「あぁ、これを食べたら向かおうと思っていた所だよ」
注文していたサンドイッチをもそもそと食べながら、受付嬢の中でも古株である彼女に返事を返す。
見目麗しく、一介の受付嬢にしか見えない彼女だが、悪魔討伐の事件の際には自らが伝令役として敵地に入り込む程に芯の強い女性だ。あまり逆らうのは宜しくないと、私は常々思っている。
「ふぅむ、あまりやる気が感じられませんねぇ。せっかく新発見ダンジョンに挑む権利を貰えたというのに」
「……まぁ、少々強引だったからね」
そもそも、私は今回のダンジョン探索は辞退していたんだ。
銀貨級が集まる会議。会議と銘打っているが、その実は新たに発見されたダンジョンに足を踏み入れる権利を我先に得ようとする場。
すなわち、面接であり、競り。
そこで私は、ギルドマスター直々の推薦を受けて、無理矢理に探索のメンバーにされた。
「彼は、目的の為なら手段を択びませんからねぇ」
「痛感したよ」
結果として、複数の銀貨級冒険者から非難の声を浴びていたギルドマスターだったが、彼はそこも周到な対策を用意していた。
今回の探索は、二人の金貨級が主となってアクションを起こすという。その金貨級である彼等が、私を発見者の特典としてアシスタントに選んだのだと、ギルドマスターは宣ったのだ。
冒険者とは、格こそがモノを言う縦社会。金貨級が私を選んだとなれば、二の句を告げる者はそういない。
こうして、私の意見などお構いなしに、無理矢理にハノンくんから引き剝がされてしまったという訳だ。
「でも、良かったじゃないですか? 金貨級の手腕を生で見れるなんて、そうある事じゃないですよ?」
「理解はしているし、かつての私だったらば一二もなく飛びついた僥倖だと思う。……しかし、どうにも、私はここ最近で大きく変わってしまったらしい」
「あらら、あの一匹狼をこんなにも手懐けてしまうなんて、あの少年はそんなに素敵な子なんですねぇ」
「当然だ。ハノンくんの魅力は万物の頂点にある」
あの麗しい容姿。実直な優しさ。
責任を果たそうとする意志。数多の窮地を打開する機転。
更には恐怖を克服する強さも兼ね備えているし、辛い過去を表に出そうとしない健気さも凄まじい破壊力だ。
同じ人類とは思えない程に、彼は眩しい存在だと断言できる。私はきっと、彼と出会う為に生まれたのだろう。
「うわ、怖……」
「何か言ったかい?」
「いえ、なにも?」
そんなハノンくんと、長時間離れ離れ……私の落胆がいか程か、理解してくれる者は少ない。
仕方のない事だろう。かつての私が今の私を見ても、理解できないだろうからね。
「はぁ、とても仲間想いになったのは理解しましたが、それで冒険者の本分を疎かにしてもらっては困りますよ」
「疎かにしていたら、私は全てを投げうって彼に付いて行っている。義務には従っているだろう?」
「身が入っているかどうかの問題です。新しいダンジョンにそんな気持ちで入ったら、どんな事故が起こるかわかりませんよ? それがひいてはパーティ全体を巻き込んで壊滅に繋がるんですから、しっかりと目の前に集中してください!」
「……わかっている。本番までには気持ちは切り替えるさ」
今日は金貨級との顔見せ、探索は後日だ。
それまでにスイッチを切り替えていれば、それでいい。また昔のように動けばいいだけさ。
「……ここだけの話なんですけど、今回のダンジョン探索はハノンさんの為になる事なんですから、頑張ってくださいね?」
「っ!」
なんだって?
ハノンくんの為? いったいどういう事だろうか。
「詳しく聞いても?」
「聞かないと身が入らないみたいだから、教えてあげますよ。……ギルドマスターは、ハノンさんに是非とも契約してもらいたいモンスターがいるんだそうです。そのモンスターが、あのダンジョンにはいるかもしれないって話ですよ」
ハノンくんに契約して欲しいモンスター……。
ギルドマスターの思惑だから、少々不安なところはある。だが、彼にとってモンスターとの契約は、直接命の危機が減る可能性を持つものだ。従魔師にとって、契約獣の数は正義だからね。
ハノンくんへのギルドマスターの信頼をより強固なものにするためにも、もしかしたら必要なのかもしれないな。
「むぐ……んくっ」
一気にサンドイッチを頬張り、硬いハムとパンを咀嚼しながらお茶で流し込み、立ち上がる。
そうと決まれば話は早い。早速金貨級と接触して、ダンジョンアタックまでの時間で親交を深めよう。
連携には、連帯感が不可欠だからね。これは間違いなく、ハノンくんと一緒にいたから学べたことだ。
「ようやくその気になりましたねぇ。ま、しっかり頑張ってくださいね?」
「あぁ、行ってくるよ」
「今回組む相手は、貴方にとっても身になる相手のはずです。だから、胸を借りるつもりで行ってきなさいな」
そう言って、会話の中ですっかり冷めてしまったであろう茶を飲む彼女の視線は、もう私を捉えてはいなかった。
……最後の一言には、重さを感じたな。おそらく、彼女はそこを私に言いたかったのだろう。
たしかに、私はまだまだ成長過程だ。銀貨級としての格は、低い方だと思っていい。
そんな私にとっても、今回の案件は成長のきっかけになるだろう。不貞腐れていて気付いていなかったが、これは大きなチャンスだ。
「……ありがとう」
おそらく彼女は、見ていない。
だから、私も彼女を背にしたまま礼を言い、ギルドの奥に進む。
集合の場所は、ギルドマスターの部屋。そこで会する人物が誰なのか……不思議と今更、胸が高鳴ってきた。
どうやら、私にも真っ当な冒険者としての感覚が残っていたらしい。
待っていてくれ、ハノンくん。君が帰る頃には、より君を守れる男に成長している事を保証しよう!




