第95話:出立
どもどもべべでございます!
ついにハノンくんが、他の町に向けて歩き始めます!
どうぞ、お楽しみあれー!
「えっと、この辺でしたよね。確か」
「……町の、出入り口って……言ってた……」
『あぁ、そうだな』
さて、いよいよ出発の日だ。
銅貨級の資格は手に入れた。訓練もしたし、装備や消耗品なんかも整えた。
竜の息吹亭に一ヵ月滞在できる権利の内、3週間をみっちり使い込んで十二分に準備を整えた。もはや今のハノンは、どこに出しても恥ずかしくない銅貨級と言えるだろう。
まぁ、ヘナは相変わらず、掌モードでハノンのポケットに入ってるけどな。ハノンやフロキア達以外と会話をするのは、まだまだ怖いらしい。
ヘナの扱いは課題として残っているが、まぁ仕方ないと割り切ろう。俺たちは、依頼人のいる町の出入り口まで足を運んだ訳だ。
「でも、依頼の内容を聞いてびっくりしちゃいました」
『俺もさ。少しでもタイミングが合ってたらと思うと、ちと歯がゆいけどな』
「確かに、もし丁度いいタイミングだったら、心強かったんですけどね……っと、あの馬車かな」
そんな会話をしつつ、門の付近に停車してある馬車を発見する。
少人数が集まっており、その大多数がいわゆる冒険者としての装備を身に着けている。まず間違いなく、あそこだろうな。
「こ、こんにちは! 依頼を受けてきました、ハノンですっ」
「やぁ、よく来てくれたね。皆さん定時よりずっと早くて助かるよ」
そこにいたのは、馬車の前に立つひょろ長い体の糸目な青年だった。
茶色い髪は短く外はねで、整えてはいるものの硬いらしくあまり努力が報われていなさそうだ。
身長だけならオゴスの旦那と並ぶかもしれんが、細い体型と柔和な顔立ちのせいでまったく迫力を感じない。
だが、見てくれには騙されない方が良いだろう。なんたってこいつは、盗賊ギルドの一員なんだからな。
「僕はナロー。この町の貴族街で雑貨屋を営んでいるんだ。今回は護衛任務、よろしくね」
「は、はいっ」
グランアインを拠点にしてた俺はこいつについて知っているが、ハノンが会うのは初めてだな。
今回の依頼は単純明快。盗賊ギルドの息がかかった商人であるナローの護衛だ。ついでに、俺たちが届けるべき荷物をこいつが預かって、輸送してくれる流れになっている。
いくら盗賊ギルドの一員とはいえ、表向きのナローは普通の商人だ。依頼として護衛するのも、商談の為に町を行き来するのも、まったく不自然ではないだろう。
「……目的の荷物だけど、この中にちゃんと積んであるからね。後で移動中にでも中を検めてみるといいよ。まぁ僕が言うのもなんだけど、本当に大したものじゃないからさ」
「ありがとうございます。えっと、では後程に……」
「うん、じゃあ今回護衛してくれる、もう一組とも挨拶をしてほしい」
「は、はい」
今回はハノンとは別に、もう1つのパーティが依頼に参加している。
護衛依頼ってのは基本、複数でこなすものだ。数を揃えた山賊や獣などからも荷物を守らないといけないし、いざって時に足止めを用意して逃げるのも必要だからな。
銀貨級であるフロキアは、その等級故に町から離れられなかった。だからこそ、アルバートが同じ銅貨級を見繕ってくれたんだろう。
「ふふふん! ついにここまで上がってきたのね、ハノンくん!」
「あぁ、お前ならすぐ、俺らと同じ銅貨級まで上がってくると思ってたぜ!」
「今回は一緒に護衛だ。よろしくな!」
そこにいたのは、万年銅貨級として色んな意味で名高い、通称【銅貨三人組】だった。
女の魔術師、斥侯の男に戦士の男という、バランスの取れた面子だな。依頼成功率も低くなく、フットワークの軽い活躍をこなしているこいつらだが、何故か一向に昇級の話が持ち上がらないのはちょっとしたミステリーだと言える。
「あ、その……よ、よろしくお願いしますっ」
「なぁに、よろしくされるのは俺たちだって~」
「そうそう、なんたってあのフロキアさんより強い角兎を連れた冒険者なんだからなっ! 期待してるぜ?」
「ちょっと、そんな風に言ったら緊張させちゃうでしょ!? ごめんね、調子の良い連中だけど、互いにサポートし合っていきましょ?」
「は、はいっ」
あぁ、思えば冒険者ギルド内に、「やたら強い角兎を連れた新人が現れた」って噂を流したのはこいつらだったっけな。
おかげでハノンも、舐められることなくギルドに溶け込めた。こいつらには一応、感謝しないといけないな。
「あはは、仲が良いのは大事なことだね。これは安心して護衛を任せていいねぇ」
「ふふん、任せてくださいよ」
「あぁ、護衛依頼なら何回もこなしてるからな、俺ら」
「ハノンくんは、初めてなんだよね?」
「そうです、ね。護衛依頼は初めてです……」
「じゃあ、俺らがしっかり教えてやるからな」
「よろしくお願いします……!」
うんうん、こういう横の繋がりでハノンが学ぶ事があるのは、大事なことだ。
俺が全部教えてたら、知識に偏りができちまうしな。かといってフロキアやオリアンティだけでもいけない。一ヵ所のチームの視点のみでなく、他者から何かを盗めて一人前という事だ。
「さて、それじゃあ改めて、依頼内容を確認してもらうよ」
ナローは契約証の写しを取り出し、全員に見えるようにこちらに向けながら説明を始める。
「今回の依頼は、【馬車と商人の護衛】。もちろん馬車ってのは、積み荷も馬も含まれる。これらをしっかりと脅威から守り、目的地まで護衛してもらう。皆さんにはそれで契約してもらったけど、間違いないかな?」
「「「はいっ」」」
「は、はいっ」
「よろしい。移動中の食事提供はこちらで出させてもらうから安心して欲しい。それも踏まえて、報酬は1人銀貨25枚。ここから危険手当として、最高で1人銀貨50枚の手当がつく。つまり、運悪く沢山の戦闘が起こってしまった場合、最高で報酬は75枚まで上がる可能性があるって事だね」
まぁ、極論だけどな。
普通は危険手当一杯まで報酬が上がるなんて事は起こらないもんだからな。それよりも、食事代が向こう持ちってのが重要だ。
銅貨級でスレスレの生活を送ってるやつらは、こういう依頼で一日の食事を賄ってるのもいるくらいだからな。拘束時間は長いが、その分食えて生き永らえるってのは美味い話だ。
「えっと、それが片道って話だったよな?」
「そうだね。今回は町に着いて商談が始まったら、そこそこの時間滞在することになるんだ。だから、すぐにでも町に帰りたいって人達は、そこで依頼達成という事にして帰ってもらっていい。その場合、片道のみの報酬をお支払いするよ」
「往復で護衛した場合、危険手当はどうなります?」
「悪いけど、危険手当は行きも帰りも統一して欲しいかな。合計で50枚以上の戦闘が起こったとしても、最高で50枚までしか増えない計算だね」
「まぁ、いくら往復でもそんなには戦闘しないと信じたいよなぁ……」
「「だねぇ……」」
「そ、そうですね……」
そこも、まぁ依頼としては妥当。
つまりこの依頼は、往復で銀貨50枚、危険手当がいっぱいで50枚。つまり最高で、1人金貨1枚に相当する可能性がある依頼って事だな。
何度も言う通り、そこまで戦闘が起こる事はないだろうが。
「万が一途中で依頼続行が不可能となった場合、途中で報酬を払って解散などは不可能とさせて欲しい。こちらとしても、そんな状況になってしまったら再起の為のお金が必要だからね」
「えぇと、それって……」
「大喧嘩して解散ってならったらお金にならないって事よ。だからみんな、仲良くして行きましょう!」
「あと、半分以上死んだりな」
「縁起でもない事言うなっつうの」
斥侯の頭を戦士が小突き、場が少しだけ和らぐ。
だが、実際半数が死んだりした場合、続行不可能として置いて行かざるをえない可能性もある。その場合、その故人には報酬は出ないという事だ。死体がなければ蘇生もできないし、そもそも俺らに蘇生の可能な金もないからな。
万が一にもそうならないように、気を引き締めて行こう。
「さて、契約内容については以上だけど、他に何か質問はあるかな?」
「はい! ポーションなんかが尽きた場合、売ってくれたりするのか?」
「あぁ、定価で買ってもらう事になるよ。お互いにウィンウィンで行こう」
上手いな。中には割高にする商人もいるし、ここで確認するのは大事だ。これはハノンにも覚えてもらわんとな。
「……以上、かな。それじゃあ、出発しよう」
ナローが馬車に乗り込み、馬の手綱を握る。
俺らは、魔術師の女を馬車の屋根に乗せて、馬車周辺を固める位置に陣取った。
「それじゃあみんな、よろしくね!」
ナローが言い、銅貨三人組が「おうっ」と明るい声を上げる。
ハノンが緊張交じりに「はいっ」と声を張り、ヘナがポケットの中で震えた。
「それじゃあ、アーケンラーブの町に向けて、出発!」
馬車が動き、それぞれが一歩を踏み出す。
そう、馬車の行先は、アーケンラーブ。
オリアンティの住む町にして、つい数週間前にアイツが帰って行った町だ。
まったく、本当にタイミングが悪かった。しかし、言っても仕方のない事だな。
「……ヴォルさん、向こうでオリィさんに、会えますかね?」
『あぁ、驚かせてやろうぜ』
ある意味、良い目的も出来たと思おうか。
こうして、ハノンの初めての護衛依頼が、幕を開けたのだった。




