第90話:修行の日々
どもどもべべでございます!
さて始まりました第四章!
ここからはしばらく、舞台を移して冒険です!
お楽しみに~!
ギャリン、と金属的な音が響く。同時に、体幹がずらされる感覚。
一瞬前までの疾走感をすかされて、体が自然に落下する。
着地と同時に後ろ脚に力を入れ、跳躍。お相手から一気に距離を取った。
「『清浄なる水をここに。我が敵を打ち倒す槍となりて、天翔け突き進まん』……ウオータースピアっ!」
背後で破裂音。水飛沫が背中を揺らし、体感温度が下がって僅かに筋肉が震えた。
更に跳躍を繰り返すと、2度、3度と破裂音が響く。一度の魔法で3発の弾数か、中々成長したな。
「ダメかぁ……!」
3度目の跳躍時に直角に跳んで方向転換し、相手――――ハノンを視界内に収めて追撃に備える。ハノンは詠唱には移らず、盾を構え直してるようだ。
どうやら魔法による追撃よりも、防御を固めて迎え撃つみたいだ。だったらお望みどおりにもう一発いってやろう。
「フシッ!」
「っ」
角を相手に向け、一直線に突進する。狙いは足元、刺されば動きが鈍って戦いの場では役に立てなくなるぞ。
さぁ、先ほどは逸らされたが、2回目はどうだ?
「ふっ……!」
『おぉっ』
俺の角は、真ん中でしっかりと受け止めた後に盾をずらす事で、見事に受け流された。
いいなっ、最高だ! 完全に感覚を掴んだな!
『そうだ、その感覚だ! しっかり覚えとけよ!』
「は、はい!」
今のは角兎の中でも、直線的な分かなり素早い攻撃だった。
これをいなせるんだったら……いいかね。
『じゃあちっとばかしギアを上げるぜ?』
「はい?」
『今から前後左右にかく乱しながら、蹴りも加えて行くからな』
「ち、ちょっ、ヴォルさん、待って?」
『習うより慣れろ。まずは経験だ。行くぞ!』
「待ってぇぇぇ!?」
宣言してから、しばらく後。
俺の目の前には、ぐったりと倒れ伏したハノンがいた。
ん~、まだ蹴りをくわえた高機動戦闘には対応出来んかったかぁ。
「うぅ……左右上下から蹴りが……蹴りがぁ……」
『ま、今後の目標はあれを捌けるようになることだな』
「む、無理です……」
無理ってのは聞きたくないな。今後もしっかり稽古つけるんで、そのつもりでよろしく。
とはいえ、今日の組手はこれで終いだ。ハノンには【アクアビット】で自分を回復してもらい、最期に軽いストレッチをしてもらう。
俺達がいるのは、いつもの冒険者ギルドにある訓練場だ。冒険の無い日は、ここでハノンをみっちり鍛え上げるのが日課になっている。
『さて、ギーメイとの約束までもうちょいだが……』
「……ボクとヴォルさんだけで、行かないといけないんですね……」
『ん、まぁなぁ』
山ドードーの卵を集める依頼をこなした、あの日。
俺とハノンは、冒険者ギルドで待っていた男、ギーメイからとある情報を受け取っていた。
その日から、3週間の時が過ぎた現在。俺は来る日に備えてハノンを鍛えている。
なんたって今回は、ハノンと俺で町を出て旅しないといけない訳だからな。フロキアや、オリアンティを頼る事ができない今、ハノンの地力を鍛えて備えるしかない。
どうして、そんなことになったのか? それは、3週間前に遡る……。
◆ ◆ ◆
「隣国からの移民が、労働力になってるっていう町があるんだけど……君、この情報にいくら出す?」
盗賊ギルドのギルドマスターであり、金貨級冒険者であることが明らかになった男。ギーメイ。
そいつが持ってきた情報は、ハノンにとって垂涎ともいえるものだった。
「り、隣国からの移民、ですか!?」
「移民ってか、難民だよね。隣国は内戦でガッタガタになってるからさ。それに巻き込まれた一般市民とかが、なんとか逃げてこれたって感じの町があるらしいよ?」
「どこなんですか!? 教えてくださいっ」
内戦に巻き込まれた町。
それには、ハノンの故郷であるサノストも含まれている。可能性は低くないだろう。
絶対に欲しい情報なのは、間違いない。
「んふふ、ダメだよハノンくん。俺は盗賊ギルドの一員なんだからね? ただでこれ以上教える訳には、いかないなぁ」
「あぅ……お、おいくらでその情報、買えるんでしょう?」
「そうだなぁ……俺からの依頼を受けるって言ってくれれば、その情報を前払いで教えてあげるよ?」
「依頼、ですか」
……正直、かなり怪しいな。
しかし、向こうが情報というイニシアチブを持ってる状況では、求めるなら首を縦に振るしかない。
冒険者ギルドの中で切り出すんだから、法に触れてるようなもんじゃないという確信はあるしな。
その点はハノンに念話で伝えておこう。
「……えっと、聞かせてもらって、良いですか?」
「うんうん、助かるよ! やって欲しいのは荷物運びだね。件の町の盗賊ギルドに、贈り物を届けて欲しいのさ」
あぁ、なるほどな。
情報の先である町に用事があり、その町に行く動機がある奴を見繕って向かわせる算段な訳だ。
互いに利のある申し込みではある。
「もちろん、荷物の中身は検めてもらって構わないよ。違法な薬や武器の類ではないって確証も欲しいでしょ?」
「……ヴォルさん」
『まぁ、そこまでして良いってんなら、利害の一致はあるな』
普通に受けても良さそうな条件に、ハノンと俺が頷こうとした、その時だ。
「待って欲しい」
横から遮ってくる人物。
今まで黙ってたが、ここで来たか。アルバート。
なんの御用でしょうかね、ギルドマスター様よ。
「町を離れるつもりであるならば、今のままではおススメしない。君は鉄貨級だからね」
……あぁ、そういう事か。
確かに、それは重要だな。
「えっと、何か不便な事があるんですか?」
『まぁ、単純に権力が足りないって感じだな。鉄貨級の冒険者は、駆け出しで死にやすく、保証が低い。万が一にも不慮の事故があった場合、蘇生もろくすっぽしてもらえないんだよな』
「もちろん、ギルドに貯蓄があれば蘇生もするがね。……今回のハノンくんが持ってきたダンジョンの一件を上に報告すれば、ハノンくんを銅貨級に引き上げることは出来るだろう。それまでの間は、町と町を行き来するのは止めた方が良い」
「ん~、まぁ急ぐ荷物でも無いし、俺はそれでも大丈夫だよ?」
……どうするハノン。
ハノンとしちゃ、一刻も早くその町に行きたいんじゃないか?
「……そう、ですね。……でも……」
ハノンは、小さく喉を鳴らすとアルバートに向き直る。
何かを飲み込んだ。そんな気配だ。
「銅貨級の件、待たせてもらっても、良いでしょうか?」
「なるべく急いで処理しよう。待っていてくれ」
流石だな、ハノン。
身の周りを固める事の大切さを、充分に理解している。
銅貨級になれば、他の町でも最低限の譲歩がなされるからな。
「それとだな、ハノンくん」
「はい」
「その遠征だが、フロキア青年を連れて行くことはギルドマスター権限で不許可とする」
「え!?」
あ~……そう、だな。
それは、あり得る話だわ。
『冒険者、足りないもんな……』
「あ……」
「そうだ。我がギルドはゴブリン大討伐により手痛い打撃を受けている。本来ならば、君たちをこの町から出すことも止めたい所だ。その上、銀貨級であるフロキア青年まで持ち出されてはたまらないのだよ」
フロキアは、ギルドマスターの推薦で銀貨級になった、ほとんどお抱えの冒険者だ。
そこんとこの自由意志は、ある程度アルバート側で縛ることも可能だろう。この辺りまで読んでフロキアを銀貨級にしたってんなら流石だが……どうだかな。
「んじゃま、とりあえず話は、ハノンくんが昇格してからって事だね?」
「あぁ、すまんな」
「いいっていいって、大事なことだからね~」
そうして、この場の話はまとまった。
昇格の資料を、ダンジョン探索などのチーム訳などと並行して行うとして、長くても3週間。それがアルバートの出した期限。
そして、ギーメイの荷物を預かる約束とした訳だ。
その期間を利用して、俺がハノンにすべきことは一つ。
徹底的に鍛え上げ、フロキアがいない状態でも、ハノンの防御で前線を構築できるようにすることだった。




