第86話:大量
どもどもべべでございます!
さぁお仕事だ! 行ってきますね!
どうぞ、お楽しみあれー!
「フス、フス」
「くえ~」
独身の山ドードーから、貰えるだけの卵を貰った俺は、いそいそとそれを異次元バッグに詰めていた。掌状態のヘナの分まで運んでたバッグは、若干引きずってたもんだから薄汚れてしまっているな。
最初の夫婦は……帰ったみたいだな。親切にしてもらったから、何かしら後でお礼の品を持って行こう。
「……ありがと」
「くえ、くえ」
しかし、巣の一角を独り占めしてる割に、独身貴族なんているんだな。この群れは規模が小さくて
、巣穴に余裕があるとかか?
なんだろうな。こいつの、あえて独り身を貫いてる感じ。俺のかつての仲間にもいたなぁ……。
私は結婚できないんじゃない。しないんだと言い続けて、結局俺と同じく結婚適齢期を過ぎて後悔してたっけ。仕事に邁進した結果が金貨級ってんだから、良いのか悪いのかわからんが。
「……フシッ」
「ん……溜まった?」
「フス」
俺とヘナの分は、これで一杯だ。
後は、フロキア達三人の分がいっぱいになれば、依頼は大成功だと言って良いんだがな。こいつらの規模によっては厳しいかもしれんな。
身振り手振りでヘナに、下に降りて現状を報告するように促す。通路はヘナも掌モードにならんといかんが、巣に入れば人間大になれる。
この巣もさっきの夫婦ドードーの巣と構造は一緒だからな。外に繋がる穴から出て降りればいい。
「えぇと……鞄持って、降りれば……いい?」
「フシッ」
「……わかった……」
ヘナが2つの異次元バッグを持って降りて行く。
その間に、俺は次の卵が余ってる巣が無いかを独身貴族に聞いてみる事にした。
「フス、フス」
「くえ?」
「フシッ、フス」
「くえ~……」
おい、なんでそんなに面倒くさそうなんだよ。
さっきのご夫婦とえらい違いだな。「なんでアタシがそんな面倒見なきゃなんないわけ?」って空気がビンビンに伝わってくる。
ははぁん? さてはコイツ、この性格のせいで行き遅れてるな?
「くえ~!」
「フシッ!? フス、フスッ」
いてぇ! こらつつくな!
なんでこの手の女ってのは、図星を突かれると暴力に打って出るんだ。ますますアイツにそっくりだな!
いや、アイツの場合、それを指摘したら戦槌で殴ってきたからかなり差があるんだが!
「フッシ」
「むぐぇっ」
あんまりビシビシつついてくるもんだから、嘴を受け止めて固定しておく。
しばらくばたついていた山ドードーだったが、やがて力じゃ勝てないと理解したのか、大人しくなった。……角兎って、山ドードーにも攻撃されるくらい弱くみられるんだな。
「くぇぇ~……」
「フゥ……フス、フス」
あ~。怯えんなって。もう気にしてないから。
「くえ?」
「フシッフシッ」
そうそう。仲良くしようや。
「……く、くえっ、くえぇっ」
「フス? ……フシッ」
うぅん、そっぽ向いてるけど、翼をこちらに差し出してるって事は、握手みたいなもんか?
俺が翼を握り返すと、軽く前足と翼を上下に振り合う。……うん、これで和解、でいいんだな?
「くえっ、くえっ」
おぉ、案内してくれる気になったか。
頬ずりまでしてきて、一気にフランクになったな。これならまぁ、滅多な事じゃ敵に回らんだろ。
「くうぇん……」
「……?」
なんでそんなに見てくるんだ?
まぁ、警戒されてるんだろうな。嘴握ったし。
「……戻りました……」
「フスッ」
「……お願い、だって」
やがて戻ってきたヘナの手には、追加の鞄が2つ握られていた。
フロキアは、ハノン達の護衛を選んだ訳だな。
まぁ、適材適所だ。山ドードーが友好的になった今、真に危険なのは下にいるハノン達だからな。
んじゃ、俺らはちゃちゃっと卵の回収と行こうかね!
「フシッ」
「くえ~っ」
「……通路……運んで、くださいね……?」
掌モードのヘナと、鞄2つを引きずって、俺達は山ドードーに付いて行く。
こいつ以外に独身貴族がいるかはわからんが、まぁ下から見えていた巣穴を全て当たれば、バッグ一杯にはなるんじゃねぇかな。
……行動可能距離を伸ばした契約獣に、お使いを頼んでる従魔師は何度か見た事あるが……あの時の契約獣達は、こんな気持ちで使いに出てたんだなぁ。今度会ったら、労いの品でも送ってやろう。
「……?」
なんだろうな。この気配。俺達以外にも、巣穴を移動してる奴がいるみたいだ。
山ドードー……か? この巣穴にはこいつらしかいないだろうし、大丈夫だと思うんだが。
……一応、警戒はしておくかね。
「くえぇ~っ」
「「くえ?」」
そこから先は、もうとんとん拍子だ。
独身貴族はやたらとバイタリティがあるらしく、一度行動に移したら各巣穴をアタックしまくっている。
有無を言わせず無精卵をかき集めてくれるのはありがたいんだが……お前、その性格が災いして、独り身なんじゃねぇかなぁ。
「くぇ~!? くえっ! くえっ!」
「フシッ!? フスッ、フスッ」
痛ぇ! こら、つつくなって!
なんで女ってのは、こんなに人の感情に敏感なんだよ!
お前なんてオリアンティだ! このオリアンティめ!
「……陽キャ、コワイ」
陽キャ? ……強気な奴ってことか?
確かに、ヘナとは相性が悪いかもな。この独身貴族。
「……でも……集まり、ましたね」
「フス」
独身貴族が同行してから、大体一刻無いくらいか。
ハノンに念話で一方的な報告をしながら徘徊し、ようやく2つの鞄一杯に卵を集める事が出来た。
何で定期的に念話を送んないといけないのかっていうと、ハノンがここに来ちまう可能性があるからだな。
契約獣と従魔師の間にある活動範囲。これが限界に達した場合、契約獣かもしくは従魔師、このどちらかが、強い方のいる場所に転移されてしまう。
俺らの場合はハノンが俺の所に来るだろうから、結構移動してる間にハノンが来なかった事を考えると、いい感じに俺の念話に合わせてハノン達も動いてくれているようだな。
「……後は……これを持って、降りるだけ……」
「フス」
「くえっ!」
俺らの声が聞こえたらしく、独身貴族は翼をしっしっと振っていた。
さっさと行っちまえって事かね。愛想の無い奴だなぁ……。まぁ、ありがとうよ。
お前のおかげで、さして苦労もなく卵を集める事が出来たわ。
「「―――――くえぇ~――――!?」」
「フスッ?」
「っ」
「くえ?」
と、俺らが独身貴族の巣穴から降りようとしていた時だ。
突如、巣穴の奥からけたたましい鳴き声が響いた。
「なんだろ……」
「くえっ!」
あっ、こら独身貴族!
声の方に走る独身貴族。何かあったのは明白だが……お前が行って何になるよ!?
……あ~もう、しかたねぇな!
「あ……兎さん……!」
俺は、独身貴族の後を追いかけた。
卵の恩があるからな。トラブルは解決してやらんと!




