第74話:山登り
どもどもべべでございます!
だいぶ涼しくなってきましたね~。皆さん、風邪にはお気をつけて。
そんなこんなでご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~!
翌日。
討伐の証を回収し、ゴブリンの死体を処理した俺たちは、少し寝不足気味のテンションでキャンプ地点を発った。
ハノンが寝ぼけ眼で朝風呂をしようと上着を脱ぎ始めたりといったトラブルがあったが、オリアンティが何故かフロキアの首を回して視線を逸らさせ、首から快音を鳴らすという結末だけで済んだ。あの御貴族様いわく、「謎の危うさがあった」との事だ。
そこからは、ヘナの案内の元、山へ真っすぐ向かっている。
一度森を抜けてしまえば、後はそう時間はかからない。この町が防衛に向いていると言われる所以は、こういった環境が密集しているからなのだから。
「……つき、ました。……この山の、中腹……」
ヘナが、まだ緑溢れる岩肌を指差して言う。
そこに視線が集中し、徐々に上に上げていくと、一定の高さになると緑が消え、ゴツゴツとした本性を現していくのがわかる。
別段急な斜面ではない。ないが……人を拒んでいるかのような雰囲気。グランアインの北に位置する、岩山で間違いなかった。
「結局、ここにくるまで一日と少しでしたわね。蓋を開けてみれば、ハイペースですわ」
「あぁ。後は卵を見つけて回収するだけだ」
「フシッ」
とはいえ、その卵の回収がそこそこ難しいんだろうがな。
山の中腹とヘナは言っていた。そこまでは当然、登山しなければならない。
ハノンに疲労軽減の装備を買わせてはおいたが、素の体力が低いからな。なるべくペース配分を間違えないように進まねぇと。
そこはわかっているのか、オリアンティも今日はいつものドレススタイルではない。……いや、ドレスではあるんだが、スリットが入って動きやすそうな感じだ。ヒールでもないしな。
「あの、ヘナさん。お爺さんと一緒に、来てたんですよね?」
「……はい」
「でしたら、お年をめした方でも進めるルートがあるってことですか?」
「ま、まぁ……こっち」
おぉ、ハノンも自分の体力を把握しているな。偉いぞ。
ヘナに連れられて件のルートに来てみると、そこは斜面の中ではましな感じになだらかな道ができていた。おそらく、グランアインの外壁などで石を切り出す際に、先人たちが慣らしたんだろう。
ここからなら、確かにある程度上に行けそうだな。
「フロキアさん、今時間にしたら、どのくらいでしょうか?」
「太陽の傾きからして、まだ昼には遠いな」
「ヘナさん、中腹までどのくらい、かかります?」
「……んと……大体、3刻くらい……魔物が来る、と、伸びる」
ふむ、と俺とハノン、オリアンティの視線が絡まる。
下りは2刻くらいを見た方が良い、とヘナが補足してくれた。いい配慮だ。
「そうなると、大体昼頃には中腹につく感じです、ね?」
「そうですわね。そこから夕方には降りたいですし探索の時間は2刻くらい。長くても、3刻と見た方がいいですわ」
「少々詰まってるな……まぁ、保存食は余分に持ってきている。探索を2日に分ければ、そこそこの量にはなるだろう。1日目の卵は、異次元バッグに入れておけば痛まないだろう?」
「あ、そうですね。確かに」
異次元バッグの特徴は、容量が多いだけじゃないからな。食材の保存にも使える。
フロキアが言うように、卵をバッグに詰めて一度下山し、また翌日に数を集めて帰還するのは大いにアリだ。
デメリットとしては、モンスターに匂いを覚えられやすいって点かな。道中で何者かに出会った場合、そいつを逃がすと野営中に襲われる可能性もある。
「……と、ヴォルさんは言ってますが……」
「確かに、可能性はあるな」
「ええと、でしたら、最初の探索で数が揃わなかった際の、最終手段としておいたらどうでしょう? その上でモンスターとの遭遇具合を加味し、無理そうなら撤退……とか」
「そうですわね。どんなモンスターに会うかも運ですし、プランは多く練っておきましょう」
終始ウンウン頷いてるヘナはまぁ、置いとくとして、俺達の方針はこれで決まった。
あとは、いざ登山である。ヘナを先頭に、真ん中にハノンとオリアンティ、そして後方にフロキアという縦の布陣で進む事にした。
「では、いきますわよ!」
「「は、はいっ」」
「フス」
「あぁ」
気合いは感じるが、まぁペース配分が大事な山登りだからな。
緩やかな斜面とはいえ岩肌で、砂利も多い。慎重に進んでいく必要がある。
斜面は慣らされているとはいえ、補装されている訳ではないからな。ハノン達の体力をじわじわと削っていく事だろう。
「……このペースで、大丈夫、そう?」
「うん、僕は丁度いい、かな。でも、もう少し早くても大丈夫」
「ま、一番ひ弱なハノンさんに合わせるべきでしょうねっ」
「ゆっくりでいいさ」
あまりゆっくり過ぎると、体力がある人間は逆にしんどいんだが、そこはメンバーの理解があって良かった。全員が、ハノンに合わせてくれている。
ハノンもまた、少しでも皆に合わせようと頑張っている。全体的に、スムーズだ。
1刻程進んでいくと、岩肌が切り取られたように垂直になっている場所も通った。さっきも言った、石切り場の名残だな。
「ふむ、ここは足場も平坦だし、休憩やキャンプに使えそうだな」
「もし卵の数が少なかったら、無理して下山しなくても、ここで休めば良さそうですわね」
「ふう……ふう……」
ふむ、ハノンが少し息を整えてるか。
「フシッ、フシッ」
「ん? どうしたヴォル……あぁ、なるほどな」
俺が角でハノンを指すと、フロキアも納得してくれたらしい。
ここで休憩を入れようと、皆に進言してくれた。ハノンは申し訳なさそうだったが、こういう場所はもうここから先にはないだろうしな。ここで休憩しておくのはそもそも必須さ。
朝食は行きがけに食ったし、今はあまり胃にものを入れない方が良いだろう。俺達は軽く水分を取り、体力回復に努めたのであった。
「おぉ……こうして見ると、高いですね」
『まぁ、1刻は歩いただろうからな』
休憩には持ってこいのなだらか地点は、山からしてみりゃ3分の1もないような高さだ。
しかし、それは山にとっての話であり、ちっぽけな人や兎からしてみれば充分な高さである。
現に、ここからでも森やグランアインの外壁が見える。頂上からなら、運河の向こうも見えるんじゃないだろうか?
「……あ……」
ふと、俺らの隣で森を見ていたヘナが、何かに気付いたように身を乗り出した。
「どうしました?」
「……あれ……」
「フス?」
指差された方を見てみると……森の出口。俺らが泊まった岩場付近の木々が、大きく揺れていた。
やがて、木はゆっくりと倒れていき、その向こうから何かが現れる。
『……狂牛……』
「も、森から出てきましたね」
「……狼……追っかけてる……?」
おぉ? ……あの豆みたいなの、狼か。よく気付いたなヘナ。
どうやら、狂牛のヘイトを買ってしまった狼が数匹、決死の大逃亡を繰り広げているらしかった。
その気持ち、俺らもわかるよ……大変だな。頑張れよ。
「……怖い」
「怖いですね……」
「フス」
と、そこまで眺めてたところで、オリアンティから休憩終わりの合図が飛んだ。
俺達は、この土産話を肴にしつつ、進軍を再開したのであった。




