第73話:vs???
どもどもべべでございます!
ちゃんとした戦闘要素を入れときますね。成長したハノンくんの姿をごらんくださいませ~
という訳でご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~!
パチパチと、枯れ木を食いながら火が踊る。
こいつらは、あり過ぎれば災厄となるが、少なければ人類の悪友だ。今もこうして、闇夜を照らす光となって俺らに尽くしてくれている。
拾った枯れ木をぶち込みながら、この火が消えないように努め、時間を潰す。
何故って、今は見張りの時間だからさ。
野営は、交代で睡眠を取る。それは冒険者なら当然の常識だ。
夜ほど気を抜いてはいけない時間はない。夜行性の獣に、追い剥ぎ達など、虎視眈々と寝静まるのを待つ奴らは、掃いて捨てるほど存在する。
故に、野営の時間にはどのような編成で睡眠を取るのかを決めなくてはならない。
魔法を使えるオリアンティを軸にするか、はたまたフロキアを朝方に当たるかなど、個々の能力を見ながら意見を出し合っていく。
そんな話し合いの末に、以下のように別れて見張る事になった。
1:ハノン、オリアンティ組。
2:俺。
3:フロキア、ヘナ組。
俺一人だけでひどくね? そう思うかもしれないが、これはかなり妥当な組み合わせである。
まず、ハノンとオリアンティ。ハノンは単体だと火力がないため、そこを補填できるオリアンティと一緒にいるのは、かなり重要だったりする。夜闇に紛れて接敵された場合も、ハノンが庇えるからな。互いの生存率が大きく向上する。
そして、フロキアとヘナ。この組み合わせは、単体での生存能力が高いからって理由だな。
フロキアはもちろんの事、ヘナ自身も生き残ることだけなら得意だと自負していた。実際に襲われた時にならんとヘナの実力はわからんが、もし期待外れでも、フロキアならそれをカバーできるくらいの実力があるという共通認識で採用された。
そして、俺。これは本当に、単純な話である。
単体で感知能力が高く、単体でも強い。そこは満場一致だった。
まず、俺には【広範囲知覚】がある。拓けた空間故に範囲は狭まるが、それでもテントの周囲を探るくらいなら訳ない精度で知覚が可能だ。
くわえて、囲まれてもクイックマッドを使えば、片方の動きを鈍らせてもう片方と相手できるという特権も生えた。これなら、俺単体で見張りをし、周りが寝るタイミングを作った方が良い。
ハノンが俺の背景を元人間であると打ち明けた事で、俺に対する見張りの信用も問題ないとされた。故に今、こうして俺は見張りに立っている。
既に夜は半ば。ハノンとオリアンティが見張りを終え、交代してから一刻は経っている頃か。
このまま何事もなければ、フロキアとヘナに交代できる……そう思っていた矢先、俺の広範囲知覚に何かが引っかかった。
(……数にして、3……いや、5か)
尖兵らしき集まりと、挟撃のための伏兵か。火を恐れずに向かってくる辺り、ただの獣でもなさそうだ。
とはいえ、人間でもない。人間なら、この距離ならば遠距離攻撃を仕掛けてくるだろう。
弓矢などが無い可能性もあるが、それは楽観が過ぎるというものだ。
「フシッ」
俺は、テントの端で寝ているであろうフロキアを軽く蹴る。その合図で、テントの中が少しだけ騒がしくなった。
こういう時、ハノンに念話を送っても寝てるだろうからな。フロキアに伝えるのが一番良いだろうと思ったが、案の定だったようだ。
「……夜襲か?」
「フスッ」
「……ハノンくん、起きてくれ。ヴォルの話を訳してほしいんだが……」
「んんぅ……ん、んふ……ふはぁぅ」
1秒後、扇子で顔面を叩かれる音が響いた。悲鳴は口を塞がれていたらしく、最小限である。
「あぅあぅあぅ……」
『ハノン、敵だ。テントの入り口から見て、左右から挟撃する形で狭めて来てるぞ』
「うぇ!? え、えと、皆さん……」
ハノンがこれを訳した事で、俺たちは臨戦態勢になる。
武器などの準備をしている間に、周りを確認するが……なるほど、ゴブリンか。
こりゃ参った。おそらく、ゴブリン大討伐で森を追い出された連中の一部が、ここで追い剥ぎと化してしまったのだろう。
武器は、棍棒や木を削った槍など、粗悪なものばかりだ。そんな装備かつ、5体という数で野営地点を襲おうとしている辺り、後ろ盾は無いと見ていい。ゴブリンの数が多い時は、こいつら数を用意してくるからな。
とはいえ、相手はゴブリンだ。けして油断してはいけない。ハノンに相手の情報を伝え、オリアンティには魔法の準備をさせておく。
さて、こちらは準備万端だ。相手はどう出るか……。
『キャアッホホホホ!!』
『アイィィィィア!』
『ゲゲゲゲ!』
3体が声を荒げて突撃してくるのが見える。なるほど、挟撃できると踏んで、囮になったか。
俺らがこいつ等に気を取られている間に、息を潜めて近づき、本陣を叩こうって腹だろう。
だが、そうは問屋が卸さねぇ。
『悪いな、その辺はぬかるんでるぞ』
『ゲギャア!?』
奴らが突っ込んでくる間に、魔法を準備しておくくらいの時間はあった。俺はその時間を使い、3体の内1体の足元を泥に変えておいた。
結果、ゴブリンはぬかるみに足を取られ、突貫の足並みが乱れる。
1体が動きを止めたら、残りもどうしようか悩んでしまうだろう。結果、奴らの動きが止まる。
「『水よ、命の源よ。主を守る盾となりて、潤いを持って事を成さん』……【ウォーターシールド】!」
その間に、テントから声が響き、魔力が渦巻く。
入り口を解放し、中からオリアンティ達がでてきた。盾を構えるハノンの周囲には、水の弾が浮いている。相手が攻勢に出ない間に、一回は呪文を唱える時間ができたからな。
「『ワタクシの眠りを妨げた愚か者を、即座に駆逐なさい!』」
更に、めちゃくちゃ不機嫌そうなオリアンティが、不意打ちを狙っていた連中に手を翳して詠唱した。
瞬間、2体の内1体の体が炎に包まれる。悲鳴をあげながら転げまわるゴブリンだが、あれで死なないのだから、やはりこいつ等は恐ろしいな。
「私はヴォルと、あの3体をやる! オリアンティは後ろをやれっ」
「ふん、言われるまでもありませんわ」
伝言は、簡潔に。
フロキアが前に出ると同時に、俺も動く。泥に足を取られた一体はひとまず置いておいて、残りの2体を2人で押さえておく。
これで、オリアンティ達は不意打ち組に集中できるだろう。
『ギィィィィィイ!』
「フシッ」
ゴブリンが突き出してくる木槍をかわし、威嚇して狙いを集める。
このパーティで俺の枠割は、足止めと引き付け。そして遊撃だ。
フィニッシャーは主に、オリアンティとフロキアである。
そして、ハノンが最近ではガードに回ってくれている。この段階で、パーティとしてのバランスは大いに優れていると言って良い。
現に、俺の横ではフロキアが、必殺の一撃でゴブリンの胸板を貫いている。棍棒持ちなら防がれていたかもしれんが、フロキアが相手をしていたのもまた、槍持ちだ。木を削っただけの細枝で防げるわけがない。血を吹き出して仰向けに倒れ、動かなくなった。
『シャギャアア!』
「ふん、来なさいな!」
後ろでは、炎を散らした火傷付きと、無傷な奴がハノン達に突っ込んで行くのが見える。
火傷付きは恨みを込めてオリアンティを狙うが、その前にはハノンが立ち塞がる。
振り下ろされる棍棒。その間に水球が割って入り、威力を散らす。
水が弾け、なお棍棒は向かってくる。ハノンはそれに対し、勢いを反らすように盾をずらした。
「っ、うぐ……!」
ギャキィン! という衝突音。だが、音に対して棍棒は盾を滑り、一番大切な振り抜きの威力を削られてしまう。
上手いぞハノン。棍棒は勢いのままに振り抜かれて、吹き飛ばされそうになるのが厄介だからな。そこを削いでしまえば、盾で充分受けきれる! 特訓の成果がでてるじゃないか。
対峙している槍持ちの顎を蹴り、相手の意識を散らせながらも、俺はハノンの成長を喜ばずにいられなかった。
『グルァァァ!』
対し、無傷な方はヘナに槍を向ける。
パっと見人間には見えないが、得物として認識はしているのだろう。その突きに迷いはない。
「こ、来ない、で……!」
だが、ヘナに有効打を与える事はなかった。
ゴブリンの槍が、ヘナの髪を抜く事が出来ないでいたからだ。
あれは……盾みたいなもんか。髪の毛を硬質化させ、壁にしているらしい。
鉄製の武器ならどうかわからんが、木の槍くらいなら簡単に防げるほどの硬度を持っているらしい。
『グベェ!?』
更に、髪が波打つと同時に、その壁の中心から柱のような形で塊が射出される。そのカウンターを腹に受け、ゴブリンは後方に吹っ飛ばされた。
ヘナが生存に自信があるって言ってたのは、これが理由か。防御からのカウンターで距離を取り、その間に逃げるって戦法を取れるみたいだな。
あの髪は、かなり汎用性があるらしい。流石は器族って訳だ。
「オォーッホッホッホ! お二人とも、褒めて差し上げますわ!」
「「あ、ありがとうございます……!」」
お前はどこぞの世直し侯爵か!
お供2人にうっかり腰ぎんちゃくを侍らせて旅する侯爵の劇を連想させるやり取りに、内心突っ込んでしまった。
うぅん、武器が弱く、連携が瓦解したとはいえ、ゴブリン5体を相手にこの余裕。これは、中々にかみ合った面子だと言えるな。
「負ける気がしない、なっ!」
「フシッ」
「『今度こそ焼き焦がしなさい! 二度目の猶予は許しません。ハリーハリーハリィ!』」
フロキアが一閃し、脳を揺らされ朦朧とするゴブリンの首を刎ねる。
同時に、オリアンティの魔法が火傷持ちの体を炭に変換していく。
俺もまた、ようやく泥から復帰したゴブリンの足を払い転ばせ、再度泥の中へ顔を突っ込ませる。
そいつの頭の上に乗り、踵を後頭部へ叩き込んだ。これで意識を飛ばせたなら、後は勝手に窒息するだろう。不意打ち無しでゴブリンとマトモに殴りあうなんて、なるべくならしたくないからな。
『ゲホッ、ゲ、ゲ……ヘゲェ?』
吹き飛ばされたゴブリンが身を起こした頃には、残っているのは自分だけという状況だった。
顔を青くしているのが見てわかるが、残念ながら逃がす訳にはいかないんだな、これが。
『ヒギャアアアア!?』
案の定逃げ出したゴブリン。しかし、攻撃されないというのがわかっているならば、ここで守勢に回る必要はないだろう。
なぁ、ハノン?
「『清浄なる水をここに。我が敵を打ち倒す槍となりて、天翔け突き進まん』……【ウォータースピア】っ!」
ハノンが詠唱すると同時に、水が出現し、ゴブリンに飛ぶ。
その形は相変わらず、槍というよりは玉である。威力はまったく無さそうだが、成長している点もある。
速度だ。ゴブリンに向かって射出された水は、前までのヘロヘロな攻撃ではない。まぁ、勢いは弱いが、それでも最初に比べたら雲泥の差だ。
真っすぐと獲物に肉薄し、その肩にぶち当たる。張り手のような高い音が響き、ゴブリンが前のめりにすっ転んだのが確認できた。
「や、やったっ」
「よくやった、ハノンくん」
『あぁ、上々だ!』
転んだゴブリンが起き上るまでに、追いつけない俺とフロキアではない。
後は、取り囲んでぼっこぼこにすればいいだけの、簡単なお仕事だ。
こうして、ハノンが経験した初めての夜襲は、全員が無傷で終わったのであった。




