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第72話:ハノンという人

どもどもべべでございます!

いよいよハノンくんの過去話です!

ここまで本3冊分くらい引っ張ってますからね! どうぞ、お楽しみあれ~!

 

 オリアンティの連打が終わった所で、少しだけ場が静まる。


「えと……次は、僕、ですね」


 そうだな、ここまでみんなが話したんだ。ハノンの番ってのは言外に期待されてたろうな。

 だが、フロキアもオリアンティも、どこか歯切れ悪く顔を見合わせている。


「……今更だが、良いのかい?」


「いい、とは?」


「いや、ハノンくんの背景を、語ってくれるのは嬉しいんだが……」


「無理はしなくても良いのです、という事ですわ」


 ふむ、なんだかんだ、気を使われているって事か。

 まぁ、そりゃそうだよなぁ。


「ハノンさんは色々と謎が多いですからね。そのイレギュラーな角兎しかり、ギルドマスターのお気に入りという噂しかり」


「私と会った時は、まるっきり素人だったからね……確実に何かあるだろうと思って、深くは聞かない事にしていたんだ」


「そうだったんですね……」


 冒険者ってのは、脛に傷がある奴も、もちろん多い。

 元奴隷って奴もいれば、人権を得るために登録した別種族などもいる。

 そして、そいつが信用に足ると判断された場合。そん時は余計な口出しをしないというのが、ちょっとした暗黙の了解なのである。


『さて、どうする? ハノン』


「……そう、ですねぇ」


 俺は、ハノンの身の上に関しては、既に話しを聞いている。盗賊ギルドに依頼を持ち込んだ時に、一緒にいたからな。……まぁ、この面子になら言ってもいいかもしれんな。

 ヘナはわからんが、まぁ性格的に言えば人に漏らす云々以前の問題だしな。それに、ベローナさん達の育てた娘が薄情だとは、どうしても思えん。

 問題は、俺という存在を開示するかどうか、だな。


「え、と……僕は元々、この国の人間ではありません。……隣国から、来た者です」


 俺が考え込んでいる内に、ハノンは話し始める。この面子になら喋ってもいいと、ハノン自身が判断したという事だ。


「隣国か。内戦が多いと聞いているが、その影響かな?」


「はい。僕の故郷もまた、内戦で滅びている……と、思います」


「故郷の名前を、お聞きしても?」


 フロキアとオリアンティも、真剣な表情で聞いている。ヘナは、きょろきょろと落ち着いていない。

 ハノンがおもむろに話し始めたという事は、自分たちが信頼されたという証拠だ。不義理な真似はしないだろうと思いたいな。

 そんな3人を見ながら、ハノンも小さく息を吐く。


「僕の故郷は、【サノスト】と言います」


「サノスト……隣国の話題には明るくありませんが、聞いた事はありますわね。確か、軍略や統率技術を先行して学ぶ施設があったとか」


「よ、よく知ってますね?」


「お父様が、あの辺りでしばらく修行していた時期があったらしいんですの。その時の見分から、学業の大切さを学んだと言っていましたわ」


 少しでも内部事情を知ってたのか、オリアンティ。これはありがたいな。

 ハノンの生まれた故郷、サノストは、さっき言った通り多くの知識を学べる環境だったという。

 王都から近く、なれど王都ではない場所で軍師や学者を育成し、雇用するシステム。隣国はかなり、軍事面に力を注いでいたらしいな。

 ハノンもまた、そこで少しだが知識を学んでいたらしい。文字や計算など、必要最低限のものや、戦術的盤面の見方など。

 ……力や技よりも優先して、軍師としてのみの力を育成していたんだな。どうりで、ハノンの行動や判断能力が年齢不相応だと思った。


「サノストでは、9歳まで最低限の知識を身に着け、10歳から軍略を学ぶか、学術を深めるかの適正を決められます。……僕は10歳で、軍師としての道を歩む、はずでした」


「……そんな君が、今ここにいるという事は……」


「はい」


 冷めてしまったスープで軽く口を湿らせ、ハノンは続ける。


「サノストは、突如戦火に包まれました。……そして、一夜にして滅んだ。そう、風の噂で聞いています」


「ぁぅ……ぅ、ぅ」


「僕は、その災厄に巻き込まれる直前に、お父様から森の薬草について学んでいたので……町はずれにいたんです。夜の森にも慣れるべし、と……今思えば、何かに気付いて、僕を逃がすためにあそこまで連れて行ったのかもしれません」


 その後は、父親と2人旅だったそうだ。

 戦火の広がる今の国では、もはや暮らせない。それ故に、比較的平和なこの国を選び、西に移動を開始。

 基本は馬車が通っていたから、苦難な道のりは国境くらいか。まぁ、この国の境目って言ったら、肥沃な森なんだけどな。


「その時、僕は虫に刺されて、熱を出してしまって……ずっとお父様に背負われていました。……ずっと」


「……親は強し、ですわね」


「あぁ、尊敬に値する」


 そうだな。これが俺なら、無理矢理ハノンにも経験として剣を振るわせていた所だ。……いや、熱が出てたら流石にさせないけどな?

 魔物から逃げ、水場で喉を潤し、手持ちの食料が尽きたら知識を頼りに毒の無い草を食う。そんな進軍を、何日も続けたという。ハノンを看病しながらの移動は、相当な労力だっただろう。

 熱も引き始めて、ようやく負担を減らせる。そう思っていた、次の日。


「……お父様は、目覚めなくなっていました」


 ヘナが掌モードになった。


「蛇を握りしめて、冷たくなっていました……お父様が握ったままでいなかったら、僕も噛まれていたと思います」


「「…………」」


 まぁ、よくある。いくら警戒していても、森の中だからな。

 よくあるからといって、黙祷しない訳ではないが。


「僕だけだと、死んじゃうかもしれない……そんな時に、ヴォルさんに会ったんです」


「フスッ?」


 おま……そこ捏造すんの!?

 前日の内に父親が計算していた方角のメモを見ながら、森を踏破したって言ってたじゃねぇか。お前の手柄を俺に譲る形になってるぞ?


「ヴォルさんは、普通の角兎ホーンラビットじゃなかったみたいで、僕を守ってくれたんです。……えと、その時から、文字とかで意思疎通ができたから、驚きました……」


「そういう付き合いだったのか……」


「へぇ」


「そ、その後は、スラムの皆さんに保護されて、ギルドマスターから保護の代わりに、冒険者になるように言われたんです……多分、ヴォルさんの戦闘力が目当てだったんじゃない、かと。……冒険者として活動する理由は、故郷の生き残りを、探してもらうため……ですね」


 ……上手いこと繋げてやがるな。

 俺=ヴォルフガングであるという事実を隠すのであれば、この時間のズレはかなり強い言い分だ。

 ハノンが森を抜ける間、俺はまだ冒険者活動していた訳だからな。


「ハノンさんの身の上は、把握しましたわ。心中お察しいたします」


「ど、どうも。……ヘナさん? 元に戻ってもいいですよ?」


「ぅ、ぅぅ……ぅぅ~……!」


「……よしよし」


 掌サイズのヘナを持ち上げ、優しく撫でるハノン。

 オリアンティは、そんなハノンに向かってビシッと扇子を突きつける。


「では、その角兎は結局なんですの? 契約獣になったのならば、その辺りの背景はもちろん聞いているんでしょう?」


「あ、はい……元、人間だそうです」


 って、そこは言うのかよ!?


「元人間、ですって?」


「はい。冒険者だったらしいのですが、ダンジョンで【精神入替ブレインシェイク】の罠を踏んでしまったらしく……そこにたまたま、ダンジョン外から潜り込んでいた角兎と入れ替わってしまったんだそうで。その後、体が落とし穴に落ち、死んでしまい……」


「戻れなくなった、と」


「どれだけ特大の貧乏くじを引けばそんなことになりますの!?」


 やめてぇぇぇ!

 俺が踏んだ事にしないで!? あれは角兎が逃げながら踏んだんだろ!?

 絶対にそれ、間抜けな冒険者じゃん俺ぇぇぇ!?


「フシッ! フシッ!」


「……ヴォル……罠には気を付けような」


「フシャーッ!」


 違うって! 俺金貨級だから! そんなへましないから!?

 いや、たまには大失敗ファンブルもするけどさ! そんな間抜けな真似しないから!?

 ぐぬぬ、しかし経緯がほぼ事実なせいで、否定しづらいったらありゃしない!


「あはは……まぁ、人間の精神を持って、強い角兎を、ギルドマスターが見逃すはずが無かったって、事ですよね?」


「……大いに納得ですわ」


「あぁ、ギルドマスターなら見逃さんな」


 ぐぐぐ、大変不本意ではあるが、納得されてしまった。

 だが、ハノンの身の上を語った上で、俺という存在を適度に隠すのであれば、この着地点は100点だと言える。……仕方ないから、俺の方が折れてやろう。

 ハノンはハノンで、自分で森を抜けた事実から、俺に助けてもらった事実に捏造してる訳だからな。手柄を譲られた以上、ハノンの顔に泥を塗る訳にもいかねぇ。


「ま、ハノンさんと角兎の過去が明るみになった所で、ワタクシ達も安心ですわね」


「あぁ、これで憂いなく、君を手伝ってやれるな」


「あはは……これからも、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」


 3人の目的が矛盾しない。これがわかった事で、こいつらの結束は更に高まる事だろう。

 ヘナもまた、オリアンティが巻き込んでいくだろうな。まぁ、ベローナさん達ならあと30年はあそこを持たせるだろうし、修行期間と割り切ればいいさ。

 星々が見守る空間で、こうして俺達は、結束を固めるに至ったのであった。

 

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