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第71話:スープと展望

どもどもべべでございます!

嬉しい事に、レビューを貰ってしまいました!

その勢いを乗せて、連日投稿です! ふぅー!

という訳でご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~!

 

 心地いい夜風の吹く、満点の星空。

 星に関する持論を提示する学者や、星術使いなんかはこの羅列を食い入るように見つめるが、俺ら学無しからしてみれば「あぁ、綺麗だなぁ」という感想しかわかない。

 だが、それでいい。それだけを感じれば良いと思える程に、星空というものは美しいものだ。


 加えて、鼻孔をくすぐる美味の香りが空間を満たしているのなら、この場は美と美味の調和した王宮となる。

 最高級の調度品も、名料理人の食い放題もないが、そんな物より数段勝る贅沢だ。ここにあるのは、仲間達と親睦を深める時間なのだから。


「えと、では皆さん……召し上がれ?」


 輪になって座っている俺らの中で、ハノンがおずおずと口を開く。

 その顔はどこか自信なさげだが、このスープを前にしてしていい顔ではけしてない。


「いただこう」


「いただきますわっ」


「フスッ」


「……ぃ、いただきます……」


 焚き火を囲んで、僅かな光源だけでお互いを視認しつつ、俺達はスープに手を付ける。

 調味料は、出汁粉末と塩、そして風味油のみ。簡素なスープだが、熱々という最高の要素が詰まってる。

 野宿という条件で、温かい物が食えるというだけで、幸せだな。


「……ふむ、美味しいな」


「えぇ、魚介にゴマの風味が良い塩梅ですわ! イモのおかげで少しトロミがありますし、体を冷やさない配慮がよくできています」


「……ポカポカ……ですね」


 うん、美味い。

 野菜は根菜がメインだし、多いわけじゃない。

 しかし、肉も柔らかくなってるし、干してた分旨味が強くなってる。良い塩梅に味も染み出てるし、なにより魚介出汁をくわえたおかげで一段階風味が増しているのが最高だ。これはヘナに感謝だな。


「ホントなら、生姜しょうがを入れたかったんですけど……品薄で」


「生姜? ……あぁ、薬の原料になるあれか」


「まぁ、大体は商人ギルドが買い占めて、医者に流してるでしょうね」


「どうりで無いと思いました」


 ふむ、生姜をスープに入れる、か。

 それは俺も試したことはないな。薬の材料として、ギルドに流した事しかない。


「あれは、風味が強くて、魚とかの生臭さを取ってくれるんです。……あと、体も温める効果があるから……」


「ほう。雪の試練の季節には、常備しておくと良いかしれないな」


「とりあえずお代わりですわ!」


「あ、はい」


「……えと……」


「ふふ、ヘナさんも、食べます?」


「……は、はぃ」


 ふぅん。薬以外の使い道か。今度オゴスの旦那にも教えてやったらどうかね。

 しかし、その知識は……おそらく、ハノンの故郷の料理だったんだろうな。それで作ってたら、色々思い出しちまいそうなもんだが……大丈夫なのかね。


「ヴォルさんも、どうですか?」


『……あぁ、いただくよ』


 まぁ、良い。

 辛くなったら、それを上回るやりがいを見つけてやるまでだ。

 風呂もそうだし、飯もそうだ。そして、仲間を作り、騒ぐ。

 忘れることは出来ないとしても、寂しくないと思えるようにすることはできるだろう。


「……さて、じゃあそろそろですわね」


 ふと、スープを堪能しながらオリアンティが匙をピッと掲げる。貴族にしては行儀が悪いな!


「ワタクシが冒険者になったのは、貴族としての責任を果たすためですわ!」


「「「……?」」」


「……ちょっと、昼間にお話ししていたでしょう!?」


 あ、あぁ、そうか。

 それぞれのパーソナルを話し合う。そんなこと言ってたな。いきなり何を言い出すのかと思ったぞ。

 っていうか、貴族の務めで冒険者?


「オリアンティ、貴族というのは、冒険者になって務めを行うものなのか?」


「えぇ。少なくとも、我がゴール家ではそう教えを受けています!」


 それから、オリアンティのお家に関するあれこれを聞いた。

 オリアンティの家、ゴール家は、元々平民だったらしい。武勲を立て、叩き上げで貴族までのし上がってきた剛の者だったんだそうだ。

 その頃から、信条は常に「民を守り、導くべし」という教えと共にあったのだという。それがなんで、騎士とかじゃなくて冒険者なんだ?


「当然ですわ。騎士は王を守る者ですもの」


「……冒険者は、民を守る者、と?」


「えぇ、ドライなビジネスに見えて、その実は民を守る為に実力者を招集する画期的なシステムですわ。かく言う初代様も、元は冒険者だと言われておりましたもの!」


 うぅん、なるほどな。

 元は食うに困った腕利きが、化け物退治で報酬もらってたってのが始まりだと俺は聞いていたが……確かに、今の研鑽された冒険者雇用システムを見ると、そういう物の見方ができるのかもしれん。

 少なくともオリアンティの家系は、【貴族としての修行期間=冒険者としての活動期間】なんだろう。


「ふむ……お前が何故、ハノンくんを見守ってくれているのかがようやく理解できた気分だ」


「えぇ。最初のハノンさんはどちらかというと、守られている立場でしたものね! 今は多少頼もしくなりましたが、何故冒険者などやっているのかと呆れたものですわ」


「あはは……」


「冒険者として生きるのであれば、守れる力、払える力は惜しみなく伝えます。お父様も、「その若者を導いて来い」と胸筋を怒張させておりましたし、ワタクシは今後もハノンさんの師匠として振る舞わせていただきますわ!」


 そうか、オリアンティ父ちゃんも、貴族としてオリアンティが成長できる機会だと感じたのかもしれんな。

 今後も、オリアンティの助けは期待して良さそうだ。


「それで、フロキアさんはどうですの?」


「私か? ……私の話は、お前程高等なものではないぞ」


 そう言ってフロキアは、スープを飲み干す。

 人心地ついた上で、鍋を温める焚き火を見つめながら、小さく呟いた。


「……憧れの冒険者が、いただけだ」


「あらま、意外」


「……確かに、フロキアさんが憧れって言うのは、意外ですね」


「話の腰を折るなら、これで終わりにするが」


 2人が謝って、フロキアはやれやれと首を振りつつ話を進めた。


「私は、生まれも育ちもグランアインだ。この町で生き、この町で何かを成し、この町で死ぬ。そう思って幼少を生きていたが……ある日、森の中で魔物に襲われてね」


 薬草摘みの途中で、親とはぐれたらしい。

 そんな中、あわや魔物に殺される……恐怖に飲まれた瞬間に、救いの手が伸ばされたらしい。


「そんな私を救ってくれたのが、今は金貨級として名高い、【疾風のミアレス】氏だ」


 って、あいつか!

 俺の頭の中で、一人の金貨級が連想される。

 あ~……まぁ、アイツに助けられたのなら……フロキアが、ハノンに軽い執着を見せるのも、わかる、か?


「当時は銀貨級だったが、それでもなお彼は輝いて見えた。その日から私の目標は、彼になったんだ」


 ……その割には、性格は随分真逆だな。

 いや、アイツ軽く猫被ってるからな……子ども相手にカッコつけてたんだろうな……。


「素敵な人、なんですね」


「あぁ、ゴブリン大討伐の際にも一度顔を合わせたが、相変わらず可愛らしく、かつ凛々しいお方だった。……まぁ、私の目標はこんなものだ。いつかあの英雄に、認めてもらいたいんだ」


 なるほどねぇ。フロキアの根幹を見れた気がするな。


「……それに、守りたい人も出来たしな」


 ……な、なるほどねぇ。フロキアの根幹を見てしまった気がするな。


「……わ、私は……拾われて、身分の為、です、はい……」


 オリアンティがヘナを見ていたが、ヘナはそれだけ言って固まってしまった。


「それは、冒険者としての資格を手に入れた理由でしょう? もっと何かこう、ありませんの?」


「……な、何かって……気付いたら、遺跡で寝てて……パパとママに、拾われて……ずっと宿屋にいた、から……」


 はぁ、まぁ、そうだろうなぁ。

 器族がどんな種族かは詳しくないが、ヘナには圧倒的に経験が足りていない。

 野外探索も、ベローナさん達がもし外に出ても野垂れ死にしないように叩き込んだんだろう。それで、目標もなにもあったもんじゃない、か。


「うぅん、ハノンさん以上に重症ですわね」


「そうだな。人生の目標がないのでは、現状が辛くないか?」


「……も、目標……じゃない、けど、やりたい事、なら……」


「あるんですか? それなら素敵な事じゃないですか」


 視線が集まり、思わずスープをあおって顔を隠すヘナ。

 しばらくそのままプルプルしてたが、やがて観念したのか、手を降ろす。

 目しか見えないが、泳ぎまくってるその視線を見ると、おそらく顔とか真っ赤になってるんだろうな。


「……パパと、ママの、手伝い……その、宿屋……」


「今のままでは無理ですわね」


「うぐぅ……!?」


 オリアンティ……初手一刀両断はやめてやれ。

 ヘナが掌モードになっちまったじゃねぇか。


「その状態で宿屋経営なんて、片腹大激痛ですわ! 宿を潰す結果にしかなりません!」


「ぅぅ……ぅぅ……」


「お、オリアンティ。そのくらいにして……」


「そ、そうですよオリィさん……」


「夢とは行動する指針! それを掴むための障害は、なんであれ破砕するもの! この方の場合、まずは己を変えるところから始めて行く必要があります。ならば今言わねばいつ言えと?」


 スープのお代わりをハノンに要求しつつ、オリアンティは鼻を鳴らす。


「まずは、ワタクシ流で徹底的にその性根を叩き直す必要がありますわね! 宿屋経営となれば、人見知りなどもっての他です。計算もちゃんとしなければいけません。特にあの夫婦は、高級な食材とクオリティの高い寝室、それに浴場を維持するために色々な部分を削っているようですし、そのバランスを理解しなければいけませんわ!」


「「…………」」


「その見た目……は、器族として変えられないのならば仕方ありませんが、ただ視線を遮るためなら改善しなければいけませんわね。あぁもう、さっきからちらちら出てくる手は非情に美しいのに、宝の持ち腐れですわ! どうせしばらくは女将さん達も任せるつもりはないんでしょうし、冒険者活動の中でしっかり教育していきますからそのつもりで――――」


 うん、つまり、なんだな。

 ようやくすると、ヘナを一人前のレディにしてやると、そういう事で良いんだな?

 どうやら、オリアンティの弟子が、もう一人増えそうである。

 

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