第70話:お叱りキャンプ
どもどもべべでございます!
ハノンくんはいつでもお嫁さんになれる(格言)
という訳でご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~!
「論外ですわ」
「ぅ……」
「ミスをした事が、ではありません。そのミスを、全て自分で抱え込んだことがです。わかりますわね?」
「……はぃ……」
「自然が相手なのです、何が起きても不思議ではありません。そのような事は百も承知であり、あの段階で貴女を責め立てる人物はこのメンバーにはいないと断言いたしましょう。……ですが、それ以降はただただワタクシ達を信じられなかった、貴女の弱さが招いたトラブルだという事をご理解なさって!?」
「は、は、はぃ……!」
おうおう、やってるねぇ。
おそらく正座してるヘナと、その前で仁王立ちしてるオリアンティを横目で見つつ、男3人組でテントを準備していく。おそらくってのはあれだ、髪で隠れて見えないからだ。
森を抜けることができた段階で、もう空は紅く染まり、日は沈み始めていた。つまり、今日はこの辺りで一泊である。
森を半日で抜けれたことは、素晴らしい結果だと言えるだろう。日頃他の冒険者達が使っている、身を隠すには丁度いい岩場も見つけた。野営にも申し分ない状況だと言える。
しかし、それと同時にオリアンティの説教コースが始まってしまった。ハノンがよくどやされてるから、すっかり見慣れた光景だな。
「全て自分が悪い。どうしよう、どうすれば許してもらえる。そのような事をグルグル考えていたのでしょう? お答えいたしますわ! 「貴女は悪くなかった」、「気持ちを切り替えて対処すればよかった」、「誰も貴女を責めていなかった」!! ただただ独りよがりでウジウジ悩んで、最悪の結果を呼び込んだのが論外なのです!」
「す、す、すみません……」
「謝るよりも、ハノンさんにお礼を言いなさい! あの時、ハノンさんの判断がなければ、貴女自身どうなっていたことか!」
「ぁ、ぁ、ありがとうござい、ます……!」
「い、いえいえ!」
必死にハノンに、おそらく土下座をしているヘナ。毛の塊が上下しているようにしか見えないが、目がウルウルしている所から、怖さと感謝が混ざってる感じだろう。
というかハノン、お前も土下座をし返すな。2人でペコペコペコペコと、よくわからん光景になってるぞ?
「あー、オリアンティ。説教はそのくらいにしてあげたらどうだ」
「いいえ! この方はハノンさんと違った意味での危うさがあります。いずれはワタクシ達を巻き込んでの大ポカをやりそうですし、ここでしっかりと矯正せねばなりませんわ!」
「時間をかけてその辺りをどうにかしていくのが、今回の実質的な依頼だろう? 一晩でどうにかなるものでもなし、今は野営の準備を手伝ってもらった方がずっといい」
フロキアはフロキアで淡白だな。最近はハノンを心配しまくる光景が目立ってて忘れがちだが、コイツは結構誤解されがちな問題児だった。
まったく、改めて見るとこのパーティは、絶妙なバランスで成り立ってるな。ヘナの存在がその危うさを浮き彫りにしているぞ。
「はぁ、フロキアさんったら……確かに、夜までに終わらなかったら大変ですわね。ヘナさん! 今回はこのくらいにしておきますが、あの時どうすれば良かったかなどの反芻は必ずやっておくように!」
「っ! っ!(こくこく)」
全力で頷いたヘナは、そこから逃げるようにテントの準備に取り掛かる。
それはもう、髪を四方八方に伸ばしてあっという間に組み上げて行くんだもんな。ある意味凄い技術だ。
テントはヘナだけで充分だと判断したらしく、フロキアは簡易のキャンプファイヤーを準備し始める。この火を絶やさずに交代で睡眠をとっていくのが、野宿の恒例だ。
「……オリィさんのあれ、ビックリします、よね」
と、テントを組み立てるヘナの横で、ハノンが声を抑えながら話しかけている。スープ用の野菜の皮むきをしているが、ちょくちょくベローナさんに教えてもらっていたらしく、その手際はけして悪くない。
ヘナは肩を跳ねさせたが、ハノンに対しては2回ポケットに入った距離感があるのだろう。少し俯いて、コクンと頷いた。
「ふふ、僕も、よく怒られてました」
「……そ、そんな風には……見えない、けど」
「いやいや、最近でも怒られますよ」
ハノンとヘナは、性格がかなり似通っている。だからか、波長が度々合っているようで、他の2人よりもちゃんと会話になっているように見える。
だが、それは表面上の性格だ。ハノンは諦めを知らない前向き系だし、ヘナは見た限り、後ろ向きな性根をしていると思う。
そんなヘナを、ハノンが救い上げてくれれば……仲良くなる兆しはあるか?
「――――なんてこともあって、論外ですわって怒られたり」
「ゎぁ……」
「けど、おかげでそれ以降は、同じミスをしないようにしようって……そう思えて、ですね」
「……ウチの、ママ……みたいな、怒り方……」
「あはは、確かにオリィさんとベローナさんって、ちょっと似てるかも、ですね」
「……ぅん……」
うん、皮美味ぇ。
この様子だと、ヘナの事はハノンに任せていいかな。
皮、美味ぇ。
「まったく、ワタクシを出汁にして話題作りなんて、不敬ですわ」
「まぁ、そう言うな。2人の共通の話題ができたのは良い事さ」
あっちはあっちで、ナイスな行動だったな。
歳の離れた自分たちより、ハノンみたいな奴と会話して、友達として長く付き合えた方が良い。そう思って、2人の時間を作ったんだろう。
「私は水源を見てくるよ。この辺なら、地図に記載されている場所にあるはずだ」
「そう、近いのでしたら手伝いますわよ?」
「いや、彼等を見てあげていてくれ。まだ明るいとはいえ、獣の襲撃が無いわけではないからな」
「それは貴方にも言えることですが……まぁ、そうそう遅れは取らないでしょうし、不安な方を見ていてあげますわ」
「助かるよ」
うんうん、現地調達、そして役割分担。良い塩梅に冒険出来てるじゃねぇか。
ハノンも、遠出が不安っていうより、ヘナをフォローしようって気持ちが前に出てるからいつもの恐怖心が薄い。これなら、野外活動のノウハウも学べる事だろう。
そういう意味では、ヘナがいてくれて良かったと思えるな。
「あ、オリィさん。皮、剥きましたっ」
「……て、テント、張り、ました……」
「あらそう? では2人に料理はお任せしますわ。貴族であるワタクシを満足させて見せなさい? オォーッホッホッホ!」
「は、はい!」
「ぅ……は、はい」
……オリアンティ。お前、それは料理が出来ないって事なんじゃ……。
「何か言いまして? 角兎」
「フス、フスッ」
気配でバレた!?
なんで俺の周りにいる女は、こう変に敏感なんだ!
そんなオリアンティをハノンがなだめつつ、料理の準備を進めて行く。しばらくすると、フロキアが水を汲んで戻ってきた。本格的に作業開始だ。
一口サイズに切った野菜を鍋で軽く炒め、風味油で香りづけを行う。今回はゴマっていう種から作った油だから、良い香りがつくはずだ。
焦がさないよう軽く鍋を持ち上げて加減を調節し、ある程度火が通ったら、別に煮沸しておいた汲み水を投入。スープにしていく。
「本当は、オゴスさんがやってたみたいに、出汁を取ってからスープにしたいんですけど……」
「……こ、これ……」
「ん?」
横からヘナが取り出してきたのは、袋に包んである粉末だった。
なんでも、あらかじめ取っておいた出汁を、特殊な技法で粉末にしたものらしい。オゴスの旦那とベローナさんだけが知ってる、秘伝の粉出汁だという。
「良いんですか?」
「……さっき……慰めて、くれた……お礼、と、皆さんに……お詫び……」
「ふふ、ありがとうございます」
ハノンがそれを適量入れると、なんとも良い香りが漂ってくる。
塩気は、保存食の肉を千切って入れれば自然と味としてついてくるだろう。しばらく蓋をして、じっくり煮込んでいけば、イモが解れてスープにとろみがつくはずだと言っていた。
『暇な時間、オゴスの旦那に教えてもらってたからな。かなり手際良いじゃねぇか』
「あはは……ありがとうございます」
「ふむ、ヴォルが美味しそうとでも言っていたかい?」
「えと、手際を褒めてくれました」
「あぁ、それは同感だな。いつでも家庭を築けるくらいの手際だった」
「ま、素人にしては中々ってレベルですわね」
料理の間、警戒してくれているフロキアとオリアンティも、ちょくちょく視線がこちらに向いている。そりゃあ、自分たちの腹に収まるものだからな。気になるのも仕方ないさ。
「……もうそろそろ、かな?」
しばらく時間が経ち、ハノンが蓋を開ける。すると、ふわりと魚介とゴマの香りが広がった。
干し肉の油とゴマの油で、金色の湖面を作るスープが、コトコトと中の食材を揺らしている。
これは……ハノン、お前、マジでいつでも家庭を作れるんじゃないか?
「皆さん、出来ましたよ」
「あぁもうっ、早く食べますわよ!」
「随分と良い香りだ。これは楽しみだな」
「……(ぐぅぅ)……」
ハッハ、三者三葉。良い反応だ。
さて、太陽も落ちた。ここからは星空の下で、しっかりと英気を養おうじゃねぇか。




