第69話:ヘナのへま
どもどもべべでございます!
日曜の昼間にどどんと投稿!
どうぞ、お楽しみあれー!
森の踏破は順調そのものと言えた。
戦闘は微妙と自負するだけあって、野外活動においてのヘナの動きは目を見張るものがあったな。全体的に、スムーズに進行することができた。
問題は、ここからだ。
ヘナが言っていた、モンスターの多いエリア。この辺りを上手く抜けることができれば、今日中に森を抜け出せるだろう。
そうすれば、割かし安全な場所を見つけてキャンプを準備することができる。見張りの際のリスクも減らせるから、出来れば森の中で野宿はしたくないもんだ。
「……だ、大丈、夫?」
先頭を歩くヘナが、俺達に振り返ってくる。
「何が大丈夫ですの?」
「ぅ……ま、魔物……」
「魔物がどう大丈夫ですの?」
「ぅ、ぅ……」
おいおい、ウルフん時は自分の意見を言えてたのに、なんで今になってどもるんだ?
……いや、これあれだな。責任に耐えきれなくなってきてるのか?
「ヘナさん? あの、僕らが仮にモンスターに見つかっても、別にヘナさんのせいって訳じゃないですからね?」
「ぅ、ぅ……ぅぅぅ」
ハノンが空気を読んでフォローしようとするも、だいぶ参っているらしく効果がない。
爺さんと一緒の時は、多分辛くなったらぽっけのなかだったんだろうな……。
「はぁ、煮え切りませんわね。ハノンさん以上の情けなさですわ!」
「オリアンティ、そう言うな」
「あら、ワタクシ腹芸は好みませんの。ごめんあそばせ?」
「……ご、ごめ、なさ……」
「へ、ヘナさん。少しずつ、少しずつで良いですから。ね? 何があったんです?」
ハノンがゆっくり話を聞き出していった結果、ヘナが何を言いたいのかが理解できた。
どうやら、いつも通りのルートだから大丈夫だと思って進んでいたら、思いのほかモンスターの痕跡が多いらしい。
そして、生息区域が広がっていたらしく、既に相手方のテリトリーに足を踏み入れていたことに、今気づいたらしかった。
中には、大型の足跡などもちらついているようで……ゴブリンに荒らされて、生態系が崩れちまったのかね。
「どうするか……」
「森の生態系ばかりは、誰を責められるものではありませんわ。入ってしまったからには、臨機応変に対応しなければなりませんわね」
「す、すぐに抜けちゃいましょう」
俺達が、そんなふうに相談しあっている、その時だ。
(っ……近く、いる……です)
「「「っ」」」
一気に、全員が押し黙った。
試しに【広範囲知覚】を起動してみるが……いるな。割と近くに、そこそこ大型の気配。
まだ木々の影響で視認できないが、見つからないに越したことはないだろう。
(ヘナ、見つからないようなルートに先導してもらえるか)
(っ! あ、ぅ……)
フロキアの指示にのけぞりながら、何度も頷くヘナ。さっきの狼達の時には正確な判断ができていたが……。
「……はぁ……はぁ……」
気付かずにモンスターのテリトリーに入ってしまったことで、歯車が狂ってしまってるな。
完全に動揺しきっている。こうなってる奴は、経験上やらかすぞ。
『ハノン、落ち着かせるんだ』
(は、はい。……ヘナさん、大丈夫ですか? 落ち着いて、息を整えてください)
「っ、ぁ……ぅ」
ハノンの声かけにも、びくりと反応するだけだ。……かなりの緊張が見て取れる。
視線とかめっちゃ泳いでるし、呼吸も荒い。これは、ちと不味い。
(ちょっと、落ち着きなさいっ。貴女がそんな調子でどうしますのっ)
『あっ』
「ひぇうっ」
オリアンティの一言は、少しだけ強かったと思う。
しかし、誰かに突っかかる時のオリアンティと比べたら、他者を案じた者のそれだった。ハノンを叱ってる時の感覚に近い。
しかし、今のヘナには刺激が強かったらしい。
「あ……」
バキッ、と。音が響いた。
全員が、ヘナの足元に視線を向ける。そこには、空洞になった大きめの枯れ枝があった。
踏んだら、さぞかし心地良い音を鳴らす事だろう。事実、さっきの音はとても響いた。
「……ご、ごめ……ごめ、なさ……」
『ブモォォォォオオ!!』
「ひぃぅっ!?」
瞬間、響き渡る重低音。
この鳴き声、さっきのデカい気配……狂牛か!
1日に1回は、どこかに突進してべっこべこにしないと気が済まない程に荒い気性を持つ牛型のモンスターだ。一通り暴れたら大人しいんだが、今回は運悪くイライラしてたらしいな! 枝の音でキレやがった!
「クレイジーボアですわ! 走りなさい!」
「不味いな、こちらに向かっ来てるぞ」
「「ひえぇ!?」」
「フシッ!」
オリアンティの号令と共に、ヘナに教えてもらっていた森の出口に向けて走り出す。
魔山羊に比べたら、狂牛の方がまだ単純で御しやすい相手だ。だが、その一撃はかなり重たい部類に入る。
防御の術を覚えたとはいえ、ハノンがそれを受け止めたり逸らせたりできるかと言えば、微妙なところだ。だったら、相手をしない方が吉であると言える。
「き、木々をなるべく背にするように、逃げましょうっ」
「あぁ、それが良さそうだっ」
ハノンの判断は的確で、誰もそれに反対しなかった。いい案だからな。
太めの気を背中にくるように進路を変えれば、後ろから大きな衝突音と、木が倒れるバキバキという音が響く。
それでも、追ってくる気配は止まらない。
「あ、あ、ごめ! ごめ、なさっ、あぁぁ……!」
「言ってる場合ですの!? 走りなさい!」
いかん。ヘナがまったく逃走に集中できてねぇ。
身体能力では勝っているだろうに、ハノンにすら追いつけていない始末だ。この精神的脆さはいただけねぇな!
「ヘナさんっ! 入って!」
「っ」
だが、その状況を察知したハノンが、即座に動く。
咄嗟にヘナに手を伸ばし、もう片方の手で自分のポケットを叩いて見せた。
その状況に覚えがあったヘナは、咄嗟にその身を丸く、小さく変質させていく。朝方に見た、掌モードだな。
『ブモォォォォ!』
ハノンが、ヘナを握りしめたと同時。
後ろから、猛烈な肉厚が突っ込んで来た。
「フシッ!」
仕方ねぇ、魔力を食うが、新技のお披露目だ!
木々をなぎ倒して突進してくる、頭蓋が頑強に発達した牛を目視しながら、俺は足を止める。
体には【身体強化】をかけつつ、失敗しても相手の猛進を紙一重で躱せるよう、意識を集中させていく。
『ブモォ!』
『行くぞ、オラァ!』
魔力を体内で練り上げ、角に集中。
その角を地面に当て、一気に解放する。
次の瞬間、俺の手前の地面が淡い光に包まれた。
『ブモォォォ!?』
突っ込んできた狂牛が、その光に突っ込む。
だが、奴さんはいきなりバランスを崩すと、前のめりに膝を折ってしまった。
『ハッハ! ざまぁねぇな!』
「ヴォルさんっ、い、今の内!」
『おうよ、ずらかるぜ!』
ハノンの呼び声と同時に、俺もまた走り直す。
最後に振り返ると、暴れる狂牛の足元は、ぬかるんだ泥に変質していた。俺の思惑通りである。
いやぁ! 初めて生活魔法以外で魔法を役立てたぜ! こりゃあ気持ちいいなっ。
「フシッ、フシッ」
「オォーッホッホッホ! やるじゃない、角兎!」
「あぁ、驚かされた。……後は逃げ切るだけだなっ」
「す、凄かったですよっ」
今のは、土属性魔法の【クイックマッド】。土を泥に変質させ、相手の身動きを封じる魔法だ。
そして、俺が角兎として初めて覚えた、生活以外の魔法である。
オリアンティがいない間、ハノンが一人でも魔力を底上げできるよう課せられていた魔法訓練。この時間に俺もまた、必死こいて魔法の練習に励んでいたのだ。
そしてついに、無詠唱でも使える魔法を取得することができたのである。まぁ、魔術師の魔法っていうよりは、モンスター魔法って感じだけどな。
角兎は地属性のモンスターだから、地面に干渉できる魔法を覚えたって事だな。
『ブモォォォォ!!』
狂牛の雄叫びが、後ろから響く。
抜け出せるのに、そう時間はかからんだろう。だが、遅い。
俺達は、茂みや木を陰にしつつ、相手の視界を切りながらその場を後にした。
そして、しばらく走っている内に……森の出口に、たどり着いたのであった。




