第64話:意外な依頼
どもどもべべでございます!
3日連続投稿です!
どうぞ、お楽しみあれ~!
「お腹いっぱい……」
「あら、胃が小さいですわね? もっといけませんの?」
「オリィさん、2枚も食べてなんでそんなに余裕なんですか……」
いやまったく。こいつスゲェな。
俺とハノンが一枚で腹いっぱいになったってのに、オリアンティはステーキとサラダをお代わりしてやがったぞ。
まぁ、俺も生前は2枚くらいペロリだったけどよ……角兎はサイズ的に胃が小さいんだよなぁ。
「貴族ですもの」
「説明になってません……」
「フス……」
「ハッハッハ!いいじゃないかい。沢山食べてくれるのは気持ちがいいからねぇ」
ベローナさんが鉄板を洗いながら満足そうに笑う。オゴスの旦那もうんうんと頷いているな。
流石は食わせ好きの夫婦だ。すっかりオリアンティの食い気を気に入ったらしい。
「うぅ……僕だって、今のうちに沢山食べておきたいんですけど……お腹が一杯で……」
「あら、その言い方だと、もうここのご飯が食べららないみたいじゃないですの?」
「みたい、じゃなくて……えと、後、十日しかいられないんです……」
「まぁっ」
せっかく此方に来ましたのに、とオリアンティが言い、頬を膨らませる。まぁ、ある意味タイミング悪いよな。
だが、これは決まった事だしな……オリアンティに合わせる為に宿泊期間を延ばすわけにはいかん。
「なんだいなんだい、最近宿泊の延長がないと思ったら、そんな話になってたのかい?」
「あ、いや……その、今日、決まったんです。冒険者稼業を安定させるために……あの、装備にお金をかける方向で……」
「まぁ、貴方はまだ弱いですものね。庶民としての工夫は褒めるべきですが……」
なんだなんだ、オリアンティはこの宿屋でハノンとスペース共有するのが楽しみだったのか?
お? そういうせいしゅんか? おっさんの魚の肴になりそうな話題じゃねぇか。
「せっかく、四六時中付きっ切りで教育して差し上げようと思ってましたのに……」
あ、そういうスパルタ精神でしたか。
ハノン、引くな。頬のひくつきを抑えておけ。バレたら雷が落ちるぞ。
「ふぅん、確かにまぁ、アタシらの宿はちと高いからねぇ。そうなっちまうのもわかるんだが……参ったねぇ」
「あら、いかがなさいましたの?」
「いやね? アタシらの勝手な思いだったんだけど……坊やにはちと期待してたんだよねぇ」
「僕に?」
「あぁ、ウチの娘が、アンタと歳が近いんだよ。だから、少しでも親しくなっときなって、ずーっとハッパをかけてたのさ。それなのにあの子ときたら、いつまでも奥手でねぇ……」
あぁ、この前見た毛玉だな。
悪魔騒ぎの後も、ちょこちょこ見かける機会はあったが、確かに話しかけられたりはしてねぇな。
えぇ……ハノンも自分から話しかけるタイプじゃねぇし、その期待はちとお互いにとって酷じゃねぇかな?
「あ、あの、そういうのは……本人のタイミングを待ってあげたほうが……」
ほら、ハノンも相手の気持ちがわかるのか、こんな事言ってるし。
「本人のタイミングねぇ……その場合、先にアタシと旦那が引退して、この店を畳んじまう方に賭けるねアタシャ」
「あぅ……」
「あの子が基本誰かと接する時なんて、食材集めくらいのもんさね。しかも相手は銀貨級で最年長の爺様だから、いつ何があってもおかしくない。そうなったら、どっちにしろ宿を畳まざるを得なく……」
そこまで言って、ベローナさんは言葉を止める。
しばらく考え込むような姿勢を見せていたが、
「……そうだねぇ」
「ひぇっ」
何かが纏まったのだろう。随分とまぁ素敵な笑顔を浮かべてくださった。
「なぁなぁ坊や、このままだと、あと十日しかいられないって言ってたね?」
「え? ぁ、は、はい」
「じゃあ……宿泊日数、伸ばしたくないかい?」
「そ、それは……!」
この時、ハノンの頭には真っ先に、「お風呂に入れる回数が増える!」という思考が生まれたことだろう。俺にはわかる。
まったく、厄介な弱みを作っちまったなぁ。相手がベローナさんじゃなければ、怪しい取引はするなって言う所だ。
「一つ、アタシらからの依頼を受けとくれよ。冒険者! 報酬は宿泊日数で、結果によってはアンタのパーティをまとめて養ってあげるよ?」
「フ、フロキアさんも、一緒に……?」
「お待ちなさいハノンさん。まずは、どんな依頼なのかを聞いてからですわよ?」
おぉ、オリアンティは流石に冷静だな。
冒険者たる者、常にリスクとリターンを考えないとな。そこに浪漫があれば尚良し、だが。
「なに、コツさえ掴めば坊やでもできる依頼さね。この町の北方にある山に、食材を捕りに行って欲しいのさ」
「宿屋ならではですわねぇ……食材はどんなものですの?」
「あぁ、【山ドードー】の卵さ。ウチの店では、あれをジパ食のメニューに使ったりしてるんだよ」
「…………(コクコク)」
へぇ、山ドードーか。名前の通り、山の上に生息する鳥だ。
飛べない鳥として有名なこいつらは、天敵の少ない山で生活している。鈍足かつ非力であり、よく絶滅しないな……と昔から思っていたもんだ。
結論から言うと、絶滅しない理由の一端は、異常な繁殖力にある。こいつらは、四六時中、どんな時でもとりあえず卵を産む習性があるのだ。
一日にして、最低30個は産むってんだからすげぇ話しである。栄養価も高く、一説では卵を囮にして自分が逃げる為の時間を稼ぐ為に、味も良くなっていったのだとか。
近年では家畜にするための研究も進められているが、人の手で育てられたドードーの卵はそんなに美味しくないらしい。やはり囮説が濃厚だと思うな、俺は。
「ジパ食の卵焼き……あれ、美味しかったですねぇ……」
「だろう? 山ドードーのコクと深みがあれをより美味くするのさ。いつ生まれたかもわからない鶏卵じゃあ、怖くてお客に出せないしねぇ」
「……確かに、山ドードーなら脅威にもなりませんし、山岳地帯に生息する他のモンスターに気を付けるくらいですわね。……しかし、問題がありますわ」
問題?
……あぁ、確かに問題があるな。
「ハノンさんとフロキアさんは、専門的な野伏ではありません。ワタクシも手伝うとしても、当然野伏ではありません。それはどうお考えで?」
そうなんだよな。
フロキアは多少そこんとこカジってるみたいだが、基本は戦士職として実力を伸ばしている。あまりフロキアを軸に野外活動していたら、いずれ手痛い思いをしそうだ。
対して俺も、角兎の知覚能力で野外活動は無理矢理可能ではある。しかし、中身がそこんとこに明るくない。基本ダンジョンとかだったしなぁ……野伏は他の仲間に任せてたし。
確かに、俺らのパーティは、外で長期の活動が不向きみたいだな。
「あぁ、それなら問題ないさ」
だが、ベローナさんはにやりと笑ってその懸念を一蹴する。
どこか、悪戯を考え付いた子供みたいな雰囲気だ。この場合、対象は俺らじゃなさそうだが。
「ウチの娘は、食材集めをしてるって言っただろう? あれでもそこそこ腕の立つ野伏でねぇ、あの子に手伝わせれば、外での活動は問題ないだろうさ」
「なるほど……そういう意図でしたのね」
「あ、あはは……」
うん、だろうな。
無理矢理に娘を俺らに同行させて、なし崩し的に親しくさせようって腹積もりだな。
荒療治になればいいんだが。
「そうさね、異次元バッグの一番小さいのを、人数分貸してあげるよ。そのバッグにドードーの卵が、だいたい50個入るから……バッグ一杯が1つにつき、あんたらパーティの宿泊を5日分、優遇してあげようじゃないか。……更に、娘と仲良くなってくれたなら、一月分追加だ。どうだい?」
どうだいも何も、法外だな。
こんなん、飲むなってのが無理な相談だ。竜の息吹亭に1ヵ月も滞在できる権利なんて、冒険者にとっちゃ喉から手が出る程に欲しいもんだからな。
「ふむ……どうなさいますの? ハノンさん」
「ぼ、僕が決めるんですか!?」
「当然でしょう。ワタクシは貴方の監督役であり、パーティメンバーという訳ではないですもの」
「え、え……あうあう……」
ハノンは、この場にフロキアが居ないのに勝手に決めていいものか、と考えているらしい。
まぁ、その気持ちは大事だが……多分、フロキアも2つ返事でOKすると思うぞ?
ま、確かに相談は礼儀だがな。
「なんだい、お嬢ちゃんの分も含めて考えてたのに、パーティじゃないのかい?」
「えぇ、ワタクシ貴族なので! ……いつ実家に帰るかわかりませんもの。突然いなくなる可能性があるのに、パーティ加入だなんて不義理は犯せませんわ!」
「そうかい。じゃあ、返事は明日聞こうかね。フロキアの坊やに聞いて来てから、最終判断を聞かせておくれな」
「は、はい……! ありがとうございますっ」
うん、丸く収まったみたいだな。
さて、しかし……まず間違いなく、この依頼は受ける事になるだろう。
だったら、装備の見直しが必要だな。最低限、ハノンには野外での長期活動に見合った所持品を持たせねば。
うん、これなら風呂断ちの練習にもなるし、渡りに船って奴だな!




