第63話:ドラゴンステーキ、リターン
どもどもべべでございます!
連日投稿! 飯テロ、っどーん!
そんなこんなでご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~!
風呂に入ってさっぱりした後は、当然飯である。
そうか、ここの飯もあと十日なんだな……そう考えると、なんだか俺まで寂しい気分になる。
思えば、金貨級時代でも、こんなに長く竜の息吹亭に厄介になることは無かったなぁ。稼いでたっつっても、酒代とかに割と消えてたしな。
この経験で、再確認したわ。酒も大事だけど、美味い飯から得られるモチベーションはすげぇってのを。
「うぅ、ここのご飯もあと十日かぁ」
『まったく同じこと考えてたな……まぁ、十日あれば覚悟も決まるさ。その為にこのタイミングで言ったんだしな』
「頑張って煩悩を切ります……」
『まぁ、お前が冒険者として成功すれば、たまにはまた来れるさ。そん時は目一杯楽しんで行こうぜ』
「は、はいっ」
俺ら2人が改めて意思を固めている内に、食堂が近づいてきた。
相変わらず、この辺りになると美味そうな匂いが食欲を刺激してきやがる。
『この匂いは……ドラゴンステーキだなっ』
「ふわぁっ、尻尾生えたんですねぇ」
ここの名物、ドラゴンステーキは、店主の契約獣である美味竜の尻尾を使った料理だ。
美味竜はその名の通り、全身どこ食っても美味いって言われる存在。故に勝てない相手に狙われた時は、尻尾を自切して逃げるという手段をとる。蜥蜴じゃねぇかと思うが、これでもいっぱしのドラゴンだからな。強いし頭も良い。
故に、どっちかっつったら、認めた相手に自分の尻尾を食わせたりするっつうもてなしで切られる事が多いと言う。
特に、店主であるオゴスの旦那と契約した美味竜は、たくさん食べる人間が愛しいなんて性格した女将気質らしい。だからこそ、こうして宿屋経営に協力してるんだろうな。
「おじゃま、します……」
「お邪魔させてあげますわ!」
「フシッ!?」
俺とハノンが食堂に足を踏み入れると、そこには予想外の客がいた。
金に近い、淡い栗色のウェーブヘア。全身赤の情熱的なドレス。
強気に無敵を重ねたような自信満々の美貌。
存在全てで「私、貴族!」と語っている女。ハノンの魔法の師匠、オリアンティだった。
「オリィさん……! ひ、久しぶり、です」
「あらっ、数日会ってないだけでは久しぶりとは言いませんことよ?」
「い、いや、町に帰ると言っていたので……」
そう、オリアンティはあの悪魔騒ぎの依頼後、町に帰ると言ってグランアインを後にしていた。
それから日にちにして、大体十日くらいか。こいつの住む町はアーケンラーブだと言ってたから、片道4日程だな。かなり無理して戻ってきたんじゃないのか?
「オォーッホッホッホ! 中途半端な教えを施した庶民を放って帰る程、ワタクシ無責任ではありませんの。貴方に教えるべき魔法を見繕うために、魔導書を実家に取りに行ってたのですわ!」
「ほ、ホント、ですか……!?」
「貴族が嘘をつく時は、衰退している時だけでしてよ? オォーッホッホッホ!」
ほほう、これは頼もしい。
魔法ってのは、覚え方は独学以外に、人に教えて貰うってのもある。
前回、ハノンはオリアンティに攻撃魔法と支援魔法を一部教えてもらったが、それらは別にオリアンティが全て覚えていたわけではない。
魔導書という物があれば、波長の合う魔法ならば覚える事ができるのだ。もちろん、波長の合わない属性や、苦手な系統の魔法は、覚えられないがな。
例を挙げるなら、ハノンの覚えた回復魔法【アクアビット】は、魔導書に記載されていたのを覚えたものだな。
「それに……個人的に、気に食わなかったので」
「え?」
「貴方が、町一番だという宿に宿泊していた事実ですわ!」
「フスゥ……」
「だからこうして、個人的な貯金を降ろしてきましたの。これでワタクシも、貴族としての面目躍如ですわね!」
そういう事かい……。
こいつの事だから、貴族街の一番の宿を借りていたんだろうな。しかし、実際の所サービスが充実してて飯が美味いのは、この竜の息吹亭だ。
その分高いんだが……オリアンティは、ハノンがそんな宿に泊まっていたのを知って思う所があったらしい。
だからって、金を降ろしてまで宿を変更するとか、どんだけ対抗心があるんだか。
「現に、この食堂を見て確信しましたわ! 確かにこの宿は最高級に値します! 小さくて質素であろうとも、それらをフォローして余りある要素が詰まっていますのねっ」
「そ、そうなんです……! ベッドはふかふか、ご飯は美味しいし、お風呂も個人別で……!」
「貴方だけそんな場所に泊まっていただなんて、ワタクシが耐えられませんの。ですから、ワタクシもこの宿に先ほどチェックインした所ですわ! 改めて、明日からみっちり修行ですからね?」
「は、はいっ」
よかった。オリアンティはまだまだハノンを鍛えてくれるつもりらしいな。
魔力を底上げするような訓練方法を教えてくれた状態で帰ったから、長い事会えないのかと思ったぞ。
あ、ちなみにフロキアは流石にこれ以上は泊まれないってんで、もう宿を移している。五日くらい前からだな。
「まったく、御貴族様が勢いよくやってきたから、最初は何事かと思ったよ」
「あ、ベ、ベローナさん」
「坊や、夕飯を食べに来たんだろう? 互いに挨拶したんならさっさと座んな!」
「は、はいっ」
「そうですわね!」
竜の息吹亭の肝っ玉母ちゃん、ベローナさんの一喝で、ようやく俺らはテーブルにつく運びになった。
話してる間も良い匂いがするもんだから、俺としても限界だったんだ。ありがたい話である。
厨房の奥では、オゴス旦那が「そろそろ良いか?」といった様子で最終調理工程に入った。待っててくれるとは、相変わらず出来たおっさんである。
「今日は、ドラゴンステーキ……ですよね?」
「おやっ、よくわかったねぇ!」
「えへへ……ヴォルさんが、教えてくれました」
「ハッハハ! そうかい。今日は味付けに胡椒を用意したから、じっくり味わうんだね!」
「胡椒? かなり高級品ですわね……!」
「昔の伝手って奴さね」
そいつは楽しみだ。
胡椒はこの国ではかなり貴重な香辛料だ。噛んだ瞬間、ピリリとした刺激が舌を楽しませてくれるんだが、これがステーキにまた合うんだよ。
極東のジパから取り寄せた黒い液体もステーキには最高に合うんだが……胡椒とニンニクの組み合わせは、甲乙つけがたい絶頂的美味さがある。
「…………(ゴトッ)」
やがて、オゴスの旦那が鉄板を持ってきてくれた。
そこには、ジュウジュウと音を立てた巨大な肉塊。
夜に食うものでもない気がするが、そんな倫理観はこの美味の暴力の前には霞んでしまう。
「素晴らしいですわ……!」
「美味しそう……!」
「フシッ」
「ハハハ! 眺めるのも良いが、冷めない内に食べとくれよ!」
ベローナさんは後片付けに行ってしまった。つまり、後は食うだけってことだな。
「い、いただきますっ」
「えぇ、いただきますわっ」
「フスッ」
ハノンとオリアンティが肉にナイフを通し、俺はそのままかぶりつく。
今回の焼き方は、ウェルダン。
レアもかなり美味いんだが、ここまで火を通したら肉の歯ごたえが増すんだ。
すると噛む頻度が増え、結果として胡椒を噛み潰す回数が増える。結果、最後まで胡椒を楽しむ事ができるって訳だな。
流石はオゴス旦那だ。わかってる!
「うん……おしひい……!」
「うん、うん……ふぅ。この宿にしたのは正解ですわね!」
ハノンとオリアンティもご満悦だな。
肉汁が鉄板に流れるが、それは付け合わせの揚げイモが吸ってくれるため、無駄にはならない。
むしろ揚げイモにステーキの旨味が染みついて、最高の味に仕上がっている。
別に用意されたサラダで口内をさっぱりさせ、また一口。
溢れる肉の旨味、ガーリックの香り、胡椒の風味。こんなん、批評しろってのが無理な相談だ。
これをずっと味わっていられたら……そんな切望が、俺とハノンの胸に重くのしかかる。
しかし、また一口食べれば、そんな悩みも忘れさせてくれるのであった。
美味は世界を救うねぇ。




