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第61話:断罪(第三者視点)

どもどもべべでございます!

これにて、改めて、第二章・完!

次回からは第三章をお送りいたします!

という訳で、ご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~!

 

 夜更かしとは、上流階級の特権である。

 下級市民や下賤な輩は、明日も早くから奴隷のように活動を開始せねばならない。しかし、こと貴族とあれば多少の睡眠時間延長くらいは許されるのだ。

 否、本来ならば貴族であるが故に早朝からの活動は基本であると言えるのだが……こと、セゴー・テム・カムセ本人にあっては、本心からそう思っている故に質が悪いと言える。


「ぐふふ……」


 セゴー邸の寝室にて、下卑た含み笑いが響く。

 ワイングラスをくゆらせながら、就寝前の一本を嗜むのもまた、貴族の務めなのである。決して一杯ではないのがポイントだ。

 しかし、今日の彼に握られているのは、ワイングラスだけではない。

 その指にはさまれているのは、一枚の念写紙。

 特殊な水晶に物や風景を覚えさせ、紙に転写できる高級品である。水晶は一度覚えた内容を忘れないため、一つの映像に家一軒分の金を使い込むような愚行だが、絵画よりも精密な人物像や風景が捉えられるとあれば、それを欲する者は多い。

 そして、セゴーもまた、その水晶を一つだけだが所持していた。


「よもや、ワシの計画を邪魔してくれたという餓鬼が、件の少年だとは思いもせなんだわい……」


 セゴーの視線の先には、紙に写った少年がいる。

 スラムの少年少女と共にいる、角兎ホーンラビットを連れた少年であった。わかりやすく、ハノンである。

 セゴーは、尾行を開始すると言って出て行こうとした暗殺者に、かの水晶を持たせてそいつの顔を撮って来いと命じていた。その結果、奴は思いもよらない情報を持ってきてくれたのだ。


「はっはは! ワシにも運が向いてきたぞ。この餓鬼を娼館ギルドに突き出せば、恩を売れる! そうすれば、ギルドがワシの保身を手伝ってくれるだろう!」


 娼館ギルド。

 この町の色事を牛耳っているという、盗賊ギルドと対を成す暗部である。

 娼婦、男娼、その他の種族を使っての慰安。その活動に正統性をねじ込み、国に対して許可を取った末に生まれたという化け物じみた経緯の上に成り立つこの組織。当然、握っている権利は色欲の掌握だけではない。

 まぁ、それを今ここで語るのは、あまりにも不快であるが故に、今は口を噤もう。問題なのは、その組織がハノンをマークしていたという事実である。


「ふふふ……んふははははっ、実行部隊が兎如きに退いた負け犬というのも癪ではあるが、奴の奥の手は見せてもらった。悪魔デーモンであれば、確実に命令を遂行してくれるであろうさ」


 正直、あの暗殺者が魔呼まこの符を見せてきた時には肝を冷やしたが……手駒があれを自分の為に使うというのならば、こんなにも心強い事はないと判断した。角兎などという雑魚を早々に始末し、少年を捕らえて自分の元へ連れてくるだろうと確信したのである。

 当然、あの無様な暗殺者は寿命を削られるであろうが、そんなことはセゴーの知った事ではない。

 数か月後にはその存在すらも忘れて、元気にステーキをかっ食らう彼の姿が見られることであろう。


「ぐふふ……しかし見れば見る程、同性とは思えんな。これだけの麗しさなら、わしとて性別の頓着は無くなるというものだ。娼館ギルドに突き出す前に、味見をしてもバチは当たるまいよ」


 酒とは、本音を口に出す効能がある薬である。

 上機嫌なセゴーは、全国の紳士同盟から圧倒的非難を受けるであろう戯言を宣いながら、下卑た笑顔を浮かべる。

 このような脂ぎった豚が、上質なシルクすら凌駕する柔肌に指を這わせると想像しただけで、胸焼けと共に吐き気動悸息切れを発症してしまうというものだ。


 故に、世界はそれを否定する。

 既に、その一手は放たれていた。


「だ、旦那様!」


 屋敷を包む、焦燥。

 慌ただしく入室する、執事。

 だが、彼の頭部には衝撃が走る。即座に投擲されたクリスタルのグラスが、その身に傷をつけたのだ。


「入室を許可した覚えはないぞ! 無能がぁ!」


「お、お許しを……火急の案件でございますっ」


「あぁ? なんだ。貴様を解雇するのはその後にしてやる。申せ!」


「す、すぐにお荷物をお纏めください! ぼ、冒険者ギルドが――――」


「……失礼、もうよろしいかな」


 金を払う価値もない寸劇は、凛とした声に塗り潰された。

 額に痣を作った執事は、今度は後頭部に衝撃を受けてその場に崩れ落ちる。彼は今後、頭部を守る為にヘルメットなる安全装置を作り出して一財産を築くことになるのだが、それは本編とは大きく関わり合いの無い物語である。


「セゴー・テム・カムセ。夜分に失礼するぞ」


「貴様……森の草食い虫がなぁにを勝手に上がり込んでおる! 無礼だぞ!」


 この場に現れたのは、1人のエルフ。

 いかにも腹黒そうな眼鏡に、いかにも腹黒そうな瞳。いかにも腹黒そうな、整った顔立ち。

 そう、こんなにも腹黒そうなエルフは、この町には一人しかいない。

 アルバート・エデン。数十年しか生きていない、経験の浅いエルフの中でも、特に腹黒いと有名な人物である。


 こいつがこのタイミングで、何故この場に現れたのか。

 保身に長けたセゴーは、瞬時にとある可能性を導き出す。そして、グラスを手放してベッドの中に突っ込んだ手を、気取られぬように握りなおした。


「貴様、この前散々ワシの屋敷を荒らして回って、まだ納得しておらんのか! あぁ?」


「その件に関しては謝罪と賠償を既に済ませている。今回は全く別の案件で、領主様より許可を得てこの場に馳せ参じた次第だ」


「なんだとぉ? これ以上無礼を働くつもりならば、たとえ領主様からの使者であろうと容赦はせんぞ!」


「それは領主様に対する反逆と捉えていいか? その方が楽で良いが、案件を聞かなくて良いだろうか?」


 チッと舌打ちをして、セゴーは話せと顎で指示する。

 同時に、いつでも手の中の物を起動できるように準備する。とはいえ、魔力を流すのは後だ。このエルフ相手ならば、ちょっとした流れでも気取られてしまうだろう。


「楽が出来なくて残念だ。では……貴様には、国家転覆罪の容疑がかけられている。即座に捕縛され、面倒くさいから早々に死刑になると良い」


「な……何を馬鹿な! ワシがゴブリンに関与したという証拠は無かったであろうが!」


「あぁ、だが、悪魔には関与した。そうだろう?」


「っ!」


 セゴーの予感は当たった。だが、まだだ。

 あのエルフは警戒を解いていない。行動に移すのは、奴の気が一瞬でも他にずれた時だ。

 判断を誤れば未来はない。必要過剰に蓄えた糖と脂肪を、全て燃焼するつもりでセゴーは考える。


「な、何を……」


「貴様の子飼いだった暗殺者が、全てを語ってくれた。そして、その暗殺者は魔呼の符を所持していた……言い逃れはあるか?」


「知らん! ワシは知らんぞ!」


「そうか、関与が無いかどうかは領主様の前で言え。私は現場での容疑者の生殺与奪を任されているだけだからな」


 机上の空論を正当化させるのは、理不尽な権力だ。

 証人がいるため相手の不利は避けられないが、それでもどうにかして生き残ろうとするのがこの豚だ。

 故に、アルバートはもう一手をここで切っておくことにする。


「そういえば……暗殺者は、水晶も所持していた。とても高価な、紙に風景を写し取る魔法具だ」


「…………」


 ハッタリだ、とセゴーは判断する。

 なぜなら、水晶は回収したからだ。あんな下賤な輩に預けたままにしておける程、価値のない物でないのだから。


「本人は、回収されたが飲み代を確保するために、くすねたと言っていたな。その水晶に記憶された中身を現像してみると。とても面白いものが見られた。……角兎と……」


「チィッ!」


 ここでセゴーは、ベッドの中に隠していた【フラッシュ】のスクロールを起動した。

 スクロールは、魔法が封じられた羊皮紙である。一度魔力で封を解いて開けば、覚えていない魔法でも起動できる優れものである。

 眩い光がそこから発せられ、エルフの目を焼く。

 同時に、セゴーはベッドから跳ね出て窓へ向かう。落ちれば怪我は避けられんが、命よりはましだ。


「がぁ!?」


 しかし、その逃走は失敗に終わる。

 なぜなら、彼の右足に、深々と矢が刺さったからだ。

 矢が刺さって倒れない奴は、もう人間ではないと思う。そしてセゴーは、人間であった。


「ふむ……よくやった、()()()()


「へ、へぇ。何かすると思ったで、貰った色眼鏡かけてて正解でしただ」


 アルバートが声をかける。その後ろには、壁に溶け込むように立っていた、一人の若者がいた。

 ガジルデ。元は領主により森人に据えられていたが、目の前のセゴーの謀略により命を狙われていた若者である。

 今は、その狩人としての知識と経験を活かしアルバートにより教育も施され、ギルドの暗部として影に隠れて行動している。森人と、今の立場。どっちが彼にとって幸せだったのかは、悩ましい話ではあるが。


「がぁぁあ! きさ、きさまぁ! このカス共がぁぁぁあ!!」


「セゴー。すまないが情報に誤りがあった。彼は水晶の存在を語ってはいたが、現物は持ってはいなかったよ。しかし、貴様が過剰に反応したという事は、その水晶は存在すると思っていいな」


 貴重な証拠を手に入れられそうだ。そう言って、アルバート自らがセゴーを捕縛にかかる。

 腕を後ろで拘束し、ついでに指の一本一本も丁寧に結び合わせていく。

 同時に足と足の間に縄をつけて、歩く歩幅ぎっりぎりにしておくことも忘れない。矢を抜いては出血が大変なので、悪いがそのままだ。豚の為に【アクアビット】は使いたくない。


「……ふむ、そして映っていたのは、角兎と少年か。貴様にそんな趣味があるとは予想外だった」


「ワシを、ぐぁあ! ワシを誰だと思っているぅぅ! 放せ! あがっ、んぐぅぅ……!?」


「犯罪者だ。放さない。もういいか?」


 床に落ちていた念写紙を拾いつつ、これもまた証拠として押収する。その後、細身からは考えられない膂力で、セゴーを持ち上げた。

 動いたら脳天から落とすと淡々と付け加え、彼は歩き出す。


「ふむ……悪魔、か。なるほどな」


 部下も連れずに、単体で行われた大捕り物。

 成功の一報は即座に領主に送られ……彼を大いに安堵させたという。

 なんせ、セゴーが逃げ出す素振りさえ見せなければ、怪しめど彼に繋がる証拠は、ほとんどなかったのだから。

 町に巣食う古狸。致命的な癌は、今ここで取り除かれた。


 しかし、未だ謎は消えない。

 何故、セゴーはゴブリンと接触できたのか?

 何故、あの暗殺者は、魔呼の符を持ったまま生き永らえていたのか? などなど。

 それらの謎は……未だ、語られる時ではないと、陳腐に終わらせておこう。

 

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