第57話:暗躍の影(???視点)
どもどもべべでございます!
すみませんちょっと伏線が甘くなってしまっていたので、少し改稿しております。
43話の、「注目の的」。この部分を、新人受付嬢ではなく、パメラに変更いたしました。
どうもすみませんでした。
というわけでご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~!
夜の帳が、降りてくる。
町外れの資材置き場は、山を背後に置いた区画を使っている。即ち、敵に責められる事が滅多にない。
故に人の配置が少ない。こういう場所は、往々として悪どい連中に利用される。俺みたいなな?
グチャグチャと、奥歯で葉を噛み潰す。口一杯にヤニの匂いが充満し、唾液が濁って行くのがわかる。
あぁ、気分が晴れる。やっぱ噛み煙草ってなぁ上等な発明だ。
この稼業に身を落としてからは、臭いに気をつける必要があったから、随分とご無沙汰だった。だが、今日ばっかりは解禁ということで。
なんたって、相手は気配に敏感な角兎。気配はもちろん、僅かな匂いにも反応する魔物だ。
だったら、下手に匂いを隠すより、楽しんだ方がずっと良い。今回は、暗殺屋稼業はお休みだ。
「へっへへ……殺しでワクワクなんざ、いつ以来かねぇ」
唾液を吐き出し、思わずつぶやいてしまう。独り言が出てしまうくらいには、高揚しているみたいだな。
それも仕方ない……最近は、業突く張りな貴族に飼われるだけのチンケな日常だった。
まぁ、そこは受け入れてたよ。問題起こして追い出された、冒険者崩れのクソッタレが堕ちに堕ちた先なんざ、こういう稼業しか残ってないって。
冒険者としての肩書きってのは、それ程に規律だったるんだって、痛感させられてたさ。
狸爺におべっか使って、都合の悪いチンピラ殺して、日銭稼いで酒飲んで……狙う先がモンスターから人になったってだけで、人1人の人生がこんなにも様変わりするんだってな。
だから、あの森人を世話してた時も、ダレにダレてた。
結果、逃げられた。こんなにも身に入らねぇ気分なら、俺もいよいよお役御免か……そう思ってた矢先に会ったのが、あの角兎だった。
いや、ワクワクしたね。新米の冒険者を始末せにゃならんのかと気分が落ちた時に、あの大立ち回りを見せられてさ。
俺のナイフが、1発しか当たらねぇでやんの。これでも元銀貨級だったってのによ。
部下もあっちゅう間にのされてさ! あんな化け物が角兎であってたまるかって、逃げた先で大爆笑よ。
だからさ、俺ぁ決めたのよ。
どうせお役御免なら、アレを最期の相手にしようって。
アレを、人生最後の殺しにしようって。
「……見えました」
「あぁ、そう」
部下からの報告が入る。どうやら、角兎がきたようだ。
へぇ……約束破ったんだ。意外っちゃ意外。
角兎と、あの少年を見張らせていた部下。アイツには、ここに獲物が来る前に報告に来いって伝えておいた。
それが、今になっても来ないって事は、見張りがバレたって事だ。
「しゃあない。おい、人質殺しとけっつっといてくれ」
「ハッ」
見張りがバレて始末されたんなら、他者に情報を漏らさない訳がない。
現段階で、敵は複数人だと思っていい。つまり人質はもう要らん。少年1人で動きを止められるんなら有効だが、複数人相手だとむしろ人質は邪魔になる。
約束を破ったのは向こうだ。可哀想な少年だなぁおい?
「ま、今は1人と1匹みたいだが……どっかに隠れてんだろ、絶対」
とはいえ、こっちも部下は隠してる。不意打ちの対処はさせてるし、俺は俺で楽しむとしましょうか。
資材置き場の、開けた空間まで足を運ぶ。そこに、お目当ての少年はいた。というか、お目当ては少年の前に立つ角兎か。
相変わらず、ただ見ただけでは鉄貨級……いや、それ以下の実力しか持っていないように見える。
ヒョロヒョロのもやしに、雑魚で有名な契約獣。装備ばっかり上等で、いいとこのボンボンが道楽でやってそうな感じだ。
しかし、あの薄皮一枚剥いでみたら、中からは化け物が出てくる。それはここ数日間、跡をつけて見て痛感した。
あの角兎は異常だ。その強さもさることながら、多少の視線でこちらを警戒してくる過敏さも恐ろしい。何度見つかりかけたかわからない。
スラムの時に、使えそうな兄妹を見つけたもんでほくそ笑んだら、その気配でこっちを探してきやがった。それ以降は、もう追跡はできないと判断したね。
勝算を覚えると心が浮つくからな。見つかったら、全てがご破算。後は計画して実行するだけ……って感じだ。
「じゃあ、俺行くから。お前らは俺がやばいって時に援護な」
「ハッ」
そこまで命じた所で、部下が離れる。俺もまた、ゆっくりと立ち上がり、消していた気配を晒す。
結果として、現状を見れば、俺の計画は成功したと言って良い。アイツらが町を出たのを確認し、スラムの餓鬼を攫う。妹に手紙を持たせて、あの鉄貨級をこの資材置き場までおびき寄せる……単純かつ有効だ。
そして、やる時は正面から。コソコソした奇襲は、この角兎には通用しないってのはわかってる。だったら、隠しようがねぇ武器を最初から持ってた方が、まだ勝算がある。なぁ?
「いらっしゃい。よく来てくれたねぇ、ボク」
ニヤリと笑い、姿を晒す。
角兎は既に気付いており、少年も教えて貰っていたらしい。最初から俺の方を見て、盾を構えていた。いい感じに成長してんじゃん。若いねぇ。
「覚えてっかなぁ。あの時の、ほら、路地裏であったじゃん」
「……カイルくんは、無事ですか?」
「あの子? カイルっつうんだ。ふぅん……」
「無事、ですか!」
「そろそろ死んだんじゃない?」
「っ!」
少年か湧き上がる怒りを、角兎が制す。
俺が一歩近づくと、少年は一歩下がる。……ふぅん、逃げれるようにってか。
「ていうか、カイルくん? の心配しないでさ、俺の方見てよ。そんな余裕あるように見える? 絶対君より、俺のが強いよね?」
腰に差した獲物を抜く。
久しぶりに握る、ロングソードの感触。銀貨級だった時は、こいつでかなりの魔物を仕留めていた。
うん、あの時の輝きは、もう俺にもこいつにもない。しかし、それでも、こいつらくらいは斬れるはずだ。
「それとも、お仲間がカイルくん探すまで、時間稼ぐ感じ? だったら乗るけど、探してる間に死ぬよ、あの子。もう部下に命令して、伝言任せちゃったもん」
「な……!」
「約束破ったのそっちじゃん。仲間、連れてきてるんだろ? その仲間が一から俺の部下見つけて、カイルくん救出大作戦するか、俺の部下が最初から場所知ってる奴んとこ行ってカイルくん刺すか。どっちが、ッへへ、早いかなぁ!」
そこまで言った辺りで、俺ももう我慢できなかった。
少年に突っ込み距離を詰め、横薙ぎに相棒を振るう。
しかし、その一手前にはもう角兎が飛んでいた。
「ッハハァ!」
「フッ」
ギャリン! という剣戟。俺の腕に手ごたえは、感じられない。
うまいこと角で反らされた。あの時とおんなじだ。
「それだよ、それ! お前なんなの!? すげぇなぁオイ角兎ぉ!」
「……フスッ」
少年が一気に距離を取る。資材置き場の真ん中から、壁際までは行かない距離。
後ろからの不意打ちも警戒してくれてんのかね。誰の入れ知恵か知らないけど、成長してんじゃねぇか。
「お前がそんな、角兎じゃあり得ない強さ見せてくれたからさぁ……俺にも燻ってた火が付いちゃったのよ! もう、お前とやり合いたくてしょうがねぇんだ!」
「……貴方は……そんな事の為に、カイルくんを!」
「おうさ! 貴族の爺をたきつけて、金せびって準備してさ! ようやくおあつらえ向きな舞台を整えたんだ! 最後まで突き合ってくれよ、なぁ!?」
「っ! 『水よ、命の源よ――――』」
喋りながら、ナイフを抜いて投げる。
狙いは角兎じゃなく、少年に。当然、跳躍した角兎が叩き落す。
その間にまた距離を詰め、一閃。空中じゃあ回避行動はとれないってのが普通だが、身軽な角兎なら、身を捻るくらいはできる。
そしてこいつは、その動作で空中でも回避してくる。ゾクゾクするな!
「っらぁぁ!」
「フッ!」
ロングソードが回避されたのも、想定内。振るうと同時に即座にもう一本のナイフを腰から抜いておき、追撃として穿つ。
奴も見えちゃぁいるんだろうが、ナイフ弾き、剣避けときて、もう一本だ。限界はくるだろう。
「ガッ……!?」
しかし、届かねぇ。
ロングソードを避けた角兎は、その捻りを勢いにして、蹴りを放ってきた。
狙いは、ナイフ。浅くはあるが、俺がそれを取り落とすには充分だった。
「クッソ、がぁ!」
「『――――潤いを持って事を成さん』……【ウォーターシールド】!」
さらに、水の盾が展開される。これじゃあ再度の追撃も防がれるだろう。
やむなし。角兎から距離を取り、体勢を整える。
ひでぇなぁ、あの少年、そんな魔法まで覚えてやがったか。肥蜥蜴を狩ってた時は、ヒョロヒョロの魔法しか使ってなかったってのによ。
やっぱ、ギルド内を覗けなかったのは、痛かったなぁ。
「はぁ、はぁ……っへへ……」
だが、時間だ。
部下たちに指定していた時間。ここまで手こずったら、そして、俺が一撃でも受けていたら、容赦なく狙撃しろと言っておいた時間。
久しぶりに楽しかったが、負けちゃあ意味がない。後は容赦なく、嬲らせてもらう。
「……フスッ」
「おいおい、勝った気になってんなよ? 俺ぁまだぴんぴんしてる……さぁ、こいよ……!」
来い。来い。
俺に全意識を集中させろ。
その時が、お前の最後だ。角兎!
「へへっ、へ……あ?」
しかし、それよりも先に。
夜空に、一筋の光が上がる。
それは、煙を伴い昇って行き……パンッと、小さく音を立てた。
なんだありゃ……あんな合図は決めてねぇ。ってことは……
「っ、ヴォルさん! 救出完了ですっ!」
「フシッ!」
おい。
おいおいおい。
嘘だろ!
「失礼いたしました!」
「逃げんのかよぉ! おいぃ!」
救出したって、ガキをか!
俺の部下が殺すより早く!? ありかよそんなん!
どんな手ぇ使いやがった!
「待てや、この……うぉぉ!?」
後退を始める少年と角兎を、咄嗟に追おうとする。しかし、それは叶わない。
何故かって?
俺の目の前で、火柱が上がったからさ。
あぁ、ちくしょう、なんてこったよ。
絡め取られてたのは……どうやら、俺だったらしい。
情けなくって、笑えてきたね。
「さぁ……覚悟は、よろしくて?」
「弓持ちは潰してきたよ、ハノンくん……よく頑張ったね」
声が響く。
知ってたさ。連れてきてるってのは、知ってた。
しかし、人質を探してる内に決着はつくと、思ってたんだがねぇ。
「っへへへ……参ったな、こりゃ」
俺は、3人の冒険者に、取り囲まれていた。




