第49話:ダンジョン
どもどもべべでございます!
いよいよようやくファンタジーらしくなってきました!
ダンジョンですよみなさん! どうぞお楽しみあれ~!
グランのダンジョン。
数多の謎を残しながら、虎視眈々と獲物を狙う大食らいの人間ホイホイ。しかし同時に冒険者の資金源にして、格好の修練場。
そして、俺の死地。
こいつらがどういう経緯で生まれたのかは、誰も知らない。
わかっているのは、こいつ等が生きているという事。そして、獲物を欲して様々な餌をまき散らしているという事だ。
ほら、ミミックっているだろ? 宝箱に化けて、誰かが開けた瞬間食らいついてくる箱型モンスター。
言ってしまえばダンジョンってのは、そのミミックの最上位モンスターみたいなもんだってのが、俺ら人類の見解だ。
宝を用意し、獲物を待ちわびる。体内で様々な脅威を準備し、獲物を殺す。
そして死んだ獲物は、晴れてダンジョンの養分となる。出られた獲物は、手に入れた餌を誰かに自慢し、そして新たな獲物が増えていく。
なんとも、最高に皮肉の効いた話じゃないか。
まさに人間に対して特化した存在だ。人間程欲深い存在はいないからな。わかっていても、そこに資源や宝があるなら向かわずにはいられない。
冒険者なんて、その最たるものだ。
(一度殺された身としては、本当なら二度とごめんだと言いそうなもんだが……ま、俺も冒険者ってこったな)
岩肌を耳で撫でながら、じっくり進む。
角で振動を感じ、音をよく聞く。そして、違和感を探す。
土を、そして草を踏む感触。閉鎖的な空間において、明かな場違い。
グランのダンジョン、2階層。この辺りは洞窟の中でありながら、草の自生する暖かな空間であった。
「ふむ、グランのダンジョンは何度か潜った事はありますが……あまり代わり映えしませんのね。ワタクシの町に近いダンジョンは、よくフロアの様子が変わるものでしたが」
「ダンジョンによって毛色は違うものだ。このダンジョンは、あまり動かない代わりに、深いのさ」
「…………うぅ」
先頭を歩く俺の後ろを、オリアンティがついてくる。
その後ろにハノン、そして最後尾にフロキア。俺とフロキアの前線組で、後衛の2人を挟むという陣形だ。
こうすると、前からの襲撃と、後ろからのバックアタック両方に対応できる。
現に、ここまで来る過程で3回程戦闘があったが、所詮は1階層と2階層のモンスター。
俺が数回蹴れば、あっさりと倒せるような連中だった。魔法使いは魔力の節約をしないといけないし、出番がないくらいが丁度いいと言える。
「……フシッ」
『ハノン、止めろ』
「あ、み、皆さん、ストップです」
俺の制止をハノンが受け、2人にそれを伝える。オリアンティとフロキアは、ハノンの言葉に素直に従った。
「……フス」
俺の視線の先には、草が僅かに盛り上がった部分がある。まるで、何かが埋まっているかのようだ。
ハノンからスカウト用の解除ツールを貸してもらう。これは、ハノンがなけなしの金を使って俺に買ってくれた大事なものだ。消耗品だから、慎重に罠を見分けて使わないとな。
袋から、手ごろな大きさの重り石を取り出す。そしてそれを、地面のふくらみに投げてみせる。
石が着地したと同時に、その周辺がぶくりと膨れた。まるで、地面がくしゃみしたかのようにそれが弾け、一気に天井まで飛び散っていく。
もしあれに巻き込まれていたら、体を天井に手痛くぶつけていただろう。
その辺の石を投げて解除しろって? ダンジョンが解決策なんてそうそう用意するわけないだろう。
こういうのを持ち込んでおかないと、石なんて中々拾えないのさ。自然と違ってな。
「【空気砲】の罠か。通路の幅的に、解除しないと通れなかったね。なるほど的確だ」
「初日の戦闘から常識はずれな兎だとは認めていましたが……実は悪魔が化けているのではないでしょうね?」
「フス……」
「あ、あはは……僕もどうかとは思います」
ハノン、お前まで……ま、まぁいい。俺は俺の仕事をするまでだ。
肌で魔力は感じるか? 何者かが息を潜めてはいないか? 罠はいずこにあるのか?
スカウトに求められるのは、おおむねその辺りだ。
そして、俺の生前はソロで活動できていたレベルのスカウト持ち。これを腐らせてハノンの財布を圧迫するつもりは毛頭ない。
多少あれこれ言われても、ここは仲間が秘密にしておくことを前提にして技能を振るうべきだろう。
一階を探索していた時は、フロキアもオリアンティも不安そうにしていたが、俺が数回罠を解除して見せた後からはもう気にした様子もない。というか、呆れているだけなのか?
気持ちはわかるがね。俺だって角兎が罠解除してるの見たら呆れるのが普通だと思う。
「さて、進みながら再確認だ、ハノンくん」
「は、はいっ」
「今回の目的は、3階層から4階層……つまり、次の階層から出てくるであろう豚人の討伐だ。正確には、討伐したオークの素材の納品。そこまではいいね?」
「はい……っ」
そう、今回は素材の納品。ただ倒すだけでは意味がない。
お目当ては、オークの睾丸だ。こいつは質の良い精力剤の材料になる。それを商人ギルドが欲しがっているって訳だな。多分、娼館ギルドにでも売るつもりなんだろう。
オークは、人間よりもでかい体躯を持つ豚頭のモンスターだ。
鈍重な見た目同様、すっとろいが力は強い。ダンジョン以外では滅多にお目にかかれないので、ダンジョン固有の生物ではないかとも言われている。
また、その肉は家畜豚より少し臭みはあるが、充分に美味いと言える代物だ。一匹なら、囲みさえすれば鉄貨級でも仕留められなくはないが、一撃を貰うと死活問題なので無理は禁物ってレベルの相手だな。
「相手が一匹単位なら問題なく勝てるだろう。しかし、群れに当った場合はけして楽ではない。オリアンティから教えてもらった魔法を試すより、自分が相手に接近されないような動きを心掛けてほしい。いいね?」
「わかりましたっ」
「ですが! そういう時こそ支援魔法が光るとも言えますの。無理はしないまでも、虎視眈々と貢献の場を狙う事は忘れないこと。よいですわね!」
「は、はいぃっ」
ダンジョンに入るまでに、ハノンはオリアンティから2つの魔法を教えてもらった。短時間で使えるようになる、下級の支援魔法では、2つが限界だったのだ。魔法に必要な物資を買うのも馬鹿にならんしな。
ハノンの魔力はけして低くない。攻撃魔法2種類と、支援魔法2種類。生活魔法を一通り使えるならば、充分魔術師を名乗れるレベルだ。……まぁ、攻撃魔法はあってないようなもんだけど。
ま、それでも次にカードを見る時が楽しみだな。
「……フシッ」
と、こんな話をしている内に、次の階層に続く道が見えてきた。
3人に向かって鳴き、角でそちらを差す。
「よし、いよいよだな」
「ちなみに、フロキアさんはここから先は行ったことありますの?」
「銅貨の3人組に助っ人を頼まれた時に、1度だけ5階層まで行った事はある」
「充分ですわね」
落ち着いているのはそれが理由か。そして、油断も慢心もしていない。
これなら、安心してハノンを守ってられるな。
「……ヴォルさん……」
『怖いか?』
「……はい」
『ん、それでいい。怖くて当然だ』
ハノンが俺を抱き上げ、顔を背中に埋めてくる。
フロキア達は、それに対して何も言わずに周囲を警戒してくれていた。
『安心しろとは言わん。常に気を張っていろ』
「ん……」
『そして、信じろ。あの2人を……この俺を』
「……はいっ」
これで、落ち着いてくれたらしい。ハノンは俺を地面に降ろすと、2人に視線を向ける。
「お、お待たせしました……!」
「あぁ」
「えぇっ」
さぁ、行こう。
ここからが、冒険の醍醐味だ。




