第45話:朝
どもどもべべでございます!
モフモフ兎は日常パートが結構頭に浮かんで、すっと書けるのが良い……。
次はまたグルメ回でもしようかな~w
そんなこんなでご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~!
朝靄が視界を絡め取る、静かな時間帯。空はまだ白んでいないが、霧は普段程濃くもないため、出歩く事は不可能ではない。
現に、熱意に燃える若き兵士が、朝駆け代わりのパトロールに走っているのを一度見たからな。冒険者が大きく減った昨今、そういう奴がいてくれるのは頭が下がる思いだ。
そしてそれを見ると、起きている人間はどのくらいいるだろうか、という思いが頭をよぎる。まぁ、それなりの立場にいる人間は起きているだろうな。
少なくとも、オゴスの旦那はこの時間に起きて仕込みをしているはずだ。朝こそ体力作りを是としているオゴスの旦那は、わりとどっかりしたメニューを作りがちだが、今日はどうだろう。
そんな竜の息吹亭、中庭にて。
俺はいつもの如く、気を高める訓練をこなしている。これをやると、一日の調子も良くなるからな。
体の中心からやや下、腹の奥に意識を集中する。
そこが源泉……自分の血脈は、川として見ればわかりやすい。
湧き出した水が川を巡り、俺という一つの山を潤すイメージ。そう感じられれば、気というものは全身に巡りやすくなる。
「スゥ……フゥ……」
じっくりと、一つ一つの動作を意識して、時間をかけて己の物にしていく。呼吸も一定を保ち、けして乱さない。
足を垂直に掲げ、片足で体を支える。自分を一本の柱に例え、体をブレさせないように。
芯を維持したまま静かに足を降ろす。ストン、と踵で地面を斬る様にだ。
これを意識して蹴りを用いれば、相手の脆い部位を狙いやすくなる。
「……フゥ……」
気が全身に巡った所で、頭のてっぺんを意識。生前は悲しすぎて意識なんてしたくなかったが、今は雄々しい象徴が一本、生えている。
そう、角だ。
この角に気を集中させると、まるで空気の流れが目視できるかのように感知する事ができるとわかったのは、つい先日だ。
今俺は目を閉じているが、草木の揺らぎや建物の軋みなどが、情報として把握できている。この能力は、かなり強力だ。ただでさえ強い角兎の感知能力に、磨きがかかった事になるからな。
そうだな……気功術として名付けるならば、【広範囲知覚】ってところか。【身体硬化】を使うにはまだ気の量が足りないが、広範囲知覚はそこまで燃費も悪くないから率先して使っていけるだろう。
ただ、これはまだ集中力を要するな。戦闘中に仕えるかは微妙な所だ。
「……フスゥ……」
日が昇り、様々な人が起き出してくるであろう時間帯になるまでに、一通りの型を流して今日の鍛錬は区切りだ。
この体は、気が増えにくいな……早いとこ魔力の扱いを覚えた方が、いい気がするから、オリアンティの訓練は俺も参加させてもらおう。そう心に誓う。
さて、んじゃあハノンを起こしに行くか。あいつは寝坊助な所があるからな。
中庭から宿に入り、二階へ。凸方のこの宿は、一部が細く、奥が広い。結果として動線が限られるため、宿内での移動は楽だったりする。
……ただそれは、誰かとはち会いやすいって意味もある訳だが。
「……フス」
「……おはよう」
フロキアさん、ハノンの部屋のドアに手をかけて、何をしているのかな?
「……何をしているか、と聞きたげなので答えよう。ハノンくんを起こしに来た」
「フスッ、フスッ」
しっしっと、前足で払う。それは俺の仕事だ。
寝起きのハノンはかなり無防備で、ぶっちゃけ見てて危ういと感じる。あまり人目に晒したくないのが本音だ。
この前なんか、寝ぼけて抱きつかれた後、腹に顔を埋めて肉と毛をハムハムついばまれたからな……あれをフロキアにやると、こいつの精神衛生上よろしくない気がする。
「む……パーティメンバーが起こしに来る事くらいは普通だと思うが」
「フス……(しっしっ)」
ハノンは人に好かれやすいのかね。俺を率先して起こしにくる奴なんて、生前は1人しかいなかったのによ。
というか、朝起きてこいつの顔面が目の前にあったら、ハノンが腰抜かしそうな気がするんだが。
……まぁ、契約獣として、主人のプライベートに踏み込ませすぎないのも仕事の内だ。ハノンを起こす仕事は、野営がありそうな依頼の時まで我慢してもらうとしよう。
「……やむを得ないか。下で待ってるから、起きたら来てくれ」
「フシッ」
結局、フロキアはため息をつきつつその場を後にした。
……というか、アイツノックとかしたんかな……。まぁ、深く考えるのはよそう。
俺が部屋に入ると、案の定ハノンは寝息をたてている。ベッドの中で、幸せそうに口元をゆるませている姿はなんとも起こしづらい。
「……うぇへへ……」
顔だらしねぇな。何の夢見てんだか。
ハノンは少し暑がりなのか、朝には布団の類ははだけており、時にはズボンを脱いでいる時もある。指摘はしているが、寝ている時の事を言われてもハノンとしちゃなんともならんと思ってそうだな。
今日は……ズボンこそ脱げきってはいないが、下着までずらしてるな。半ケツになってて思わず吹き出しそうになる。
いやぁ、ハノンの名誉のためにも、フロキアを入れないでおいて正解だった。
『おうハノン、朝だ。起きろ』
「んにゅ……んんん……」
『今日は訓練の後、スラムに行って、その後依頼だったろ。予定は詰まってんぞ』
俺とハノンがフロキアとパーティを組む前から、スラムの様子を見に行くのはちょっとした恒例になっている。
ハノンがお世話になった場所だからな。時々顔を覗かせて、皆を安心させて欲しいとスラムの人から言われてるのだ。こうした人の繋がりを見ると、ハノンには人タラシの才能があるかもしれんな。
「んうぅ……んにゅぅ~」
ハノンは身じろぎをしたあと、うっすらと目を覚ます。
俺を目視すると、少し目を合わせた後、抱き寄せてもふもふと顔を埋めてくるまでがパターンだ。
「んふぅ……」
『はいはい、毛玉を堪能したら起きて飯を食いに行くぞ』
ハノンの吐息がくすぐったいが、これをしておくとハノンの機嫌が良いからな。素直にやらせておく。
うん、やはりまだフロキアにやらせたらいかんな。……なんというか、絵が危ない。
「……おはようございます」
『おう、目ぇ覚めたか』
「……あと一刻だけ……」
『駄目だ。さっさと起きて飯! フロキアも下で待ってんぞ』
「あうぅ……フロキアさんを出すのは、ズルいです……」
ズルいもなにもねぇよ。
フロキアは後数日泊まるのが限界みたいだからな。一緒に飯を食う時間は大事だって事だろう。ハノンは素直に起きて、身支度を始める。
ここで下着が半分落ちてて頬を赤らめるから、再度気をつけるよう言っといた。
『もう一人で装備は問題ないな』
「あはは、流石に」
ハノンの着替えを見ながら、俺は安堵する。
冒険者の装備は手間取る物も多いからな。ハノンがそれに慣れたのは、いい成長だと思う。
最初は俺も、慣れない前足で手伝わされたもんだぜ。
『んじゃ、行くか』
「はいっ」
いつもの冒険者スタイルになって、ハノンは俺を頭に乗せる。ここもすっかり定位置だ。
部屋を出て、階段を降りるハノンの足音は……少しだけ、楽しそうに聞こえた。




