第44話:窮地と狂気(???視点)
どもどもべべでございます!
連続投稿連続投稿~。レビュー貰ったらブーストかかりますねぇ!
明日はドライアドさん書こうっと。
という訳でご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~!
グランアイン。
山岳や森、川など、豊かな資源に囲まれた町。
領主は心優しいと評判であり兵の練度も高い。冒険者ギルドも存在し、金貨級が6人いるという。
町の治安もけして悪くない。だが、良いとも言えないのが悲しい所と言えようが、それはどこの町でもあまり大差はないというものだ。
敵から攻め込まれ難く。守りやすい。そんな堅牢な町のイメージがあるが……内部に沈殿した膿を掃除することは、存外難しい。中規模な町故の、欠点と言えよう。
現に、ゴブリン大討伐の報告が領主に送られて数日経った今でも、現状は平行線であった。
「くそぅ、くそぅ……!」
貴族街の奥。本物の貴族が邸宅を構える区画にて。
一人の男性が、荒々しく前髪をかき上げた。最近生え際が気になるらしく、こういった動作は控えているとの事だが、今はそんな事を考えている余裕はないらしい。
「何が凄腕の暗殺者だ! 肩書に免じて飼ってやっていたというのに! 奴のせいでこの有様だ!」
男性が椅子を蹴り飛ばす。
それだけでスラムの家族が何週間か食っていける額の椅子だが、それを丁寧に扱おうという意識すらみられない。
まぁ、さもありなん。この男は、頻繁に探りを入れてくるようになった領主への対応で胃を相当やられているのだから。物にも使用人にも当りたくなるというものだ。
セゴー・テム・カムセ。それがこの貴族の名であり、唯一この男が持つ武器と呼べる肩書であった。
グランアインではそれなりに古株なこの貴族であるが、立てた手柄は皆無。家柄と姑息な根回しのみで生き残ってきた、ある意味で油断のならない古狸。
そんな彼が、ストレスで胃液が逆流しそうな程に取り乱しているのには、訳があった。
「ゴブリン共をけしかけて、領主の無能を糾弾するワシの絵が……! なぁぜワシの首を絞める!?」
わかりやすく、叫ぶ。
そう、今回のゴブリン大量発生の黒幕こそが、このセゴーであった。
ゴブリンに町を襲わせ、被害を出す。討伐が終わった所で、でっち上げた証拠を開示し領主を糾弾。
領主を蹴り落とし、自分がそれなりの地位につく……そういう絵空事を考えていたらしい。
ゴブリンはスラムの壁に穴を開けて先導させる。結果として、被害に合うのはスラムのゴミ共か下町の連中……貴族街には被害など及ばない。
まさに完全無欠と笑って、葡萄酒をくゆらせていたのが数日前……それが、何故こうなったのか。
決まっている。冒険者のせいだ。
冒険者の連中が、せっかく膨らんだゴブリンの群れを駆逐せしめたからだ。
いや、それだけならば痛打ではない。ゴブリンと自分に因果関係はなく、誤魔化しようはいくらでもあった。
しかし、しかしである。
ゴブリンを目撃した森人が、セゴーとゴブリンの関与の可能性を供述してしまったならば、話は変わってくる。
「クソッ……おい、酒だ! 酒を持ってこいっ!」
外で待機しているであろう使用人に向かって叫び、セゴーはドカリと机に腰を降ろす。椅子はなぜか部屋の端に転がっていたため、拾うのは面倒くさかった。
「森人がワシの部下へ、ゴブリンの報告に来たまでは良かったのだ……!」
そう、かの森人……ガジルデは、ゴブリンの目撃情報を、セゴーの買収下にある兵士に報告したのだ。
その兵士から報告を受け、セゴーはガジルデに罪を擦り付ける方向に画策した。
領主から森人などという役職へ堕とされた恨みで行動し、ゴブリンの報告をせず町を襲わせた下手人にしよう。そう思ったのだ。
故に、死亡時刻を調節するために森人を匿い、軟禁していたというのに……結果として、それが痛恨となった。
ガジルデは冒険者に救出され、セゴーの名で宿に泊まり、豪遊していた事を喋ったのだ。そして、暗殺者に狙われた事も。
因果関係を考えれば、その暗殺者が誰の手の者であるかは想像に難くない。そしてそこから、あのアルバートめがこちらをつつき始めたのだ。
今はなんとか領主からの問いかけも躱しているが……あの性悪なエルフの事だ。どんな手を使ってこちらを追い込んでくるかわからない。
セゴーの胃は、今や限界であった。ステーキも2枚しか喉を通らない。
「し、失礼します。葡萄酒を持って参りました」
「遅いわ愚図が! しかも赤ではないか! ワシは白が飲みたいのだ!」
「は、はっ、申し訳ございません! ただいま!」
「無能がぁ!」
使用人に当たり散らし、去った後の扉に机の上の小物を投げつける。
金貨一枚をはたいて買った、宝石を散りばめた馬の模型。それは哀れにも扉へぶつかり、その価値を無くし……
「っとぉ、勿体ないですぜ」
そうな所で、何者かに救出された。
先ほどまではいなかった男性だ。面長で、すすけた雰囲気だが整った容姿をしている。
鼻がやや低めなのが難点と言えようが、そこが良い感じに彼の個性を塗り潰し、凡庸な風貌にしてくれていた。
年齢は、およそ30代といったところか。整いつつも跳びぬけていない容姿は、誰かが彼を見てもふとした事で忘れてしまう要因になるだろう。
「き、貴様……! どの面下げて! というか、いつ入ってきた!」
「ちゃあんと玄関から、使用人さんと一緒に。……というか、どの面下げては酷いもんだ」
「貴様のせいで! ワシはかつてない窮地だ! 今すぐ責任を取って死ね! 死ねぇ!」
狂乱するセゴーを気にした様子もなく、男は手に持った馬を弄び、机まで近づく。
そして、恭しく彼を元居た場所へ送り届けた。
「あのねぇ……確かに俺は失敗しましたが、元はと言えば俺に警護なんてやらせたそちらのミスですぜ。俺ら暗殺者は御用聞きの兵隊じゃぁない。なんで悠長にあの森人接待せにゃあならんのですか」
「ワシに口答えするでないわ!」
「暗殺者は一瞬に生きてるんですよぉ。おかげでこっちも急ごしらえの手駒2つ持ってかれて、懐が寂しいのなんのって……まぁ、急ごしらえだったからあの森人に警戒されて逃げられたんですが。そこはそれ、あんたがこっちに出す金渋ったからですからね?」
へらへら笑う男に対し、セゴーの顔は茹でたジャイアントクラブが如き様相だ。
「ええい! もう貴様の顔など見たくもない! さっさとどこへでも消え失せろ!」
机を叩き、ドアを指差すセゴーだが、男は動じない。
逆に、鬱蒼とした泥のような視線を、セゴーに向ける。
「いいんですか? ……あんたの計画を頓挫させた、憎き冒険者の情報、持ってきたんですがね」
「……なんだと?」
この時、セゴーの精神はストレスにより極限まで荒んでいた。
そんな人間に、復讐の対象を伝えれば、どうなるだろうか?
反応は多々あろうが……少なくとも、この時のセゴーの答えは、こうだ。
「……誰だ……何者だ! どこにいる! そやつを捕らえ、なぶり殺しにせねば腹の虫が収まらん!」
結果、セゴーは自ら進んで虎の尾を踏みに行く。
否、兎の尾であろうかや。
「それでこそ、セゴー様ですよ……勇猛でいらっしゃる」
男は、笑う。
彼の瞳に映るのは、目の前の豚ではない。
あの時、自分に苦汁を舐めさせた、一羽の角兎であった。




