第32話:浴室にて
どもどもべべでございます!
こちらも一週間ギリギリのご投稿! すみませんもう少し頑張ります!
というわけで、ヒロインのいないお風呂回! どうぞ、お楽しみあれ~!!
俺達は、竜の息吹亭に帰ってきた。
同時に、フロキアはベローナさん相手に宿泊の手続きを取り始める。ベローナさんはフロキアを見ても警戒無く接してくれた。
これはありがたいな。この宿には悪意がある者がわかるという行為の魔法がかけられている。ベローナさんが警戒をしないというのなら、フロキアは俺達に対して悪意が無いという事だ。
つまり、これからある話ってのは、ハノンにとっても悪い事ではないはずだ。
「昼間から風呂だなんて、何とも贅沢な話だな……君のような新入りが、どうしてこのような宿に泊まれているんだい?」
「えぁっと……そ、それは……」
「まぁ、あんなにも強い角兎のを連れている時点でその手の疑問は無駄に思えるがね」
空気は読めても直球は変わんねぇか。裏表が無くて結構だが、ハノンを困らせるのはやめて欲しいな。
俺がジトっと睨みつけると、フロキアは肩をわずかに持ち上げてそれ以上の進言を控えた。触らぬ神になんとやらって奴だな。
2人で大浴場に向かい、ドアを開ける。ハノンは見てくれが女々しいから、あまり大浴場に入らせたくないんだが……まぁフロキアがいれば問題はないだろう。
そう思っていたが、どうやら昼に風呂に入るような奴は珍しいようだ。脱衣所には誰もおらず、また脱いだものも見当たらない。貸し切りだと思って良いだろう。
「ふむ、人がいそうならば個室にしようか相談するつもりだったが、これは都合がいい」
そう言ってフロキアは、着込んだ装備を脱ぎ始めた。
ちなみに、この宿は装備を入れておくロッカーなども置いてない。ここに来れてる時点で潔白が証明されたようなものだからな。
事実、この宿が出来てから今まで、盗みの類はつまみ食いしか起こった事が無いのだ。互いの信頼が成り立っている空間というのは実に心地いい。
フロキアの後に続き、ハノンもルンルン気分で服を脱ぎ始める。この生活に入ってから、すっかり風呂好きになってしまったな。
これ、速いとこ自立しないとここに依存しそうだな……どこかでデカく稼いで、小さいながらも風呂付の家とか買えたらいいんだが。
「……あの……」
「ん?」
ハノンは、フロキアをジッと見ている。
その顔には、一抹の不安。何やら心配事があるようだ。
「その……怪我、大丈夫でした、か?」
あぁ、なるほどな。
フロキアは、ゴブリン討伐戦で怪我を負っていたらしい。それが心配だったのだろう。
「あぁ、心配しないでくれ。腕と脚に傷を負ったが、教会に治癒の奇跡を使ってもらったからね。傷も残っていない」
「そ、そうですかっ。良かった……!」
「その安堵が素直に嬉しく思える。心配かけてすまないね」
「い、いえっ!」
うん、一安心だな。
確かに、こうして脱いだ後のフロキアを見る限りでも傷跡はねぇな。おそらく筋などに違和感もないのだろう。あったら体運びでわかる。
つまり、フロキアは五体満足であの戦を生き延びたって事だ。誇りに思っていいな。
……しかし、なんだな。
「では、先に体を洗っているよ。ハノンくん」
「あ、はい」
そう言って、フロキアは大浴場に入っていく。
いや、まぁわかるよ。あいつも線細いし、顔つきもむさ苦しくない。かなりの美形だってのはわかるさ。
しかし、だからって……なんでハノンと同じくらい危なっかしい感じの雰囲気出してんのかね、あれ。
次入る奴がこの2人見たら、男湯と女湯間違えたかと焦る事にならんか!?
「? どうしました、ヴォルさん?」
『いや、なんでもねぇ……』
言えるか。
お前ら2人が並ぶ光景が、周りにとって目に毒だと、どうして言えよう。
今度からこういう機会があったら、素直に個室を使わせよう……俺は堅く誓ったのであった。
◆ ◆ ◆
大浴場は、飾り気というのが特にない空間であった。
わかりやすく言えば、個室の風呂をデカくした感じである。
あまりゴタゴタしてても落ち付かないという、宿屋夫妻の総意で決まったそうだが、事実ここに入ればそれでよかったと思ってしまう。冒険から帰って、キンキラギラギラの風呂に入るのは流石に勘弁だと思う。
シンプルイズベスト。この宿は、とことんそれで良いのだ。
「ぁぁぁぁぅぇぇ……」
「ふぅ……」
「フスゥ……」
湯には疲れを解す力がある。
泡で清めた後の全身を、その抱擁感が満たした瞬間、人の口からは自覚しない恍惚が溢れ出すもんだ。
当然、それは俺ら3人でも同じと言える。ハノンに至っては脳みそ解けてんじゃねぇかってくらいにだらしない笑顔だ。
やや熱めの湯が全身を解していく。俺は何のかんので湯に入らなくとも別にいいというタイプの人間だったが、今では完全に風呂肯定派だ。
「きもちぃぃです……」
「そうだな、染みる」
フロキアが肩に湯をかける。
鍛えているくせに線の細い体を水滴が伝い、きめ細かい肌は水を弾いて吸収を良しとしない。
故に、水滴は適度にくぼんだ鎖骨に吸い込まれて行き、最後には大量の湯と一つに戻っていく。人体をわずかな時間でも冒険したかの水滴は、きっと仲間達に自慢話でもするのであろう。
少し浸かったハノンは、ゆらりと浴槽の淵に体を移動させ、その身を外気に晒す。
足を湯に浸したまま座ると、尻の肉が体重と淵の間で板挟みになり、その柔らかな質感を溢れさせる。こうして見ると、ハノンは腰から下が大き目で安定してるな。盾を使う者としては恵まれた体系だ。
手で頬を仰ぎつつ小さく息を洩らす。体が小さいハノンは、あまり長い時間浸かり過ぎるとすぐにのぼせてしまうのだ。
しかし風呂はギリギリまで楽しみたいらしく、こうして出たり入ったりを繰り返すようになった。これを5回程繰り返し、ようやくハノンは満足するのである。
少年特有の未成熟の体は、最近ようやく鍛え始めたばかりなので、まだ変化らしい変化は見られない。
しかし、少しながらも体力はついてきているのだ。もうしばらくすると、このうっすい胸板にもなんらかの筋肉的なナニガシがつくことだろう。
「ふへぇぇぇ……」
再度湯に戻ってきたハノンを、フロキアが見る。
そろそろ良いかな~という雰囲気を感じるな。ハノンがあまりにも幸せそうだから話しかけるタイミングを逸しているのだろう。そこは空気読まなくてもいいと思うんだが。
……仕方ねぇな。
『おいハノン。話』
「……あ」
俺の指摘により、ハノンもようやく本題を思い出したようだ。
「す、すみませんフロキアさん。……あの、お、お話しってなんでしょう……?」
「ん、もう堪能したのかい?」
「あ、だ、大丈夫です」
「そうか」
聞く体勢になったハノンを「ふむ……」と注視しつつ、フロキアは考える素振りを見せる。
少しだけ言葉を探しているようだ。
「……うん、単刀直入にいこう。ハノンくん」
「は、はい」
ズイっとフロキアの顔が、ハノンに近づく。
何を意気込んでいるのかは知らないが、ハノンが怖がってるぞ。お前ただでさえ無表情気味で少し怖いんだから、もう少し自重してやれ。
そんな俺の指摘は当然届く事はなく……フロキアは、次の言葉を続ける。
それは、ハノンの……そして俺でさえ、予想していない言葉であった。
「私と一緒に、パーティを組まないか?」
「『……はい(フス)?』」




