第29話:ごめんねと再結成
どもどもべべでございます!
想定してる第一章はこれでお終い!
でも、一つおまけというか、裏話があるので、次はアルバートに視線を移しましょう!
というわけでご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~!
俺達は、竜の息吹亭に帰ってきた。
黄昏時は既に過ぎ去り、周囲は暗くなりつつある。小さなこの宿は、暗がりの中に隠れてしまいかねないかと思われるやもしれない。
しかし俺達冒険者からすれば、そんなことは断じてない。どんなに死ぬ思いをしても、どれだけ手痛い失敗をしても、いつもと変わらぬ態度で迎え入れてくれるのがこの宿だ。
そんな竜の息吹亭の看板は、見るだけで俺らに安心を与えてくれる。
「ただいま戻りましたぁ……」
「おや坊や、おかえり! 丁度夕飯時だねぇ」
案の定、ベローナさんは快活な笑顔で俺達を受け入れてくれた。
息子にでも向けているかのような暖かい表情に、ハノンは頬を緩ませる。冒険者にとって、何よりも得難い瞬間が今なのかもしれないな。
しかし、飯か。
教会で傷を癒したとはいえ、疲労で体はボロボロの状態だ。胃が受け付けないという可能性もあるが……
「ご飯……」
瞬間、熱い鉄が何かに触れた時特有の快音が宿の奥から聞こえてきた。同時に、焦がしたバターの濃厚な香りが周囲を包む。
この音、この匂い……十中八九、今日は魚のムニエルだろう。
「…………」
クキュルルル……と、ハノンの体からコミカルな擬音が発せられる。
わかりやすく、腹の虫のストライキ活動だ。心配は杞憂の様である。
「はっはっは! 今日は風呂より先にご飯がいいかねっ」
「お、お願いします……お風呂入ったら寝ちゃいそうで……」
「へぇ、随分気張ったみたいじゃないか。そんなら、温かいポタージュスープもあるから胃をしっかり休めて食べなよ?」
「……は、はいっ(ごくり)」
もはやハノンの頭の中は、乳白色のとろみがある野菜たっぷりスープと半身をまるまる使ったムニエルで一杯になっていることだろう。
かく言う俺も限界だ。とりあえず、飯としゃれ込もう。
俺達は、灯に誘われる羽虫のように匂いの元へ歩を進めたのであった。
◆ ◆ ◆
「お腹いっぱい……そしてさっぱり……」
ほこほこと体に湯気を纏わせながら、ハノンがベッドに転がっている。食事と風呂を終わらせ、ご満悦といった感じだ。
ムニエルに使われていたのは、ジャイアントバスという魚だった。魔物でこそないが、適度な大きさなら陸上の動物すら飲み込んじまうような化け物魚である。
そんな大物、半身の更に半分でもありえない大きさになるってもんだ。食欲をそそる香ばしさを放ちながら、ジュウジュウと音を立てる大振りの身にナイフとフォークを突き立てた瞬間、魚の油が溢れてバターと絡み胃をぶん殴ってくる。
熱々のポタージュも最高だった。芋と乳をベースに具材がとろとろになるまで煮込み、器によそった後仕上げにチーズを投入するという暴力。
あえて硬く焼いたパンをそれに浸して食べた瞬間、口の中に広がるあの濃厚な味わい。疲れた体にじんわりと広がる暖かさ。まさにプライスレスだ。
2人とも、脳みそアホにしてガツガツいただいたさ。胃に隙間なんて作ってやんなかったもんな。
で、トドメに個人用の風呂で全身を労り、今に至るってわけだ。
「幸せぇ……」
「…………」
ハノンは、ようやく人心地ついたといった感じ。あまり蒸し返したくはないが……言うなら、このタイミングだよな。
『ハノン』
「ふぁい?」
『話がある』
俺の言葉に、ハノンはもぞもぞと起き上り、ベッドの上に座りなおす。
俺はベッドの横にあるテーブルの上だ。2人の視線が絡んだのを確認し、言葉を続ける。
『今回の依頼……正直言って、お前がやるべきものじゃなかった』
「は、はい……」
『俺の見積もりが甘かった。お前を想定以上の危険に晒してしまった。……すまないと思ってる』
角をテーブルに擦りつける。この体は、頭を深々と下げられないのがいただけないな。
『本当に悪かった!』
「……えと……正直、すごく怖かったんですけど……」
そうだろうな。相手は正真正銘の暗殺者だ。
たとえ銅貨級でも、あの3人を相手にはできない。3人というか、あのリーダー相手にって感じだな。
「途中まで、は……うん、いい感じでしたよね。ポイズンモスは僕らなら危険ない相手でしたし……ゴブリンは、その、フロキアさんを助けるためには仕方ない、と思います……人探し、も……まぁ、盗賊ギルドは怖かったけど、勉強になりましたし……」
『あぁ、そんなことをせず、アルバートに直接頼んで訓練所を借り、基礎を叩き込んでから依頼を受けるべきだった。……盗賊ギルドにも、本当ならもう少ししてから行くつもりだったんだが、あそこ以上に裏に詳しい場所もなかったから、頼らざるを得んかった……』
「あ……ヴォルさんが言ってた情報屋って……」
『あぁ、あいつらの事だ』
大掃除は、装備を整えるためにはやむを得ない話だったが、それ以外は完全に勇み足だ。
俺は結局、ハノンのペースを考えてなかったって事である。
何がベテランだ。後輩の成長を考えずに突っ走るなんぞ、人として最低である。
『冒険者を続けたくなくなったなら、正直に言って欲しい。俺が責任もってアルバートに話を通す。……詫びにもならんだろうが、筋は通すつもりだ』
「え? い、いえ、その……!」
俺の言葉に、ハノンは慌てたように手をばたつかせる。
言葉を自分の中で探し、必死になって紡いでいく。
「その……確かに大変でした、けど……ヴォルさんのミスは、その……僕らを2人組で逃がしたって、とこだけ、じゃないですか?」
『…………』
「貴族街に疎い2人だから、あそこまで話がこじれた。もしそうでなければ、フロキアさんをゴブリンから助けて、ガジルデさんも助かって、僕も無傷だったかもしれない……でしょ?」
『だいぶ軽く見積もってるが……』
「つ、つまり! ヴォルさんの反省点は、僕を離したって事! なんです……」
お、おう?
そうなる、のか?
「ゴブリンの件も、今回の依頼の件も、僕は……2人の命が助かったから……良いと思います。町もその、情報のおかげで助かったみたいだし……万々歳、ですよ」
『あぁ、だがそれは……』
「結果論っ、でも、僕は嬉しかったです。僕なんかが、誰かの命を助けられるのが……」
だから、と、ハノンは続ける。
その瞳を真っすぐ俺に向けて、口元に力を込めて。
「だから、これからもヴォルさんには、僕を鍛えて欲しいんです。いつか……ヴォルさんがヴォルフガングさんに戻った後も、僕が誰かを救えるように……」
『ハノン……』
「冒険者を辞めたいとは、思ってません……怖かったけど、その、結果論だけど……すごく、満たされたんです。僕……冒険者を続けたいんです!」
あぁ。これは、勘違いだ。
自分が誰かを救えるという、勘違い。
しかし、えてして道というのは、その勘違いから定まってしまうことが多い。
そして、その勘違いがけしてそうじゃないと確信して初めて、人は大成する。
ハノンは、賢い子だ。自分が何かを成したいと思った以前に、何度も自問を繰り返したに違いない。
そして出した結論がこれならば、俺からはもう何も言うまい。
俺が元の体に戻るまでの間、この愚直な若者を導くこと。それに徹するのが一番だ。それが何よりの償いになろう。
『……わかった』
俺は、小さく笑う。
ハノンの目を真っすぐ見て、宣言する。
『任せろご主人。お前をこれから、何段階も先に連れてってやる』
「お、お願いします!」
『だったら、次は訓練だ。今回の依頼で訓練所を使えるだけの金が間違いなく入ってくるからな。しばらくはそこで徹底的に鍛え上げる!』
「は、はい! ……そ、それと、ですね」
『あ?』
俺の話が一区切りするのを待っていたのだろう。ハノンもまた、姿勢を正して俺に向き直る。
少しの勇気で一歩踏み出したような、そんな表情だった。
「その……僕の、目的、なんですけども」
『……あぁ、言って良いのか?』
「はい。他ならぬ、ヴォルさんになら」
ハノンは少しだけ沈黙した後、言葉を紡ぐ。
「その……故郷の情報が、知りたいんです」
『……東の情報が知りたいって、それで言ってたのか』
「そう、ですね。はい」
『でも、俺にも今まで教えなかったって事は……』
「……故郷はおそらく、滅んでいます」
……そうか。
随分と辛い話だ。どんな経緯があったにせよ、滅んだ故郷の話をおいそれと語ろうとは、せんだろうな。
「その……滅んだ、というのは、理解できてるんです。……けど、生き残りがいない、とは……理解したく、ないもので……」
『それで、情報屋に調査してもらいたかった、と』
「はい……」
俯くハノンの顔色は、少年が背負うには重たいものを感じさせる。
……どこの国の生まれだとか、そういうのはおいおい聞くか。一気に話すには辛い内容だろう。
『わかった。そこんとこの話は、後日にしよう。……今日はせめて、じっくり休め』
「ヴォルさん……」
ん、と前足を広げてやると、ハノンは素直に俺の腹に顔を埋めてくる。
何かを決心し、言いたくない事を語った少年の体は、恐怖を思い出したのか、少し震えていた。
その頭を撫でつつ、ベローナさんが枕元に置いてくれたであろう角カバーをつけておく。これなら寝てる内にハノンを傷つける事はないだろう。
『おやすみ、ハノン』
「……おやすみなさい、ヴォルさん」
その後。
いくつかの馬鹿話で小さく笑い合っていたものの、ハノンは疲れも限界だったんだろう。俺を抱いたまま、小さく寝息を立て始めた。
この少年の生い立ちが、改めて気になってくる。しかし、それを知ったとして、今の俺に力になってやれるのか? そんな疑問も湧いてくるのだ。
『……元に戻るまでの間、鍛える……か』
まぁ、結局はそこに落ち着くんだろう。
ハノンが東の情報を掴んだとして、そこへ行きたいと言うのか、はたまたここで冒険者を続けたいと言うのか。
その時俺は、ヴォルとして行動するのか、はたまた、ヴォルフガングとして協力するのか。
正直、いつ元のヴォルフガングに戻れるのかは、わからない。本当に元に戻れるのかも怪しい所だ。
だからと言って、諦めるつもりもないが。
『……寝るか』
選択肢が増えない限り、答えは出ない。今の俺じゃあ、結局はハノンの味方をしてやれても、守り通せるかはわからない。
ならば、まだハノンを町から出せる時じゃないって事でいいな。
ひとまずは、アルバートの報告を待つしかない。じっくり焦らずいこうか。
そこまで考えて、瞳を閉じる。
薄れゆく意識の中、ハノンの温もりだけが、俺に現世を感じさせていた。
結構大幅な改稿ですね。
ハノンくんの目的と、パーソナルについて触れています。
この辺は、後から一気にババん! と出すつもりでした。今思うと、伏線が微妙過ぎてダメな感じですね。
しかし、この辺りでハノンくんを掘り下げて、ヴォルさんの目的とかとで情報過多になってないか、とかも不安があります。
さてさて、どちらがバランス良いんでしょうね。
でも、これでハノンくんの目的ははっきりしたかな。
滅んだであろう故郷の情報を知る。そして、生き残りが居たら会いたい。
その為に、、ヴォルさんに協力してもらう、と。ハノンくん程の非力な存在が、どうやって国をまたいだかは、また後日という事で。




