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第27話:生還

どもどもべべでございます!

ハノンくんはこれにてようやく、成長の兆しを見せ始める段階に立てますねぇ。

俺達の冒険はこれからだぜぇ!

というわけでご投稿! どうぞお楽しみあれ~!

 

 貴族街の路地裏は無駄に広い。その事実が俺を非常に苛立たせる。

 昔はこんな感じじゃなかったのにな……無理矢理な工事をしすぎだぞ領主。そんな事を憤りつつも、足は止まることなく角を曲がる。


 ハノンの匂いと血の匂いは覚えた。血痕も見つけた。だからそのまま追ってるんだが……あいつら同じ場所をグルグル回ったり、より奥に逃げ込んだりして全然脱出できてねぇ!

 ここも俺のミスだなぁ……魔物とばかり戦ってて、後進を育てる事をしてこなかったつけが回ってきたってことか。

 アイツのできる事と、出来ない事をよく見て行動させるべきだった。


「っ!」


 ハノン達とは別に、この短い時間の中で覚えた匂いが三つ。

 その内の1つが、どこかへ消えたのがわかる。あのリーダーの男だ。

 ……考えられるとしたら、匂い消しを使ったか、もしくは……この場から離脱したか。

 この場から離脱したと考えるならば……


(作戦の遂行が不可能と判断した可能性、か)


 俺のこの判断を裏付けるかのように、1つの影が見えてきた。

 なにやら網のようなものに絡めとられ、動けなくなっている男だ。

 腕には傷を負っている。間違いなく、あの部下だろう。


「チッ、もう少し……!」


 網はややねばついているものの、抜け出せない程ではないらしい。男の呟き通り、もう少しで網から抜け出せそうだ。

 ならば、仕方ない。もう一度眠っててもらおう。


「フシッ……!」


「あ? な、おま……!?」


 俺を視界の端に捕らえたのだろう。男はギョッとした顔でナイフを構えるが、遅い。止まってる暇も無いし、眠ってもらおう。

 足に力を込め、斜め前に飛び視界から消えてみせる。一瞬対応が遅れた男の隙を突き、更に壁を蹴って背後へ。


「フッ!」


「あが……!?」


 着地と同時に男の頭部まで跳躍。足から流れる鮮血が弧を描くように、理想的な回し蹴りを決めてやる。

 男はその瞬間に前へ吹き飛び、動かなくなった。


(これでよしっと)


 空中で進路方向を見据えて着地し、再スタート。足の痛みは無視だ。

 ふむ……あの網、ポイズンモスの糸だな? ってことは、ハノンが糸を使ってコイツを足止めしたのか。

 おそらくガジルデの協力もあっての事だろう。糸の粘着力を摩擦熱で抑え、ばらけさせるように加工してある。


 装備として加工する際には煮込むなどして粘着力を落とすあの糸は、中途半端な熱だとあのように網として使えるようになるのだ。それを知ってるとすれば、狩人のガジルデに他ならない。

 アイツら……やるじゃないか。俺なんぞよりも余程立派な成果だ。


「っ」


 アイツらの後を追うように走っていたが、不意に異物が混ざり込んだ感覚を覚える。

 この匂いは……もう一人の部下のものだろう。

 ハノンとガジルデの進行方向と同じ処から漂ってきた。接触したのかまではわからんが……なんにしても急ぐしかねぇな!


「い、行きましょう。早く人のいる場所に……」


 聞こえてきた。この声はハノンだ。

 最後の角を曲がる。ほんの少し先に、二人の背中が見えた。

 しかし、俺の焦燥は収まらない。二人が曲がろうとしているT字の向こうで、息を潜めている者の気配を察したからだ。


「フシッ!」


 こういう時、兎が声を出せないのが悔やまれる。鼻から抜けたような鳴き声では、大きさが足りず気付かれない。

 このままでは、どちらかがやられる。脚が使いもんにならなくなるかもしれんが……背に腹は代えられん。

 俺は【身体強化】を発動し、一気に跳躍。壁を三角飛びに3度程蹴り、塀を飛び越えた。

 っ、流石に痛ぇ! 角兎ホーンラビットの耐久じゃあ、怪我した部位を強化したら相当ダメージが来るな!


「あ――――」


「ひっ」


 だが、痛い目を見た甲斐はあった。

 体が落下を始めた時は、2人の頭上だった。否、3人か。

 部下の男がナイフを構え、ガジルデに刺突を繰り出そうとしていた。しかし、その顔は唖然としている。

 何故か? 俺と目が合ったからだろう。


 攻防は、一瞬。男はガジルデから俺に狙いを変え、ナイフで迎撃しようとする。

 対して俺は、落下の勢いのままに角を振るい、男の手の甲を打ち付けた。

 男の顔が歪み、ナイフを落とす。手を払った衝撃で、一瞬だけ滞空時間が伸びたのを利用し、俺はその隙だらけになった腹に、無事な方の足を食い込ませた。


「あがぁ……!?」


 男は吹っ飛び、力無く倒れ込む。

 呼吸をしようと必死になり、悶絶と共に気を失ったのが見て取れた。本当に、ギリギリだな……


「……っぷは! は、ひぃぃ!? し、死んだと思っただよぉぉ!」


「ガ、ガジルデさん!」


 ハノンは……怪我こそしてるが、無事か良かった。


『っぶねぇ……なんとか間に合ったな』


「ぶぉるざぁぁん!」


『ぐふぅ!?』


 ハノンに飛びつかれ、俺がまるで敷物のように地面にへばりつく事になった。脚がめっちゃ痛いんだが……まぁ、怖い思いさせちまったからな。我慢しよう。


『すまなかったなハノン。危ない目に会わせちまった』


「いえ、いえっ……助けてくれて、ありがとうございます……!」


『おう、だが油断はするな。もう少しで人通りのある道に出る。そこまでは気を張っておけ。な?』


「は、はい!」


 頭をさらりと撫でてやる。必死に走り。汗と埃で汚れた髪だが、それはこいつの努力の証だ。

 立派だぜ、ハノン。


「ガジルデさん、もうすぐ出口だそうです……! 立てますか?」


「お、おう! 助かった! オラ助かっただ!」


 うん……うん。やはり、これ以上の気配はないな。

 あのリーダーは、離脱したと見て良いだろう。引き際をわきまえてるってこたぁ、今回ガジルデを殺そうとした推定貴族の直属って訳じゃねぇのかね?

 ま、それは後で考えよう。


「こっちでいいだか?」


「です、か? ヴォルさん」


『あぁ、そっちでいい』


 俺達は、互いの怪我を庇い合うように歩き出す。

 進む事、わずかな時間。

 入った者を飲み込むかのような隠遁とした空気はその場から消え失せ、ざわめきが満ちる人通りに俺達は戻ってきたのであった。


「あらっ、さっきのボクじゃない!?」


「怪我してるわ! 何があったの!?」


 路地裏から喧騒が聞こえた事で、人が集まっていたのだろう。俺達に話しかけてきたのは、聞き込み時に出会った姉ちゃんたちだった。

 この辺、あの店に近かったんだな。


「え、えと……失礼します。冒険者、です!」


 ハノンは、冒険者カードを見せて全員に通達する。

 その顔はまだ緊張こそしているが、責任を全うしようとしている男の顔だった。


「現在、路地裏で殺傷事件が発生、しました! けして現場には……ち、近づかないようにして、その、警らの人とか、呼んでくれませんか?」


「っ、わ、わかったわ!」


「あ、いや大丈夫! もう呼んだって言ってたわ! もうすぐ来ると思うっ」


「そ……そう、ですか」


 その言葉を聞いて、ハノンはカクンと膝を折った。俺とガジルデが慌てて支える。


「ヴォルさん……」


 頬をひくつかせており、安堵と恐怖が混ざったような表情になっている。

 無理もない。それだけの死線を、こいつは抜けたのだ。まったくもって、自分に腹が立つ事だが。


「ヴォルさん……僕、生きてます……」


『……あぁ。すげぇ奴だよ、お前は』


 その後。

 駆け付けた警らによって男たちは拘束され、俺達は教会で治療される事となった。

 ガジルデは冒険者権限により重要参考人としてハノンが身柄を確保。今後の情報を伝える事を条件に行動を共にする。

 ハノンが冒険者となって、三つ目の依頼。

 その依頼は、こうして無事に遂行されたのであった。

 

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