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第13話:噂のアイツ

どもどもべべでございます!

なんとか一週間以内にご投稿~! どうぞ、お楽しみあれ~

 

 冒険者ギルド。

 グランアインの治安と経済を守る片翼を担うこの施設は、今日も今日とて依頼に奮闘する冒険者達で賑わっていた。

 既に空が赤らみ始めている故、ここから依頼を受ける者は少ない。せいぜい、明日の依頼をキープする者か、深夜の依頼を受ける者くらいだろう。

 では、何故こんなにも賑わっているのか? 言ってしまえば情報収集である。


 ギルド内にある軽食専門の休憩所、そこが賑わうのがこの時間帯だ。自分たちが集めた情報を金として売り払う者や、その筋の情報屋からモンスターの情報を買い取る者。単純に飯食うだけの者など、様々な思惑で人が集まっている。

 そんな中、一人の男性冒険者が硬いパンを噛みちぎりながら、パーティメンバーに話しかけたのが事の発端だった。


「んぐ、んぐ……ほういやさ、あの【詐欺依頼】、受けた奴ってどうなったんだ?」


「あぁ、あの依頼ね」


「私しらな~い」


 詐欺依頼。その言葉をこの空間で宣うあたり、将来有望な大物か人生破綻希望者のどちらかと言えようが、事ここに至っては男性の失言は流されたらしい。

 それは、ここにいる全員がその依頼に対する評価を認めているからに他ならない。


 その詐欺依頼の名は、【スラムの大清掃】。

 役所の小遣い稼ぎとして無理矢理気味に張り出された、文句なしの詐欺依頼である。


「たしか、ちっせぇ女が受けてたよな?」


「え~? 男じゃないっけ?」


「いや、兎が持ってったって聞いたぞ」


 この詐欺依頼。何が酷いって、重労働の上で儲けがまるで出ない事にある。

 スラムでも掃除を見放された、どろどろの公衆便所。これを清掃せねばならないのだが、期限は依頼を受けた1日のみ。

 時間になったら問答無用で役所の職員が確認に来て、査定をしに来るのだ。そして、その結果に見合った報酬を出すのである。


 最大で銀貨40枚、破格の数字と言えるが、冒険者側に入ってくるのはこのままの数字ではない。

 まず、報酬はパーティ単位で一律銀貨40枚。これはまぁ、あり得る話である。4人で受けても銀貨10枚というのはそこそこの実入りだ。

 しかし、この3つの公衆便所は病気の危険性があるという。ならば、神殿で病気予防の加護を貰うのが一番安全だ。


 なれど、その加護は銀貨10枚もするというから驚きである。4人で依頼を受けたら、これだけで報酬は吹っ飛ぶことになる。

 ならば3人、2人で受けたとしよう。そうなると当日までには間に合わない可能性がある。

 その場合、当然最大報酬の40枚からは引かれてしまう。加護を貰っていたならばこれもまた、大した儲けにはならない。


 結論。この依頼で儲けるには、1人で、加護もなしに、全ての便所を掃除するしかない。

 そんなデスロードを受ける冒険者がいるはずもないのである。故に、詐欺依頼。

 この依頼は過去に何度か貼られているが、それを受けていたのはほとんど、金貨級のハゲがボランティアでやっていたと聞く。


「ふん……大方、報酬だけを見て飛びついた初心者だろう」


 ふと、会話をする3人組の後ろで紅茶を嗜んでいた一人の冒険者が声を上げる。

 3人組がそちらに視線を移すと、そこには茶褐色の髪をショートにまとめた、見目麗しい青年がいた。

 装備からして戦士職だろうか。細身のレイピアを腰に下げており、動きやすさを重視したエンチャント付与済みレザーアーマーを着込んでいる。

 アルバートのように切れ者風の美形といった雰囲気ではないが、どこか色香を感じさせる麗人だ。


「金を渋って加護もつけずに現地に赴いたならば、この町が危険に晒される。どこかに感染する前にそいつを特定して、隔離した方がいいんじゃないか?」


「フロキアさんもそう思うっすか?」


「まぁ、普通はそう思いますよねぇ~」


 麗人の名は、フロキア。

 訳あって詳細は省くが、立ち場としては銅貨級の冒険者である。しかし、噂ではあと数回の依頼で銀貨級とまで言われていた。

 いわゆる、ここ最近で頭角を現してきた、若きエースという奴だ。


「それに、たった1人であの区画を掃除できるわけがない。中途半端な所で泣きを見せて放り投げたに決まってるよ」


「はっは! 違ぇねぇですね!」


 フロキアの言葉に3人組がごますりながら同調する。

 しかし、それを良しとしない者が一人だけいた。


「あの子、全額貰ってたよ」


 受付カウンターの方角から声が飛んでくる。4人……と言わず、その話を聞いていた者全てが、そちらに視線を移した。

 そこには、身長2mに届かんとする、大柄な女性がいた。

 身長と同じく大きな瞳、凛とした鼻立ちに、大き目の口は笑みを作っている。黒の長髪を後ろで結わえ、肩甲骨あたりまで伸ばしている女性だった。

 装備からして、僧兵ウォリアーモンクといったところか。神の加護を使う事が出来、かつ冒険者としても活動しているという貴重な存在である。


「あ、アマネの姐さん!」


「だぁれが姐さんだい! 変な噂になるからやめなっつってるだろう?」


「いや、それはもう遅い気がするんですけど~?」


 アマネと呼ばれた僧兵は憤るが、3人組の反応も仕方ない。

 小鬼隊長ゴブリンリーダーをタイマンでぶちのめした経験のある銀貨級冒険者の噂など、そうそう消せるものではないのである。


「それよりも、アマネ。先ほどの話は本当なのかい?」


「フロキア。目上の人間にゃあ【さん】をつけな」


「私よりも立場が上ならそうするけどね?」


 銀貨級と銅貨級が一瞬にらみ合い、周囲は緊張に包まれる。

 しかし、どちらともなくいさかいの気配を緩めた事で、この場は事なきを得た。明らかにほっとした雰囲気の3人組が妙に人間味を感じさせてくれる。


「はぁ、本当も本当さ。アタシはずっと見てたからね……耳揃えて銀貨40枚、しっかり受け取っていたよ」


「信じられないな……あの依頼を損失無しでこなしたって事かい? なおさら隔離すべきじゃないか。絶対に病気を貰っているよ」


「いいや、あの子は見たところ従魔師テイマーさね。角兎ホーンラビットをお供に連れていたよ」


「……なるほど」


 どうやら、ハノン達を見ていた女冒険者は彼女であったらしい。

 流石は銀貨級といったところか。少年の見た目や角兎の存在で推測を確信まで昇らせ、こうして発言しているのだろう。

 そして、角兎と契約しているという点で納得しているフロキアもまた、冒険者としての知識はしっかりあるようだ。


「それにしても解せないけどね。契約しているのが角兎なら、人手にはなりえない。どういうカラクリで、あの公衆便所を全て掃除したのやら……」


「え~? 角兎が手伝ったんじゃないですか~?」


「バッカ、角兎なんてお前くらい馬鹿で雑魚なんだぜ? 頭数に入んねぇよ」


「むかっ、なによぅなによぅ」


 事実としてその通りであり、作業の半分程をあの角兎もこなしているのだが、それに気づく者はまずいないだろう。

 そんな極論、人間とスライムの交配でスライム娘が出来上がると声高々に表明するのと同義である。


「アタシはその後すぐに依頼に出向いたから、これ以上の詳細は知らないけどねぇ。涙流しながら初めての報酬って言ってたあの子を、変に疑いたくはないもんさ」


「……私は気に入らないな」


「ちょっかいかけるんじゃないよ?」


「前向きに善処するよ」


 話はそれで終わったらしい。アマネは肩をすくめて仲間達の元へ向かい、依頼終了の手続きを行うつもりのようだ。


「……さ、さ~て! 俺らも飯食ったし帰るか~?」


「そ、そうだな」


「帰るって言っても、スラム近くの安部屋だけどね~」


 この空気が居たたまれなくなり、3人組も立ち上がる。

 しかし、この3人組は受難の相があるのだろうか? 胃痛になりそうな展開はまだまだ続く。


「し、失礼します~……」


「フスッ」


 3人組が立ち上がった瞬間にギルドに入ってきたのは、角兎連れの少年冒険者。

 エンチャント付与済みのローブに身を包み、背中には銀の盾を背負っている。肩から通した小さなバッグは、異次元バッグだろうか?

 男にも見え、女にも見えるなよなよしい風貌。そして再三言うが、角兎を連れている。

 間違いなく、噂の銀貨40枚荒稼ぎ小僧であるのは間違いないと言えた。


「……」


「「「ひっ」」」


 ガタリと、3人組の後ろで音がする。

 油が切れたブリキのおもちゃのように3人組が振り返ると、案の定フロキアが立ち上がっていた。

 その瞳は、まっすぐに少年冒険者を見つめている。


「あ、あの、フロキアさ……」


「バッカおめ、やめろっ」


「ねぇ帰ろう? 帰ろうよ~」


「あぁぁ……行っちゃった……」


 フロキアを見ていた3人の視線が、少年冒険者の方向に泳いでいく。なんでってそりゃ、フロキアがそっちに行っているからに他ならない。

 受付では、アマネがげんなりとした顔でため息をついていた。


「やぁ、こんにちは少年。私はフロキアと言う者だ」


「ふぇ!? は、ぁ、ど、どうも……ハノン、です……」


 フロキアの視線が一方的にハノンを舐め、ハノンはちらちらと周囲に視線を逸らす。

 そして、ちらりとフロキアと視線を合わせた後、下を向いてもじもじし始める。そんな様子に、フロキア以外の冒険者諸君はなんかほっこりしてしまっていた。


「結論から言わせてもらおう。君は冒険者を辞めた方が良い」


 だが、そんなほっこりムードは、空気読めない系イケメンの渾身の一振りにより、全力で粉々に細部に至るまで粉砕されたのであった。

 

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