第124話:変態に襲来
どもどもべべでございます!
すみません、期限を過ぎてしまいました……そして仕事に行ってきます!
あばばば、お楽しみあれー!
「ちょっとだけ! ちょっとだけだから! 痛くしないから!」
「いやぁぁぁあ! た、助けてぇ!」
領主の娘に衣装をひん剥かれようとして、生娘のような悲鳴を上げる銅貨級冒険者。
うん、なんだこの絵。
見た目が女同士っていうのも変な違和感だが、内情を知ってるこっちかたしてみると危うい気配しかしない。正直事案だ。
「せっ」
「おふぅっ」
そろそろ本気で蹴りを入れてやろうかという気分になっていたが、それよりも前にオリーベルの背後に近づいていたアノンが、首チョップを食らわせて鎮圧してくれた。
解剖前のカエルみたいな感じに崩れ落ちる御貴族様の表情は、どことなく幸せそうな様子で……正直キモイ。美人なのにキモイ。
「ふ、ふふ……! 四肢の力をもぎ取る絶妙な衝撃。流石ですね、アノンさん……」
「オリーベル様、何をしてるのかな? 邪魔をしないと言うからこうしてレッスンの見学を許してたのに」
「いえ、どうにも彼は、全力で舞っていないと感じてしまいましてね! まるで、何かに操られているようです」
うお、こいつヘナという存在を知らないくせして、その辺りに違和感を感じてるのか。
着眼点や観察眼には、優れているらしいな。
「個人的には、その辺りに興味も意味もないのでどうでもいいです。昨日みたくエロの権化に戻られても困るのでっ」
「あのエロさこそあの子の魅力だったのでしょう!? それを伸ばさなくてどうするんです!」
「気持ちはわかりますが、彼は明日のパレード限定の助っ人ですから意味ないんですよっ」
「彼!? 今彼と言いました!? つまりそういう事なんですねうぇへへへっ」
「う、うわぁぁっ、バレちゃいけない人にバレた気がしますアノンさんっ」
「あ~……ごめんねハノンくん!」
こ、こいつ、本当にオリアンティと姉妹なのか?
清廉潔白なあいつと比べて、欲の煮凝りみたいな性格してるんだが。
「ハノンさん! 助っ人だけだなんてもったいないです! 貴方には才能がありますっ」
「ひぃ!? 関節可動域を無視した起き上り方しないで……!」
「はぁ、はぁ、こ、こんなにカワイイ子が女の子なはずが無いですもんねっ! 男女の間柄なら色々と法的な許容範囲が広がりますもんね!」
「ひぃぃ! 欲望が垂れ流しになってる……!?」
「フスッ」
「目がっ!」
収拾がつかなくなってきたので、前足でモフッと目を潰してみた。
オリーベルが後ろに倒れたので、顔の上に座って行動を封じる。傍から見たら小動物の戯れだし、こいつの性格は大体把握したし大丈夫だろ。
「んぶぅぅ! もふもふもふ……!」
「すまない、彼女を落ち着かせるために休憩という事にしていいかい?」
「は、はい……」
「流石に貴族だから、護衛として君も一緒にいないといけないのが難点だよね。仕方ないから着替えてもらって、クールダウンしてもらおうか」
結局、この暴走が原因で午前のレッスンは終了となった。
ハノンはいつもの装備に着替え、オリーベルの傍につく。オリーベルの視線がハノンに突き刺さっているが、俺が鼻を鳴らすと慌てて目を抑えてぶんぶんと首を振っていた。牽制は成功しているようだな。
「あぁ、でもさっきのモフモフも大変捨てがたく……」
おいコイツ無敵かよ。
俺にまで発情した視線を向けるんじゃねぇ。
「……フスッ」
「フシッ!?」
そして柔兎の嬢ちゃんまでくっついてくるのは止めようか!
なんなの? ヤキモチなの? 可愛い事するんじゃないよっ!
「はぁ、とりあえずオリーベル様の発散のために、少しだけ町をぶらつこうと思います。ハノンくん以外を目の保養にして、色々と抜いておいてください」
「アノンさんとハノンくんの耳たぶを交互に舐めたいです」
「スポンサーだからって暴力に打って出ないと思うなよ」
ひとまずこの淫魔を隔離するために、劇場から出る事にする。
このままここにいたら、団員にも被害が及ぶかもしれんからな。
「……ハノンくん、少しいいですか?」
「ひっ」
「大丈夫、まじめなお話しですよ」
劇場を出た所で、オリーベルから話がかかる。
またろくでもないことかと警戒するが、どうやら本当にマジメな話らしい。目がマジになってるからな。
しかし、手が微妙にハノンに触れそうになってるから警戒しておこう。……嬢ちゃんの過激なスキンシップに意識を持って行かれなければだが。
「貴方は、冒険者なのですね? こうして私の護衛をしてくれていますし」
「え、えぇ、銅貨級です……」
「なるほど。……転職する気はありませんか?」
「え?」
「本気で、劇団に入りませんか?」
おいおい、何言ってんだ。そう思って目モフの姿勢に入るが、オリーベルの雰囲気に体が止まる。
その気配が、俺たちの良く知っている、オリアンティに酷似していたからだ。
「ご、ごめんなさ……」
「貴方には才能がある。絶対にエースになれます。私は貴方の為に、金銭面的な支援をする覚悟もあります」
「えぁ!? そ、そんなこと言われても……!」
アノンは……止めないな。
まぁアノンの立場的に、ハノンを取り込めるならそれはそれでよしって事か。
しかし、いきなりパトロンにまでなろうなんて言い出すとは思わんかったな。
「お願いします。この劇団には、貴方が必要です」
「い、いや、僕は……!」
正直、ハノンがこの話を受ける事は無いと思う。
ハノンの目的は、確かにこの街にいれば完遂できる事だ。故郷の生き残りも見つかるかもしれんし、パトロンがいれば風呂付一軒家くらい訳ないだろう。
しかし、俺がいる。俺が人間に戻るまで、ハノンは責任を全うしようとするだろう。
正直、俺という存在が足かせになってるのが、心苦しくはあるんだが……。
「すみませんっ、僕、まだやる事があるんです……!」
「では、そのやる事が終わったらフリーと考えて良いのですね?」
「え? あ、それは……」
「今すぐにとは言いません。一考の余地があるなら、いつでも私の家を訪ねてください。ずっと待っていますから」
「うぅ……!」
ハノンが押し負ける。そう思ったその時だ。
「う、うおらぁぁぁああああ!!」
「「!!」」
いきなり、奇声を上げた男がこちらに突っ込んできた。その手には、短刀が握られている。
咄嗟に動くが、距離が近い。色々な事に気を取られ過ぎた! ここまで接近を許すとは!
「っ」
俺よりも近いハノンが、オリーベルの前に出る。
盾は背中……しかし、服の中に入っていたヘナが飛び出し、一瞬で盾の姿に変貌した。
「なぁ!?」
その姿に驚いた男は、咄嗟に短刀をハノンに突き出す。
しかし、ヘナはその短刀をものともせずに受け止め、逸らすことに成功していた。
男がバランスを崩す。後は、ただ蹴ればいい。
「がっ」
俺の蹴りを首に受け、男は声を上げる間もなく崩れ落ちた。
「ふぅ……」
「あ、ありがとうございます。助かりました……」
「い、いえ!」
周囲の人々が警らを呼び、場が騒然としていく。
しかし、これは……どういう事だ?
今の男は、オリーベルを狙っていなかった。
あの剣先は、アノンかハノン、そのどちらかを狙うか迷っていた。
貴族を狙っての暗殺ではない。つまり……盗賊ギルド側の案件という事だな。




