第117話:貴族の家系(オリアンティ視点)
どもどもべべでございます!
超ギリギリでの投稿……でも一週間は過ぎてしまった。
頑張ろう……では、お楽しみあれー!
木々が視界を遮り、まるで憂さばかりのこの世を見えないようにしてくれているかのような空間。
小鳥がさえずり、華やかな柄の蝶が舞う。動物たちは皆、生存競争など忘れていまっているかのように穏やかな姿を見せてくれています。
まさに、そこは楽園と言える場所でした。
「ごめんあそばせっ」
「「!?」」
そんな動物たちを蹴散らしつつ、私は姿勢を低くして茂みに突っ込みました。はしたないのはご愛敬というやつですわ。
うっそうと生い茂る草木が、私の頬を擦ります。薄皮が切れたようですが、無視ですわ、無視。
静かに息を潜め、呼吸を殺します。自然の一部として溶け込むために、ドレスも緑にしましたの。でなければ、見つかってしまいますから。
姿勢は低く、いつでも飛び出せるように。少しでも追手の気配を感じたら、小声で詠唱できるように気を張って。
「いたか?」
「この近くにいるのは確実です」
「文字通り、草の根をかき分けてでも見つけ出せ。そして必ず捕縛しろ。いいな」
「「はっ」」
……手が早いですわね。相手は既に、この付近に部下を放っていたようですわ。
確実に、こちらの手の内を読み切っているとしか思えない根回し。常に見られているような感覚。どうやら、最近の私の動向や成長度合いまでもが筒抜けだったようですわね。
どこに間者がいたのかしら……口惜しいったらありゃしません。
……いえ、後悔は後。今はどうやってこの窮地を乗り越えるのかを考えなくては。
敵は、3人。装備を見る限り、前衛2人と野伏。魔術師が混ざっているとしたら、あの野伏の可能性が高い。指示を出してるのは戦士職の男性ですわね。
この場合、落とすとしたらあの野伏から。ここで見つかるのを待つよりは、打って出る方が得策かしら。
「相手は魔術師だ! 不意打ちを仕掛けてくるとしたら、必ず詠唱が聞こえるはず! どんな音も聞き漏らすなよっ」
「「はっ!」」
まったく、徹底してますこと。野伏を落とす目は無く、ここから逃げおおせるのも難しいときましたか。
仕方ありませんわね。こういった下々の相手をするのもまた、貴族の務め。相手がそれだけの対策を講じるならば、こちらもそれ相応のやり方で対処してあげましょう。
私が腹をくくると同時に、追手の1人がこちらに近づいてきました。指示を出していた彼とは別の男ですのね。
彼我の距離は、間合いにして踏み込みと槍の一突き分。向こうは戦士職の人間らしく、長剣を所持しています。圧倒的にこちらが不利ですわね。
なんせ、魔術を使わずに不意打ちを仕掛けるとしたら、手持ちの扇子で殴るしかありませんものね?
いつもなら、そのような野蛮な事はしないのですが、そうも言っていられません。
「……これは……」
向こうは、私が急いで茂みに駆け込んだ時の痕跡に気付きました。一瞬ですが、警戒が疑念に変わった表情をしています。
突くならば、ここしかもう隙は無い!
「ふっ!」
「っ!」
一気に茂みから飛び出し、追手の戦士に接敵します。相手も即座に反応しますが、こちらがなんとか先手を取れそうですわ。
剣を撃ち落とすのが正解かもしれませんが、相手は徒手空拳でもある程度は戦えるはず。ならば、叩くべきは……!
「はぁ!」
「ほごぉ!?」
男性が絶対に鍛えられないとされる急所しかありませんわね!
下から上に、超低空から振り上げた一撃は、咄嗟に剣で迎撃しようとした追手の急所を捉えました。
どんなに非力な私でも、これならば相手を怯ませるくらいはできますわ。相手は声も出せなくなって、報告も遅れるし一石二鳥ですのよ。
「お、お……!」
「っ! いたぞ! 捕らえろ!」
気付いたところで、もう遅いですわ。発見からの一手を遅らせる事に成功した時点で、私が魔術を行使する時間は取れています。
「『良く追い詰めましたが、これまでですわね! さぁ燃やしなさい!』」
私が詠唱を終えた時点で、木々には優しくない炎の塊が発生しました。
イニシアチブを奪取できた今、何か行動を起こす前に、この炎はお相手を焼く事ができるでしょう。
勝負あり、ですわね?
「……降参です、オリアンティ様」
「ふぅ、今回はかなり冷や冷やしましたわ」
リーダーの彼が剣を収め、同時に私も炎を消します。あと少しで、完全に詰まされていた所でした。
ホッと息をついたところで、木々の向こうからパチパチと手を叩く音が聞こえてきます。食えない人が、ずっとこちらを見ていたようですわね。
「見事ね、オリィ。あの状態からよく持ち返したわ」
「勝ったつもりはありませんわ。私の行動は全て読まれていましたもの。ねぇ、お母様?」
「そうねぇ。模擬戦でなかったら、この庭に全勢力を集結させて貴女を圧殺していたと思うわ。部屋から緑のドレスが無くなっていたし、屋敷内で貴女のお気に入りである場所にはお父さんを配置してたから、安心していたし」
そこにいたのは、私の最愛の母にして、最大の脅威。
私が貴族としての格を上げる為に、必ず越えねばならない大きな壁。
領主の妻にして、アーケンラーブの英雄。そして事実上、この街の政治を父に代わって取り仕切っている女性。
オリフィリア・フォン・ゴールその人でした。
「頑張ったわね、貴方達。休憩に入って良いですよ」
「はっ」
「うぅ……」
「おい、立てるか?」
今回私の相手をしたのは、この屋敷を警備する兵士の方々でした。指示は的確でしたが、痕跡を見つけた時に即座に警戒に移らなかったのは減点ですわね。後でその辺りを徹底して改善するよう伝えておきましょう。
「あらあら、顔に傷が付いているわよ? お転婆だこと」
「オォーッホッホッホ! あの場をやり過ごす為なら多少の傷は仕方ありませんわ! むしろ傷1つで済んだ事を喜ばなくてはいけませんものねっ」
「えぇ、そうね。傷ついても五体が満足ならば、いつだって相手の喉元に食らいつけるもの。ふふ、よくわかっていますね」
当然です。お父様とお母様から叩き込まれた教えですもの。
あぁ、最近はハノンさんやヘナさんに教えを叩き込む事ばかりしていたから、改めて誰かに師事する事が新鮮に感じますわ。とても充実しています。
「それはそうと、オリィ? オリーベルを見なかったかしら。あの子ったら、お勉強の時間をすっぽかしてどこかに行ってしまったの」
「あら、相変わらずお転婆な妹だこと。大方、劇場にでも足を運んでいるのではなくて?」
あの子は可愛いものが大好きですからね。劇場にいるカワイイ子達を眺めに行っているのでしょう。
いきなり帰って来いだなんて言われたから、家がどうなっているかと思えば……あの愚昧はまったく変わっていませんでしたわね。
「さて、お母様? 最終日のパレードが終わったら、私はグランアインに戻って良いんですわよね」
「オリーベルがあの調子だから、できればこのまま居てほしい所ではあるけれど……約束ですものね。そこを違えるつもりはありませんよ」
「はぁ、一緒にパレードに出るのは、領主として認められた時だと言っていたでしょうに」
そう、私がアーケンラーブに戻された理由。それは、私を祭りのパレードに参加させるというものでした。
あのパレードは、大防衛を成し遂げたお父様とお母様を讃えて行われるものでした。いずれは私も、次期領主か領主の妻として、同様にパレードの神輿役になるものと聞かされていましたが……まさかこんなにも早く、唐突に呼び出されるとは思いませんでした。
「お父さんは、貴女にならこの街を任せても良いと言っていましたよ」
「いいえ! 私はまだまだ弱いですもの。お父様やお母様のように、強くなってからその座を奪うのですわ!」
それに、まだまだハノンさんやヘナさんに教えてない事が、山ほどあるのです。
弟子を置いて勝手にいなくなるような不義理は、私にはできません。
「安心なさい、今回は顔見せのようなものですから。領民も、たまには貴女の元気な姿を見て安心したいのですよ」
「……それを言われてしまうと、断れないじゃないですの」
昔から住んでるこの街ですが、最近は冒険者として長い時間離れていました。いつどうなるかもわからない状況下で修行している私の事を、心配してくれている方々がいるのであれば、パレードくらいには参加しようと思えてしまいます。
「ですが、本当にそれだけですの?」
「もちろん、理由はそれだけではありませんよ」
えぇ、そうだと思いましたわ。
兵を駒のように操る事にかけては一流かつ冷徹なこの母です。何か私に、して欲しい仕事があるのでしょう。
「実は、今回のパレードは護衛を多めに配置するの。良からぬ情報を握ったから……ね?」
「……なるほど。何かしらの妨害が予想されるのですわね。私はそれに当てられる戦力ですか」
「えぇ、オリーベルでは毛ほども役に立たないから、貴女に任せるのですよ」
既に戦力外通告を受けている愚昧。可愛そう……ではありませんわね。あれは残念が過ぎますから。
「というわけで、盗賊ギルドが護衛を送り込んでくれるはずだから、連携してパレードを守ってくださいね? 冒険者さん」
「はぁ、依頼なら仕方ありませんわね」
つまり、パレードの主賓として参加しつつ、何かあった時は下手人に炎を叩き込めば良いのですわね。
シンプルで結構。そういう事なら、喜んで参加させてもらいますわ!
……ちなみに、その後紹介された護衛に驚かされる事になるのですが、それはもう少し先のお話しみたいですの。




