第115話:盗賊ギルド
どもどもべべでございます!
連休を利用してようやく一話。さぁ、書類も書きましょう。
というわけでご投稿! どうぞ、お楽しみあれー!
盗賊ギルドというものは、どこも本拠地を酒場にしたがるものなのだろうか。それとも、そういうしきたりでもあるんだろうか。
理由に関してはわからんが、この町のギルドもまた、酒場にその拠点を存在させていた。
場所は領主の館と、劇場からさほど離れていない区画だ。逆に言うと、グランアインは冒険者ギルドの近所に位置していた分、比べてみると真逆の立地だな。
「えっと……入って良いんです、かね?」
『あぁ、問題は無いだろうよ』
ギルドとの繋ぎを可能とする手紙は、ギーメイから預かっている。そもそもアイツから報告が回っているだろうから、ハノンがこの酒場に入れば風貌を確認した組員が接触してくるだろうさ。
問題は、この町のギルドが一枚岩ではないと知ってしまった点だが……まぁ、今回はヘナも一緒にいるし、ハノンが逃げるくらいはできるだろう。
「……し、失礼します」
やはりこういうシチュエーションには慣れないのか、たどたどしく入店するハノン。
店内は、祭りの活気が嘘のように静まり返っている。というよりは、静かに飲みたい客が集まっている感じか。
街並みに沿った雰囲気の、落ち着いた内装。酒場というよりは、バーと言った方が近いのかもしれない。
「いらっしゃい」
口ひげを揃え、白髪混じりの頭髪をオールバックでまとめた初老の男性が、グラスを磨きながらバーカウンター越しに挨拶してくる。店内に映える、落ち着いた所作だ。
オゴスの旦那や、グランアインの酒場の亭主と同年代に見えるが、スラリとしていて同じ種族なのかと疑わしくなるな。
「どうぞ、おかけになってください」
「あ、ありがとうございます」
「本日は、お客様自らご来店いただき、感謝いたします。こちら、私共からのサービスでございます」
「あ、えと……こ、これ……」
『ハノン、手紙見せる必要はないみたいだぜ』
「え?」
小さく鼻を鳴らし、角でグラスを指す。ハノンが視線でそれを追い、中に入っている小さな鍵を目視した。
ご丁寧に、果実水の色で誤魔化している。おそらくは、この鍵が合う部屋で待ってるって事なんだろうな。
「……ええと、どこか休めるところ、ありますか?」
「それでしたら、地下に休憩所がございます。お連れの方がいらっしゃるのでしたらば、個室もご用意できますが」
「あ、お、お願いします」
「かしこまりました。こちらの番号のお部屋をご利用ください」
番号が書かれた木札を受け取り、クピクピとグラスを空にしたハノンは、鍵を持って立ち上がる。
店主に頭を下げると、そいつもまた一礼して見送ってくれた。礼を逸することがないよう徹底された、完璧な動きだな。俺には一生無理だ。
「な、なんか、随分と落ち着いた雰囲気ですね?」
「……だね……」
「フス」
おそらく、アーケンラーブの元々の雰囲気がこの店に近いんだろうな。
今は祭で活気が凄いから、ギャップに戸惑う事になるが、普段を見ていればそうでもなさそうだ。
……まぁ、あんな三下達も確実に存在してるから、場所によってはだろうが。
「ん、ここですね」
木札と扉を見比べて、ハノンは小さくノックする。
場所は角部屋で、中からの気配は……隠す気が無いのが2人。後は、気配を殺してるのが1人だな。
「どうぞ」
その気配を殺してる本人が、扉を開けて出迎えに来た。
一見して、地味目の高身長な女だな。非常に短く揃えた黒髪に、切れ長の瞳。能面のような無表情も相まって、氷のような雰囲気を纏わせている。あと胸は無い。一切無い。
ハノンを招き入れながら、本人の定位置であろう部屋の隅に戻っていく。その足運びを含め、身のこなしからして護衛だろうな。
「やぁやぁいらっしゃい。待っていたよハノンくん!」
「あ、失礼しま……えぁ?」
「フスッ」
護衛の姉ちゃんがどいた事で、部屋の主が視界に入ってくる。その姿を見た瞬間、ハノンは目を丸くして固まった。
そこに居たのは、ハノンにとって予想だにしなかった人物だったからだ。
いや、俺にとってはなんとなく予想できたんだが。
「げ、劇団の座長、さん?」
「や、こうして会うのは初めてだね。ボクらの芝居は楽しかったかな?」
俺にとっては昨晩ぶりの再会。劇団の長ことアノンが、座っていた。
そりゃあもう、ふっかふかのソファに全身を委ねてテーブルに足を乗せつつ、酒を呷るという大物ムーブでだ。堅気じゃねぇとは思ってたが、それなりの地位にいる感じだな。
その隣には、こりゃまた見た顔が立っている。昨日死にかけていた、あの兎屋の店主だ。確か、ボンズとか言ってたっけな。
「え、えっと、はい、楽しかったです。……え、えぇ?」
「あははは! 良い反応だ。自分の顔がここまで困惑しているのは見てて面白いね!」
「少々信じられませんがねぇ。アノン様のこんな表情は」
「同意します」
完全に楽しんでるな、これ。
だがまぁ、印象としてはハノンにどうこうしようって雰囲気でもないし、裏も感じない。警戒は多少解いても良いだろうな。
「いやいやすまないね。改めて自己紹介をさせてくれ。ボクはアノン、最近劇団の長になった新人座長にして、アーケンラーブ盗賊ギルドの顔役をやっている者さ。事実上のトップだと思ってくれたまえ」
「ええぇ!?」
「そして、あの隅っこにいるのが護衛のサシャ。隣にいるのが部下のボンズさんだよ」
「いやぁ、昨日はそちらの角兎さんに助けられました。本当にありがとうございます」
「フス」
ハノンから「何したの?」って目で見られたけど、今は無視な、無視。
後で説明するから。おじさんとしても、柔兎を襲いそうになってた話はしたくなかったんです。
「さてハノンくん。ここに来たという事は、君はあのグランアインの伊達男から依頼を受けて、その契約に応じたと捉えていいんだね?」
「え? だて……あ、ギーメイさんですね」
「奴はそう名乗ってるのかい。じゃあボクらもギーメイと呼ぼう」
「そうです、ね。彼から情報を貰ったので、そのお礼にお仕事を受けました」
「OK。そういうことなら、存分に遠慮なくこき使わせてもらおう」
「フシッ!」
「んぅ?」
おいおいおい、俺等の契約は荷物の受け渡しまでだ。そこから次のステップだなんて、聞いてないぜ?
その事にハノンも感づいていたのか、ギーメイとの契約内容を伝えた上で、背負っていた荷物をテーブルの上に置いた。
「うんうん、その通りだ。君たちは見事依頼の対価として、この荷物をボクらの元に届けてくれた。そこで契約は終わり、後はこの町で目的の人物を探すという事だね?」
「は、はい」
「そうかぁ、それならば仕方ない! 存分に頑張ってくれたまえよっ。ボクらも応援しているさ」
あ、ちなみに、とアノンは続ける。
その顔は、悪戯が成功した子供のように良い笑顔だ。ハノンの顔で、ここまで邪悪に笑えるものなのかと感心してしまう。
「その難民だけど、何名かは盗賊ギルドでも身柄を保護させてもらっている。私の権限無しで彼等に会えるかはわからないが、是非とも奮闘してみてくれたまえ!」
「っ……!」
くそったれ、やっぱりかよ!
今わかった、こいつは天性の悪魔だ!




