第112話:劇場の主
どもどもべべでございます!
さぁ、ヴォルさんが助けを求めた相手とは!
どうぞ、お楽しみあれー!
灯りがついている窓のある部屋は、劇場の最上階。多分、宿泊スペースだな。
店主がどのくらいの時間あのままかはわからんが、急ぐに越したことはない。ここは最短距離で行った方が良さそうだ。
『お嬢さん、ちょいともう一回失礼しますよっと』
『きゃあっ』
柔兎を再度背負い、【身体強化】を使って地面を蹴る。
窓の縁に足をかけて一気に跳び、二階へ。
飾りのレリーフや、デザイン性重視の出っ張りを掴んだり足掛かりにし、最短時間で灯りのついた窓に向かう。
『わ、わ……ひゃあっ』
『悪いな! もう少し捕まってろよ!』
柔兎のどこに捕まる要素があるのかって話だが、こいつは耳が器用だからな。俺の首周りに耳を回して捕まっている。
これなら落ちる心配はないだろうが、しっかり掴まってる分密着してるのがしんどいな! 吐息とかもろに首筋に感じるしなっ。
『よっと……この窓だな。お嬢さん、お前さんが俺の身分証明になるから、しっかりフォローしてくれよ?』
『え、えっと、でも……』
『悩んでる暇はないよな?』
『っ……は、はいっ』
『いい子だ』
実際、単なるモンスターが窓から襲撃してきたようなもんだからな。劇団が盗賊ギルドに土地を提供していると仮定して、柔兎を連れている事実を察してもらわないと討伐対象になりかねん。
意を決して、角で窓を叩く。
中はカーテンで見えないが、誰かがいるのは影のでわかる。これは中々にギャンブルだ。
「……?」
カーテン越しに、中の人物が動くのが見えた。立ち上がり、そろそろとこちらに近づいてくる。
柔兎の耳に力が入るのが伝わってきた。緊張はわかるが、あまりおじさんに体を押し付けないでもらいたいもんだ。
そろそろ襲うぞ。
「……角兎と、柔兎? え、なにこの組み合わせ、色々と妄想が捗るんだけど」
カーテンが開かれ、中の人物が声を発する。……というか、その顔で変な事を言わないでくれないか。
そこにいたのは、今頃は宿で寝ているはずの人物。
俺の主である、ハノンとまったく同じ顔の人物だった。たしか、名前はアノンって言ってたか。
というか、なんで全裸なんだお前。あれか、自室では全裸勢かお前。
「フスッ、フスッ」
「ん? そのサークレット……裏の倉庫にいる商品? 盗まれちゃったかな」
「フシッ!」
「うん、知ってるよ。契約獣の証でしょ? 君、ボクにそっくりだったお客の横にいた子だよね……どういう事かな」
色々と察しが良くて助かるが、肝心の内容が伝わらねぇ!
とりあえず、2人の耳と前足で後ろの建物を指す。何度もフシフシ言いながらジェスチャーしてんだから、気付いて欲しいもんだ。
「ふむ、倉庫に行けばいいのかな?」
「フシッ!」
「フスッ、フスッ」
「はぁ、敵意は無いみたいだし、君は要注意対象だって言われてたからな。敵対もしたくないし、付いて行くか……」
あん? 俺が要注意対象?
こいつ、俺を最初から知っていたって事か? いや、俺というよりは、ハノンを知っていた感じか……。
なんだろう、急にこいつに頼りたくなくなってきたんだが。
「外に出るから、待ってなよ。この格好じゃ出られないからね」
カーテンを閉め、着替えのシルエットを見せつけられる。
しっかり女だったから、まぁハノンと別人とはわかっていても、微妙な気分になってしまうな。
というか、俺発情してるのに、反応しなかったな……ハノンと同じ顔だからか? それとも、俺の感覚が兎に近づいて……?
い、いや、きっと胸が一切無かったからだ。そうに違いない。
「何か言ったかな?」
「フスッ!?」
また勘の良い女かよ!? なんで俺の周りには思考の先回りをしてくる奴が多いんだ!
『角兎さん……』
『な、なんだいお嬢さん』
『デリカシー、大事だと思います』
そんな場合かな!?
人一人の命がかかった大事な時間に、何故か冷たい視線を浴びるという理不尽を味わっていると、ようやく服を着込んだアノンが窓から出てきた。
って、降りてくるんじゃないんだな。ここからか。
「急いだ方が良いんだろう?」
「フスッ」
『え?』
まぁ、アンタが良いならそれが手っ取り早い。俺とアノンは頷き合い、その身を空中に躍らせる。
浮遊感の後、地面が急速に近づいてきた。
『ひ……ひゃあ~!?』
背中の柔兎が悲鳴を上げるが、これが一番早いからな。勘弁してくれ。
当然、そのまま着地はしない。俺だけなら余裕だが、柔兎がいるからな。上る途中にあったレリーフを前足で掴み、勢いを殺して着地する。
その横では、既に地面に着いていたアノンが悠々とこちらを見下ろしていた。
「さ、案内しておくれ。一体君たちは何を伝えたいんだい?」
「フスッ」
「フスゥ……」
ぐったりしたまま俺を掴んで離さない角兎を背中に乗せたまま、店主が倒れていた建物に案内する。
開いている扉を見て、アノンも何かを察したらしい。ただ付いて行っているだけだったが、一気に俺を追い越して建物の中を確認した。
ふむ、身体強化を使わなかったとはいえ、俺を追い越せるのか。さっきの着地といい、やはり堅気じゃなさそうだな。
「ボンズさんっ!」
「……ぅ……」
「良かった、息はあるね。薬は……あった」
アノンは室内の棚を漁り、ポーションを取り出して店主に飲ませて行く。苦しみに顔を歪ませていた店主は、咳き込みながらもそれを嚥下していった。
しばらくすると、その歪みも取れ、浅い呼吸が整っていく。どうやら、なんとかなったみたいだな。
「ふぅ、よかった……助かったよ君たち。彼は心臓が悪くてね、処方されたポーションを定期的に飲まないといけないんだ。どうやら、お祭りで張り切り過ぎたみたいだね」
「フス」
「フシィ……」
柔兎が安堵のため息をついたところで、この件は終いだな。
いや、丸く収まって良かったわ。……という訳で。
『なぁ、お嬢さん』
『あ、はい?』
『いつまで俺に抱きついてるんだ? まぁ役得ではあるんだが』
「っ! フ、フス……!」
俺の背中に、その豊満な体を押し付けている事実を認識したらしい。柔兎は真っ赤になって、慌ててその耳を離した。
ふぅ、これでようやっと落ち着けるな……。
「へぇ……良いね、角×柔。ケモの会で発表しよう」
なんて?
『あ、あの、角兎さん』
『あ?』
『その、本当に、ありがとうございました』
なにやらアノンが不穏な事を言っていた気がするが、良い女に三つ指つかれて頭下げられたら、そっちに意識が向いてしまうというものだ。
『気にすんなよ。お前さんこそ、良かったのかい? 逃げられるチャンスだったろうに』
『え?』
『あのままその店主を放っておいたら、逃げれただろうって話さ』
俺の説明に、柔兎はハッとした顔になった。
『い、いえでも、そんな事……あぁ、どうしたら良かったんでしょう……!』
考えもしなかったって感じだな。
本当に、良い女だ。
『ま、お前さんは店主の命の恩人になったんだから、これからは色々と優遇してもらえるだろうさ。念話持ちがいたら、要求を聞かれると思うから、自由を望んでみればいいんじゃないか?』
『な、なるほど! そんな手が……!』
「あ~、君たち。悪いけどあまりここで世間話はして欲しくないんだ。お礼は後日するから、とりあえず後片付けをしてもいいかな?」
おっと、もう時間らしいな。
アノンは柔兎を抱き上げ、「ごめんね」と言って頭を撫でる。
俺もまた、この場を後にする必要があるな。アノンの言う通り、この場所でドタバタするのはまずいだろうし。
「角兎くん」
「フス?」
「今日はありがとうね。……また、ね」
「…………」
また、ねぇ。
なんとも、含みを込めた言い方だこと。
ま、どうなるかは翌日になればわかるかね。
「フス」
とりあえず、早々にこの場を後にする。
後ろから、『ありがとうございました!』という声がかかったがもう振り返る事はない。
……おじさん、もういろいろと限界だからね!
とりあえず、その辺の噴水で体を冷やした後、俺は宿に帰ったのであった。
最期の一文、鍵持ってってるのに締め出された感じで書いてしまったので、消しています。
ご指摘いただき本当に感謝です!




