第110話:アーケンラーブのお風呂
どもどもべべでございます!
モフウサ名物のお風呂回ですね。ハノンくんのお色気シーンをどうぞご堪能くださいw
劇場を出ると、空が暗くなり始めていた。結構いい時間だな。
しかし、中途半端な時間に串焼きをつまんだせいでさほど腹は減っていない。宿屋に帰って夕飯を食うのは、もう少し時間を潰してからでいいだろう。
そうなると、どこで時間を潰すかだが……
「……あ」
昼間の喧騒とは別の意味で騒がしくなりそうな、黄昏時の街道を歩いていた時、ハノンが何かを見つけた。
中々にデカい建物。無数の穴から白いモヤを大量精製している光景は、ちょっとした威圧感を感じさせる。
看板には、でかでかと【湯】の文字。間違いなく、大衆浴場って奴だな。
「……ねぇ、ヴォルさん」
『ハノン、お前が何を言いたいのかはわかる』
「は、はい」
『だが、あそこは止めておけ』
「えぇ……」
ハノンは無類の風呂好きだ。浴場を見れば、入りたくなるのは当然と言えるだろう。
だが、大衆浴場はいかん。なんでって、こいつの見てくれはあのフィルボの劇団長と酷似しているくらいに女顔なんだからな。
そんなハノンが男どもでごった返した風呂場になんぞ足を踏み入れたら、確実に何らかの騒動に発展するのは火を見るよりも明らかだ。
「でも、今回の宿にお風呂は無いんですよ? 僕、ここにいる間ずっとお風呂に入れないのは……」
『大衆浴場があるって事は、湯を沸かす魔道具があるか、温泉が出ているかだ。てことは、個人専用の浴場もあるはずだろ? 割高になるが、そっちの方がゆっくり出来る。悪い事は言わんからそっちにしとけ』
むぅ、と唸るハノンだったが、ここでヘナの後押しもあり、渋々と納得してくれたようだった。
ヘナもまた、ハノンの見た目を考えてくれたらしい。それ以前に、お前もその見た目じゃ大衆浴場無理だけどな。
「じゃあ、個人別のお風呂を探さないと……」
『探す必要はないだろ。大衆浴場なんてのがあるんだ。その近くに必ずある。温泉にしろ魔道具にしろ、湯を扱う施設は近しい場所にせんと管理が大変だからな』
その読み通り、個人別の風呂は苦労することなく見つかった。
大衆浴場の看板に書いてあった料金で見ると、倍以上の値段設定がされている。プライベートが保証された空間ってのは、安心感が違うから、まぁ当然と言えば当然だが……ちと高すぎやせんか?
「いらっしゃいませー! おや、初めてのお客様ですね?」
「は、はい」
「当施設は会員制になっております! 料金は大衆浴場よりもお高いですが、それは1日分のお値段です。一度支払ってもらえば、何度でも出入りしてお風呂を楽しめますよ!」
へぇ、そういう感じか。
民衆の大体は大衆浴場を使うか、そもそも風呂に入らないかのどちらかだろうしな。こういうやり方で顧客を確保してるんだな。
「えっと、じゃあ、登録お願いします……」
「ご利用ありがとうございます! どうぞお寛ぎくださいませ!」
契約を済ませ、料金を支払った後、店員は番号のついた札と体を洗う道具を手渡してきた。
どうやら、この番号の浴室を一日貸しきったみたいだな。
「ふふ、お風呂、お風呂」
「……楽しんで、ね」
「え? ヘナさんも入るんですよ?」
「……へ」
「交代で入りましょうね」
「……あ、あぁ……そういう……」
はは、今のはハノンが紛らわしかったな。
施設の中は、さほど広くない空間だった。個別に浴室を準備してある分、風呂場のスペースに場所を取ってるんだろうな。
俺らの番号が書いてある扉をくぐってみると、しっかり鍵がついた脱衣所があった。番号札の中に鍵があり、それで施錠ができるらしい。
「じゃあヘナさん、お先にどうぞ?」
「……わ、私……髪、大変だから……長い、の。先に、どうぞ」
「あ、なるほど」
それならばと、俺とハノンが先に入る事になった。
ヘナは掌モードになって、脱衣所の服入れに入っている。ハノンの裸を見ないようにって配慮みたいだが、暇じゃないか?
いや、延々ポケットの中でも問題ない奴なんだし、その辺は考えなくてもいいか。
「久ぶりのお風呂、嬉しいですっ」
『そうだな。護衛依頼中は風呂とか無理だしなぁ』
そりゃあ濡らした布とかで体は拭いてるが、それと風呂に入るのとじゃあ全然違うわな。
ハノンの体は、結構引き締まってきている。布鎧が着れるようになった程度には、鍛えられたからな。
しかし、相変わらず筋肉がついているかと言われれば……見た目では判断しづらい所だな。どちらかというと、肉付きは相変わらずだが健康的になったって感じか。
冒険者カードから見れるステータスでは筋力高くなってるのは明らかなんだけどな。あいにくと★2は、魔術師でもそのくらいざらにいるラインだ。
まぁ、前みたいなぷにぷにした場所は少なくなってきてるし、修行の成果は出てるんだ。あとは歳を重ねて成長すればいいさ。
「わぁ、竜の息吹亭のお風呂より、大きいですねぇ」
『まぁ、ここは風呂場専門だからな。宿屋よりは流石にデカいだろ』
石造りの浴室は、湯気で白んでいるもののきちんと管理が行き届いているように見える。藻とか生えてないし。
浴槽には、湯を作る魔法具がある。どうやら温泉を引いている訳ではないらしい。まぁ、湯には変わりないし良いんだけどな。
『ほれ、背中流してやるからさっさと座れ』
「えへへ、失礼します」
流石に、4日洗ってない体をそのまま浴槽に沈める訳にはいかん。ハノンを座らせ、頭を洗った後に背中を流していく。
俺の大きさだと、腰までしか届かんからな。ぴょんぴょん跳んで擦っていくが、これだと腹の毛が背中に擦れてくすぐったいみたいだな。
『お前って、尻の肉はあんまり減らねぇよな。盾持ちは腰を使うから、この辺はもっと引き締まっててもいいはずなんだが』
「ちょ、揉まないでくださいよっ。僕だって結構気にしてるんですから……!」
というか、下半身が全体的に肉付き良いんだな。
別に贅肉って訳じゃないし、筋肉が柔らかい体質なんだろう。むしろ、こういう柔らかさは咄嗟の負傷を避けられるし、さほど気にする程ではないか。
『終わったぞ。前は自分で洗えよ?』
「んっ、ありがとうございます」
その後、俺も全身を泡の塊にされた。
兎っつうか、羊になった気分だな。気持ちいいから別に良いんだが。
ハノンもすっかり、俺を洗うのが上手くなったよなぁ。
湯で流されれば、いよいよ入浴だ。ハノンは足先からじっくりと、その身を体に沈めて行く。
「……あぁ~ぇぇ……」
「フス~」
うん、いい湯だ。
竜の息吹亭よりはぬるめだが、それもまた良し。
ハノンは完全にとろけた顔になっており、顎まで浸かってその身を浮かせていた。
2つの膝が顔をだし、擦り合う度に波紋が生まれていく。乱れた水面は明度を落とし、膝から奥の太股、その付け根を目視できないように活躍してくれていた。
洗った事で輝きを取り戻した髪は、濡れそぼり照明を反射している。そこから流れる水滴は、瞼と鼻筋を経由して、瑞々しい唇に吸い込まれていった。ただ風呂に入ってるだけなのに、変な色気があるのは男としてどうかと思う。
やはり、個人別の浴場を選んで正解だったな。
「やっぱり、お風呂は最高ですね……」
『だな』
……しかし、アーケンラーブの町はかなり文化が進んでいるな。
この町に、ハノンの故郷の人間が匿われているんだろうか?
だとしたら、そいつらもこの祭りを楽しんでいるのか?
それならば良いんだがな。平和を共有できる環境がこの町にはある。移民や難民たちが労働力になって、報酬としてちゃんとした身分になっている事を祈ろう。
まぁ、どちらにせよ明日になればわかる事だ。
「……はふぅ……」
ちなみに、だが。
ヘナは、自分は風呂が長いから先に入る様に促した。
しかし、忘れちゃいないかヘナよ。
ハノンもまた、一度風呂に入ったらかなり長いぞ?
結局、ハノンが風呂から出た頃には、ヘナは脱衣籠の中で眠りこけていた。今後は、互いに一緒のタイミングで入らせた方が良いかもしれんなぁ……。




