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第109話:撃退の宴

どもどもべべでございます!

少しボリュームがないですが、大事な伏線回です。

どうぞ、お楽しみあれー!

 

 劇場は、中々に儲けているようだった。

 でかいし広い。なにより飾りが豪奢だ。

 アーケンラーブの町自体、グランアインの町に比べたら豪華な造りが多いからな。伊達に観光が資金源って銘打ってる訳じゃあなさそうだ。


「うわぁ、凄いですね」


「う、うん……凄い……」


「フス」


 ハノンは、ヘナをポケットから出して周りを見回している。チケットを人数分買ってたからな。ヘナにも見せてやらんといかんと考えてるんだろう。

 だが、人が多いしヘナはハノンのポケットから半分だけ出てる状態だ。まぁ器族を見られて場が騒然とするのもなんだしな。


「えっと、Bの13番席は……」


『あそこだな』


 舞台から程よく真ん中な位置。しかも手前側。

 若干右寄りだが、充分に楽しむ事が出来る場所だな。役者の表情も良く見ええる事だろう。


「失礼します……」


「おう、どうぞどうぞ」


 頭を下げながら人の前を通り過ぎ、席に座ってホッと一息つくハノンの隣に、俺もまた座る。

 なんか色んな所から視線を感じるが、関係ないな。俺だって金払って席取ったお客様だ。他人からどう思われてもここに座る権利がある。


「ようこそ皆様! 本日も劇団アノンの演目を見に来ていただき光栄の極みにございます!」


 そうこうしてる内に、舞台のど真ん中に一人のちっこい奴が現れた。

 身長は、大体ハノンくらいか。薄手のドレスに身を包み、周囲に向かって手を振っている。今は左を向いてるから顔は見えないが、その分大きく開いた背中が丸見えだ。

 しかし、なんだな。ラインが露骨な上に、露出も多い際どい衣装を着てる割には、随分とこう……ストンとしてるというか。成長に乏しいというか。

 あれか。むしろああいう体型だから、この手の衣装を着ても恥ずかしくないとかそんな感じか。


「……ハノンさん……あの人……」


「え? どうかしました?」


 あん? ヘナが何やらわなわなしてるな。

 あのドレスの女がどうかしたのか? ようやくこっちを向いたが……


「……え?」


「フスッ?」


 おい、おいおい、まじかよ。

 小さな体に少しとがった耳からして、種族はフィルボだろう。だが、問題はそこではない。

 問題なのは……あいつの顔、だった。


『「ハノン(さん)に……そっくり」』


「え、えええ?」


 そう、似てるのだ。

 髪の色、瞳、鼻筋、口元。

 あらゆるパーツが、ハノンに酷似している。唯一違うのは、先に言った耳の形と、やや跳ねた髪型くらいだろう。


「ワタクシ、つい先日から当劇団の座長に就任いたしました、アノンと申します! どうかスリーサイズだけでも覚えていただければ幸いです!」


 ドッと観客が湧き、俺たちの顎が落ちる。

 ハノンの顔であんな事言われるのは、かなり衝撃だ。というか劇場で下品なジョークをかますんじゃねぇよ!


「あ、あ、あ……!」


 ほら、ハノンが真っ赤になって顔隠しちまった。

 というか、なんでお前の方が乙女な反応してんだよ。


「本日は、我が町の誇るべき領主様の武勇伝を公演いたします! どうぞ、最後までお楽しみくださいませ!」


 一礼して、舞台裏へと消えて行くアノン座長。

 いやぁ、これは凄いインパクトだったな……。


「……!」


 ふと、俺らの方を見て目を大きく開いたのが見えた。

 どうやら、向こうも自分と同じ顔を見つけて驚いたらしい。しかし、それ以上の反応は無いまま彼女は裏に行ってしまった。


『驚いたな。お前と同じ顔だなんて』


「お、驚きました……なんか、凄く恥ずかしいです……!」


「……スリーサイズ……言ってくれなかったね……」


「や、やめてくださいよヘナさんっ」


『というか、ますますお前、女顔なんだなって再認識したわ』


「ヴォルさんまでっ!」


 ふむ、新座長か。

 周りの面々やこれまでに会った人達が、ハノンの顔を見て驚かなかったのは、まだアノン座長の知名度が低いからだな。

 だが、受付の姉ちゃんも顔色一つ変えなかったのは流石だな。プロとしての矜持を感じるぜ。

 この劇団の演技は、期待していいかもしんねぇな。


『お、始まるみたいだぞ』


「あ、は、はい……」


 周囲が暗くなり、舞台に灯りが集中する。

 ざわついてた客たちも、やがて口を噤んでいった。


「これから語られるお話しは、かつて本当にあった物語……」


 重低音のナレーションが響き、いよいよ幕が上がる。

 さて……どんな話なのか、しっかりと楽しませてもらおうかね。





    ◆  ◆  ◆





「ヴォルさん、寝てたでしょ……」


『寝てないぞ』


「嘘です。ぷすーぷすーって聞こえてましたよ」


「……目……閉じてた……ずっと……」


『いや、俺は無我の境地の中で揺蕩たゆたい、音を耳で拾って全体を鑑賞していたんだ。兎ならではの楽しみ方さ』


「…………」


 いやぁ楽しかったな。

 まさか結末があんな事になるなんてな。俺ってば予想できなかったぜ!

 こういうのは胸の奥で反芻して楽しむものだからな。口に出すなんて野暮な真似はしないでおくけどな。

 けど、大満足のクオリティだったぞ。うん、周りの連中も拍手してたしな。

 ……正直、今夜は発情で寝れないと思ってたからな。助かったわ。


『さ、終わったんなら行こうじゃないか』


「はぁ、まったく……」


 挨拶の終わった役者たちは、既に舞台裏に引っ込んでしまっている。これ以上ここにいるのは、正直無意味だな。

 俺が出口に向かい、ハノンがやれやれと付いてくる。ヘナはポケットから半分出て、そんな俺をジト目で見つめていた。

 ……うん、まぁ少しは反省してるから、もう勘弁してくれ。



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― 新着の感想 ―
[一言] こ、これは……、そのうちハノンくんが間違えられる、ないしは入れ替わるパターンのやつ!?
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