第102話:【番外編】フロキアの冒険3(フロキア視点)
どもどもべべでございます!
今回はフロキアさん回! カッコいい彼の成長物語を、どうぞお楽しみあれー!
……参ったな。
次の行動の為に呼吸を整えながら、ダンジョンの床を踏みしめる。敵の攻撃を回避した後の硬直を、最短で復帰すべく一歩前へ。
周囲は石レンガで構築された広めの空間。壁に刺さった松明が煌々と周囲を照らしている中、動いている影は7つ。
「ふっ!」
私を攻撃してきたモンスター……食人鬼というアンデットが、目の前で隙を晒している。
大振りの報いだ。その傲慢をわからせてやらんと、頭部に反撃の突きを叩き込んだ。
私の剣は、このダンジョン内では一目でわかるくらいの光を放っている。その一撃は、敵の眉間のほぼ中心に命中。
まるでバターに熱したナイフを差し込んだかのように、すんなりと突き刺さった。対アンデット用の属性付与とはいえ、これほどまでに武器の威力を底上げしうるとは、凄まじいの一言だな。
「よっ、ほっ、ハハハ!」
……いや、凄まじいのは、もう一方もか。
緊張を僅かに解き、ベルトポーチからダンジョン騙しのポーションを取り出して、動かなくなった食人鬼に振りかける。
戦闘中にこれを使えるかは、敵の強さや味方の練度に依存するが、今回はなんら心配はいらない。
本当に、参った。
「これで、トドメぇ!」
なにせ、私の仕事はほとんどなくなってしまったからな。
視界を声の方向に向けると、ミアレス氏が楽しそうに二本の短剣を振るっているのが見える。
彼の前には、ずたずたに切り裂かれた食人鬼たち。
食人鬼はトドメという言葉の通り、四肢と頭を切り離されて動きを止める。我々の完全勝利……というか、ミアレス氏の独壇場という結果だな。
なにせ、私が1匹を討つまでの間に、彼は3匹を切り刻んでしまったのだからね。
「お疲れ様です、ミアレス」
「軽いもんだよ! フロキアくんも、ポーションありがとうね~」
「いえ、これしか仕事がなくなってしまいましたからね」
追加のポーションを食人鬼に振りかけながら、小さくため息をつく。
「貴方の行動は非常に効率的です。そこに実力が追いつけば、もっとやれる幅は広がりますよ」
「……貴方の奇跡のおかげですよ、アンナ氏」
まぁ、金貨級である時告げのアンナ氏にそう言われるのは、光栄だけどね。
しかし、今回の戦闘で私が出来ることは、最低限の遊撃とポーション係くらいのものだった。
いや、ダンジョンに潜ってから5階層。この辺りからの戦闘はほとんどがこうだ。
「ま、話しはそれくらいにして、剥ぎ取りしようよ? 食人鬼の麻痺爪は高く売れるよ~」
「貴方達にとっては、そこまででもないのでは?」
「子供食わせていく身としては、銀貨一枚でも多い方がいいのさ。君も子供ができたらわかるよっ」
そういうものかな。
まぁ、それを抜きにしても、剥ぎ取りのチャンスを会話で棒に振るのは馬鹿げている。私達は即座に、食人鬼の剥ぎ取りに精を出したのであった。
結果は、麻痺爪が4枚。まぁ収益としては普通だな。
「ところで、フロキアくんさぁ」
アンナ氏からクリーンの魔術で返り血を綺麗にしてもらいつつ、ミアレス氏が私に語りかけてくる。
どうやら、アンナ氏は神官の使う奇跡とは別に、魔術も使えるらしい。
「なんでしょうか」
「いやね? 君の戦い方見てたんだけどさ。毎回そんな感じ?」
「……どういうことでしょう」
なんていうかね、と前置きを挟みつつ、ミアレス氏は続ける。
「僕ら組んで戦ってるのに、まるで一人で戦ってる、みたいな」
「っ……」
その指摘に、目を見開いてしまった。
……たしかに、私は長い間、一人で戦っていた。だからこそ、ソロで活動していた戦い方が定着しているのは認めよう。
だが、ここ最近ではハノンくんとパーティを組み、連携というものを学んだつもりだったのだ。
「君の戦い方はねぇ、速さを心掛けてるよね? 前の話から判断する限り、僕の迅雷って所に憧れてそうなった感じ?」
「……確かに、意識はしていました。それに、ソロで活動している間は、回避して反撃というやり方が効率的だったので、自然にその形になっていったのだと思います」
「ふぅん、ありがとうね。いや、君は今パーティ組んでるって聞いたからさ。そういう戦い方だと、お仲間苦労してないかなって」
「……迷惑、ですか」
「ちょっとミアレスさん? 輪を乱すようなことを言わないでください」
アンナ氏が睨みを効かせるが、ミアレス氏はどこ吹く風だ。
せっかく止めてくれそうな雰囲気だが、私は「構わない」とだけ答える。ハノンくんの迷惑になりかねない欠点があるというのなら、是が非でも知っておきたいからね。
「んじゃあ、休憩がてら色々と勉強タイムといこうか」
この部屋にモンスターが再ポップするまでは、まだ時間がある。
既に5階層。確かに、休憩を挟むならば今くらいが妥当だろう。
少しだけ空間を清潔にしつつ、私達は保存食を取り出す。アンナ氏から提供されたホットワインも口にしつつ、私はミアレス氏の言葉に耳を傾けた。
「まず、君は攻撃を回避しつつカウンター、もしくは急所狙いを得意とする戦法を好んで使っているよね。そのスタイルを実現するには、非常に高い練度が必要になる。そこまで練り上げたのは素直に凄いと思うよ」
「……ありがとうございます」
干し肉を噛みちぎりながら、ミアレス氏はその指を私に向ける。だが、即座にアンナ氏がその指を弾いた。
行儀が悪かったらしい。
「痛いなぁ……まぁいいや。でも、君がパーティとして行動した場合、それは本当に有効なのかを考えてみてごらん?」
「……敵を一撃で葬れるというのは、アドバンテージになるのではないでしょうか」
「盤面を見たら間違いなくそうさ。けど、君がそうやって大物狙いをしている間、誰が危険に晒されるのかを考えた方が良い」
思い出されるのは、今までハノンくん達と共に挑んだ戦い。
ゴブリンとの戦闘は、スムーズに、かつ無傷で終える事が出来た。ヴォルとオリアンティ、そしてハノンくんとヘナの全体的な連携がかみ合った結果だと言える。
では、その前は?
一番の大物は、暗殺者が呼び出した悪魔との戦闘だろう。
「……一度、仲間の契約獣が深手を負った事があります。……後衛にも、危険が及んだことも」
「危険が及んだ。って事は、事なきを得たんだね?」
「はい、仲間が上手く防御してくれて、その隙を私が狩りました」
「集中して獲物を狙える、そんな運びに持っていってくれる仲間がいるのですね。非常に心強いでしょう?」
「えぇ、誇りに思います」
アンナ氏の言う通り。あの時、悪魔はヴォルにダメージを与え、そのまま後衛に突貫した。
そのままオリアンティを狙い一撃を繰り出したが……ハノンくんが、盾を使って彼女を守ってくれたんだったな。彼の決死の防御を、今でも私は忘れない。
誇りという言葉に、嘘偽りはないんだ。
「つまり、君はむざむざ後衛への押し込みを許したあげく、仲間を危険に晒したまま美味しい所を持って行ったってわけだ」
「っ……!」
「ミアレスさん!」
……そう、だな。
私はあの時、ヴォルが抜かれるなんて思いもよらなかった。
ヴォルは角兎でありながら、私よりも格上の存在だ。彼という存在に依存した戦いをしてしまったが故に、オリアンティを危険に晒したことになる。
「アンナ、怒るのは筋違いさ。君だって前衛が不甲斐無くて危険に晒されるのは不本意だろ~う?」
「いいえ! ヴォルフガングが不甲斐無いだなんてこと、一度たりともありませんでした!」
「そういう事じゃなくてだねぇ? あ~もうこの目覚まし女房め!」
「だ、誰が女房ですか! 私はあんな節操無しの事なんて……」
「お黙りよ! 今はフロキアくんへの授業でしょっ」
はい、その、あまりそういう男女の間柄を聞かされても、困ります。
私の視線で冷静になったのだろう。アンナ氏はハッとして、「すみません……」と縮こまった。
「はぁ、話しは戻すとして、君の周りは確かにかみ合っているんだろうさ。君以外にも前衛を構築してくれる人物の存在がいて、後衛もいるんだろう? だからこそ、君はそのスタイルを崩す事なく貫いていられている」
「…………」
「けど、いざ僕らと組んだらどうだい? 君が食人鬼一匹を相手している間に、僕はアンナを守りながら3匹と戦う必要があった。確かに僕にかかれば余裕だけど、同格のパーティがこのバランスで戦闘した場合、必ず後衛に被害が及ぶよ?」
……自分が恥ずかしくなる。
確かに、私は食人鬼一匹を仕留めるので精いっぱいだった。ミアレス氏は、そんな不甲斐無い私をフォローしてくれていたのだ。
「君はもう少し、仲間の存在に目を向けるべきさ~。君が狙われていない間に、誰がヘイトを管理してくれているか。その人が万が一にも行動できない時、君がどう動くべきか。護り合ってこそのパーティだろ? けして、君が安全に勝つための肉盾ではないはずだ」
「……おっしゃる通り、です」
「以上が、僕が君に対してのお説教。そして、ここからは君に言いたい事!」
私の鼻先に、指が突きつけられる。
今度は弾かれることはない。そして、指の持ち主は満面の笑顔だった。
まるで、夏の暑さを芯から愛することができる、少年の笑顔だ。
「君のそのスタンスは、仲間を守る為の武器になる! さぁ、ここからは欠点を肯定される時間だよ!」
「…………!?」
そこからは、まさに褒め殺しだった。
「まず、一撃で仕留める為の目を持っているというのは、客観的に盤面を見ていられるという証拠さ! さらに言えば、そこで味方の動きに合わせて自分の存在を隠す術を知っている。これはつまり、敵が君を探すのに意識を疎かにするのを狙う事もできるということだ!」
「は、はぁ……」
「自分を危険だと意識させる。そして気配を消す。それだけで敵を散漫にさせることはできる。ヘイトコントロールとしてはこれだけでも充分に脅威だよ。別に仲間の盾になる必要はない。ようは君を無視できなくすればいい! 君にはそれが可能な地盤がある!」
「っ……」
「なにより君は、速い! それを突き詰めれば、戦闘の幅は大きく広がる! ふふふ、そして運も良いと来た。なんせ、ここに速さを突き詰めた迅雷がいるんだからね!」
これ、は、なんだ?
私は、反省していたはずなのだが……。
「君の速さ、もう一段階くらい上に上げてみないかい? 僕が教えてあげるよ。とっておきの護り方! あのヴォルフガングと肩を並べた、この僕がね!」
喉が鳴る。
四肢に力が満ちる。
なんという、恐ろしい人だ。
「……私に、稽古をつけてくれると……?」
「ものにできるかは、君次第さ。僕は眼鏡かけて勉学させるタイプじゃないからね。全部実戦、とびきり強烈な鬼教官だよ?」
「……えぇ、まぁ、そうですね。彼のやり方は、とても効果的だとは思いますよ? リスクもありますが、そこは私がフォローしますよ」
あぁ、本当に、恐ろしい。
自分でも冷え切った人間だと思っていた。その私に、ここまでの熱を与えてくれるなんて。
まるで、ハノンくんを前にしたような昂りだ。
「よろしく、お願いします」
その言葉に、彼の笑みが深まる。
さぁ、そうと決まればもっと奥へ。
止まってなどいられない。ハノンくんを守る為に、私も強くならねばならないんだ。
「じゃあ、これからは僕をセンセイと呼ぶように!」
これが、私と。
ミアレス氏……否、先生との、真の意味での、出会いだった。




