第101話:冒険者になった理由
どもどもべべでございます!
今回はヴォルフガングさん回です。彼のパーソナルについて、ちょっと触れていきますよ~。
そんなこんなでご投稿! どうぞ、お楽しみあれー!
「あの、ヴォルさん……」
『んぁ?』
話の種に若干悩んでいた所、ハノンから声がかかった。
いつもなら俺を抱いたまますぐ寝ちまうから、こういう起きてなきゃいけない状況だと微妙に困るんだよな。正直ありがたい。
「せっかくだから、その……色々と質問しても、いいですか?」
『おう、聞いてみろ。といっても俺が教えられる事っつったら限られるけどな』
今回で言うなら、即席で組んだ仲間との連携か? まぁ、ハノン自身パーティを組んでの戦闘がほとんどだから、その辺りはあまり指摘するところがないんだよな。
幼少の頃から戦術面を学んでいたからか、ハノンは大局を見る力に秀でている。こういう時にどう動けば自陣が有利になるかを、ちゃんと弁えて行動できるのは何よりの強みだ。
だから、それよりは防御面に関するあれこれを教えた方が……
「あ、いえいえ。そういう方向じゃなくてですね」
『……念話漏れてたか?』
「はい、少し」
口元に手を当て、クスクスと笑うハノンに対してバツが悪くなり、つい頭をかいてしまう。生前の癖が久しぶりに出たが、今は触る度につるりとした感触を味わう事はない。むしろモフっとしてて、自分でも触り心地は自負している。
「そうじゃなくて……ヴォルさん、ヴォルフガングさんの事について、少し知りたいなって、思ったんです」
『……俺の生前か?』
「はい。その、たとえば、前にフロキアさん達と話したことについてとか……」
前に、フロキア達と。
あ~、山ドードーの卵を採りに行く道中、キャンプで話してたみたいな事か。
あん時は、冒険者になった理由を話してたっけか。
『なんだ、こんなおっさんの昔話が聞きたいのか?』
「おっさんって……剛健のヴォルフガングって言ったら、吟遊詩人の人達が唄にするくらいの冒険者なんですよ? 冒険者になる前の僕だって、聞いた事あるんですから」
あ~、なんかそんな話聞いた事あるな。
初めてその噂を聞いた時は、「俺ってば伝説になるんじゃねぇの!?」ってはしゃぎまくって、アンナの奴に真っ向から否定されて地味にショックだった覚えがあるわ。
いや、「品性のかけらもない貴方の真実を知ったら、いろんな人たちの夢が壊れる」ってのは言い過ぎなんじゃないかって、おじさん思うわけよ。
「その、僕もようやく、冒険者としての感覚が、固まってきてるんだと思います。今、自分を教育してくれてる人の凄さを、同じ立場になったから再認識したというか……」
『まぁ、ハノンもようやく一人前になりつつあるからな。まだまだ目は離せんが』
「あはは……。その、だからこそ、知りたいんです。改めて、ヴォルフガングさんの事が」
なるほど。
ハノンはここで、頭に付けた卵の殻を脱ごうとしてるのかもしれんな。
今までは、俺を教師として見ていたとハノンは語る。それは生き抜く術を教えてくれる人で、守ってくれる人。一緒にいて安心させてくれる存在だ。
しかし、同じ立場である冒険者となり、またそこで一定の経験を積んだからこそ、俺をヴォルフガングとして見てくれる気になったのかもしれない。
今のハノンはむしろ、誰かを守る事が出来るようになった人間だ。その自信が、こいつの認識を更に上へ仕上げてくれているのだとしたら……なんとも誇らしい話だ。
なんせ、こいつは俺にとって初めての弟子でもあるんだからな。この成長を喜ばない師が、いないはずが無い。
まぁ、とはいえ今更語るには、俺の動機なんて薄っぺらいものなんだけどな。
『酒と女と金だ』
「……え?」
『俺が冒険者になった理由だよ』
そう、酒と女と金。
これ以上に、俺の原点は存在しない。
ハノンが目を点にしているが、俺は元からそんな大層な人間性はしてなかったと思うぞ?
『俺は、ちっせぇ集落の生まれでな。王都はおろか、町からも遠い場所だったもんだから、すっげぇ貧乏だったわけだ』
名産も特産もなんもない、川と森だけが遊び場だった集落。
そんな暮らしを当たり前に過ごしてた俺は、当然のように腕っぷしだけは一番の悪ガキになっていた。
集落一番のべっぴん姉ちゃんの乳に突撃していったり、調子に乗って猪を狩ろうとして返り討ちにあったり、猿酒を探してこっそり子分たちと回し飲みしたり……まぁ色々やらかしてたわ。
『そんな集落にもな、たま~にだけど冒険者が来てたんだよ。まぁ、手が付けられねぇモンスターとか出てきた場合、村長が依頼を出して来てもらうっていうお決まりパターンだ』
「えっと、まさか、そんなモンスターにまで喧嘩を売ったり……」
『そのまさかだな。俺らが怒らせて活性化した紅猪が原因だった事もあった』
「うわぁ……」
なんか一気にハノンの尊敬度が落ちてる気もするが、まぁ改めて肩を並べるならそんくらいが丁度いいだろ。
『その冒険者がなぁ、めっちゃ羨ましかったんだよ。だってあいつら、俺らでも狩れるグリーンモスの糸を売るだけで金貰えてたんだぞ? その上、集落一番のべっぴん姉ちゃんとねんごろにまでなってやがった奴もいたし』
「ね、ねん……?」
『だから、俺もハノンくらいの歳から自然とな? 狩れる奴を追いかけ回してたんだよ。こいつを売ったら金になる! ってな』
それが、俺の冒険者としての始まり。
フロキアみたいに、憧れになった冒険者がいた訳じゃない。オリアンティみたいに、貴族の誇りがある訳でもない。
ましてや、ハノンのように強制されてなってしまったわけでもない。
ただただ、目先の快楽を追っていった結果、冒険者になっただけなんだよ。
『当然、昔は無茶しまくったから何度も死にかけたし、学もなかったから色んなトラブル起こした。それで集落にはいられなくなったし、町から町へ転々としてる内にその集落も放棄されたって聞いて、故郷も無くなった』
「……グランアインには、いつ?」
『ん~、12歳くらいか? 別の町で冒険者やってて、鉄貨級だった頃かな。新しく町を作る事になったってんで、開拓のメンバーに立候補したんだよ。新天地で一発当ててウハウハだって思ってな』
そこでアルバートと出会って、殴りあいの喧嘩したりしてなんか腐れ縁になって。
オゴスの旦那やベローナさん、パメラのババアの活躍を見て……そこで初めて冒険者ってかっけぇって思えて、少し真面目にやるようになったんだよな。
で、なんのかんの仲間が死んだり、アンナみたいな今では金貨級の面子とパーティ組んだりしたな。
……あぁ、20代から髪が薄くなり初めた時には、何度死のうと思ったかわからない。なんせ加速的に抜け毛が増えていくんだから、当時は絶望しかなかったぞ。
『育毛剤の詐欺には合うわ、悪魔に魂を売れば髪が生えるなんてヨタに巻き込まれるわ……』
「僕も、他人事ではないので……気を付けます」
『そうだな。頭皮は常にケアしとけ?』
ま、とにかくだ。
『多分ハノンは、俺の身の上を聞いて、肩の荷を降ろしてるんじゃないか?』
「……どうなんでしょう。少し、ヴォルさんが近くなったような、気はしますが……」
『それでいいんだよ。俺からしてみりゃあ、冒険者ってのは何のことはない。自分の欲望を満たしたいだけの連中って事だ』
もちろん、通すべき筋や、守るべき一線。一定の立場に来てしまったが故の責任なんてのはある。
それを踏まえた上で、あれがしたい、これをしたい。それをやるためには金が要るから、一番簡単にベットできる掛け金である、自分の命を張って大金を稼ぐ。
それが冒険者の根本だと、俺は思っている。
『だから、ハノンも気負わなくていいんだよ。辞めたくなったら辞めても良いし、続けたいなら俺と一緒に守り守られすりゃあ良い。……それが、相棒ってもんだろ』
「…………」
ハノンが、俺を抱きかかえる。
首の根元に鼻を埋めてくる感触。息がくすぐったいが、けして不快ではない。
ハノンにとって、この話は納得のいくものだっただろうか。それとも、ただ俺に幻滅しただけだろうか。
「……モフ……」
『流石に埋まったまま喋られるのはくすぐったい!』
「ぷはっ」
口元を離しながらも、腕は少し強めに力が籠る。
背中に感触が移ったし、これ頬ずりに転換しただけか。
「……僕、冒険者、やめませんよ?」
『……そうかい』
「最初は……というか、今でも怖い、ですけど……」
でも、と、言葉が続く。
「いつの間にか……一度、一緒に並んでみたく、なっちゃってたんですよね」
『……誰と?』
「えへへ……ヴォルフガングさんと、です」
……そうかい。
そりゃあ、嬉しいプロポーズだ。
『へっ、それじゃあ、是が非でも俺を元に戻さねぇとな?』
「はい。僕が戻してあげますから、その時にはもっと、盾の使い方教えてください」
『あぁ、シールドバッシュの極意を伝授してやんよ』
俺がハノンの隣からいなくなるのは、死んだ時か、元に戻った時だと思ってた。
しかし、こいつは俺が元に戻っても、隣にいるつもりらしい。
それは、ハノンが未来を見据えた結果だろう。
角兎でも剛健でも、俺という存在についてきてくれるというハノン。この刷り込みがついた雛鳥を、天高く舞う鷹にまで育てる。なんとも、たとえ引退したって心躍る目標だ。
『んじゃ、そういう事で……改めてよろしくな、相棒』
「はい、よろしくお願いします。相棒さん」
今俺たちは、ようやくコンビってものになれたのかもしれないな。
「……ところで、交代ってまだですかね……」
『寝るなよ。後一刻だ』
「あう……」
結局、この日は特に襲撃も無く済んだんだがな。
ヘナが女魔術師に、髪を弄り回されたことでめっちゃ疲労してただけで、なんとも平和な一晩だったさ。




