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第15話 おやつ時。カフェテリアのフルーツロティ (後編)

「へぇ。これがロティか」


 目の前のクレープ状のスイーツを見下ろして、俺はふむとフォークとナイフを握りしめた。結局、少し先に来たワッフルは対面のリリスがもぐもぐと美味しそうに食べている。


 それにしても、クレープだ。写真で見たときも思ったが、つんつんとフォークでつつかれたこのフルーツロティ。何処からどう見てもクレープである。

 白く大きな皿。はっきりいって、ロティの周りの空白は要らない気がする。ソースで飾りがなされているが、不用意に大きな皿は逆に、何となく損した気分になってしまう。


「味は……。うん、美味い」


 ナイフで切り分けて、俺はとりあえず生地の部分を口に運ぶ。しっとりとした舌当たり、柔らかな甘さ。確かに美味い。

 しかし、美味いには美味いが。……クレープだ。美味いクレープ。


 要は、何処かの国のクレープ風のお菓子なのだろう。言われてみれば、生地の四方をぺたんと折られた盛りつけは、ガレットみたいでちょっと面白い。何故かは分からないが、何処からか東南の雰囲気を感じさせる。


「まぁ、美味いならいいか」


 期待していたような、クレープとの違いは分からなかったが、味だけならかなり優秀だ。沢山のフルーツに、アイスクリーム。生クリームはないが、代わりに甘いクリームソースがかかっている。


 層になっている生地をナイフで切り取れば、少し溶けたアイスとソースが混ざり合いながら生地の下へと流れていく。それをフォークの先の生地で掬いながら、俺はゆっくりと口を動かした。


「……うん。うん」


 噛みしめる。ソースの甘さはかなりのものだ。しかし、それをフルーツのさっぱりとした酸味が纏めていた。まだ熱を残している生地と、冷たいアイスクリームのコントラストも楽しい。こりゃあ美味しいなと、俺は次の一口をナイフで作る。


「うまいっ。やっぱ甘い食いもんは最高だなっ」


 生地にナイフを通していると、満面の笑みでリリスがこちらを見つめていた。視線を上げれば、にかっと笑うリリスの口元にクリームがこびりついている。


「……お前、甘いもの好きだよな。やっぱり悪魔でも女の子ってことか」

「そりゃあねぇ。というより、甘いものってのは高級品だぜ? 今がおかしいんだよ」


 フォークをちょいちょいとこちらの顔に向けながら、リリスはよいしょと椅子の上で胡座を組んだ。女の子らしいと言ったそばからだが、俺も気にせずにリリスの話にふーんと頷く。


「まぁ、考えてみればそうか。砂糖とか、昔は貴重だったって聞くものな」

「そうだね。あたしたちも、甘いものはあんまり食ったことはないよ。リンゴとか、そういうもんくらいさ」


 正直、これはやべーうまいとリリスはワッフルをフォークでつついた。悪魔に林檎というのも何か変な話だが、一昔前でもフルーツくらいが甘味の限界だ。祖母が最初にバナナを食べたとき感動したという話を、俺はちらりと思い出した。


「あんたには感謝してるよ。魔界を見渡しても、ここまで美味い供物にありつけてるのはあたしくらいだ」

「そうなのか? はぁ。まぁ、そう言われて悪い気はしないが」


 もぐもぐとロティを咀嚼しながら、俺は楽しげな表情のリリスを見つめる。脳天気なイメージだが、自分の目の前のこの少女は魔界の悪魔だ。


「てことは、お前が美味いもん食いたいから出てきてるのか。全く。感謝しろよ」


 金だって俺が出してるんだしと、俺はリリスに眉を寄せた。願い事だなんの言っても、結局はこいつ自身の食い意地らしい。


「……ん? いや、そういうわけじゃ。……うーん。まぁ、でも。そうなのかな。あたしもうまいもん食いたいし」


 俺の言葉に、リリスがおやと顔を作る。何か言おうとして、しかしまぁいっかと顔を上げた。何だ、言い訳がましい奴だな。素直に感謝してればいいものを。


「よし。半分食った。そっちの皿をよこせ」

「ふいふい」


 ロティが半分ほど無くなったのを見計らい、俺はほいとリリスに皿を明け渡す。リリスも、ぷらぷらとフォークを口にくわえながらこちらにワッフルを差し出した。


「……なんだこれっ。冷たいっ」

「ん? ああ、アイスは初めてか。氷みたいなもんだ」


 ぱくりと頬張ったアイスクリームに感動しているリリスを見やって、俺はふむとワッフルに手をかける。氷とは全然違うと思うとリリスが視線を送ってくるが、細かい説明をしている暇はない。俺は元々このワッフルが食べたかったのだ。


「おお。結構いけるな」


 はむっと口に入れたワッフルに、俺はよしよしと頷く。こちらも、ワッフル自体は想像していた通りの美味さだ。

 ややもっちりとした食感。生地の甘さの中に、香ばしさがきちんとある。ここらへんはワッフルならではだなと、俺は生クリームを生地にたっぷりと乗せてみた。


「うむ」


 先ほどのロティとは違い、がつんとくる。少し生地からアーモンドの風味が漂ってきているだろうか。ふんわりと、だが濃厚な生クリームがしっかりとしたワッフル生地に合っている。

 かなり重めのスイーツだ。フルーツも乗っているが、ロティと違い生クリームや生地の油っぽさを完全には相殺しきれていない。


「若者の食べ物だな」


 リリスと分けているからいいが、これ一人前は一人ではかなり厳しい。最近、デザートでも胸焼けを起こしそうなものが出現している。若い女性はぺろりなのだろうが、おっさんには少々悩ましい問題だ。


「こっちもうまいっ」


 ロティも相変わらずがっついているリリスを見て、俺はふぅと息を吐く。こいつ程ではないが、確かにスイーツの歴史は俺もある程度は感じている。

 まず生クリーム。これが新しい。俺が小さい頃は、まだバタークリームが結構な割合で使われていたような気がする。あの、ごてっとした味。今の子は、当時のショートケーキを食べたらどんな顔をするのだろうか。


「……どうですかねお嬢様?」

「うまいっ。満足だっ」


 にかっと大口を開けるリリスに、俺はそうですかと頷いた。魔界の悪魔様が言っているのだ。少なくとも今の甘味は美味いのだろう。

 ふと、今日食べたものの中に砂糖ってどれくらい入っているのだろうと、俺はちらりと皿を見つめた。


 甘味。脳を刺激する、甘美な味。


「……甘すぎるな」


 いい加減、甘くなり過ぎた口の中を洗うように、俺はグラスの水を口に運んだ。

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