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25.

――数ヶ月経ち、スノウが6歳の誕生日を迎えてしばらく経った春。



魔導研究所のとある一角で、ギラギラと目の血走った所長&研究員達に囲まれて、クリスティーナとスノウがとある新開発された魔導具の前に立っていた。


垂直に立てられた直径1メートル半程の鉄製の輪っかがあり、上下と右側に魔石が埋められている。

左側の窪みに2つに割られた魔石の一つを埋め込むと発動する仕組みである。



時刻が迫ると、所長が「どうぞ王妃殿下!」と半分に割られた魔石を嵌め込んだ。

同時に魔導具に埋め込まれた魔石が淡く発光して、その光が魔導具の輪っかを伝って光を増し、辺りを明るく照らし出した。



「わぁ……!」



初めて見る光景に、スノウが小さく声を上げると、輪っかに囲まれ空間が揺らいで見えていたはずの光景が変化した。



その輪っかの中に見えた光景は、見覚えのある深い森の景色を映し出した。



「森だ…森が見える!」

「本当ねスノウ!」



「異常なし!よし、安定確認!」という声を聞いて喜びに湧く室内に笑顔になりながら、輪っかの向こうから覗く人物に手を振る。

まずはと装置を跨いでの物の受け渡しをして、安全確認に入る研究員たち。次に研究員が行き来して安全性を確認する。


余談ではあるが、初回の生物の行き来にはネズミなどから始まり、罪を犯した罪人でお試し済みである。


繋がった向こう側の研究員の背後から、小さな影が垣間見えた。


「わーーー!すげぇ!どうなってんだ〜?!あ、スノウ!?おーい!元気かぁ?!」

「サロお兄ちゃん!ロブ、ナット、みんなっ」



森の住人の姿が見えたスノウは、笑顔を輝かせて小さな手を一生懸命に振る。

そんなスノウを見て、クリスティーナは「よしっ」と腕まくりをした。



「じゃ行ってみようか!私から行くわね」



魔導具の側に近寄り、クリスティーナには少々小さい輪っかに身を屈めながら潜らせると、なんの抵抗もなく森側へと足を下ろした。



「ふっふーん!大成功ね!」

「わぁ、クリスティーナさんが輪っかから出てきた!」



輪をくぐり抜けたクリスティーナを見て、スノウはゴクリと固唾を飲んで見守る研究員に囲まれる中、魔導具へと近づいていく。

そっと輪っかを潜ると、森の濃い香りがスノウの鼻をくすぐる。

一瞬にして森に移動したスノウは後ろを振り返ってから、森をぐるりと見回す。

不思議な体験に目を丸くしたまま、先で待っていたクリスティーナを見上げた。



「すごい!一瞬で来ちゃった!」



紅潮した頬で興奮を表すスノウに目を細めて、クリスティーナはニッコリ微笑む。



「これでいつでも来れるわね、スノウ。どう?」



スノウは息を飲んだ。

スノウの願いを全て叶えようと魔道具を用意してくれたクリスティーナに、色んな想いが溢れて言葉に詰まってしまう。



「……っ!」



何も言えなくなったスノウは、瞳を潤ませてクリスティーナの腰に抱きついて顔を擦り付ける。

その可愛さに悶えたクリスティーナは、抱きついたスノウの頭を優しく撫でてから腰を落として優しく抱きしめ返した。



「スノウも出てきたー!母さん呼んでこようぜ、かーあさーーーーん!!」



興奮する周りも気にせず、2人はしばし森の中で抱きしめ合っていた。






「いらっしゃーーーい、スノウ〜!!」

「マーヤお母さん!」


「何かしてると思ったけど、これまたどえらいもん作ったもんだね」

「スティラさん、お久しぶりですわ」



家の方から現れた住人たちに、スノウとクリスティーナは笑顔で挨拶を交わす。

マーヤは赤ちゃんのハーヴィをスリングに入れ込んでいて、その顔をスノウにも見せてやっていた。スティラは呆れた顔で、魔導具や研究員達をジロジロと眺め回した。



「なんだい、常設するのかい?」

「お部屋の一室をお借りできます?そこで遠距離実験とか、色々できればと思うんですけど」

「あんた本当に遠慮がないねぇ」


「遠慮が為になるなら考えますわ。記録係として魔導具の管理を行う人材は、薬学にも精通している人を置くので、宜しければ助手としてお使いくださいな。あ、作成した薬や薬草はうちが売買を引き受けますわ。ふふ、win-winってやつでしょ?」


「ぅ……むむ、ぐうの音も出ない提案だね。はぁ、仕方ない。売買の方は話をまた詰めよう。後は好きにしな」

「ふふ、ありがとうございます」




こうしてクリスティーナの私的な理由から、遠距離ゲートを森のスティラ家に常設した魔導研究所は、人員を森に配置して各種実験を行いつつちょくちょくスノウたちが行き来する事となった。



再会を喜び合うためにスティラ家のダイニングに移動した面々。

一頻りお茶を飲みながら談笑したところで、クリスティーナが徐に口火を切った。



「そうそう、スティラさんはこのままずっと森にいる予定なのですか?」

「いや……まぁ、目新しい薬草も無いしね。とは言っても、もう良い歳だからねぇ。これからは研究一本に絞るつもりさ」

「じゃぁ場所に拘りはありまして?」

「上質な薬草が気軽に手に入る環境なら、どこでも良いさね。この森は環境もいいし、子供達は小さいが教えた通りにするから処理がいい。サロなんか手先が繊細でね、重宝してるよ。……なんだいその顔は。何かあるのかい?」



返事をするうちに、にんまりと笑みを作るクリスティーナに、スティラは持っていたティーカップを怪訝な顔をしながらソーサーへとおろす。



「うち、実家で薬局を開いてますの。

研究顧問として森の魔女ことスティラさんをお迎えできたら嬉しいな〜?と思いまして」

「なんだ、勧誘か」


「研究場所、助手付き、薬草はミディティ皇国のものと森の物。薬草収集家として子供達を専属で雇うことも可能ですわ!」

「………………そ、そうかい。これまた至れり尽くせりだね」

「研究場所近くに住む場所もあるのですが、スティラさんには静かに研究できる場所を用意しますわ」

「……やりたい研究をしても良いのかい?」

「ええ、もちろん!ただ、製薬の研究を行っている他の者に助言してくださると助かります」

「…………まぁ、それくらいなら……良いさね」

「ありがとうございます!では整い次第お声掛けさせていただきますわね!」




下準備にも余念のないクリスティーナは、こうしてしれっとスティラの言質をがっちり掴み取り、サプライズな転居準備を水面下で始めて行く。





そうして穏やかな日々が過ぎて少々気温の上がる夏に差し掛かる頃、「危険回避」を念頭に置いたクリスティーナは森の住人の大人たちを引き連れて、実家の領地へと久々に赴いた。


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[一言] コロナのせいでどこにも行けず離れて暮らす家族ともなかなか会えず鬱々としていた昨年の夏、子供の頃から大好きで母になってからも子供と一緒に繰り返しDVDを観たあのお伽話が「こう来たか〜」と姿を変…
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