24.
お久しぶりです、申し訳ございません(汗
コロナの影響でこの期間で2回ほど転職しておりました。
時間の隙間を見つけてノロノロ更新頑張ります……!
感想への返信は、遅くなりますがやっていきます。
お待たせして申し訳ございませんー!!
「さー。スノウたんの為に、急ピッチで仕上げるわよぉぉぉ!」
翌日。
拳を握りしめて雄叫びを挙げたクリスティーナは、ミラにスケジュールの調整を言いつけると侍女を引き連れ魔術研究棟へと急いだ。
「お、王妃殿下!朝早くから如何されましたか?!」
「皆様の進捗を伺いたいのと……一つの製品の完成を急いでもらう為に来ましたの」
ホホホ…と扇子で顔を半分覆いながら品よく微笑む王妃に、ざわつく研究員達が己の担当するプロジェクトじゃなかろうかと、まるで服装の抜き打ちチェックを受ける学校の生徒さながら戦々恐々とした面持ちになる。
以前クリスティーナが提案した製品リストは、今までにない発想であり、それぞれ興味のある製品作りに参加して制作を進めていた。
興味深い内容に皆精力的に取り組んでいるのだが、実現させるための発想力に個人差があるため、その進捗具合はまちまちである。
その中でも先日活躍した毒検知機能付きカトラリーは、既存の鑑定魔術の応用と小型化が肝だった為に、プロトタイプが早く出来上がり、まさかの大活躍をしたのだが。
「転移装置の担当は何方かしら?」
クリスティーナが扇子をパチンと閉じて見渡せば、該当のプロジェクト担当者が「は、はぃぃっ!」と涙目で挙手した。
「王妃殿下、恐れながらあのプロジェクトは理論が難しく、まだ魔法陣の構築に至っておらず……」
「ええ。で、どこまで進んだか聞かせてもらえます?」
有無を言わさない王妃の微笑みに、フォローを入れたつもりの魔術研究所所長がググっと言葉を詰まらせて、担当者へとソロ〜っと目を泳がせた。
しどろもどろな担当者を見兼ねて、魔術研究所所長は「ここでは何ですから」と、担当者一同とクリスティーナ達を引き連れて場所を移動することにした。
移動した先─研究所の一室を使って、研究員たちとの話し合いが始まった。
「──ですから、距離を移動するにあたっての式の構築ですが」
「違う、違いますわ!“移動する”という観点がそも違いますの。“繋げる”のです。移動先と現在地を!」
「えー…繋げる?ですか」
「そう!移動じゃ有りませんのよ!例えばこの紙の端と端を折り曲げてくっつける様に、この空間を……こう!こうなのです!」
「な、何ですとぉぉぉ?!そんなこと……いや、1つの魔石を使った共鳴作用を使えば…では術式は移動ではなく空間系の……」
「地点の取得は絶対値で、取得方法は……」
白熱する議論を挟み、何とか前進の兆しを見せたプロジェクトは凄い勢いで躍進を始め、クリスティーナの顔はやり切った感が満載で光り輝いていた。
後は天才達に任せるのが良いとして、意気揚々と研究所を後にしたのだが、この想定外の理論や既定概念を覆すアイデアに、研究所の天才達がこぞってプロジェクトへの意見指導を目的とした謁見申請を提出しまくるのはまた別の話である。
そんなこんなで、予想以上に多忙を極めるクリスティーナ。だがしかし、癒しの“マイエンジェル・スノウたん”と、仕事の合間を縫ってお茶の時間は多忙を極めようが時間を捻出して、死守していた。
「スノウ、もうお手紙を侍女のお手伝いなしで書けるなんてすごいわ!可愛い上に天才だなんてほんと驚いてしまうわ〜」
「え、へへ……嬉し、頑張った、の」
今日のスノウは、白のレースの上に落ち着いた赤地に白色の刺繍で彩ったエプロンがアクセントのゴシック系ロリータワンピースである。赤のリボン飾りのカチューシャが可愛さを増していて、エンジェルスリーブをヒラヒラさせて照れる姿に、クリスティーナは胸を押さえて悶絶した。
「スノウたんが可愛すぎて死ねる……っ」
少々息の荒いクリスティーナを上目遣いで心配するスノウに、にっこり微笑んで誤魔化す。
クリスティーナは周りにはそうとは気付かれない、見目が整った変態である。
悲しいかな、それを知る者はこの世界にはいなかった。
「寂しい思いをさせてごめんなさいね?もうすぐ皆の居る森に行けるからね」
「うん……!みんな元気かな」
「お手紙を書いたらどうかしら?みんな喜ぶと思うわ」
「…っ!そうする!」
嬉しそうに頬を染めるスノウをハグしながら頭頂部にスリスリと頬擦りしたクリスティーナは、とりあえずの目的を打倒ネクロフィリア(?)に定めて、製品開発を気にしつつも外交に精を出すことにした。
前もってお手紙外交に精を出していたクリスティーナは現在、各国の王妃や側妃、皇后と言った高位の女性とのやり取りに移行していた。
かつてクリスティーナが、攻略対象(と思い込んでいた)から物理的に逃れるために逃げ込んだ、学術院のある隣国ミディティ皇国の皇妃に“お近づきの印に”と、先日大活躍した成分表示機能付きカトラリーの改良版である「成分解析キット」を贈った。
流石薬学の先駆者が揃うミディティ皇国というべきか。成分分析キットの有用性に大興奮……大変喜ばれ、「正式に購入するから量産してくれないかしら」と連絡が来た。
クリスティーナは何度か目を瞬かせて手紙をそっと封筒に仕舞うと、アシェリードにマルっと投げ渡して「調整いたしまして担当からご連絡いたしますね」とサラッとお返事を返した。
南側に隣接しているオーゼン国とは、挨拶ついでに「海の物って美味しいよね、うちは内地で肉ばっか。干物とかってやってる?」をオブラードに包んで送ってみたら、「そっちの国でも海産物ってウケるの?んじゃ山のもので美味しいのと交換してみようよ!」とアグレッシブな(もちろんオブラートが何重にも巻かれた)内容が届き、それも丸投げした。
そうして各部署が慌てふためきながらも例に見ない程の活気ぶりを見せている中、クリスティーナは地道にお手紙交流を続けていき、やっとこさ当初の目的であった家族構成話に至る。
王妃就任の挨拶から外交絡みの商品話、流通の活性化からプライベートな家族構成話とくれば、先を見通しながら国の舵取りをする者は、皆一様にハッと何かを嗅ぎつけたような顔をし始めた。
「これはもしや……将来的に婚姻での関係強化したいのかもしれない……」
─ と、全くありもしないクリスティーナの思惑を嗅ぎ取り「国家間の条約ってどうなってましたっけ?」と文通相手の国はソワソワしだし、今までになく良好な条約に切り替えをそれぞれ検討し出すのだが、クリスティーナはそんな事知らずに、今日も「文通って良いわね〜」と言いながらペンを走らせるのだった。
そしてその地道な文通外交の結果――
「ミディティ皇国は小さな子供は無し。けど皇太子(30)に小さい皇女。皇子はまだ皇帝の弟一家は20歳過ぎの息子と婚約済みの娘が2人。南のオーゼン国は皆成人しているか、間近。王子王女の婚姻は数年先……うーん、オーゼンの方が可能性はあるのかしら?」
ふむ、と考え込んだクリスティーナは、森が見える窓へと目をやった。
「何かの目的があったとしても、他国の王族が無断で来ることは少ないだろうし…。しかもストーリー通りなら出会いは森?……なのよねぇ」
出会いの時期は物語通りになってしまうのか?もしそうなら、数年先?いやいや、そんなこと言って繰り上げてスノウが森に拉致られたではないか。
頭を悩ませたクリスティーナは、ポンと手を打った。
「そうだ、森に行かなきゃいいのよ。引っ越しさせちゃいましょう!」
その突拍子もない発想は、森の善良な住人達へと降りかかる事になるだが、この時新たな家族となった赤子に一喜一憂するマーヤ&エーブラ一家とスティラは知る由もなく。
しかし割と早い段階でその思いつき爆弾は、形を整えられて投下されることとなる。




