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20.

 

 一方その頃のスノウは……



「スノウは細かいところもちゃんと分かる偉い子だねぇ。どれ、薬作りのお手伝いもするか」


「……うん!」



 クリスティーナを見送ってからのスノウは、スティラの言うことをちゃんと聞いて、お料理の小さな手伝いや、お掃除のお手伝いを積極的に行っていた。



 時間が空けば、ラケルが遅れないようにと勉強をみた。天気の良い日には護衛の近衛騎士とラケルと一緒に家からごく近い距離を散歩もした。


 クリスティーナが城へ戻って寂しさで萎れていたスノウだったが、初めての事がいっぱいに詰まった生活に段々と楽しみを見出していた。



 まず王宮でのあまり外に出ない生活から、いつでも家を出れば自然に触れて遊ぶ事ができる生活に。大人ばかりに囲まれ環境から、同年代の子供と初めてのことにびっくりしながらも笑い合える環境に。


 これだけでも萎れていた心を少しずつ持ち直すには十分だった。その上スティラに褒められながら家事の手伝いをするのはとても楽しく、クリスティーナも勉強したと言う薬学のお手伝いも出来るらしい。


 スノウは子供らしい笑顔を浮かべて、森での生活を楽しむことができた。

 勿論彼女の笑顔を取り戻させた最大の要因の一つは、クリスティーナでもあった。



「スノウ様、クリスティーナ様から色々が届きましたよ~」

「!!」



 クリスティーナからの贈り物は着替えや食料、薪など多岐にわたるが、スノウ宛の手紙が一番彼女の笑顔を輝かせた。



「ラケル……あの、」



 手紙を大事そうに受け取って胸に当てると、スノウはラケルを控えめに見上げる。



「一緒に、読んで欲しいの」

「はい、勿論でございます」



 まだ長文を読むのが難しいスノウ。

 こうして暖炉の前に座ったラケルの膝にちょこんと座り、クリスティーナからの手紙に何度も目を通すのが一番の楽しみであった。



「お返事、書きたい」

「いつでも手配いたしますので、ゆっくりとお書きくださいね」

「うん、わかった」




 クリスティーナはにっこりと微笑んで、呼び出した3人の前に立つ。

 それぞれに微笑みを浮かべて静かにクリスティーナの言葉を待つ3人の様子を、観察しながらクリスティーナは口を開いた。



「今日から貴女達の担当は私付きに変更することにしたわ。トップはミラで変わらないから、よく言うことを聞いて頂戴ね」


「「「はい、よろしくお願い致します」」」



 頭を下げたハイデリシア、オレリーとナリシアの3人はどこか含みのある微笑みを浮かべて、承諾の返事を口にする。

 その返事を聞いたミラがクリスティーナの後方から進み出て、3人へと言葉をかけた。



「ではクロルについて行ってください。色々説明を致しますので」



 壁際に控えていたクロルが軽く頭を下げて礼をして、踵を返して部屋外と静かに出ていくのを3人は無言で着いて行った。



 パタンと扉が静かに閉じられ、クリスティーナはふぅっと息を吐く。



「大丈夫でしょうか」

「まぁ、どうなるかしらね。とりあえず様子見かしら」



 クリスティーナが次に取った行動は、勧められた行儀見習い中の令嬢達を王妃付きに変更させることだった。


 他のアクションがない以上、手始めに手元に置いてよく観察しようと言う魂胆である。




「早く粗相をしてくれないかしらねぇ」

「侍女としての立場から申し上げますと、それを願って良いのか……複雑でございます」

「クスクス、そうね。じゃせめて内々に処理ができる所でやってくれたら良いわね~」

「王妃殿下……」



 顔色を悪くしたミラがクリスティーナを嗜める様に呼ぶが、本人はのほほんと微笑むばかりである。




 これと同時にクリスティーナは、他国の王族の調査も行うことにした。近隣国の王族に新王妃として挨拶の書簡を出して、家族構成まで話が繋がれば御の字である。

 勿論全てはストーリーに争うための備えである。



「ふふふ、前世()で培った、文書作成スキルをフル活用するわよっ!!」



 それから公務と並行して、お手紙ラッシュに入ったクリスティーナ。


 この手紙が後々国家間の親交を深め大きく影響を与えるなど、今のクリスティーナは知る良しもなく。意気揚々とペンを走らせまくるのであった。




 それからの日々は何事もなく、平穏に過ぎて行った。


 行儀見習いの3人は卒なく仕事をこなし、問題行動は見受けられないまま。

 他の貴族からの接触も、特にこれと言ったものも無い。


 クリスティーナは思惑が外れたのかしらと、謁見申請に対応しながらも頭を傾げて悩むばかりだった。



(んーー、炙り出しには何が効果的なのかしら?)



 あれこれと思い悩むクリスティーナに、仕事の合間の休憩だったのだろう、アシェリードが姿を表した。



「一緒にお茶でもしないか?」

「陛下…お誘いありがとうございます。行きますわ」



 謁見のお仕事も終わり、ミラに後を任せてクリスティーナはアシェリードの腕に腕を絡ませてエスコートを受ける。

 日当たりのいいサロンに向かうために謁見に使用した部屋を出ると、丁度申し付けた仕事を終えたらしい行儀見習いの3人と出会(でくわ)した。



 謁見中に3人には、貴族の持ち込んだ献上品という名の賄賂を受け取り、所定の部屋に運んで受け取った相手とその内容を近衛騎士と共に確認やリストチェックなどの雑事に当たらせていた。


 謁見が終わり様子を見に来たのであろう3人は、アシェリードに気付いて即座に頭を下げて礼をとった。



「よい、楽にせよ」

「陛下、行儀見習いで上がっている方々ですわ」

「そうか」

「貴女達、リストはミラに渡して置いてね。次の指示はミラから受けて頂戴」


「「「畏まりました」」」



 素直に了承の返事を返した3人に、鷹揚に頷きを返すとアシェリードと共にサロンへと歩き出す。


 スッと壁際に寄ったハイデリシアとオレリー、ナリシアの前を通り過ぎてからクリスティーナはチラリと様子を窺った。



「ふぅん…」

「どうかしたか?クリスティーナ」

「いいえ、陛下。休憩にスイーツがあると嬉しいなと思っただけですわ」


「そうか、何か持って来させよう」

「ありがとうございますっ」



 にっこりと微笑んでクリスティーナはエスコートで絡ませている腕を引き寄せ、より密着させて喜びを伝えると、アシェリードは照れた様に微笑んで見つめ返す。


 そんな国王夫妻の仲睦まじい様に、護衛で付いている近衛騎士や侍従は微笑ましそうに見守る。


 クリスティーナはニコニコと微笑みながら、その背に一層強くなったドロリとした視線を感じ取っていた。



(こっちかー。イチャイチャは門外漢なんだけどなぁ〜)

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