前
そよぐ風は森の中に汚れた生臭さを運ぶ。
声なき悲鳴が苛む。
彼女はゆっくりとその身を起こす。
緑の風が彼女の周囲を舞う。
少女は癒す術を求めるが為に。
その足を大地に降ろした。
総てをはじめ、そして終らせる為に。
緑の森は深い。
深い緑の森に気分の悪くなるほどに立ち篭めた暗雲と絡み付くような湿気。
気味悪く、生温い静けさが森を包み込んでいる。
クぃンっと真紅の髪に不自然な引力がかかる。
真紅の髪の持ち主はゆっくりとした動作で振り返った。
振り返った髪の先、一人の少女が真紅の髪の先を握り締めている。
森には他の気配は感じられない。
ただ、お互いだけ。
「き、君は誰なのかなぁ? おじょーちゃん。」
戸惑いつつも真紅の髪の主は視線を合わせるためにしゃがみこむ。
少女はしっかりとその紅い髪を握り締め、戸惑いを隠さない真紅の髪の持ち主を見上げていた。
髪の持ち主は他に誰かいないかとキョロキョロあたりを見回す。
彼は昼なお薄暗く、鬱蒼とした森の獣道をカドア領から隣国フォートシィアに向かい走ってる最中、少し休憩を。と足をゆるめたところだった。
彼としては気配に気がつかないほど夢中に走っていた訳でもないし、いつもより森の気配には気をつけていたつもりだった。
当然ながら人里は遠く、他の人影はない。だからといってこの少女が魔物という風には到底見えず感じられない。
こんな幼げな少女をそんな風に見たくもなかった。
それなのに、彼には少女の正体を看破することができない。
森で育ち、森に生きるモノの気配をほぼ全て熟知している彼にとって普通なら有り得ない事だった。
「ねぇ、君、迷子?」
彼は出来るだけ優しい声を出し、少女に尋ねてみる。
少女は不安そうにふるふると頭を横に振るだけで答えてくれない。
薄暗い森の緑と同化しそうなダーク・グリーンの不揃いなみつあみが揺れる。その仕草はとても愛らしい。
飾り気のない簡素な洋服はさほど裕福な出とは思えない。つまりは誘拐されたわけでもなさそうだ。
では、捨てられたのか。置いておくべきだろうか?
まるで、彼のそんな心情を察したようかのに、長い睫毛に縁取られた栗色の大きな目が潤む。
その少女の反応に真紅の髪の持ち主は少しばかり『困ったな』と苦笑いを洩らした。
「あのね、君、名前は? オレはアレイド。ア・レ・イ・ド。きみは?」
彼は自分を指さしながら名乗り、次に少女をさしながら尋ねる。
その時の表情は多くの者を魅了する真紅の天使の微笑み。
アレイドは既にこの少女を見捨てる気はなくなっている。
「……ミリエーラ…………」
消えてしまいそうな程か細い声。だが、小さな鈴が鳴るような可愛らしい声で少女はミリエーラと名乗った。
「ミリエーラ?」
アレイドは優しい声と微笑みをつけて繰り返した。
少女は小さく可愛らしく頷いてみせる。
「おうちは何処? ミリエーラ。」
アレイドの問いにミリエーラはまたふるふると頭を横に振った。
解らないのか、答えたくないのか。
その様子を眺めながらアレイドは少し考えこみ、呟きを洩らした。
「あんまり、善い事とは思えねーよなぁ。」
森を故郷とする者である自分が街に出るはめになったのは、今は自分の兄貴分になった存在に連れ出されたからだ。
自分の今の状況に不満が別段有るわけではないが、森の存在を森の外へと連れ出すのは元来、抵抗を強く感じる。森の存在は森から出て生きていくことができないことだってあるからだ。
それをアレイド自身はよく知っていた。本当に長い時を森で育ったのだから。
呟いた後、すぐ少女の不安を解消しようとばかりに、にっこりと微笑む。長く森で過ごしただけに対処法を知らないわけではなかった。
「一緒にくる? もちろん、ミリエーラ、君がついてきたいのならば、だけどね。」
ミリエーラはただ頷き、髪を握りなおす。
アレイドはかすかな迷いの後、この少女を必ず再び森に帰すことを心に誓い、ミリエーラを連れ出すことを決めた。そのまま笑顔を浮かべ、小さく頷いたミリエーラを抱き上げる。
「さぁ、行こう。目的地はフォートシィアだ。」
二人は街への街道に向かって獣道を進み始めた。
【フォートシィア国・国境の街セレリへようこそ】
二人はその日の日暮れ前にそんな看板の前にたどり着いた。
アレイドはつい頭を抑え、派手な色彩で飾られた看板から目をそらし、怯えてアレイドの髪を痛いほど握り締めるミリエーラをなだめる。
森の裏道を抜け正規街道沿い、のどかな草原地帯。あと少し進めば街の城壁が見えてくるという場所にどっかりとアーチを描く看板。
あらためて看板を眺めたアレイドはこの街の情報を思い出していた。
セレリの街が現王アトリックの正妃の故郷にして、王の第七子で次期国王オスク王子が八歳まで過ごした街であることを思い出した。
そして、魔王軍領カドア将軍領に最も近き街。
考えることを挫折したアレイドは、ミリエーラを連れ、街への門をくぐる。通行証ひとつで街の中へ。
宿に入る前に早々と店を閉めようとする寸前の古着屋や雑貨屋に寄って買い物を済ませる。
アレイドの選んだ宿は二階には客のための寝室が五、六室、一階は酒場兼食堂という標準的な安宿『桜葉亭』。
まず宿の女将にミリエーラの湯浴みを頼むとアレイドは客のまだ少ない食堂へと降りた。
食堂にはあまり人がおらず、席はすいていた。アレイドはカウンターではなくいくつか有る丸テーブルの人が座ってるところを選ぶ。
丸テーブルで一人で昼間っから呑んでいたと言う男は、アレイドと今はいないその連れとの相席を快く了承した。
一人呑んでいた妖精族の男はすっかり出来上がってるらしく、いろんな事を話してくれた。
「へぇっ! オスク王子とティックス王女がお里帰り中だって。じゃ、このセレリに来てるって訳だ。どーりで賑やかだと思った。」
アレイドは街の入口に有った看板を思い浮かべる。
顔に傷を残した傭兵風の妖精族の男が笑いながら頷いた。
彼の話によると彼はこのセレリの街の生まれで二、三日前から二十年ぶりの里帰りに来てたらしい。
アレイドは人懐っこく笑いながら世間話に花を咲かせるつもりが、何時の間にか情報収集になっていることに気がついてにっこり笑う。
「おっさんは仕事もせずに今んとこ暇潰しかい?」
「おいおい、おっさんは無いだろ。おっさんは。これでも五百歳を越えてねーんだぜ。」
じゃれつく様になれなれしいアレイドの態度に気を害した風もなく、彼はそう笑う。
「おっさんだろ。まぁ、兄ちゃんにまけとくか。で、王子様は何で来てるんだ?」
彼は軽く酒をあおると妖精族特有の長めの耳を軽く動かし、にやにやと笑う。
「オスク王子の試しって訳さ。次期王として国を治められるかどうかってね、取敢えず国境を任されたってとこだってさ。ま、聞いた話しだけどな。」
「ふぅん、ま、そだな。ゾルゾバ王の領地カドア領の領主、カドア将軍倒されちゃったからカドア領は魔族軍から解放されたし、大変だろうねー。近隣諸国問題。」
不意にもたらされた情報の重要さに妖精族の男は酒にむせ、眉を顰めているアレイドの顔をまじまじと見た。
「マジか? カドア領が解放されたって?」
他人ごとのように頬杖をついてアレイドは頷く。
「すっげーな。何時の話だよ。反乱軍が頑張ってるらしーから近いうちに行くつもりだったのにさ。」
嘘か本当か残念そうな妖精族に向かって肩をすくめ、アレイドは指を三本立てる。
「なにぃい、三週間も前だとぉっ!」
妖精族の男が出した声に数少ない客の視線が二人の方へと集まるが、すぐ興味なさそうにそれぞれの話にのめり込んでいく。耳を澄ませている奴ぐらいは居るだろうが。
慌てて口を抑えた男の仕草にアレイドは小さく苦笑すると指を左右に振って見せる。
「三日前。」
「お前、どーやってこっちにきたんだ?! 普通、一週間はかかるぞ。」
「ひみつ。あ、連れが来たみたいだな。ミリエーラ、こっちだよ。この子も同席いいよね。おにーさまっ。」
そう返したアレイドは湯浴みを終えたらしいミリエーラの姿を確認し、立ち上がる。
言葉なく頷いた妖精族の男にアレイドはにこにこと笑う。
その間にミリエーラはパタパタとアレイドに駆け寄る。
泥を落とし、古着とはいえ、最初に着ていた服より数段ましな衣装に身を包んだミリエーラは結構、見えるものになっていた。
そんなミリエーラをアレイドは抱え上げて椅子に座らせた。
その様子を見て、妖精族の男が不審そうな眼差しを向けてきたがアレイドに微笑まれ、赤面した自分を否定するかのように数回首を横に振った。
宿の娘らしき少女がミリエーラのために注文しておいた料理を丸テーブルに並べ、いそいそと立ち去る。そろそろ客が増えはじめるようだった。
ミリエーラが好んで食べたのは木の実を混ぜた黒パン、蜜入の果汁。
その様子を微笑ましげに二人の男は酒を飲みながら眺めていた。
ミリエーラを寝かしつけ、夜もふけた頃アレイドはそっとその宿を抜け、夜の街を一人の目撃者も出すことなく、器用に走り抜ける。
アレイドの目的地。その館は街で一番大きい建物。
セレリ領主ジラド伯爵家の別宅。
フォートシィア国次期国王オスク王子が今現在滞在している母方の実家でもあり、王子自身が八歳まで過ごした屋敷でもある。
白い壁はうっすらと夜の闇の中、浮び上がっている。
彼はその壁の内側に入り込んだ。見回りの兵の目を逃れ、邸内へと。
その後も目撃者を出すことなく目的の部屋にアレイドは滑り込む。
赤々と燃える暖炉。鮮やかな緑の敷物には細かい模様が刻まれている。
絹の生地に金糸で王家の縫い取りをされた青い夜着の青年がにこやかにアレイドを迎え入れた。
就寝前だったらしく長い金髪を後ろで彼は束ねていた。
「やぁ、もう一人の私。久し振りだね。会いに来てくれて嬉しいよ。ところでこの館の警備ってそんなに甘いものなのかな?」
青年は寝台側の戸棚から茶器を引っ張りだし、寝台の上に無造作に置く。
「座って。えっと、砂糖はいらないんだったね。」
アレイドはトレーの下に一冊分厚い本を敷いて茶器を置きなおす。
「はぁい。ありがとうございます。オスク王子様。」
青年、オスク王子はくすくす笑って古い友人にお茶を差し出した。
「何事だい? 君が夜中に尋ねてくるとろくなことはないのだけどね。」
いきなり切り出した王子の言葉に彼は肩をすくめる。
「取敢えず、アレイドと呼んで下さい。王子の身代りを辞めてからは随分たつ訳ですから。」
「アーレイ、ね。わかった。」
「アレイドですってば。お話が有るだけです。そう、カドア将軍領のことで……」
王子はまた話が大事だと天井を仰いだ。
「カドア領はカドア将軍の死により解放されました。」
「ほう。」
「それでそのまま功労者が王様になりそうですよ。と。」
オスク王子はふむ。と、腕を組みカドア領の方向を眺める。
「いつのことかな?」
「三日前ですよ。」
「見てきたようだな。死体や首は確認されていないと聞くぞ。」
アレイドは心外そうに髪をかきあげ王子を見る。
王子の情報網もかなりキテいると思うがアレイドはそれについては口をつぐんだ。
「見てきたんですよ。首はともかく身体は燃え尽きたんでしょう。」
「ふむ。どういう政策をたててくれるものかな? 近いだけに厄介なことはごめんだし、どのくらいの国力を持ち、どのように動くか、さて、難しいかな。」
アレイドはお茶を飲みながら神経質を装っているオスク王子を眺めていた。そう、何か言って欲しいんだろうな。と考えながら。
「ふぅーむ。」
王子は腕を組み、天井を見上げ、アレイドに視線を送る。
絶対に言って欲しい言葉が有るらしい。そう、王子という立場が許さないと思われる行動を起したい時彼はいつもこうだ。
アレイドはつい洩れそうになった呆れた溜息を押し殺し明るく言った。
「……わかんないなら、見に行ってみれば? でも、そういう行動はオレとしては止めたいですけどね。」
アレイドがくすくす笑いながら言った言葉に、彼は神妙そうに考え込むかのように目を閉じる。
彼がそうしている間、アレイドは呆れた表情でお茶をすする。
今の言葉はアレイドが望んで言った言葉ではなく王子が望んだ言葉を紡いだに過ぎない。王子には許されざる行動だ。内緒で国境越えなんて。しかも、未だ魔物の徘徊する地に向かって。
目を開こうとしたオスク王子の反応にアレイドは慌ててカップをトレーに置いて彼を覗き込む。
「そうだね。考えてるだけじゃ何も起らないし、ね。と、いうことで、案内は頼むよ。二、三日後つなぎを付けに来て欲しい。」
「了解しました。」
王子はじっとアレイドを見る。
「もしかして謀ったのか?」
アレイドはくすくす笑って立ち上がる。
謀ったのは王子だろうと言いたいのを我慢し、言葉を紡ぐ。
「ごちそうさまでした。では、失礼させていただきます。殿下。それと、そのお言葉はそっくりお返し致しますよ。」
アレイドは綺麗に会釈をし、その場から忽然と姿を消した。
「もう少し、説明していけば良いのに。」
忽然と姿を消したアレイドを見送ったオスク王子は一つ溜息を洩らし、茶器を戸棚になおした。
結局不満を黙っていられない様子が少し、楽しい気分にさせる。
「こぉ~~~~~~~~。」
呪われそうな声にオスク王子は発生源と思われる部屋のすみを見た。
「うっ、サーラいつからそこにっ!」
黒く蟠る闇、殆ど意識しなければ解らないほど存在感のない男がそこに蹲っていた。
翌朝、アレイドはのんびりとミリエーラの髪をすいていた。
ミリエーラはベッドの上にちょこんっと座り大人しくしている。
「朝ご飯はどうしようか。ミリエーラ。何か好きなものは有る?」
アレイドは鼻歌を止めてミリエーラに語りかけた。
「じゃぁ、昨日食べたのと一緒なのに、サラダを付けてもらおうか。あ、動かないの。みつあみ、しちゃおうね。」
言いきかせながら器用にアレイドは彼女の髪を編み込んでゆく。
黄色いリボンでみつあみを閉じたアレイドはミリエーラをポンっと押した。
「さ、朝ご飯、食べに降りよっか。今ならきっと空いてる頃だからね。」
早立ちする者の食事時は終る頃、近所の者や長逗留する者の食事時には早すぎる時間、それを見計らってアレイドはミリエーラを連れて部屋をでた。
下に降りたアレイドは女将に朝食代と二、三日分の逗留を伝えその料金を支払う。見回した食堂はアレイドの思惑通りがらがらに空いていた。
それなのに、食堂のスミに黒いフードの人物と灰色のフードを目深に被った人物を見つけたとき、アレイドはずっこけそうになった。
「あはははー。あの時のアーレイの顔っ! 驚いた?」
灰色のフード付きマントを身に纏ったオスク王子はアレイドの裏をかけたことが心底嬉しそうに笑った。
並んで歩くとアレイドよりこぶし一つ分彼の方が背が高い。
その一歩後ろを歩いている黒いフード付きマントの彼は日差しが辛いかのようにどこかふらふらとついてきている。
「まだ街の中なんだからあんまり声をたてないでいただけませんか? 若様。それと、アレイド。」
ぴりぴりと修正するアレイドの様子にオスク王子はくすくす笑いながら頷いた。
アレイドはミリエーラを抱きなおし、少しばかり目立つ灰色のフードつきマントの人物と黒いフードつきマントの人物を困ったような眼差しで見つめた。
「二人とも、確かに旅人の標準装備には違いないんだけどさぁ……、もう少し、ましな色のヤツ無かったの?」
この場合、真紅の髪をそのまま背中に流し、若草色のだぼついた長袖シャツを被っているアレイドの方が目立ってるともいうのだが当人には自覚はない。
「きぃ~~~~~~~~~~~~。」
黒いフードつきマントの人物が呪いの声をその口から洩らすが、オスク王子とアレイドは気にした風もなくミリエーラの相手をしはじめる。
「それにしても可愛い子だね。アーレイの娘かい? ああ、それにしては年齢あわないかな。」
「迷子ですってば。森で拾ったんですよ。それと、アレイドだってばっ! ん? どうしたのミリエーラ。」
ミリエーラの眼差しは呪いの声のような声を続けている黒いフードつきマントの人物にそそがれている。
「みぃ~~~~~~~~~~~~、うっ!」
『酸欠かっ!?』
胸元を押さえ、うずくまりかける黒マントの人物に二人は手慣れた様子で介抱をする。
「サーラ、あんまり驚かしてくれるなよな。お前が酸欠なんて珍しいじゃないか。」
呆れた口調でアレイドは酸欠をおこした男、サーラをからかった。
彼は力無く首を振りフードをはね飛ばす。
真っ直ぐに流れる黒髪は背の中程まである。
つくりは良い姿形をしているのだがいかんせん、その醸し出す雰囲気が呪いを吐く霊能者、なのだ。
彼のその黒い瞳は何処か澱んでるように他人の目には映る。
何を考えてるかわからない彼はシードやアレイドの同類、盗族の一人であった。
やけに細長い指で自分の喉元をさするその様は自分の首を締め付けている最中のようにも見えて怖い。
「ごぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~、めぇえ~~~~~~~~~~~~~~~んん~~~」
「わかった。サーラ、君の遺志はオレが継ぐ、だから安らかに沈黙してくれっ!」
アレイドはそう言うことで、不満そうなサーラの言葉を遮り、先を急ぐようにオスク王子を促した。
サーラの目は自分はまだ死んでいないと訴えかけていた。
フォートシィア国の国境を越えるか越えないかというところで、三回目の野宿の焚き火をアレイドとオスク王子で囲み、薪拾いにいったサーラとミリエーラを待っていた。
森は怪しい暗雲に包まれてじっとりと絡み付く空気が気持ち悪かった。
「あとどのくらいで国境を越えるのかな? それとも、もう越えた、のかな?」
オスク王子は周囲を見回しながら位置をはかろうと尋ねる。
国境の明確な区分けは時に不明瞭になった。それでも国を統べる者として国境の様子は把握すべきだとも感じていた。それは、魔物から国民を守るためだ。同時に、切り捨てるタイミングを計るためだ。
アレイドは枯れ枝を折り、火の中に放り込む。
「ココはほぼ中央、でもまだフォートシィア。」
「ふぅん。でも、アーレイ、いくらなんでもあんな小さな子、連れてくるなんて無茶じゃないのかい?」
アレイドは今、気がついたようにポンっと手を打ち合わせる。
「おい……」
「あははー、一緒に連れてくのがあんまり自然に感じたもんだから、つい。」
あの子は森の子だからという言葉を口に出しかけて口をつぐむ。
オスクは焼いている最中の串焼でアレイドを指し、彼の額につたう冷や汗を眺める。
「ごまかすな。その冷や汗はなんだ? アーレイ。」
「アレイド、だってば。どーしてそうなるの?」
「気にするな。まぁ、少しはまずったと思ってるんだな。」
アレイドは諦めたように息を吐き出し、枯れ枝を火の中に放り込みながら灰色のマントにくるまっているきさくな王子様を眺めた。
「少し、はね。それにしてもサーラってば、遅いな。そろそろ燃やす枝、無くなるのに……」
居心地悪そうにアレイドはしげみの方を眺めると、ヌッと暗闇から青白い不健康そうな手。茶色く細い棒の集合体。
「たぁ~~~~~~~~~。」
その上、呪いをかけるようにおぞましい声。
「あ、サーラ、おかえり。」
アレイドは後ずさりかけていた体勢を元に戻す。
「ひぃ~~~~~~~~~~~~~。」
彼は責めるように涙をぼろぼろと流しながらアレイドを見つめる。嘘泣きもこれほど気持ちよくできれば面白い。
「ご、ごめんってばっ! サーラ、ホントにびっくりしたんだってばっ!」
手を振って謝るアレイドの行動にオスク王子とミリエーラはくすくすと笑いを洩らす。
「おや、ミリエーラ、君が笑ったのは初めて見たな。ああ、いいのいいの。笑ってて。女の子はその方が可愛いよ。」
オスク王子の言葉にミリエーラはおろおろとして、サーラに謝っているアレイドの影に隠れてしまった。
「あらぁ」
オスク王子は嫌われちゃったかなとばかりに肩をすくめ、サーラから薪を受け取るために立ち上がった。
「二人ともじゃれあうのはそのへんでやめとかないか?」
オスク王子はサーラから薪を受け取り、地面に積む。
涙を止めたサーラがオスク王子の作業を半ば強引に引き継いだが、彼は当然のように最初座っていた位置に戻り、また座り込んでサーラの作業を眺めている。
「ごめんってば、サーラ、まだ怒ってんのかよぉ。あ、返事はいんないからな。」
アレイドはサーラにまた謝るとミリエーラを抱き寄せ昔話をはじめた。




