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 ドルセットレポート   作者: とにあ
反乱軍の英雄
4/12

それぞれ

 


 《3》


 それから時は流れて、五年。

 岩に腰掛けたシェリューズの横で、ラーバは敵陣を見るかのように岩の上で身を乗り出していた。

「おい、リューズ、カドア軍の奴ら、かなり浮足立ってるぜ。」

「それは、夜襲されるなんて思ってもいなかったのか、甘すぎる警備をしてたせいだろう。運がよかったんだよ。ラーバ。」

 冷めた様子で遠くを見ているシェリューズに、ラーバは実に明るく楽しそうに声をかけた。ラーバの言葉にシェリューズはつまらなそうに答える。

 部隊内でもそこそこの立場を持つようになった二人の会話。

「カドア将軍、昔は良い領主様だったのにな。」

 ラーバの懐かしむような言葉にシェリューズは静かに頷いた。

 魔王に抱き込まれる前の将軍に遊んでもらったことがあるのが、ラーバの幼少期の自慢だったことをシェリューズは覚えていた。

 ラーバがシェリューズに出会う前の話だそうだが。

 魔王の出現は人々に暗い変化を与える。日常が遠い非日常に変わる。

 今は作戦終了後の休息という穏やかな時間だった。

 そんな時、不意に二人は間延びした大きめの声に呼ばれた。

「リューズぅ、ラァバぁ、そろそろぉ、戻って来いってぇ! リルが待ってるしぃ、レオトが呼んでこいってぇ、多分、総攻撃についての話だと思うよぉう!」

 語尾を伸ばす癖のある喋り方で、伝令役をつとめているのは獣人族の青年。彼は濃い茶色の髪を揺らし、とても綺麗に速く走る。

 おそらく、他に知らせる必要もあるのだろうとは、部隊の人数を考えるとたやすく考えることが出来る反面、この部隊の規律のなさも伺える。

「頑張れよっ! カルナっ!」

 ラーバがかけた激励の言葉に、カルナことカルナン・キッシュは両の手をぶんぶんと振って見せる。

 しゅたたたたっと足場の悪い細い道を器用に彼は走っていった。

 その様子を見送った後、ラーバは機嫌よさそうに岩の上から滑り下りる。

「さて、リューズ、行こうぜ。」

 シェリューズは頷いて、足元に置いてあったラーバの剣を彼に手渡した。

 組織内での彼らの功績は大きかった。

 なにしろ、多くの攻撃を無効化できるシェリューズの体質とその力、ラーバの火炎攻撃、優れた正しき剣技で多くの魔物達を打ち払ってきた。

 そして、シェリューズの外見は十六、七の少年のようにしか見えず、その外見と裏腹な実力、体質ゆえに周囲の純粋な人間からは恐れと畏敬の念を持って距離を置かれやすかった。

 実のところ、普通なら死ぬようなケガも彼にとってはかすり傷でしかなく、打ちの甘い鉄の剣ぐらいなら平気でその手に受け止め、握り砕くことはたやすい。

 様々な寿命を持つ種族の者が魔王に抵抗するこの組織内には多くいた為、そのこと自体を気にするものは少なかったが……、そんな中でも、一切のルーツの知れぬ彼はあまりに特異だった。

 ルーツや種によって付き合い方を考えるこの世界の住人達にとって、ルーツや種のわからぬシェリューズは親しく近く付き合うのに僅かな躊躇いがあった所為でもあった。



 魔法光の中、数人が集まっている場所に近付いたシェリューズとラーバに最初に気がついた少年の反応は誰よりも早かった。

「リューズぅ。」

 サラサラの金髪をなびかせ、深緑の瞳を潤ませた外見十五、六歳の小柄な妖精の少年が甘えるような風に駆け寄ってきて、シェリューズに抱きついた。

 少年は妖精種独特の長く尖った耳を持っていた。

 シェリューズは微笑みを軽く浮べ、カドア軍駐留中の館の構造を知るという、もう怯えることの少なくなった少年を少し引き離した。

 彼は出会った時の姿と全然変らない。変ったと言えば彼自身が纏う雰囲気というものだけだろう。

 緑の森の中、金の髪の妖精が見目良き戦士に抱きつく様は絵になっていたのに。と誰とは無しにからかうような呟きを洩らす。

「リルジェーダ・フェアリアン。」

 初めて聞けば冷たいとしか思えない冷静な声で呼ばれ、少年は少し照れたように振り返った。

 振り返った先は魔法光で照らし出された一角。

 数人の者達がこちらの様子を伺っているのがわかる。

 周囲の者は小さな苦笑を洩らしたのみだった。なぜなら、冷たい声の主はそれでもいつもより数段、落ち着いた優しい声を出していたからであった。

 それを解ってるが故に少年、リルジェーダも照れた様子で振り返ったのだ。

「リル。」

 シェリューズに呼ばれたリルはいそいそと振り返ってにっこりと笑う。

「裏道、教えてくれるんだって? 本当? でも、いいのかい?」

 シェリューズの問いに心配してもらっているとリルは嬉しそうに表情をほころばす。

「うん。ボクも、カドア軍のこと、嫌いだもん。」

 その言葉の調子には魔王軍に両親を殺されたという怨み、自分だけが助かった自責の念はもう失せたかのように聞こえるほどに、暗さの欠片もなかった。

 ただ、シェリューズもラーバも彼が錯乱せんばかりに怯えていたことが有ったことを覚えていた。

 二人のそばで薄茶の髪をぱさりと払い、水色の瞳を細め、パンっと軽く手を打ち合わせたのは先ほどリルを呼んだ男でレオト、この反魔王軍の実務面でのまとめ役、冷静沈着な参謀的存在の男である。

 すらりとした体、そう長身痩躯という言葉がぴったりとくる彼は人ではなく精霊、千年以上を生きた樹木の化身だった。

「リューズ、ラーバ、カルナ達が戻った時点で移動行動を開始する。」

 世にも貴重なる樹精、レオトの言葉にシェリューズとラーバは頷いた。

 彼はそれを確認し、既に集まってるメンバーの方へと身体の向きを変えた。

 そこには双子の精霊であるルドとマドラス、獣人のシャフトがいる。

 レオトはカラ鍋を磨くかのようにかき混ぜているシャフト、じゃれあう双子と順に見回して重々しく口を開いた。

「予定通り、少数で行く。ルド、マドラス。ところでシャフト、そろそろ片付けてくれ。それと、……いいね。リル。」

 そう言いつつレオトはいまだに着なれないのか、軽鎧に軽く手を触れる。

 先に呼ばれた三人はそれぞれの手段で頷き、リルは元気よく、「はあい。」と返事をした。

 双子の見分け方は今は簡単で鎧に剣を下げている方がルド、マントに魔法強化をかけてる最中なのがマドラスだ。戦士系と魔法系と補い合っている。

 そして、灰色に焦げ茶の混じった髪の獣人シャフトが、からんっとお玉で鍋一周かき混ぜている。

 焚き火はしてない。マドラスの魔法で出た光がふんわりと漂うばかりだ。

 そんな中、シャフト、彼の行動はかなり奇異なものだったと言えるだろう。

「シャフト? ……カラ鍋混ぜて、楽しい?」

 覗き込んだシェリューズが興味深げに尋ねた。

 シャフトはゆっくり顔を上げた。

 獣人とは思えぬほどの緩慢さにまるっきり彼を知らぬ者は、彼が屈指の狩人ということをなかなか信じることが出来ない。

 獣人族は大まかに草食族、肉食族、雑食族に別れている。本当は信じられないほど細かく分類されるのだが、学者でもない限りそれを把握するものはいない。

 取敢えずシャフトは肉食族の範囲に入るらしい。

「え、えっと、キンチョーしちゃって……、えっと、あの、ごめん。めざわり?」

 シャフトは実に申し訳なさそうにおどおどと謝る。

「えっ?」

 特に深く考えて尋ねたわけでもないのに、おどおどと謝られたシェリューズは一瞬何を言ってよいのかと言葉を失い、おろおろと意味なく手を上下に動かし、一息ついてから言葉を紡いだ。

 幾度となく繰り返される日常に周囲の空気が緩む。

「えっと、シャフト、あやまんないでよ。ちょっと気になっただけなんだ。ごめん、気にさせちゃったかな? 聞いちゃいけなかった?」

 シェリューズはシャフトを見て、次に救いを求めるようにレオトを見る。

 このメンバーの誰もレオトの意見には滅多に逆らわないし、また、彼自身が問題が起こった時の調停役を、普段から率先して買って出ているためのシェリューズの反応といえる。

 シェリューズの反応にレオトは小さく笑った。

「シャフト、そのぐらいのことで謝罪しているとリューズが困惑する。彼も、ラーバも好奇心旺盛な年頃なのだから……」

 レオトの諭すような口調にシャフトは大人しく頷き、オレンジ色で長い髪を持つ双子は楽しそうにくすくす笑いを洩らした。

 引合いに出されたラーバはむっとしたような表情で二、三秒だけレオトを睨み付け、すぐ、目をそらした。

 笑われたシェリューズは拗ねたような目つきで双子を睨み付ける。

「マドラス、ルド……」

 滑らかに波打つ髪を持つ双子はくすくす笑って互いに顔を見合わせ、再び、くすくす笑った。

 この双子はまるで鏡に写したかのようにそっくりで、そのことを自覚してるのかしてないのか、間違えると楽しそうに笑って自分の名前を、時には面白がってもう一人の名前を名乗る。

 この双子に怒るだけ無駄と知りつつもやっぱりシェリューズは釈然としない。

 いくら、スター・ライト・フェアリー、星精と呼ばれる魔王のせいで絶滅に危機にある精霊種と説明されても釈然としない。

 実は、この双子が自分達を一度も間違えることのないシェリューズを気にいっていてからかってるとは気がつかないシェリューズだった。

 そのことを知る者は相当なことがない限り、双子を止めようとはしない。

 戦争の最中ではある。

 誰もが気を抜くと暗く、感情的になりかねない。

 集まったみんなは、ここに至るまでに多くのモノを失って来たのだから……冷静さを保つためにもゆとりは必要だと。

 それが、共通の意識であった。

 もちろん、このメンバーが実力を持たなければ、不謹慎の一言で片付けられていただろう。

 他の一般兵、他の部隊は彼らのことを事実、不謹慎な連中としか見ていなかったし、彼らが身内を、近しい者を魔王軍に殺され、傷つけられたとはかするほども思いもしなかったのだから。

 不意に双子の片割れが空を見上げた。

「マドラス?」

 マドラスは未来を読む占術師で有り本職は魔法使い。

 その行動は注意して見るのに値する。

 シェリューズと双子のもう片方の不審そうな声を黙殺し、マドラスは空の高みに向かい言葉を紡いだ。

「ご苦労様、イレル。カルナは?」

 空中から大地へと足をつけた有翼の民は答える前に呪を唱え、真紅の翼をその背から消滅させた。

 不可思議で美しい現象に、いつまでも慣れないシェリューズはつい見惚れてしまう。

「じきに、来る。」

 イレルはぎこちなくたどたどしく言葉を紡ぐ。

 菫の瞳が遥かな方向を見つめている。

「カドア城を、見て、きた。随分と、落ち着いて、来ていた。だから……」

「火炎魔法をいくつかぶち込んできたと……」

 冗談ぎみにイレルの言葉を遮ったシェリューズの言葉は、今度はイレル自身に遮られた。

「……よく、解ったな。りゅーず。理解、してもらえて……嬉し。さて、だが、問題……混乱は、確かに、巻き起こせたが、多少、その……消火は、異常に、素早かった。トゾクを、雇ったか、救援の・魔導師が、いる・か。だと、思われる。予想外、だった。実に。」

「えぇっ! 救援の魔導師か盗族かだって!?」

 都合よくイレルの言葉の終りに戻ってきたカルナンが叫んだ。

 イレルの聞き取りにくくもある喋り方にうんざりしていた数名も、カルナンの言葉に事の重大さをあらためて確認し、ぴしりと真剣な表情になる。

「まずいな。」

 レオトがぽつりと言葉を洩らした。

 盗族とぞく、盗賊、山賊、海賊とは同様の者でありつつも趣を異なる集団。一族(種)であるとも言われている。

 野盗達などの彼らを強引に統べる事もあるらしい。

 確かにやることが同じといえば同じではある。

 自分の好みでつまらない盗みもすれば依頼された殺しもおこない、組織だっているようで、個々が好き勝手してるようにも感じられる。

 闇のなんでも屋で、その情報網は混乱をきたしている世界中に、ほぼ隙間なく張り巡らされている。

 そして、時には『優秀な盗族一人を敵にまわすより、魔王軍を敵にまわしたほうがましだ』とか、酷い奴になると『あいつを前にすると魔王ですらびびる』とまで語られもする一族。

 もちろん、優秀者がいれば落ちこぼれ者もいるのだろうけれど。そう表現される者はあまり表に出てこないし、話も聞かない。

 もし、そんな彼らが魔王軍と手を結んだら……。

 取敢えず、魔王を倒そうなどと考えてはいない彼らにとっては冷水を背中にさされたような心境になったのだ。

 怯え恐怖不安戸惑い。

 いきなりの不確定要素にどう対応するか。

 それは世間を知る年長者であるほど強かった。

 重く暗い沈黙がその場を支配していく。

「じゃ、さっさと行った方がいいね。リル、もし、恐かったら行き方教えてくれるだけでいいからね。」

 沈黙を破り、立ち上がったのはシェリューズ、言葉は怯えはじめているリルに対する確認だった。

 それにリルの持つ情報は本当のところあまり必要ではない。

 不安げな空気にシェリューズは小さく笑った。

「イレルを信じるよ。イレルの魔法を。少なくとも今、行かなきゃ状況は悪化するだけだし。今ならまだ多少の混乱が残ってるかも知れない。元々、命懸けの無茶な計画なんだ。だから……」

 リルはシェリューズの力のこもった言葉に震えを必死に押え込みながら、にっこりと微笑む。

 情報の重要性の無さを一番知っているのはリル自身。リルは恐怖に、自分に負けたくなくて我が侭でここにいさせてもらっている自覚はあった。

 彼ら、魔王軍が自分に求めているものを自分はもっていない。

 でも魔王軍はその事を知らない。

 それを承知の上で彼らは護ってくれている。

 役にたたない、足手纏いなだけの自分を。

 だから、シェリューズの心遣いには答えなきゃいけない。

「こ、恐くないよ。リューズのためなら案内する。こっちだよっ。速い方がいいでしょ。」

 怖さを押し殺すように慌てて駆け出そうとするリルに、シェリューズは嬉しげに微笑みを浮かべる。

「それに、マドラス、妙な事言ってないし、行くべきだろ? 優秀な占師なんだろ? マドラスは。予言者だったけ?」

「魔導師だよ。」

 笑いを滲ませてマドラスの声は返ってきた。




 元は上等な客間だったと思われる色褪せた広い寝室に彼らはいた。

「信じらんなぁーい。ねぇ、シードぉ。」

 元は桜色あたりだったのか、色褪せベージュ色に近づいた絨毯の上に胡座をかく黒ずくめの青年に、飾り気のない丈夫そうな黒檀の机の上からあきらかに馬鹿にした調子の言葉がぶつけられる。

 華奢だが格子には違いないモノのはめ込まれた窓のむこうは何やら騒がしく焦臭い。

「髪が、焼けた。」

 黒の上着は火傷の治療のため、一度切り裂いた肩の部分の布を組紐で縛って閉じてある。黒ずくめの青年、シードは焦げた黒い前髪を嫌そうに引っ張っていた。その瞳の色も漆黒。

 長めの袖口を彩りのつもりなのか、紺の細紐でクルクル巻き止めている。

 厭味たっぷりのわざとらしく優しい口調がシードに返る。

「ほぉーんと、信じらんなぁい。あぁんなトコいるなんて、信じらんないおバカさんがいるなぁんて。オレが火ぃ消さなきゃ死んでたね。シード。走り回るから五、六発も火炎魔法くらっちゃってぇ、まわりに飛火までさせて被害、大きくさせてさ。みぃんな、今、消火にてんてこまいだよぉ。だれのセイだろうね。シィぃドっ。」

 シードより幾分、年下気味の赤毛の青年が机の上からぽぉんと降り、シードの目前へと視線を合わすため、回り込み、しゃがんでにっこり笑う。

 赤毛の青年の言葉の意味はこの城の城主カドア将軍の一人娘ローザンヌの部屋のテラスの下に彼が居たことを言っている。

 シードはその黒い目に微かな殺気を纏わせ、極上の笑みを浮かべるその青年を睨み付ける。

 その瞳に映る紅い髪、青い瞳。明るい青の衣装に身を包んだ彼につい人は魅せられる。それを自ら良く知る青年は睨まれていることに動じもせず、にっこり笑って見せる。

「レイ!」

「アレイド、だよ。勝手に人の名前略さないでよね。シード……、だから、二流止まりなんだよ。シードは。それに、壁に耳有りってね。」

 赤毛の青年、アレイドは立ち上がりざま反応を探るかのように、ちろりとシードを眺める。

 シードには彼の魅力は通じないらしかった。

「くっそっおっ!」

 シードは力一杯、両手で自分の顔を挟み込むように叩く。

 それを見たアレイドは満足そうにくすりと笑う。

 シードのとった行動は自分の非を認めた時のシードなりの表現だったからだ。

「頭、冷やしてね。シード。盗族の名が泣くよ。」

 ぴらぴらとお気楽に手を振るアレイドの仕草をシードは嫌そうに眺める。

 シードとアレイド、カドア城の一室にいるこの二人がイレルの放った火炎魔法のいくつかを消した盗族の者であった。

 ただし、消火したのはシードにぶつかった火のみで飛火したものは消していない。

 ゆえに外はまだ消火にてんてこまいしている。

 アレイドは再びにっこり笑い、相棒に尋ねた。

「ねぇ、シードどうする?」

「? アレイド? どうするって? なに?」

 シードの物分かりの悪さにアレイドはうんざりしたように肩をすくめた。

「反カドア軍の総攻撃、ほっとく? おそらくカドア軍の連中はまだオレらの正体知らねーし、魔王軍には何の恩義も義理も義務もないからな。」

 シードは、んーっと腕組みをしながら呻く。

 その様子にアレイドは苦笑を洩らす。惚れっぽい相棒が何に気をとられてるか気がついたのだ。

 女性問題については人のことを言えないことをアレイドは棚に上げているが、シードは何も言わない。

「ローザンヌちゃん、助けてあげるだけにする?」

 自分達がここにいる理由、彼らが暴漢から助け出した家出少女の名が出たのに対し、シードは腕組みを解き、立ち上がる。

 父親を許せないでいる元気で正義感の強い少女。カドア将軍の娘。金の髪も菫の瞳もその芯の強さも、それでいてどこか控え目なところも相棒の好みであるということをアレイドは笑いたいほど知っている。

「アレイド、耳貸せ。」

「シード。」

 真剣な眼差しのシードにアレイドも真剣そうな口調と眼差しで返す。

「何だよ。はやく。」

 シードの口調に真剣な苛つきが混じる。

「返せよ。」

 アレイドの真剣そうに聞こえる声だが、実のところバカにしきった返事にシードの拳は見事に空振りした。

「失礼する。」

 ノックも了承もなしに二人にあてがわれた部屋に入ってきた男がいた。

 シードが逆にアレイドに蹴っ飛ばされ、勢いづいたシードと彼が激突したことは運と間が悪かったとしか言い様がなかった。



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