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第52話 満員御礼

 

「姫ちゃん、準備できてるか?蒼月様がソワソワして待ってるよ」

「悠遊様!はい、準備できています。今行きます!」


 家の外からサクを呼ぶ悠遊に明るく返事をし、サクはサブロに笑顔を見せた。


「行って来ます!」

「ああ、気を付けるんだぞ」

「はーい!」


 サクは悠遊と肩を並べて、坂を下った。


「あーあ、姫ちゃん、とうとう蒼月様の恋人になっちゃったのか」

「とうとうって何ですか」

「蒼月様は最初から姫ちゃんのこと好きだったけど、姫ちゃんは全然だったでしょう?」

「え?最初って?」

「最初は最初だよ。姫ちゃんが神楽を舞っているのを見た瞬間、恋に落ちてたよ。すぐに王都に連れて行くって言いだして、びっくりしたもん。姫ちゃんはいつから蒼月様のこと好きになったの?」

「えへへ、前々前世かな」

「え~?じゃあ蒼月様より先じゃん」


 蒼月が悩んでいることを、サクは知っている。巫女を恋しく思う皇子の気持ちに引き摺られて、サクを恋しいと思っているのではないかと。サクは蒼月が好きだが、それはかつて自分が巫女として恋した皇子の生まれ変わりだからではないと思う。だから、蒼月がどう感じ、悩んでいてもいいのだ。


(どうあれ、私は蒼月様が好き)


 蒼月が悩んでいるうちは、恋人というほどの関係には進展しないだろうが、それでもサクはかまわなかった。サクの足取りは軽かった。


「咲弥」


 村の広場が見えてきたところで、蒼月はサクを出迎えた。サクの名を呼ぶ蒼月の低い声に、サクはときめきを覚え、満面の笑みで答える。


「蒼月様!お待たせしました」


 蒼月もまた、サクの笑顔に胸が弾む。前世とか、運命とか、そんなものは関係ないと、蒼月が思う日もそう遠くないだろう。


「咲弥~!元気になったみたいやね」


 ニコニコ顔の凛音が小さく手を振っている。


「凛音姐さん!里はいかがでしたか?」

「えらい大変やったわ。毎晩飲めや歌えの宴会で祝われたの。うちにも芸を披露せい言われたんやけど、雷門が里の男たちがうちのこと好きになってしまうからダメって言うて、なぜか里の男衆と雷門が決闘することになってしもうて」

「決闘?!」

「そうなんよ。何かって言うと決闘するみたいなんよ」

「そ、そうなんですね」

「でも雷門、うちのため全部勝ってくれたんよ」


 凛音はとても嬉しそうにそう言って、ライの腕にぎゅっと抱き着いた。


「あたりめえだ。凛音はおらだけの嫁っこだ!凛音をジロジロ見る奴の目玉潰してやらにゃなんねえ」

「もう!雷門ったら。うふふふ」


 王都で凛音のことを見つめる男は多い。ライが男たちの目を潰して回っているところを想像して、少し身震いしたサクであった。


 見送りに来た村人たちに手を振り、凛音とサクは同じ馬車に乗り込んだ。一年前に王都へ旅立った時の、決死の覚悟を思い出し、サクは一人ふふふ、と笑う。あの時、思い切って飛び込んで良かった。


「なあに、サク、ご機嫌やない?」

「いえいえ、姐さんほどでは」

「あぁ、楽しかったな!よーし、王都に戻ったら、最後のお勤めや!」

「姐さんが舞姫として立つ最後の舞台、絶対に成功させましょう!」

「任せとき!伝説の舞台を作ったるわ」


 二人は闘志をたぎらせて帰路に就いたのだった。



 瑠璃光院の舞姫、凛音が引退するというニュースは王都中に衝撃を与えた。


 最後の舞台を絶対に見に行こうと、たくさんの客が神楽座に詰めかけ、連日満員御礼、立ち見席まで売り切れの大入りが続いている。


 いま買わなければもう二度と手に入らないと、凛音の絵姿も飛ぶように売れている。凛音と彩喜が並んで描かれた物も同様だ。この二人の並びが最高にいい、というファンも多いのだ。


 そして、一時期は売り上げが落ちぎみだった咲弥の絵姿も、再び人気を取り戻した。咲弥が次期舞姫となることが発表されたのだ。彩喜を差し置いて舞姫などと、けしからんという客も、初めはいた。しかし、舞台を見て考えを変える。


 休演明けの舞台から、咲弥の雰囲気が一変したことに、神楽座の座員ですら驚いた。それはもう、舞姫の風格であった。大きな事故を乗り越えて舞台に戻って来た、というストーリーも相まって、いま王都では咲弥ブームが起きている。


 当の咲弥はそのようなことを気にも留めず、ただひたすら、凛音の引退公演を成功させたい、凛音の一挙手一投足をすべてこの目に焼き付けたいと必死だった。


 彩喜はと言うと、咲弥の舞姫就任を喜ばしく思っていた。次期舞姫候補と名高かったが、実は次期座長への就任が決まった。凛音と共に、座長の紫苑も引退を表明したのだ。舞姫と座長の引退に、不安を抱かなかった座員はいまい。しかし、人望の厚い彩喜が座長を継ぎ、一皮むけた咲弥が舞姫を継ぐとなり、自分たちこそ新しい一座を支えなければと奮起してくれた。


 一丸となって取り組んだ新作舞台は、人気が人気を呼ぶ話題作となっている。瑠璃光院の代表作となって、後世に何度も再演されることになるだろう。



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