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第43話 東雲軍一掃作戦②

 


「そろそろ姿を見せねば、皆が心配する。さあ、行こう」


 蒼月は立ち上がり、本隊へと戻ろうとした。サクも慌てて立ち上がり、蒼月の背中に声を掛けた。


「あの、蒼月様!呪いが恐ろしいのであって、蒼月様のことを恐ろしいと言ったのではありませんから!」


 蒼月は足を止めた。振り返ろうとしたが、背中にどんと勢いよくサクが抱き着き、蒼月の腹に腕を回して来た。


「だから、そんなに悲しそうな顔しないでください!」


 サクはぎゅっと蒼月を抱きしめて、自分の気持ちが蒼月に届くようにと願った。蒼月に悲しい顔をさせてしまったとき、サクも同じくらい悲しくなった。蒼月の感じている寂しさを思って、切なくなって胸が苦しくなった。寄り添いたい、そう思った。

 しばし無言で立ち尽くす二人。

 蒼月は驚きから覚めて、サクの手に自分の手を重ねた。


「ありがとう、咲弥」


 合わさった手から互いのぬくもりが感じられた。

 その時、遠くで悠遊が蒼月を探している声がした。


「蒼月様~、どこにいますか~?蒼月様~?」


 サクはハッと我に返り、自分のしでかした事に気が付きうろたえた。


「ご、ごめんなさい!はしたないことを…!」

「いや…」


 サクは顔を真っ赤にして、逃げるように隊へと走って戻った。あとに残された蒼月は、背中に感じていたサクのぬくもりが消えて行くのを、寂しく思った。小さくため息をついて、蒼月は悠遊の許へ歩いて行った。


「あ、蒼月様!どこ行ってたんですか?小隊長たち、もう集まってますよ」

「ああ、すまない。行こう」


 急ごしらえの作戦本部には、6名の小隊長が集まっていた。蒼月が天幕に入って来ると、全員が軽く頭を下げて迎えた。


「待たせてすまない。斥候の報告から聞こう」

「はっ!」


 あと数刻も進むと国境の石造りの長城が見えてくる。物見の塔から離れた山岳地に、どうやら東雲軍の一個大隊が隠れひそんでいると言う。ここのところ長城へ攻め入って来ていたのは、小隊程度の人数だと報告されていた。大隊がいるのは予定外である。


「そのような大人数で攻めてこようとは、東雲国内で何か動きがあったか」

「皇弟炳燗に対し先帝への背信行為の疑義が発せられ、炳燗を推す右大臣派の者たちが功を急いで、一気呵成攻め入ろうとの魂胆であります!」


 それを聞いて隊長たちは口々に感想を述べる。


「ほう、ついに阿保皇子が兵を率いてきたのか」

「しかし、今さら功を焦っても盛り返せないだろう」

「では阿保皇子を捕えて大隊をつぶせば、当分落ち着くのか」

「だったらぶっつぶそうぜ、ばーんと」

「東雲に感謝されるんじゃねーか?」

「それは言えているな、わっははは」


 戦場とは思えない朗らかな小隊長たちに蒼月は苦笑した。


「炳燗が隊を率いていると言うことで間違いないか?」

「はいっ」

「では、早々に皇弟の首を取るとしよう。あちらは兵およそ500、こちらは100だ。数の不利をひっくり返すいい案はあるか?」


 蒼月がそう聞けば、次々に意見が上がる。


「機動力の高い少数で奇襲をかけると見せかけ、注意を引きつけたところで主力部隊を当てるのはどうだ」

「敵の背後に回って敵をかく乱するのもいいな」

「高所で待ち伏せて矢を射るのが常套だろう」

「矢もいいが、発破をかけて岩石を落とせばいいんじゃないか。どかーんといこうぜ」

「隘路も塞いで逃げ場を潰せば、ひとたまりもないだろうな。わっはははは」


 蒼月は一つ頷いた。


「よかろう。全部の案を採用して即座に第三皇子の身柄を確保する。明朝、日の出と共に出撃をする。ただちに用意にかかれ」

「「はっ!」」


 斯くして、東雲軍一掃作戦は早朝より行われた。

 まだ起き出したばかりの東雲軍は、矢の雨に降られ、奇襲隊に引っ掻き回され、追撃しようとすれば背後から主力部隊に叩かれ、敗走するにも隘路は塞がれ、ついには爆発音と共に大量の岩石と土砂が頭上から落下してくるという災難に見舞われた。

 東雲軍には旗印の大将を死んでも守ろうという根性のある者はおらず、生まれて初めて危険にさらされた炳燗は右往左往して逃げまどっていた。そこを朱雀軍の兵に囲まれて、あっさりと捕えられたのだった。


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