第21話 初舞台②
サクはキラキラと目を輝かせた。舞台に立てる。憧れの舞姫や、彩喜と共に。まだまだ先のことだと思っていた。
「おや、ライは喜んでないね?」
「オラは別に、笛吹くだけだろ?」
「そうだよ、舞台がよーく見える一等席で、笛を吹きながら舞姫を見られるんだよ」
「なっ!そうなるのか!やったー!」
「あっははは。この調子では舞姫に夢中になり過ぎて、笛を吹くのを忘れそうだ」
「いんや、オラは横笛もできるってところを凛音姐さんに見せなくちゃなんねえ。よーし、やるぞー!」
「ライ、一緒に頑張ろうね!」
「おう!」
紫苑はにこりと笑みを浮かべ、手に持っていた煙管を置き、手元に筆と紙を引き寄せ、何やらさらさらと書きつける。
「あんたたちにも芸名が必要よ。サク、あんたは咲弥、瑠璃光院咲弥と名乗りなさい」
「瑠璃光院咲弥…」
瑠璃光院はこの神楽座の屋号である。紫苑はじめ所属している者は、みな苗字として屋号を付ける。かつて瑠璃光院の境内で神楽を舞っていた巫女が起こした神楽座なので、屋号になったらしい。
「ライ、おまえは雷門よ。瑠璃光院雷門」
「雷門!かっけー!気に入っただ!姐さんに教えて来る」
「あ、こら、まだ話が」
ライは最後まで話を聞かず、座長部屋から飛び出して行ってしまった。
「まったく、しようのない子。咲弥、この命名書を大部屋の入り口に貼っておきなさい。雷門のも頼むよ。それから、初舞台の日はこれから2週間後、あんたを連れて来た役人さんたちにも知らせてご招待なさい。ちゃあんと清切様も招待するのよ、かならず。」
「はい、わかりました」
サクはさっそく命名書を大部屋に貼りに行くと、楽屋にいた先輩たちが命名と初舞台を祝ってくれた。その足で彩喜の許へ行き報告をする。
「そう、おめでとう。よかったわね。誰よりも頑張っていたから、座長も評価してくれたのね」
「あ、ありがとうございます!」
彩喜のもとに付いてから、一度も褒められたことなどなかったが、彩喜もサクの頑張りを認めてくれたことを知って嬉しかった。
「でも初舞台まであと2週間しかないわ。今夜からみっちり稽古をしないと」
「はい!頑張ります」
面映い気持ちで、サクは裏に引っ込み、蒼月宛てに初舞台を見に来てくれと招待状を書いた。紫苑に言われた通り、清切も誘ってくれるようにと書き添えた。
これまで以上に芸事に夢中になって取り組んだ二週間。寝る間も惜しんで稽古をし、舞台で身に着ける髪飾りも作った。
初日の朝、ライが珍しくサクを訪ねて来た。
「蒼月様から、預かった物を持って来ただ。初舞台の祝いだって」
「蒼月様から?」
差し出された包みを開けると、一本の翡翠の簪と、咲弥と書かれた千社札がたくさん入っていた。もともと神社仏閣の柱に参拝した際に千社札を張ってくる風習が朱雀国にはあるが、王都では贔屓の千社札を集めるのが流行っているそうだ。サクも贔屓してもらえるように千社札を配って名前を覚えてもらうように、と文に書かれていた。
「わぁ!」
「今日の舞台を見に来てくれるって言っとったよ。簪、着ければ」
「うん!着けるわ!嬉しい」
ライは嬉しそうに簪を眺めているサクを、複雑な表情で見ていた。簪を送る行為は、一般的には求愛の意味がある。愛しい女性に簪を送り、それを身に着けると言うことは、その愛を受け入れると言う意思表明だ。
しかし神楽座のルールで言えば、客が贔屓に送り、役者はそれをステータスとして身に着ける。たくさんの簪を身に付ければ付けるほど、人気がある証拠となる。舞姫の凛音などは、髪だけでなく、着物の帯にずらりと簪を指している。
もちろんすべての簪を指すことは不可能だから、その日見に来る客の贈り物を優先的に身に着けているのだ。客の方も贔屓が自分の贈り物を身に着けてくれることに喜びを感じ、益々はまり込んでいくという構図だ。
(蒼月様は、どっちの意味で贈ったんだろうか。ま、どっちでもいいか)
サクは二本の簪、母の形見と蒼月の贈り物、を髪に着けて初舞台を踏んだ。




