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420 風になった男たち

「うおおお、今度こそ死ねえ! フルチンダイナミックアターック!」


 フルチンで風と一体になった俺に、もはや何も怖いものはなかった。そのまま疾風怒涛の勢いで氷野郎に斬りこんでいった。思わず恥ずかしい技名を叫びながら。


 だが、そうやって大幅に加速したにもかかわらず、俺の攻撃はまたしても氷野郎の(コア)をとらえることができなかった。さっきよりは確実に狙いが定まってきているのだが、もう一歩という感じだ。


「ぐぬぬ……なんで当たらないんだ……」


 歯ぎしりせずにはいられなかった。まだ速さが足りないというのか。いったいどうすれば。こうなったら、さらに脱いで全裸に――。


 と、上着も脱ごうとしたそのときだった。


『ちがう……そうじゃない……』


 と、風の中からかすかな声がした。鈴木雅之の歌の歌詞みたいなことを言いながら。


「な、なんだよ?」

『ボクは風の精霊……。君の玉袋のしわを通じて、君の心に話しかけている……』

「マジか!」


 おお、すげーなこの技。風の精霊とも会話できてしまうのか!


『今の君に足りないものは速さじゃない。ボクと一体になった君は、誰よりも速い。これ以上ないくらいに』

「え? でも、俺の攻撃当たらないんですけど?」

『君に足りないのは、そう……信じる気持ち……』

「信じる気持ち? 何それ? キングスライム倒すとまれに落とすやつ?(※それは「くじけぬこころ」ですね)」

『それについてはよくわからないが、まあ、おそらく似たようなものだろう。とにかく今は信じるんだ。自分の力を、可能性を。そして、仲間を』

「いや、今の俺に仲間なんか――」


 と、俺が言いかけたそのときだった。


「アルッ! 今度こそ、オレの力を見せてやるぜ!」


 再び近くからヒューヴの声がした。見ると、やつは俺のすぐ後方でやや上に舞い上がっていた。暖を取ったせいかその顔色はよくなっていたが、なぜか俺と同様に下半身に着ているものをすべて脱ぎ捨てたフルチンスタイルだった……。


「なんでお前までフルチンなんだよ?」

「何言ってるんだ、アル! オレもちんこを風に当てて、風と一体になってるんじゃねえか!」

「え、あ、はい……そうね」


 そういや、このバカも、この技使えたっけ……。


「うおおお! この、ちんこに超冷たい風が吹きつける感じ、たまんねー! 力もどんどんわいてくるぜ!」

「……そういう効果だっけ?」


 あくまで速さが上がるだけの技のはずなんだが? まあ、細かいことはいいか。バカだし。


「いくぜ! オレの必殺の一撃を食らえっ!」


 と、直後、ヒューヴは氷野郎めがけてブラストボウの矢を放った。


 それは先ほどと同様、まっすぐ(コア)を狙い撃ち――は、しなかった。(コア)とはまったく別の場所を撃ちぬいたのだ。


 そう、それは、氷野郎のすぐ近くに浮いていた、小さな氷だった……眼球の形をした。


「あれは――」


 その形に、俺ははっと気づいた。そう、あれはまさに――、


未来解析眼球(ラプラスゴースト)! なるほど、ラファディさんはこっそりあの術を使っていたから、トモキ君の攻撃が当たらなかったんですねー」


 そうそう、それそれ――って、呪術オタの野郎、役立たずのくせに俺のセリフを奪ってんじゃねえ。


「あれは確か、今まで見聞きした相手のデータをもとに、相手の未来の動きを予測する術だったな」


 それで俺の攻撃を完全に見切ってたってわけか。ここに来てからけっこう時間が経ってるしなあ。俺の動きのパターンもある程度は読めてきたってところか。


 そして、その術は今、停止した。俺のフルチン仲間の手によって。


「なるほどな、仲間を信じろってのはこういうことか!」

『そうだ。あとは自分の力を信じるんだ!』

「言われなくてもわかってらあ!」


 もう何も迷いはなかった。今度こそ、今度こそ、やつを倒すとき!


「うおおおおりゃああっ!」


 再び俺は(コア)に向かって猛ダッシュした。そして、渾身の力を込めて斬りこんだ!


 ザシュッ!


 手ごたえは……あった! 俺のゴミ魔剣の刃は、ようやく(コア)をぶった切ることに成功した! うおおお、やったぜ!


 そして、直後――(コア)は消滅した。ゴミ魔剣の刃に吸い込まれるようにして。残された氷もすぐに溶けて崩れていった。


『……まっず! やっぱクソまず!』


 やがてすぐにこんな声が俺の頭の中に響いてきた……って、何それ?


「お前、まさかこいつを食ったのかよ?」

『ア、ハーイ。この粘菌錬金氷野郎はマスターが一回斬ったぐらいでは死ぬ感じでもなかったのデ、ここはワタシが食って処分しておくしかないかなと。つまり、空気を読んで、食う気を発揮した結果?』

「いや、お前、人間は食えないって話だっただろ?」

『この粘菌錬金氷野郎は、とうの昔に人間やめて、純度百パーセントの人造モンスターと化してますから、その点はご心配なく。まあ、予想通り、人造モンスターなんでクソまずかったんですけどネ』

「って、お前が食って倒せる相手なら、なんでもっと早くやらないんだよ!」

『ハテ? 今のこの瞬間まで、ワタシの刀身が、一度たりともヤツに命中したことありましたカー?』

「う……」


 言われてみれば。ずっと空振りばっかだったな、俺。


『マスターってば意外と使えない野郎ですよネ。今だって、風の精霊さんの超ありがてえ助言がなければ、何もできなかってですよネー。まあ、ぶっちゃけそれ、ワタシが言ってただけなんですけどネ。さすがに玉袋のしわを通じて語り掛けてくる精霊なんていませんよネー』

「って、あれ、お前かよ!」


 くそが! なにがフルチン風の舞だよ、ばかばかしい! フルチンになったぐらいで風の精霊と一体になれるか、バーカバーカ!

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