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295 よみがえれ、おっパブメモリー!

「思い出したって何をだよ、おっさん?」

「さっきの有翼人の男のことだよ! 私はゆうべ、酒場であの男と会ったはずなんだ!」

「会った……はず?」


 なんだか頼りない答えだ。


「それで、あんたはなんであいつと会ったんだよ?」

「いや、それがよく思い出せなくて。ゆうべは相当酒を飲んでしまったようでね」


 考古学者の男はまた頭痛がするのか、頭に手を当て眉間にしわを寄せた。こいつ、記憶が飛ぶほど飲んだのか。


「じゃあ、酒場であいつとどんなことを話したんだよ? それぐらいは思い出せるだろ?」

「え……いや、それもちょっと……」

「なんだよ! それじゃ何も思い出してないのと同じじゃねえか!」


 これだから酒は! ほんとロクでもない飲み物だぜ、酒は!(経験者は語る!)


「じゃあ、店の名前は? 場所は?」

「……うーん?」


 男は顔をしかめて首を振った。どうやら、あのヒューヴと酒場で会ったということ以外、何一つ記憶が残っていないようだ。ダメだこりゃ。何の手掛かりにもなりゃしねえ。俺も思わず首を振った。


 だが、直後、


「ああ、そうだ! 店にはすごくかわいい女の子がいっぱいいたんだ!」


 なんか変なところだけ記憶がよみがえったようだ。


「そりゃあ、酒場なんだから、若い女の客だっているだろ」

「いや、客じゃない。店員だよ。そこは確か、接客用に若くてきれいな女の子をたくさん用意している店だったんだ。衣装もこう……きわどい感じでね。胸とかお尻とかドーンって感じで」

「へ、へえ……」


 どうやら、一般的な食事を提供する「酒場」ではなくて、キャバクラのような店だったらしい。この世界にも、そういう店あるんだなあ。


「あ、あと! 高いお酒を頼むとね、十秒チャージのサービスがあったんだ!」

「十秒チャージ? なんだぞりゃ?」


 ゼリー飲料のキャッチコピーかよ。


「そりゃ、決まってるだろう。十秒チャージといえば、高いお酒を一本頼むごとに、お店の女の子のおっぱいを十秒だけ触れるサービスのことだよ!」

「よりによって、そういう店かよ」


 おっパブじゃねえか!


「あと、お店にいるお客さん全員にお酒をおごると、お大尽チャージのサービスになるんだけど、これがまたすごくて、お店にいる女の子全員がおっぱいを顔に押し付けてくる――」

「いや、そういう説明はもういいから!」


 明らかに、盗まれた古文書やヒューヴと関係ないでしょ、それ! うらやましいけどさあ!


「まあ、それだけ記憶がはっきりしてきたんなら、そろそろ店の名前や場所も思い出しただろ?」

「いや、そのへんはまだ……」

「おっぱいのこと以外何も記憶がねえのかよ!」


 何が考古学者様だふざけんな! ただのおっぱい大好きエロオヤジじゃねえか!


 と、そこで、


「……トモキどの、ここはその時の状況を再現してみてはどうだろう?」


 床に転がっているキャゼリーヌの首がしゃべった。


「状況を再現ってなんだ? まだ酒を飲ませるのか?」

「いや、酒はここにはないので無理だろう。それより……」


 と、そこで、キャゼリーヌの右目があやしげに光った。おそらく遠隔操作のコマンドを入力したのだろう、直後、その首をなくしたボディが勝手に起き上がり、動き始めた。


 そしてそれは考古学者の前まで来ると、その手をつかんで、自らの乳に押し当て始めた。ぎゅうぎゅうと。


「どうだ、学者どの? 昨夜のことを思い出せそうか?」

「え、いや、いきなりこんなことされても……」


 男はひたすら戸惑っているようだ。無理もない。首のないカラクリの女のおっぱいなんて触っても不気味なだけだからな。おっパブのうれし恥ずかしお触りサービスとはあまりにも違い過ぎる。状況再現になんて、なるわけない。


 だが、直後、


「ふむ、ではこうしてはどうだろう?」


 と、キャゼリーヌ(のボディ)は男の顔を両腕でつかんで、胸に抱き寄せた。


「おお! こ、これは! この感覚は!」


 とたんに、男の態度が豹変した。さっきまで、いかにもいやいや人造おっぱいをさわらされているという感じだったのに、キャゼリーヌの胸に顔をうずめた瞬間、その表情が至福の笑みへと変わったのだ!


「すばらしい、この感触……ぐへへ」


 男は乳に顔をうずめたまま、さらに乳を両手で揉み始めている。


「まあ、あの体勢なら目の前のおっぱい以外何も見えないか」


 相手が首がない女だろうと関係ないよな。


「何か思い出せそうか、学者どの?」

「そ、そうだな……うーん……」


 もみもみ。手を動かしながら、何やら考えているふうに目を閉じる男だった。


 そして、ややあって、


「あ、そうだ! 思い出した! ゆうべはおっぱいサービス以外に、お店の女の子にほっぺにキスしてもらったんだ!」


 またクソどうでもいいことを思い出したようだ……。


「いや、だからそういう情報、今は必要ないだろ!」

「何を言う。あんなに若くてかわいい女の子が、恥ずかしそうに顔を赤らめてキスしてくれたんだぞ! またいつでも『ももネク』に遊びに来てねって言われて」

「ももネク? それもしかして店の名前か?」

「あ、そうそう。確か正式には『ももいろネクタル』っていう名前の店だった。今思い出したよ!」

「も、ももいろネクタル……」


 いかにもそれらしい、おピンクなネーミングだ。


「他に何か思い出したことはねえのかよ?」

「うーん……?」


 男は再び乳の間に顔をうずめるが、これ以上何も出てこないようだった。

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