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267 半吸血鬼のおしごと

 それから俺たちはそこで軽く飲み食いした。夕食はまだだったし、さっき体を動かして腹も減ってきたところだったし。ただ、すでにホテルで夕食をすませてきたというルーシアは何も食べなかったが。


 こういうダンジョンっぽいところの地下の暗がりで、みんなでランタンの灯りを囲んで飯を食うなんて、ずいぶん久しぶりのことだったので、俺はちょっとワクワクした。冒険者やってたころを思い出すぜ。まあ、時々遠くから不死族の男の悲鳴が聞こえてきてムードが台無しになったわけだが。


 やがて俺たちは飯を食い終え、リュクサンドールも自分の仕事を終えて戻ってきた。体中に矢が刺さったままの状態で。裁縫道具の針山かな?


 しかも、でかい丸太を一本、懐に抱えていた。


「なんでお前、そんなの持ってるんだよ」

「ああ、これは最後に踏んだ罠から飛び出してきたものなので」


 と、リュクサンドールはなぜか俺にそれを差し出してきた。お土産のつもりかよ。こんなんいらんし。とっさに後ずさってそれをよけた。


「それに、こういう仕事で大事なのは『やった感』だと、ゆうべフェディニ先生が言ってまして」

「お前と同じ部屋のあのおっさんが?」

「はい。先ほども言った通り、フェディニ先生はゆうべはホテルのバーでエールを浴びるように飲んでいたわけで、部屋に戻ってきたころにはすっかりグデングデンに酔っぱらっていました。そして、そのとき、うわごとのように何度も言っていたのです。『リュクサンドール先生、大人の仕事で大事なのは、実際に何をどうやったかではなくて、どういうふうにやった感を出すかですよ! 大人の世界ってのは、結局、やった感がすべてなんですよ!』と……」

「あのおっさん、何かいやなことでもあったのかよ」


 酔って何度もそんなこと言うってさあ。


「それでまあ、僕も、最後に踏んだ罠から飛び出してきたこの丸太を持って帰ってきたわけです」

「これがお前の『やった感』ってわけか……」

「はい。まあ、実際、この丸太の飛び出してきた勢い相当すごくて、僕、頭を軽くふっとばされちゃったんで、『やった感』というより、『やられた感』しかないわけなんですけど……どうぞ」

「いや、いらないから!」


 邪魔くさいので、即座にその丸太をゴミ魔剣で細切れにした。


「ああっ、せっかく持って帰ってきたのに、なんてことするんですか! 僕の『やられた感』の丸太がっ!」

「ただのゴミだろ」


 どうでもいいにもほどがある。


「それより、お前、罠以外に何か見つけなかったか? ザックとか、下に続く階段とか」

「ああ、ザック君は見ませんでしたが、階段はいくつか見つけましたよ」

「いくつか?」

「はい。下へ続く階段は全部で四つありました」

「四つもか」


 多いな。普通に考えると、ここは一般人立ち入り禁止の罠多発ゾーンだし、四つのうち三つはフェイクの罠だろうな。知らずに降りると、ろくでもないことになるはず。


「じゃあ、お前、今からその階段全部調べて来いよ」

「え、僕一人で?」

「ああ、それの三つは間違いなく罠だからな。つまりまだ『このフロアの罠を全部踏み抜く』っていう、お前の仕事は終わってねえってことだよ」

「は、はあ……」


 リュクサンドールは少し腑に落ちない表情ながらもうなずき、すぐに階段の様子を確かめに通路の奥に去って行った。


 やがて約十分後、やつは帰ってきた。また何かを持って帰ってきて。


「……なんだ、それは」


 さすがに尋ねずにはいられなかった。それは、先ほどの丸太とは違って、やつの闇の翼でぐるぐる巻きに梱包されていた。しかも、丸太と違って黒っぽい人間の形をした物体で、何かブツブツ言っているようだった。


「ああ、こちらは三つ目の階段を降りた先にあった、石棺の中にいた方です」

「ミイラかよ。なんでそんなの持って帰ってきたんだよ」

「なんでって、そりゃあ、あんなところに安置されていたミイラですよ? 間違いなく、この施設の関係者の方じゃないですか。つまり、生前、どういうふうに呪術を使っていたとか、呪術を使う際のいけにえはどういうふうに用意してたとか、当時の呪術に対する人々の評価とか、僕としては、聞きたいことがいっぱいあるからに決まってるじゃないですか――」

「どうでもいいだろ、そんなこと」


 ざしゅっ! 目の前にあっても見苦しいだけなので、ゴミ魔剣でそのミイラを斬って消した。


「ああ! なんてことするんですか! 貴重な当時の生き証人が!」

「いや、生き証人じゃねえだろ。もう死んでるだろ」


 つか、なぜこいつはいちいちゴミを持って帰ってくるのか。小鳥や小動物の死骸をドヤ顔で飼い主のところに持って帰ってくる猫かよ。普通に仕事しろ。

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