表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/436

26 実はこの人、服持ってない

「い、いやあの、なんで俺が元勇者でアルドレイで童貞であるとご存知で?」


 最後の情報は特にな!


「あら、私のこと、ユリィに何も聞いてないの?」

「ユリィに?」

「勇者様が私をここに呼んだんじゃない。だから、急いで来たのに」

「あ、あんたもしかして……」


 そう、俺がここに呼んだ人間なんて、一人しかいない!


「ユリィのお師匠さん?」

「そうよ。名前はサキ。よろしくね」


 と、サキと名乗る褐色の肌の美女はウィンクし、俺に覆いかぶさってきた。うおっ! 俺の胸板に豊満な乳が当たる! 鎖が邪魔だけど確かに当たる!


「ちょ、いきなり何を――」

「え? だって、勇者様の魔剣(意味深)がどうにもままならないから、私になんとかして欲しかったんでしょ?」

「ち、ちがーうっ!」


 どういうメールで呼び出したんだよ、ユリィは。超絶勘違いされてるじゃねえか!


「お、俺の下半身は特に問題ないから! あんたになんとかして欲しいのは、魔剣風の謎生物――」

「おや、魔剣風のナマモノならここにも……」

「ちょ、どこ触ってんの! やめてくれる! 変態!」


 必死に股間を手でガードし、サキを押しのける俺だった。


「えー、なんで抵抗すっかなー。別にいいじゃないの。この際だからヤっちゃいましょうよ?」

「そ、そんなスナック感覚で人と寝るような人間じゃないの、俺は!」


 そうよ! 女なら誰でもいいってワケじゃあ、ないのだ。


「男のくせにお堅いのねえ。固いのは股間の魔剣だけにしときなさいよぉ」


 サキはうふふと笑う。なんか、さっきからシモネタがおっさんくさいぞ、この女。格好といい、ただの痴女か。


 い、いや、魔剣 (俺の股間じゃないほう)をなんとかしてくれる人間には違いないんだよな。変態とはいえ、対応は慎重にしないとな。


「と、とにかく、来てくれたのには感謝します。予想より、ずいぶん速かったけど」

「そりゃ、武芸大会見るために、ここに来る途中に、ユリィからメール来たしい」

「あ、そうなんですか。そんな観光気分でいらっしゃったわけで」


 おいおい。俺をこの世界に召喚した元凶、何してんだよ。俺は放置かよ。


「別に観光ってわけじゃないんだけどね。今回の大会、ちょっとワケありなのよね」

「ワケあり?」

「そーそー、ま、そのうちわかると思うけど?」

「はあ」


 ティリセといい、なんでクソ女どもは、そのへんのところをはっきり言わないんだろう。いったい、何があるってんだよ。


 ま、これからすぐに元の世界に帰る俺にはそんなのどうでもいいか?


「で、さっそくですが、俺から二つほど、あなたに頼みたいことがありまして……」

「魔剣のことと、元の世界に帰りたいってこと?」

「イエス、そうです! その通りです!」


 この女、来るのも早ければ、話も早いな! 助かるう!


 と、感激したのも一瞬だった。


「それねえ、どっちも無理ー」


 にっこり、きっぱり、笑顔で断られてしまった……。


「え、なんでですか! ユリィに聞きましたよ。私のお師匠さんは、そりゃ偉大でビッグでグレートフルな魔法使いだって! そんな人なのに、無理なんて単語、どっから出てきたんですか!」

「私のキモチかなー」

「キ、キモチ?」

「そんな気分じゃないのよねえ」


 サキは胸に手を当て、なにやら神妙そうに首をかしげた。


「いや、あんたのキモチなんて、どうでもいいんだけど! 元はといえば、俺はあんたのせいでこの世界に連れてこられたんだぞ! だから、責任とって俺を元の世界に帰せって話だよ!」

「じゃあ、私の中の、勇者アルドレイに対する熱いキモチはどうなるわけ?」

「知らねーよ! はよ、俺を元の世界に帰しやがれ!」


 だんだんなりふり構ってられなくなって、荒っぽく怒鳴ってしまう。だが、目の前の女は、そんな俺にまったく動じていない様子だ。


「落ち着いて、勇者様。そんなに興奮しなくても、ちゃんと近いうちにあなたを元の世界に帰してあげるから」

「近いうちってなんだよ? そんな言葉で適当にやり過ごす気じゃないだろうな? いますぐ帰せよ!」

「そうねえ、もううぐ開催される武芸大会があるじゃない? あれが、例年通り、無事に終わったら、あなたを元の世界に帰してあげるわ」

「大会が終わったらってことか? ゼッタイだな?」

「ええ、もちろん。ちゃんと無事に終われればね」


 サキは意味深に笑う。クソ、あの大会に何があるってんだ。


「言っておくが、俺はあの大会には参加しないんだからな。俺がいい感じに勝ち進んだところで、アルドレイだと正体をみんなにばらして、退路を断つような真似はできないぞ!」

「あ、そっか。あなたの正体をバラせば、あなたは帰りにくくなるわねえ」

「う……」


 しまった。そこまで考えていなかったっぽいのに、いらないことを言ってしまったぞ。


「ま、まあいい。俺がアルドレイだって吹聴しまくったところで、誰も信じるわけないからな。なんせ、この街では今、超絶イケメン君が、アルドレイの名前を使ってアイドルやってるからな。そこに、こんなオーラのない俺様が実は本物だって言ったって、なあ? どっちを信じるかって話だよ」

「そうね。でも、あなたの本質はやっぱり勇者だと思うわよ」


 サキの言葉はやはり何か含みがあった。


「ねえ、この世界に来て、あなたは何を見てきて、何をしてきた? そして、これから武芸大会が終わるまで、あなたは何を見て、何をするのかしらね?」


 サキはそれだけ言うと、俺から離れ、「じゃ、私はユリィに声をかけてくるから」と言い残して、さっさと部屋の外に出て行ってしまった。なんだったんだ、あの変態女。言いたいことだけ一方的に言われて逃げられたような気分だった。


「この世界に来て、俺が何を見て、何をしてきただって……?」


 ちょっと振り返ってみた。まず、この世界に拉致召喚されてすぐに、ユリィがオークの群れに教われてたから、助けたっけ。それから、オルダリオの村ではリッチに占領されてて、なんやかんやと、俺がティリセとともに村人を助けたような形になって、ウーレの街では、人々をデューク・デーモンの脅威から救った――って、あれ? 


「なんか、俺、行く先々で、勇者っぽいことしてない?」


 俺ってば、魔物から人を助けてばっかりじゃねえか! つまり、サキが言っていた、俺の本質って言うのは、こういう……。


「いやいやいや! 断じてそれはない!」


 俺はもう勇者やめたんだもん! ただの普通の学生だもん! 世界を救う冒険の旅になんか、絶対出てやらないんだもん! もんっ! ベッドの上で、必死にかぶりを振り、否定しちゃう俺だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ